ニッシーとの上手な付き合い方
どれほど身を寄せあったか分からないほど時間がたった。ニッシーは空気を読んでいつの間にか湖の奥深くへ帰り、夕日はもう沈んでしまっていた。
「あ、いたいた! 大丈夫か!?」
「宿屋のおじさん?」
「血まみれのシスターが二人抱き合って……事件の匂いがするな」
「こ、これには訳があるのです」
泥棒の死体はニッシーがパクパクして綺麗に片付けてくれた。なので宿屋の店主には怪しまれはしたが、深く詮索はされなかった。
「深くは聞くまい。今日はもう休んだらどうだい」
「こんな血まみれなのに泊まっていいの?」
「こんなかわいい女の子たちを追い払っちゃ男が廃る」
「あ、ありがとうございます……」
疲れきった二人の心に、優しい言葉は大きな癒しをもたらした。少し下心も感じたが、和ませるためのジョークだろう。
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「さ、いっぱい食べるといい。シスターはおかわり自由のサービス付きだからな」
「ほんと!? いっただきまーす」
「わあ、お魚のフライめちゃうまですね」
「そこの湖で釣った魚だよ」
エシャーティたちは入浴を終え、宿屋の店主直々に料理した夕食を食べていた。気の良い店主と話しながらの食事は、二人に精神的な安息をもたらした。
「そうだ、このデザートはちょっとしたサービス」
「チョコケーキ! 気前いいねおじさん」
「まあちょっと嘘ついちゃったから……」
「もぐもぐ……嘘とは一体?」
「ニッシーだよ、実はいないんだ。ごめん」
「え、いたけど」
思わぬ返事に宿屋の店主は少し神妙な面持ちになった。まさかこの子たちは騙されたからヤケになってるのでは、とさらに申し訳なくなってきた。
「ニッシーは俺の口から出任せなんだが」
「でも湖に人懐っこい怪獣いましたよ」
「あの怪獣はまさにニッシーね」
「そんなばかな、もしや嘘をホントにする的な能力だったり?」
「まさか。あたし無能力だし」
「そんなばかな」
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夕食を食べ終えた3人は、ニッシーの存在の有無を確認するため再び湖へ来ていた。宿屋の店主は、この二人は血まみれだったりニッシーはいると言い出したり、何より自分に何も能力はないと言い出したので少し怪しいと思い始めた。
「ほんとにニッシーはいるのかい」
「もちろん。おーいニッシー!」
「ごはんもありますよニッシー!」
(もしやこの子たち、見た目は良いけどアレな子だったか?)
が、その心配は杞憂に終わった。ニッシーは美少女たちの声に応えて、元気に飛び出してきた。
「グォォォォ!」
「ほらね言ったじゃん」
「ははあこりゃ参った」
「うふふ、おいしいですかニッシー」
ニッシーはアグニャから魚フライをもらい、パクパクと食べていた。その様子を見た宿屋の店主は、かつて夢見たとある理想を現実にできるかも知れないと思い付いた。
「ニッシー、人懐っこいな」
「悪いやつには容赦ないけどね」
「そうなのか、なあニッシー、これから一緒に大儲けしないか」
「まさかニッシーを観光名物に?」
「グォォ?」
アグニャの問いかけに、店主はうむと一言。こんなに宿屋の目玉になるような生き物を見ると、長年くすぶっていた野望に火がついてしまった。
「今までこの湖のほとりで宿屋をしていて疑問だったんだ。美味い飯も綺麗な景色もあって、何より隣町は結構な都会だから村に人は結構来るのに、なぜうちは繁盛しないのかって」
「確かにいい宿屋なのに客はあたしたちだけね」
「たぶん、インパクトがないんだ」
宿屋の店主は熱い思いを語り始める。ニッシーという物珍しい生物がいるだけですごい客寄せになるのに、さらに餌やりもできるほど人懐っこいときた。これは商売人としては見逃せるわけないのだと。
「まあニッシーがいいんならいいんじゃない」
「どうだ、一緒にビッグにならないかニッシー」
「グォォ」
「オッケーですって」
「ほんとかニッシー! これは友好の証だ、これから頑張ろうな!」
ニッシーは友好の証……店主お手製のホールケーキをバクりと食べ、お礼に噴水ごっこをしてくれた。その様はテーマパークの一大名物そのものである。
「なにやらニッシーと店主が熱く語り合い始めたわよ……」
「きっとビジネストークでしょう、私たちはお邪魔でしょうし帰りましょう」
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