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いつもより、ほんの少し違う日常


 おつかいは面倒くさいが、言うことを聞かねば後が怖いのは分かりきっている。

 ブーたれながらも律儀にエシャーティは買い物へ向かう。さっさと済まそうと小走りで商店へ入ったら先客がいた。


「頼む、薬が必要なんだ! 金はないがこの巻物をやるから!」

「この村じゃ薬は貴重だし、巻物なぞ売れんしなあ」

「そこをなんとか! 頼むよ!」


 どうやら薬が欲しいようだが手持ちがなく困っている様子である。面白い事には首を突っ込まずにいられないエシャーティは先客の男に話しかけた。


「あなた薬が要るの?」

「ああ、 仲間がダウンしてな。大変なんだ」

「ふうん……よし、その巻物買った!」

「いいのか!? あ、ありがとよ!」


 面白半分で首を突っ込みはしたが、本当に切羽詰まっている様子だったので、エシャーティはアグニャから渡された買い物用の金で怪しい巻物を買い取ってしまった。


 (これは人助けのため。きっとアグニャも分かってくれるよね)


「この巻物は太陽神の神殿で見つけたんだ。けど俺には読めない字で書かれててな、宝の持ち腐れだったんだ」


 太陽神の巻物とは何やらすごい物を手に入れたエシャーティ。善は急げとすぐに帰って読むことにしたのであった。


 (フフフ……やはり教会育ちの世間知らずはちょろいな)


 巻物と引き換えに金を手にした旅の男の顔が不敵に歪んだのには、誰も気づかなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「困っている人の為この汚い巻物を買い取ったと」

「ほんとの事だから」

「はぁ。で、どんな売り文句でボられた?」

「太陽神の神殿にあった巻物だって」


 封をほどいて二人で中を見てみると、二人には字なのか記号なのか判別もつかない羅列と、雰囲気たっぷり風な絵が描かれていた。


「うわなにこれ。全然内容分かんないよ」

「たぶん司祭ならば読めるのでは?」

「あ、無駄に博識だったっけ。渡してみよっか」


 古びた封を再び締め、二人は司祭を探すことにした。 エシャーティはこの巻物が読めなくてじれったい気持ちになったが、同時にコレが本物であるかもしれないという期待感も抱き始めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 司祭は教会の蔵書室で暇そうに読書していた。薄暗い中、ボケッと座り込んで本を読んでいるその姿はなんだか哀愁が漂っている。


「うわ、こんなとこいると気が滅入らない?」

「どうしたどうした、二人してこんなとこ来て」

「あの、実はコレかくかくしかじかなんですが」

「なるほど、悩める娘たちのため力になろう」


 司祭に経緯を説明したら、早速解読してもらう事に。巻物を一通り眺めた司祭は、ふぅとため息をつく。そしてアグニャにヒソヒソと耳打ちし始める。


「悪いがこりゃ偽物だ。それっぽい事は書いてるけど」

「やっぱり。でもそれっぽい内容とは?」

「太陽神の光を操る方法。でも偽物じゃな……」

「ま、エシャーティが珍しく人助けしたのです。良いモノだってことにしときましょう」


 司祭はその提案に賛成した。二人は適当にツジツマを合わせて人助けの素晴らしさをエシャーティに分かってもらえればそれで良かったが、事態は予想外の方向へ向かっていく事になる。


「ちょっとちょっと、二人して何を企んでるのよ」


 二人の心情を知ってか知らずか、エシャーティはおもちゃを待ちぼうける子どものように、ずずいと割り込んできた。

 そんな様子がたまらなくかわいらしいので、少しアグニャは大袈裟に解説し始める。


「なんとこの巻物には太陽神のお力を使う方法が載っていたんです! ほらエシャーティ、すごいすごい! 太陽の神ですからね、そらもうすごいですよコレは!」


 ノリノリで言うアグニャに、司祭は頑張ってそれっぽい相づちを打つ。


「そ、そうだな。スゴいよこれ。ほんとスゴい」

「二人がそう言うなら、コレほんとに……!」

「うーんとな、太陽神の光とか操れるんじゃないか、たぶん……」


 二人の言葉にエシャーティはワクワクしっぱなしである。もしかしたら自分は、太陽神の力を使うに値する選ばれし者なのかもしれないと思い込み、巻物をガッシと掴んでしまうほどだ。


「人助けをすればこんなすごい物ももらえるのです。これを機にケンカは控えなさい」

「そうね。で、使うにはどうすればいいの」

「適当にイメージしてみろ、と書いてる……かもしれん」


 司祭も司祭でノリノリの二人に流され、思わず口から出任せで適当な事を言ってしまった。まあエシャーティが無邪気に喜んでるし別にいいか、と司祭はキャッキャする二人を微笑ましい目で眺めるのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この様子ならエシャーティはこれまでよりも少しは人のために行動する事だろう。アグニャと司祭はそう思い、夕飯の仕度をしようと蔵書室から出ようとすると……


「くぉぉ、み、みて! ついにあたしにも力が!」


 薄暗い蔵書室を目をつぶすほどの眩い光が覆った。光の中心には盛大に喜びの声を張り上げるエシャーティがいるようだが、あまりの眩しさにアグニャと司祭は直視できない。


「うわまぶし! エシャーティ、平気か!?」

「平気! もうほんと、光を操れるなんて最高!」

「まぶしいから消してくれません?」

「わかった!」


 エシャーティの返事と同時に部屋はいきなり暗くなり、徐々に目を慣らしていく三人。喜ぶエシャーティを尻目に、アグニャと司祭は顔を見合せてお互いの言いたいことを察し合った。


「あの、司祭……」

「ああアグニャ。言いたいことは分かってる……」


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