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仕事人はじめました


「仕事? どんなのよ」

「そうだね、一言で表すとお悩み相談?」

「お言葉ですがゴロさん、頼む相手を間違ってるのでは」

「まあ一応、聞くだけ聞いてよ。やるかやらないかは君たちに委ねるし」


 資料がぼくの部屋にあるから着いてきて、とゴロが言ったのでエシャーティたちは食堂から移動した。


「ここがゴロの部屋? なんか業務的なのばっかり置いてて気が滅入りそう」

「自室はまた別にあるよ、ここは執務室」

「町長、資料をお持ちしました」

「ありがとう。二人とも適当に座っていいよ」


 数枚の書類を案内人形から渡され、軽く眺めるゴロ。その仕草はとても手慣れていて、彼は決して平凡な男ではなくれっきとした町長であると実感させた。


「まずはこの似顔絵を2枚見てほしい」

「どれどれ。普通の女の子と青年だ」

「このお二人がどうしたのですか?」

「この二人は歳は離れているが、恋人同士でね。でもちょっとした問題に悩まされている」


 ゴロはまた別の資料を出しながら説明する。


「この青年、ベルさんによると昔は素直で嘘をつくような娘じゃなかったユリさんが最近事あるごとに嘘をつくようになって困っているらしい」

「そう言われてもどうすりゃいいの」

「ユリさんがベルさんに嘘をつくだけならまだしも、何やらユリさんは同い年の友達にも色々と同情を買うような嘘をついて回っているらしい」

「なるほど、恋人としては痛い目をみる前に更正させたいと」

「そんな感じ。教会にいるような人が協力してくれるならベルさんも心強いだろうしやってみないかい?」


 悩める恋人の問題を解決。そのキューピッドのような役目にエシャーティは思わず即答した。


「やるやる!」

「ちょっとちょっと、やるのはいいですが解決のアテはあるのですか?」

「え? 無いけど。まあ何とかなるでしょ」

「その挑戦心やよし。この地図にベルさんのアクセサリー屋までの道のりを描いてるから、早速だけど向かってみるといい」

「わ、私はまだやるとは……」

「いいじゃんアグニャ、人助けはしなきゃ」


 そう言われると引き受けるしかない。アグニャは今まで口酸っぱく、人のために行動すべきだとエシャーティに言っていたのでここで断ることなどできるわけがない。


「くっ、ややこしい問題に首を突っ込んでしまった……」

「そう深く考えないでいいよアグニャちゃん」

「そうよ、それに悩める恋人たちはいつだってスレ違いが原因ってのが相場よ」

「はぁ、不安でたまらない……」


 ともあれこの仕事を受ける以外にはやるべき事がないのも事実。早速エシャーティたちはベルの元へ出発した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夜の町も活気はあったが、昼の町はそれ以上に様々な人の喧騒で賑わっていた。商売人、買い物客、井戸端会議の重鎮や太鼓持ち、怪しい旅人、ぼったくり露店に冷やかし。そして、ゴロの物だと思われる働く人形たち。

 それらに思わず圧倒されながら、目的のアクセサリー屋へ何とかたどり着く。


「人、多すぎ! さっさと避難しましょ」

「そうしましょう、こんなとこ歩くだけで疲れます」


 カランカラーンとドアベルを鳴らしながら小さなアクセサリー屋へ入ると似顔絵の青年、ベルが出迎えてくれた。


「お、シスターさんか。ゆっくり見てってよ」

「ははーん、あんたがベルね。ユリちゃんと上手くいってないんだって?」

「バカ、そんなこと言わないの! す、すみません、私たち町長から頼まれて来たのですが」

「なるほどバッチリ俺の不甲斐なさは伝わってるってわけか、お恥ずかしい。座ってくれ、お茶でも出すよ」


 店内には様々なアクセサリーが並んでいた。こんなにおしゃれな店は村には無かったので、アグニャもエシャーティも思わずキョロキョロと見回すのを抑えられない。


「どうぞ、麦茶だけど。うちの品に興味が湧いているようだな」

「中々いいセンスじゃない、ベルが作ってんの?」

「いや、俺は仕入れたのを売ってるだけだ。仕入れ先の娘さんが恋人のユリでな、一目惚れしてなぁ……」

「そうなんですね」

「それで、まあ、本題だが」

「なんだか最近、そのユリが嘘をつくんだって?」

「そうなんだ。例えばな……」


 ベルは思い出しながら、なるべく掻い摘まんで二人に話す。


「俺との待ち合わせに遅れたら、道で大荷物のおばあさんを手伝っていたって」

「それは別にありえるのでは?」

「いや、3回くらい立て続けに……」

「なるほどねえ」

「後は知らないうちに俺のアイス食ってたり」

「もしかしたら自分のと間違えたのかもよ」

「いや、アソートパックを全部……」

「ええ、もうそれ嫌われてるんじゃ」

「それならそれでもいいし、年頃だしかわいい嘘くらいつくと俺は思うんだ。でも最近はさ」


 困ったような表情でベルは続ける。


「最近は友達にも、同情とかを得たいのか嘘のホラ話までするようになってきたんだ」

「ふーん。ちなみにユリは普段どこに?」

「今の時間なら学校だな。そろそろ帰る時間だから校門で待っていれば友達と一緒に帰ってるユリを見かけられると思う」

「問題解決の糸口が見つかるかもしれません。エシャーティ、行ってみますか」

「そうねぇ。じゃまた来るわね」

「ああ、頼んだよ。昔の素直なユリに戻ってくれればいいが」


 ベルに学校への地図を描いてもらい、二人は店を後にしたのであった。


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