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先の事を考えると、何をすべきか


「今朝司祭に君たちを預かったと、伝言のための人形を送ったからね」

「明日になれば司祭からの返事を持って戻ってくるでしょう」

「ありがとうございます、ゴロさんの心遣いに感謝します」

「郵便屋もできるんじゃない?」

「いや、人の手紙とか気になって開けそうだから出来ないな……って、それはともかく。司祭の返事が来たとしてもまだしばらくは帰れないと思う」


 そう、いくら司祭が村人を説得したとしてもさすがにあそこまで荒れている状態では、ほとぼりが冷めるのにしばらくはかかるだろう。それにあんな剣幕の村人たちを見てしまった今、なかなかすぐに帰りたいという気分にはならなかった。


「ずっと居候するのは悪いですし、私たちはこれからどうしましょうか、エシャーティ」

「えーあたしこの屋敷にずっといたいよ。ねえゴロ、ダメ?」

「うっ……君はやけに甘え上手だな、司祭めこんなかわいい子を育てるなんてやるじゃないか」


 金髪美少女という最強の強みを、良い寝床にありつきたいというだけで使うエシャーティ。そして満更でもないゴロ。すると今まで普通に三人の会話を聞いていた案内人形が、満更でもない様子になったゴロを見かねて声をあげた。


「ちょ、ちょっと、うちのご主人様を惑わさないで!」

「え、ご主人様とは?」

「あ、その、町長……です……」

「ああ別にこの子がぼくをどう呼ぼうと気にしないであげて、何故か人前じゃ呼び方変えるんだ、この子」

「か、からかわないでください!ごしゅ、えー、町長!」

「かわいいですね」

「お人形かわいい」


 みんなで案内人形をからかうと、腹が立ったのか不自然に無言を貫き始めた。しかし案内人形は、その反応もまたかわいいとからかわれるネタになるだけとは思うまい。しかし今回は大事な話があるのでアグニャの発言でからかいの空気は流された。


「で、これからの事ですよ。私は傷を癒す力を持っているのですがこの町で需要ありますか?」

「おや、働く気かい。でもこの町は治安が悪そうな所にはぼくの人形置いて抑止力にしてるから、あんまり医者は……」

「てかアグニャは病気ってあんまり治せないよね、この町じゃケガより体調不良で困ってる人のが多そうだからケガしか治せないのって微妙じゃ」

「ぐぅ」


 自分の強みはここでは役に立たないと遠回しに言われ思わず唸るアグニャ。故郷の村では毎日エシャーティという患者がいたし、農作業や村に侵入した獣を追い払ったりと何かしらでケガを負う村人はそこそこにいたので、実はアグニャは重要な役割を担っていた。なのでなおさら役立たずという事実にヘコむ。


「エシャーティは司祭から聞いたことがあるけど、何も力がないんだっけ?」

「なによ、あたしの知らないとこで司祭はあたしをボンクラ扱いしてたの?」

「い、いや、そんなことないよ。しかし二人とも教会育ちって事はあまり働いた経験もないんだよね」

「そうですね……」


 己の無力さを痛感し、段々と声に覇気が無くなるわ、頭をうなだれるわで露骨にヘコみだすアグニャ。逆に普段からやれ下等生物だの無能だのうざいだのと言われ、こういう扱い慣れしているエシャーティは全くダメージを受けていないようである。


 そんなエシャーティは、ちょっとした気まぐれと思い付きで一つの提案が思い浮かんだ。


「そうだ、旅に出ない? あたしたちどうせ教会暮らしで一生を終えるだろうし、それなら一度くらい世界を旅しよう」

「旅……お金はないし女二人だけの旅なんて危ないですよ。そりゃこんな状況じゃなきゃいい経験になるとは思いますけど」

「お金なんて行く先で調達すればいいじゃん、手始めに最初の資金はゴロの頼みを何か聞いて手に入れる! どうよこれ」

「なんだか楽しそうな提案だね。意外と良いんじゃない、ほとぼりがさめるまで世界を旅するのも」


(ああ、つまりゴロさんは私たちを厄介だと思ってるのですね……)


 別にゴロはそんなこと思ってはいない。というより、むしろ女の子が自宅に来て内心舞い上がっているくらいである。しかしそんな事はもちろんアグニャには分からない。

 ただ、エシャーティだけでなくゴロまで旅に賛成しているという事実はアグニャに一考の余地を与えるのに十分なインパクトであった。


「そう、そうですね、司祭も外の世界は意外と良いところだと言ってましたし……」

「揺らいでるようだね。まあゆっくり考えるといいよ」

「あ、そういえば町長、ちょうど二人に頼めそうな仕事がありましたよね」

「え、あったっけ」

「あります! ほら、あのアクセサリー屋の」

「ああ、思い出した」


 案内人形に言われ何かを思い出したゴロはエシャーティたちに向かってある提案をしてきた。


「旅に出る出ないに限らず、お金は要るだろう? 一つ、仕事をしてみないかい?」


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