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これからどうしよう


 翌朝、エシャーティはいつにない気持ちよさで目覚めた。極度の疲労、すり減った精神、いつにない満腹感という最高のおねむ状態に素晴らしい寝床が揃ったのだから当然である。


(ふへ、まるでお姫様になったみたい。こんな豪勢な部屋使わせるなんてゴロは太っ腹ね)


 そう思うのも仕方がない。まず部屋の中だというのにドアが2つも存在しているところから格が違う。町長とはそんなに儲かる仕事なのだろうか。

 そんな事を考えながらエシャーティは風呂場の洗面台で身支度を済ませ、部屋を出た。


「おわ、人形に出待ちされてた!」

「おはようございますエシャーティさん。町長とアグニャさんは食堂におります。ご案内いたします」

「え、ありがとう」


 何もいないと思ってドアを開けたら案内人形が近くにいたので、思わず声をあげてしまった。朝だが相も変わらず、掃除をする人形や見回りをする人形もその辺をちょこまかしていた。

 うっかり踏んだり蹴ったりしないように歩かなければならないと思ったが、いざ近くへ寄ると人形が自ずと避けてくれた。


「すごい賢い人形たちだ、いったいどんな仕組みなのやら」

「えっへん、それは何を隠そう我らがご主人様のお力が偉大ですから」

「ご主人様?」

「あ、え、あー、町長のことです……あ、着きましたよ食堂。さあお入りください、さあ早く、さあさあ」

「おわ、急かさないでよ、あ、良いにおい」


 急にポンコツじみた挙動をする案内人形だったが、単純なエシャーティはそんな事よりもおいしいにおいに釣られた。


「遅いですよエシャーティ、人サマのお宅にいる時ぐらいは早起きしなさい」

「これからしばらくはここにいる予定でしょ? そんな気は使わなくてもいいよ」

「アグニャは朝からガタガタ小言なんてうるさいなぁ。まずはごはん食べよ?」

「この愚鈍! あなたを待って私たちは食事に手をつけてなかったのですよ!」

「いただきまーすもぐもぐ」


 朝から騒々しい二人を、微笑ましい表情でゴロは眺めていた。その様子に気付いた案内人形は、寂しそうに自分の主人へ話しかけた。


「やはりご主人様は、物を食べることもできない人形には興味がありませんか?」

「……君の気にしすぎじゃないかな。さ、いただきます」

「また、はぐらかすんですね」


 静かな主従のやり取りにエシャーティは気づく。アグニャとぎゃあぎゃあお話してたので内容は聞き取れなかったが、そのやり取りを見ていたら今まで抱いていた疑問を思い出したのでゴロに質問した。


「ね、ゴロの持ってる力ってやっぱあれでしょ」

「こら、またゴロさんを呼び捨てにして!」

「ぼくの能力? お察しの通り人形を操れる力さ」

「この屋敷の人形たちの働きっぷりを見るに、ゴロさんのお力はかなり恵まれてますよね」


 アグニャはそう言ってゴロの隣にいる案内人形を眺める。すると案内人形は大きく胸を張り、自分の主人の素晴らしさを聞かれてもいないのに語り始めた。


「そうでしょう、その通りです。それにご主じ……町長のお力は家で人形にただ家事をさせるだけではありません。なんと、この町のほぼ全てのお店に人形を1体は派遣しているのです」

「え、それ何の意味があるの」

「そうだね、主な理由としては町の経営者にちょっとした労働力を貸しているワケだ。そしてもう一つの狙いは、何か悪いことしてないか監視するためかな」


 それを聞いたエシャーティとアグニャは納得した。確かにこの男の操る人形たちなら中々使える労働力になるだろう。それに町長としても町の治安維持や抜け目ない者たちを町中で見張るようなものだから、有益そうである。


「でもさ、町中の人形を操ってるんでしょ。ゴロの力にどんな代償が要るか知らないけど、結構めちゃくちゃな事してない?」

「人形たちにはある程度自我や判断能力を持たせられるから、ぼくはさほど苦労してないよ。まあその分、操れる人形を作るのが大変だけど」

「ああ、もしやゴロさんが自分で作った人形でないと動かせないとか、でしょうか」

「はは、そんなとこだよ。さて、それじゃちょっとこれからの話をしようか」


 朝食を食べ終えたゴロは優雅に紅茶を傾かせながらそう切り出した。二人も人形が出してきた食後の茶を飲みながら、その事に頭を切り替えた。


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