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あたしは天下の金髪美少女!


 とある小さな村の村はずれ。この物語の主人公エシャーティは、同じくらいの歳の男の子とケンカをしていた。血気盛んなエシャーティの、いつもの日常である。


「男の癖にビビって! どうせあのズルい力で避けまくるんでしょ!」

「村一番の恥さらしに俺がビビる? 自惚れすぎ!」

「自惚れてんのはあんたよこのボケナス!」


 挑発する相手に殴りかかるエシャーティ。彼女の荒ぶる態度とは対照的に、余裕満天の男の子はまったく怯まず小さなゲンコツが迫るのをジッと見るだけであった。

 今にも男の子がぶっ叩かれる、という瞬間。ゲンコツは男の子ではなく、なぜかカカシを捉えていた。

 瞬時に自分の付近にカカシを生み出せ、最初にカカシに触れた者の死角に瞬間移動できる……いわば身代わりがこの男の子が生まれつき持っている能力である。


 そんな身代わりの力を使い背後に回った男の子にエシャーティはあっけなく転ばされてしまう。


「きゃあ!? あ、あいたたた……」

「超だせぇ! あばよ無能の下等生物!」

「ま、まて! くぅ、いつかボコボコにする!」


 ヘラヘラしながら去っていく男の子の背中に怒りをぶつけるも、ただむなしく響くだけであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この世界では先ほどの男の子の"身代わり"のように、誰もが特別な力を持っている。火を操れたり、動物と話せたり、空を飛べたりと実に多様な種類の力が存在していた。


 (はぁ、どうしてあたしには何の力も無いんだろう。かわいすぎて神様がイジワルしたのかな)


 自分には何も能力が無いと勘違いしているエシャーティにも、実は"思い込み"という力が宿っていた。この能力は、例えば……


 (帰ったらまたブツクサ言われるよ……ん? こんな所に看板なんか刺さってる。どれどれ)


 看板には「クマ出没の時機到来! 注意しよう」と書かれていた。注意換気だけでなく、出会ったら死んだフリか鼻を叩けば何とかなる、と無責任な対策も載っていた。


 (へぇ! クマの鼻シバけば"何か起こる"のか)


 どうして何かが起こるという考えに至ったのかは不明だが、エシャーティは今、そう思い込んだのだ。


「くまっ! くまくまくまっ!」

「て、ぎゃあああでたァ!? 早速でやァァ!」

「ぐまァァァ!?」


 突如現れ、襲いかかってきたクマの鼻っ柱に頭突きをお見舞いすると、なんとクマではなく辺りの森がふっとび始めた!

 恐ろしい轟音と共に、かつて森を成していた木々は荒れ狂う。それらは驚いて逃げようとしたクマに襲いかかり、やがて森と一緒にクマは空のかなたへ飛んでいってしまった。


「あ、あれま、とんでもないねクマの鼻……」


 こんな風に決してあり得ないような現象も、エシャーティがそうなると思い込むと本当にその現象が起きるのが思い込みの力である。しかし思い込みの性質ゆえに、エシャーティは自分に強大な力が宿っているとは分からない。なんとも歯がゆい能力であるか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「また勝てもしないのに揉め事を起こして、あなたは……」

「うっさい、早く手当てして。てか今日はクマを成敗したよ?」

「そういう変な事言うからケンカになるのですよ」

「ほ、ほんとだもん」


 先ほどのケンカでケガを負ったエシャーティは、傷を治す力を持った教会のシスター、アグニャから手当てを受けていた。

 手をかざされるだけで擦りむいた体の傷がみるみる綺麗になっていく。あっという間に痛みも傷痕も消えてしまった。

 アグニャはエシャーティと一緒にこの教会に住んでいる女の子。天涯孤独で身寄りの無いエシャーティは、小さな頃からずっとこの教会でアグニャと共に育ってきた。


 傷を完全に癒し終えたアグニャは、お菓子を片手にため息をつきながらエシャーティにボヤく。


「あなたは人より弱いくせ、どうしてこう……血気盛んに育ったのでしょうね」

「さあね。ここの教育がまずかったのかも」

「あら、司祭に説教されても知りませんよ」

「はいはい説教はたしかに嫌ですわねー」

「まったく……」


 冗談めかして肩をすくめるエシャーティ。天涯孤独であるエシャーティにとってこの教会は家であり、共に住むアグニャや教会の司祭は家族も同然の存在である。エシャーティはこの小さな村で慎ましくも楽しい毎日を過ごし、まさに平和を謳歌していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねえアグニャ、ちょっと変なこと聞くね」

「はぁ、どうぞ」

「あたしってさ、どうして何も能力がないんだろ」


 エシャーティは時たま、アグニャや司祭にこの質問を投げかけていた。いや、実際は質問ではなくてもっと違う、真剣な何かを聞こうとしていた。


「……なんちゃってね、なんでもない」


 そう口にする時のエシャーティの顔は、いつもの勝ち気な様子がなりを潜め、何もかも諦めてしまったような、儚い表情であった。

 そして、無意識にそんな表情を作っているのに自分では気づいてないエシャーティを、アグニャはいつも優しげに見つめてあげる。どこか甘えたがっているような今のエシャーティの姿に、つい優しい言葉をかけてしまうのだ。


「あなたはあなたらしく、それが一番の魅力ですよ。それに……」


 アグニャの優しい言葉を、エシャーティはいつも途中でさえぎる。最後まで聞くのは、今はまだ早い気がするから。


「……ふふ、ありがと。分かってるよ」

「さ、元気になりましたね。じゃおつかいしてきなさい」

「え、ええ!? そりゃないよアグニャぁ……」


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