生贄はサクリファイス(終)
「まったく!!ヒトより頑丈とはいえ、魔術も使えない魔族を放り投げるヤツがあるか!!打ち所が悪ければ、死・・・・・にはしないが、大怪我することだってあるだろう! だいたい無茶をしすぎだ。魔術が大型のものだったから狙いも少々甘くとも大丈夫だったが、外れていれば骨さえ残らんで焼き尽くされていた!! まったく、浅慮にもほどがあるだろう!?」
ぶちぶちぶちぶち。
隣で不満をぶちまけるマオーの言葉を聞き流しながら、俺たちは森の獣道を突き進んでいた。
周りはもう暗く、勿論人っ子一人、魔族一匹見当たらない。
「さて、これからお前どうする?」
そう問いかけたのは、地べたに顔を打ち付け涙を流す魔術師を放置したまま、森の奥へと足を進めていた時だった。
「家はどこだ?」
「……家には戻れん。」
マオーがポツリポツリと話したところによれば、なんでもマオーは家での勉強一色の生活に飽きて、勝手にお忍び旅行に出かけたらしい。彼曰く『ヒトの生活を学ぶ為の調査旅行』だ。
しかし、何時間かぶらぶらするだけのつもりが、あの魔術師に時空転移の魔術をかけられ、見知らぬ場所まですっ飛ばされてしまった。
「魔族の国は、国防の為に座標を毎日のように変える。よって、一度でたものはその日のうちに戻らなければ帰れなくなってしまう。まぁ、魔族の魔力さえあれば探すのはそんなに難しい話ではないのだが。」
魔力を封じられたマオーは帰れないと、そういうわけだ。
帰るには希少な、人間界に住む魔族か魔族の国の入り口である『魔の森』とやらを自力で探すかしか方法がないらしい。
「行き先が決まらないんなら、俺についてきてくんねぇか?」
下を向いてしまったマオーの頭についた枯葉を、そっとつまみとってやりながら、俺はマオーに提案する。
「……え?」
「お前も知っての通り、俺は名前以外の一切がわからない。恐らく文字も読めんし、食い物もわからん。買い物も出来なきゃ、どんな仕事があるかも朧げだ。」
こちらの世界を、俺は知らない。まるでわからない。
・・・異世界からの渡航者をどう扱うのかも。
だからこそついた俺の嘘は、ある意味真実だ。
『忘れた』のではないが『知らない』のだから。
こんな小さな子供に嘘をつき、この世界での先達にしようというのは非道だし、なんとも頼りない事かもしれないが、でも、俺はこいつを信頼していた。
この世界で、もしかしたらあちらの世界までいれても、唯一。
不思議な話だ。一緒に戦ったという達成感からなのか、なんなのか。
「だから頼む。その代わりに労働は俺が
「まぁ、僕も行くところがないしな。お前は頑丈そうだし、まぁ僕も共に戦った相手を見捨てるほど情が薄いわけでもない。仕方ない、面倒だが一緒にいってやろう。」
俺の言葉を遮って、ベラベラとまくし立てるように言ったマオー。
その耳がほんのり色づいていたのを、俺はみてしまった。
・・・この、ツンデレめっ。
「ありがとな、マオー。」
そう言ってワシワシと頭を撫でてやれば、今度こそ顔を真っ赤にしてマオーは吠える。
「ニンゲンのガキと一緒にするな!!僕はもう120だぞ!!元服まであと60年あまりなんだからな!!」
・・・どうやら魔族は成長と言うか老化もゆっくりのようです。
密かに驚く俺に興奮状態にあるマオーはまるで気づかないで不平不満を垂れ流し・・・・そして冒頭に戻る。
「聞いているのか、タイチ!!」
まぁ、小言も多くて、年相応に頭でっかちで、ツンデレだけど。
こいつが俺の名前を呼ぶ限り、俺はこの子の手を離さないでおこう。
なぜだかこの時、俺はそう思った。
生贄はサクリファイス終了
次回はタイチ定職につく