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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
chapter 2
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06話 ハニ―トラップと距離感

「だって川葉は覇気のない気怠キャラで、去年の女子からは『悪い奴じゃないけど消極的で見た目もイマイチ、将来は無名中小企業勤めて年収300、子供は1人が限界、海外旅行はおろか遊園地にも行けない甲斐性なしだけど、まぁギリギリ幸せにしてくれるかも?』って評価だったよ」


「そこまでボロクソに見られてたの⁉」

 

 こっわ、女ってマジ怖い!

 いくらなんでも辛辣過ぎだろ!


 確かに俺はイケメンじゃないし愛想も悪い方だけど、身長は170あるし、太ってないし、身嗜みにも気を使っている。成績も平均キープでクラス雑用もやってる方なのに酷い言われ様だ。


 だが嘆いた所で何も始まらない。

 なので気だるそうに曲げていた背中をクイッと伸ばしてから。


「これを期にシャキッとしてみます」

「うん、その方がいいよ」


 きっと今までの自分なら流していたけど、バイトを通じて責任というか、立ち振る舞いの重要性を感じる場面があったから素直に受け入れられた気がする。


 やっぱり働く事で、人は成長するんだなぁ。


「そういう神岸はモテそうで羨ましいよ。中学は生徒会・陸上部を兼任して成績上位、高校も生徒会で、超優等生って感じだぞ」


 神岸の容姿はぶっちゃけ普通だが、地味な素材が最大限に活かされている。


 髪型や肌の手入れは完璧、オープンな性格だけど立ち振る舞いが下品という印象もなく、何よりも陸上部で鍛え上げられたスレンダー体型は巨乳とは違う魅力ある。しかも手を頭の後ろに組む仕草が癖で、今も得意気にそのポーズをしている。


 そしてその際にワイシャツと肌が密着して体のラインがやたらと強調されて男子の視線を結構集めているのと同時に「神岸が巨乳だったらなぁ」という失礼な愚痴が男子内で横行しているのは、本人には絶対知られてはならない秘密である。


「とにかくアルバイトお疲れ様。今後も続けるの?」

「ああ、続けてほしいってお願いされて休日だけな。それに平日は学校終わった後じゃ時間的に無理だから」


 平日の営業時間は短くて高校が終わった後に駆け付けても数時間しか働けず、シフトに加わるのは非効率なのだ。それに平日はお客も少ないから大丈夫とまで言われれば是非もない。


「ほっほーう、じゃあ週末に行ってみようかな」

「えー、恥ずいからやめろ」


 同級生に働く姿を見られるって罰ゲームだろ。

 だがこの返答にご不満らしく、神岸が前のめりに食い下がってくる。


 近い、顔が近いって。


「ふっふっふっ、お客様を選り好みなんて感心しないね。それに川葉とは何だかんだで長い付き合いだから特別に抱き付いて来てもいいよー。その方が怖そうだし、それくらいサービスしてあげるよー」


 うぐっ、制服の胸元に人差し指を入れてパタパタというワザとらしさ全開の色時掛けなのに、視線を逸らせない。だがこれが悪ふざけで真に受けた反応がNGな事くらい分かるので。


「はしたないですよ副会長。それにお客様との接触は禁止ですので」


 と、努めて冷静に答えたのだが、


「んー、紳士対応に見えるけど視線が胸元に固定されたままだね。けど安心していいよ。ブラが見えない様にちゃーんと加減してるから。あと敬語口調が硬い。バイトは年上ばっかりだよね? 大丈夫?」


「大きなお世話だ! それに安心どころかガッカリだよ!」


 やっぱりハニートラップじゃねーか!

 つーか胸元チラリズムを無視できる男子がいるかっつーの!


「ごめんごめん。でも年上との距離感は気をつけてね。私も生徒会でそういうのあったから。あと礼儀は大事だけど、時には自分から歩み寄るのも必要だよ」


「あー……、分かった」


 何気ない助言だったけど、教育係である音霧先輩とは未だギクシャクしたままなので耳が痛い。


 バイト先輩方は全て年上なので失礼の無い様に慣れない敬語を駆使、特に音霧先輩とは徹底して上司・部下の関係を貫いたのだが、そのせいで一緒にいる時間が多かったのに雑談が殆どなかったから、やり過ぎたかもしれない。


 しかも音霧先輩の病欠理由がインフルエンザで春休み後半は全く会えずという有様だ。バイトリーダーからは『内気で不器用だけど悪い子じゃないから仲良くしてあげてね』って諭しも入ってるし、神岸の言う通り俺の方から歩み寄った方がいいのかもしれない。いや別にJDと仲良くなりたいって訳じゃなく、このままだと仕事に支障が出るかもしれないからね。


 そんな感じで今後のバイトについて考えていたら、神岸がしおらしくこちらを覗き込んできて、



「ごめん川葉、もしかしてウザかった?」

「えっ? そんな事ないけど」



 予想外な言葉に???を並べたら、神岸が安堵の笑みを浮かべてくる。


「良かったー。川葉とは付き合い自体は長いけど、こんなに話したのは初めてだから、踏み込み過ぎたかもーって心配しちゃったよ」


 どうやら俺が黙り込んだせいで不快に感じたと思ったらしい。


「神岸でもそういうの気にするんだな」

「言ったでしょ、距離感が大事だって。そこに歩み寄りとの兼ね合いが上手く出来るかどうかで、生徒会選挙の一票に繋がるのだよ」


 ホッとしてから得意気に物申す姿にクスッと笑ってしまった。


 そうだよな、こういう気遣いができるから神岸には人徳があって、先生からの評判も良いから生徒会に選ばれている。ただの不思議キャラっぽいけど、将来成功する人間は案外こういう奴なのかもしれない。


 だったら俺も、



「お化け屋敷、来ていいぞ」



「えっ? いいの?」

「ああ、何なら友達連れでも構わん。その方が儲かる」


 と、ぶっきら棒に答えたら、



「うん。ありがとね」



 真っ直ぐな笑顔を返され、それが無性に照れ臭くてつい視線を逸らしてしまった。


 だって仕方ないだろ!

 異性とのこういうやり取りは殆ど経験ないんだから!

 神岸もニヤニヤしながら俺の頬を突いてくるし、ほんと勘弁してくれ。



 キーンコーンカーンコーン



「もう予鈴? ガッツリ話し込んじゃったね」

「だったらもう自分の席に戻れ。お化け屋敷の話なら後でいくらでもしてやるから今は戻ってくれ」


 暑い、4月なのにこの教室暑いんだよ。

 無愛想なのは百も承知だが、この状況で上手く話す術を俺は知らん。

 そんな子供染みた様子に、神岸が満足気な様子で立ち上がる。


「じゃあ川葉、面白い話ありがとね。お化け屋敷も気が向いたら行くから。あと今年は生徒会会長に立候補するから、ちゃーんと1票頂戴ね」


「ああ。中学からずっとお前一筋で投票してるし、これからもそのつもりだ。だからさっさと戻れっつーの」


 シッシッと手を振り、笑いながら神岸が立ち去っていった。


 あー、疲れた。


 妹の比奈菜とは全然なのに、それ以外の女子との会話が疲れるのは俺の経験値不足だろうなぁ。だけどコミュ力MAXな神岸でも気遣いを欠かさない訳で、それなら人見知りの音霧先輩は空回り中なのかもしれない。


 それなら今週末のバイト、こっちから動いてみるか。

知らない年上との接し方には誰もが苦労した筈で、それが初めてなら尚更です。この会話で「若いな~」って読者が感じてくれたのなら嬉しいです。

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