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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
chapter 2
6/35

05話 酔っ払いバイオテロ

「ほあああぁぁぁああああああ、……………だるぃ」


 高校2年に進級という新学期の朝、新クラスの自席を見つけて倒れる様に突っ伏してから、限界まで疲労を圧縮させた溜息が漏れる。


 まさかバイトがここまで大変だったとは。


 長期休暇は娯楽施設にとって稼ぎ時だから忙しくなるのは覚悟していたけど、春休みフル出勤という鬼畜シフトを強いられるとは夢にも思わなかった。人手不足なのに帰省・旅行でバイトを休む人が多く、更には病気・当日ドタキャン連絡によるシワ寄せが俺のオフを食い潰し、結果として新人の俺1人だけが皆勤賞を成し遂げてしまったのである。


 バイト自体は順調で心地よい達成感もあったけど、休みのない日々は少しずつ、確実に疲労を蓄積させ、残業なしで睡眠もしっかり取れていたのにじわじわと気だるさが増していき、春休み終盤は食欲まで削がれる有様だ。


 労働基準法(※連続出勤は最大12日まで)ってほんと大事だな。

 社畜として働いている皆様、マジ尊敬します。

 あーでも高卒なら俺も2年後から社畜になる訳で……、働きたくないでござる。



「おっはよろー、何で朝から死んでるのさ? 新学期は第一印象が大事だよ」



 急に体を揺さぶられ、顔を上げたら神岸(かみぎし)()(つき)がいた。


 神岸とは中学からの腐れ縁で去年も同じクラス、更には生徒会副会長という立場から雑用を頼まれる時があり、それを渋々引き受けるという間柄だ。


「おはー。今日もナイスふんわりアップヘアーだ。似合ってる似合ってる」

「うっわー、てっきとーな褒め方だなぁ」


 女子の拘りポイントを褒めればモテるって比奈菜に言われたけど、こういう淡白な反応しか返ってこない訳で、やっぱりイケメンじゃなきゃ効果がないらしい。


「と・に・か・く、シャキッとしなよ。どうせ夜更かしでしょ?」

「違う。春休みから始めたバイトが超大変だったんだよ」

「へぇー、何やってるの?」


「お化け屋敷」


「本当⁉ 話聞きたい! どんな所なの⁉」


 うおっ、めっちゃ食い付いてきた! そういえば神岸は好奇心の塊みたいな奴で面白話が大好きなキャラだったな。説明が面倒だけど期待の眼差しを向けまくりで逃げられそうもないし、眠気覚ましに話してみるか。


「因みに場所は山桜グリーンキャッスルな。地元中の近くあったアレ」

「あー、道の駅っぽいアレね。そ・れ・で、何に化けたの?」

「基本は河童だけど、他も結構やったな。死神とか、骸骨男とか、雪女とか」


「ぶほっ」


 しまった。要らん情報まで口を滑らせちゃったよ。

 向かい席に座っていた神岸が勢い良く机に突っ伏してぷるぷるしてるけど、そこまで笑いを堪えるレベルか?


「雪女は代役で仕方なくだ。ちゃんと変装したし、お化け屋敷は暗いから男ってバレなかった筈だぞ」


 あの日は音霧先輩から病欠連絡が入った後、バイトリーダー指示で俺が雪女をする破目になり、皆ノリノリでメイクしやがったんだよなぁ。


「だっ、だから女装して、雪おっ…、雪オカマになったの?」


「雪オカマって何だよ⁉ 変なクリーチャーを生み出すな! それに女装じゃなくて変装だからノーカンだっつーの!」


 こっちは仕事だから文句を言わずやり切ったのに酷い言われ様だ。

 そんな抗議をした後、漸く笑いが治まってきた神岸がやんわりと頭を下げてくる。


「ごめんごめん。でも川葉が雪女ねぇ。セクシーな薄着で誘惑とかしたのぉ?」


 両腕を寄せて胸を強調というベタな色仕掛けでからかってきたが、残念ながら神岸は豊満とは言い難い胸部なのでスルーして会話を続行させる。


「しねーよ。大体、お化け屋敷内はクーラーガンガンで寒いから薄着のお化けは居ないんだよ」

「へぇー、そうなんだ」


 恐怖演出に寒さは必要不可欠・涼み目的で入ってくる客もいる以上、お化け屋敷内がクーラーなしの蒸し風呂状態は許されないのだ。


「しかも夏になれば温度がもっと下げられて、客を驚かす合間は毛布に包まって待機って言われたから」

「ふぇー。その裏話は知りたくなかった。まさか影でお化けが凍えていたとは」


 きっとお化け屋敷に限らず、舞台の裏側はこんなものだろう。

 お客様を満足させるのは、ほんと楽じゃない。


「じゃあ肝心の川葉のお化けっぷりは? お客さん驚いてた?」

「ああ、皆ビビりまくりで客の絶叫でこっちが驚かされる場合があった程だぞ。……まぁ、たまーに変な客もいたけど」

「ふーん、例えば?」


「こっちの動きを観察してくる客がいるんだよ。脅かしてもノーリアクションだから、すっげー反応に困る」


「うっわー、それはそれは」

「しかもそのアロハシャツじいさん毎日同じ時間に来るんだよ。バイト仲間曰く、その客は何十年レベルの常連で驚かし方が上手いとニヤッと笑ってくれるらしい。しかも妖怪ぬらりひょんに似てるから通称〝ぬらじい〟だとか、意味が分からん」


 神岸は笑ってるけど俺としてはぬらじいの方がお化けっぽいというか、存在そのものがホラーだよ。


「あと何で一本道のお化け屋敷で迷うんだよ。進行ルートを示す矢印を無視して逆走する客がいたり、挙句の果てに『うちの子が迷子なんです!』ってオバちゃんに泣き付かれたりまであったぞ」


「あー、それは仕方ないね。だって怖いと逃げちゃうじゃん」

「それでも走るのは止めてくれ。他の客とぶつかったら大事だし、この前なんてお化け屋敷内の壁をぶち破った客までいたんだからな」


 あそこは薄いベニヤ板だったから良かったけど、驚かせポイントで待機中だった時にあらぬ場所からお客様がダイナミック出現、お化けやってる俺の方が驚かされちゃったからね。


「す、すごいね。それが春休みで一番のトラブル?」


「いや、一番は昨日の閉店間際に酔っ払いがお化け屋敷に迷い込んで、驚かした途端にゲロを吐き散らかした事だ。あのバイオテロはほんと最悪だった。しかもその時の俺の衣装がゾンビで、ゾンビなのにゲロ掃除をする破目になって散々だったぞ」


 あれは精神的にくるものがあった。

 毎晩酔っ払いの相手とゲロ処理をしている駅員さん、ほんとお疲れ様です。


「…………………………ぶはっ、くくく」

「必死に笑いを堪えている様で悪いが、こっちは全然笑えなかったぞ」


 それで昨日は夕食無理だったし、しかもあの酔っ払い夢の中にまで出現してゲロを吐き散らしやがったから真夜中に叩き起されて寝不足だよ畜生め。そう愚痴った後、笑いが治まった神岸がやんわりと頭を下げてくる。


「笑ってごめん。予想以上の逸話だったから。でも良かったね。去年の川葉は地味キャラだったけど強力な個性できたじゃん」


「えー、俺ってそんな地味?」


 何気ないツッコミをしたつもりだったが、この問いに神岸が衝撃の事実を告げてきたのだ。

お化け屋敷内部は真夏のクーラーガンガンなコンビニと同じく寒いので、お化け達の寒さ対策は必須だそうです。

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