28話 赤い家の真実
客視点だと無数のお化けが一気に襲ってきた様に見えるけど、実際は照明を赤くするのと同時に天井の蓋がオープン・ぶら下げた8体のお化けを投下、横からは白カーテンの隙間から20体のお化けが出現、足元からは地面から這い出てきたゾンビの手っぽく見える100本のゴム手袋に空気注入という仕掛けなのだ。なおその仕掛けを足元に仕込む為に直前の通路を緩やかな登り坂にしました。
だが予算の都合上、ギミックは簡素な物になっている。
しかも中身が空のお化けはちょっとでも注視されたら見破られるので、視界を悪くしてハリボテ感を誤魔化し、注視の隙を与えない物量重視の短期決戦としたのだ。更に直前まで赤い家の謎を匂わせる「もーいーかい?」の声・スポットライトで赤い目玉っぽく見せる演出効果で客の余裕を無くし、そして本物のお化け2人がすぐ前に出て他のお化け全てを背景扱いにしつつ、後ろも本物と錯覚させれば、赤い家の完成だ。
「やっぱり最後は大変?」
「ああ、超疲れた。客が所定位置から出ない様に立ち回りながらの出口誘導で、1日中バスケのポイントガードしてる気分だった」
「でもゾンビの手が柵代わりにもなってたよね?」
「そうだけど、たまーにパニクッた客が何故かお化けのいる方に突っ込んでゾンビの手が踏まれてパーンって弾けちゃったから」
壁際のハリボテお化けに近づけさせない様に、手前の地面にはゾンビの手を中央の安全地帯・出入り口の通路以外にギッチリと配置させたのだ。
これで恐怖演出をしつつ客を出口まで誘導させるのだ。
そしてこの魂胆は概ね上手くいったんだけど……
「土日だけでゾンビの手が6本も死んだ。どうにかしないと」
スペアにも限りがあるし、何かゾンビの手を踏まれない案が…
「ゾンビの手に野糞を紛らせれば踏む人が減るかも? どう思う神岸?」
「いやいや意味分かんないから。第一、暗くて見えないでしょ?」
「うーん、妙案だと思ったんだが…、はっ!? じゃあゾンビに野糞を握らせればっ!!」
「何でウ●コ握っちゃうの!?」
ざわざわざわざわっ
「こら、女の子がウ●コって叫ぶな」
「ううっ、川葉にハメられた」
改めて周りに頭を下げたけど、さっき以上に視線が刺さりまくりな気がする。
まぁ女子との会話でウ●コなんて単語が出れば当然か。
そう割り切ってからヒソヒソ話を再開させる。
「どっちも汚物で腐ってるからいーじゃん。絶対踏まれなくなるって」
「そんなん握った手が100本も生えてきたら怖過ぎだって! お化け屋敷がウ●コハウスって呼ばれちゃうよ!?」
あー、確かに踏まれる数は減るかもしれないけど、別の弊害があるらしい。
そんな感じで悩んでいたら、神岸がニヤッとしながら尋ねてくる。
「そういえば川葉のペアは雫さんで、ずーっと一緒だったよね? 進展した?」
こいつ、無理矢理恋バナに切り替えやがった。
明智さん・野土さんも妙に気にしてくるし、鈴芽ちゃん・比奈菜に至ってはウザいレベルで突っかかってくるし、職場恋愛がやり辛いってのは本当だな。
「忙し過ぎて何もなかったし、雫先輩が来たのは土曜だけだ。それに大学の試験期間が今週だから、最近は気を使いまくりだっての」
本来なら試験終了まで休み予定だったけど、リフォーム完了の初日は出たいという本人たっての希望を無碍にできず、出てもらった次第だ。
なおプレゼン後は黒ブラ盗難疑惑の払拭で手一杯。
言葉では許してもらえたけど、損なった信頼を取り戻せたかは微妙な所だ。
その後は共に試験前という事でファミレス・図書館で一緒に勉強、お蔭で期末テスト結果は急上昇、次に会った時はお礼をって感じの先輩後輩な関係が続いている。
「えー、全然進展ないじゃん。川葉って本当に雫さん好きなの?」
「本当にって何だよ? それに相手は20歳の大学生でバイトの先輩だぞ。慎重にもなるだろ」
ただでさえ恋愛経験が乏しいのに、いきなり大学生はハードルが高過ぎる。
しかもバイト恋愛は破局したら超気まずくなって辞めるしかないって聞くし、リスクまで特大という有様だ。
「それに雫先輩は美人だけど俺は見ての通りで、不釣り合いかなーって」
「川葉、そういうのは気にしちゃ駄目だって」
「そう言われてもなぁ。神岸は俺が中学でやらかした過去知ってるだろ。だからまだ自分に自信が持てないってゆーか、今はこの縁を大事にするので精一杯なんだよ」
優柔不断は駄目だけど、曖昧な気持ちのまま踏み込みたくもない。
だから今は雫先輩の傍で頑張り続けたいのだ。
少しずつでもいいから、成長していく為に。
「はぁ、プレゼン時は格好良かったのに」
「うるせー、人間そう簡単には変われないんだよ」
なのに周りはこっちの事情お構いなしにあーこう言ってくるんだよなぁ。
旗色が悪いから話題を変えないと。
「そーいう神岸は最初に巫女服で説明・脅かしだけど、上手くやれたか?」
「ふっふーん、勿論ちゃんとやっ…ゴホゴホッ」
「あー、やっぱり1日中喋りっぱなしは辛いか。ほれ、のど飴だ」
昨日のバイト解散時もちょっと声が濁っていたから、今朝コンビニで買った飴袋を贈呈すると、意外そうな顔をしてから受け取って飴を舐め始める。
「あはははは、ありがとね。だけど気にし過ぎだって」
「俺がバイトに誘っての激務だからな。ちょっとは気を使わせろ」
神岸はお化け屋敷の注意事項説明、その後に客を驚かせるという重要ポジションを担っており、負担も大きい筈だ。だから夏休みの短期バイトをしっかりやり切れる様にサポートしないとね。
「てゆーか変な客に絡まれたりしなかったか? お前客の前で脱ぎまくりじゃん」
「いやいや! 確かにお客さんの前で巫女服脱いでるけど!!」
ざわざわざわざわざわっ
「また声がデカい。女の子が大声で脱ぐとか言うな」
「うう、また川葉に弄ばれた」
なんか、周りからの視線がおかしい。
変なキーワード出しまくってるし、後で確認しておこう。
「まぁその様子なら大丈夫そうだが、変なのに絡まれたら言えよ。すぐに雷山さん呼ぶから」
「呼ぶのかよ!」
「だってモヤシな俺が駆け付けるより、筋肉召喚する方が確実じゃん」
「うわー、川葉にはガッカリだよ」
そうして2人で笑っていたら、恐る恐るという感じで岩田・佐久野さん達が来て、
「2人って、そういう関係なの?」
「え? 何が?」
本気で心配そうな様子に、どういう事かと詳細を尋ねてみたら、
「違うから!! お化け屋敷のアルバイト話!! 大金欲しさにエロい店で巫女服スカ●ロプレイに明け暮れたりとか全然ないから!!!」
即座に立ち上がり、顔を真っ赤にしてクラス中に響き渡る声を出した神岸に、失礼ながら爆笑してしまった。因みに俺は、神岸を誑かそうとしたが下剋上されて金づるに成り下がったダメ男らしい。
そうして神岸が周りに弁解しまくっている間、俺は2人にも頭を下げておいた。
「岩田さん・佐久野さんも疲れ様。メイク好評だったよ」
「でっしょー、超頑張ったからね」
「過去最高の完成度です」
2人も神岸に誘われての短期バイト中で、最初の部屋にいるセーラー服ゾンビを担当している。
しかもお化け衣装作りをしてみたいと提案、なので自分達の衣装を任せてみたら、とんでもないクオリティに仕上げてきたのである。
演劇部の衣装担当と聞いてはいたけど、まさか古株を含めたバイト全員を慄かせるとは夢にも思わず、見た目の怖さだけなら2人がナンバーワンで間違いないだろう。
「川葉君、新作持ってきたんだけど見てくれない?」
「いいけど」
「では、ジャッジャーン」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」
2人が見せてきた被り物の存在感に、遠巻きのクラスメイトからも感嘆の声が響き渡ってくる。
不揃いに剥き出しの牙、腐り切った眼球、剥き出しで血塗れな口元、歪んだ骨格等、こんなのが暗闇から出現したら、無条件で叫んじゃう代物だよ。
「どうかな? この河童」
「河童? これ河童なの!? これもうお化けじゃなくて化け物だよね? どこぞのホラーゲームのラスボスって言われても納得な出来ですけど!!」
そんな感想を訴えた後、笑顔な2人が迫って来てからの、
ズボッ!!
被せられちゃいました。
「視界はどう? フィット感と匂いは大丈夫?」
「うーん、視界と匂いは大丈夫だけど、ピッタリ過ぎというか、これ頭大きい人は被れないかも」
「やばっ、男基準のサイズにし忘れた」
この意見に2人が肩を落として、だけど見た目は会心の出来と励まそうと立ち上がると自分達が作った被り物なのにビクッと驚きの反応を示して、更に周りを見ると、恐怖・委縮・興味津々という様々な視線が向けられて、どうしたものかと考えていたら神岸が前に出て、
「はいはーいっ、見ての通り私達はお化け屋敷のアルバイト中で、川葉はそこのエースです!! 相手を驚かせるテクニックはピカイチだからカッツリ見てあげて!!」
この言葉に一部クラスメイトが駆け寄ってきて、質問やら驚かせてみてやらの大騒ぎになる。
神岸の奴、クラスで浮き気味な俺をこのネタで馴染ませようって魂胆だな。
そんなお節介に被り物の内側で失笑してから要望に応えている内に、雰囲気作りとして照明が消され、河童に匂いを付けようと女子達が香水を出してきて、そんな盛り上がりがずっと続いたまま予鈴が鳴り響いたのだ。




