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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
attraction
29/35

02

 そこは何もない小さな部屋で出口もすぐ先にあるのに足が動かせず、その理由は両側にセーラー服の女ゾンビが1人ずつ、ねっとりとした視線でこっちを見ているからだ。顔の左半分だけが異様にこんもりと爛れ上がり、それを分ける右目と左目の間に大きな縫い目はまるでブラック・ジャックの様に施され、そして左目は剥き出しのギョロリとした視線を突き刺してくる。

 この演出に最初は警戒したけど女ゾンビはただ見ているだけで動きがなく、近づく気配も全くない。


「侵入禁止の線もあるし、進んでOKみたいだな」

「だよね、大丈夫だよね?」


 地面には進路を示す矢印・通路幅を定める白線が2本引かれていて、外側は侵入禁止というのがこのお化け屋敷のルールになっている。そして女ゾンビは共に外側、ちょっと前の両脇に居るだけだ。

 なので彼女と一緒に、部屋に入ると。


「ふぅ、襲ってこないな」

「最初の部屋だし、きっとこれだけだよ」


 安堵の溜息を吐いてから、足を進めると、



 トッ…… トッ……



 こちらが一歩進むと両サイドの女ゾンビも一歩全身、二歩進めば二歩前進と、絶えずこちらのやや前をキープしながら絶えずギョロリとした視線を刺し続けてくる。


「うわぁ」

「地味に怖いね」


 この演出は恐怖だけでなく、圧迫感がある。常に前を取られているせいで『もしあのゾンビ達が襲ってきたら』、そんな想像が恐怖を掻き立ててくるのだ。

 だが実際にゾンビは襲っては来ず、常にこちらとの距離を保ち続けながら共に前進、そうして出口目前となり、安堵するのと同時に横を見てみたら。



 ペリリッ……



 両側にいる女ゾンビの爛れた左顔がペロッと、まるでバナナの皮を剥いた様に捲れて、青黒い皮膚の内面が露わになりながらニッコリと微笑んでいる。

 これに俺と彼女は声にならない悲鳴を上げてから、そそくさと最初の部屋を退散となりました。



   ◇  ◇  ◇



「今度は病院か?」

「ポスターが貼ってあるよ。整形手術の」


 確認してみると〝唇を薄く・アヒル口の解消〟とあり、どうやら口専門の整形病院みたいだ。

 それから病院の廊下っぽい通路を進むと



『うふふふふ、口元を手術すれば、私はもっと綺麗になれるわ』



 どこからか聞こえてきた女性の声に、彼女と顔を見合わせる。


「今のアナウンス音って演出だよね?」

「ああ、おそらく整形手術前の女性って設定だろう」


 口元の手術なら、次のお化けはアレに違いない。

 そう思いながら廊下の先にある手術室の入口目前となった所で、



『きゃあああああああああああああああああああああああああ』



 突然の叫び声に足が止まる。


「今の悲鳴、さっき綺麗になりたいって囁いた声と同じだよね?」

「ああ、間違いない」


 きっとこの手術室の先にはヤバい光景が待っている。

 だが今更後には引けず、お互いの手を強く握り締めてから手術室に踏み入ってみると、


「ひっ」

「うわぁ」


 そこは正規の手術室とは思えない有様で、乱雑に散らばった医療器具、無造作に捨てられている血の付いた手術着、そして中央にある手術台には女性が口の左側にザックリなメス痕がある血塗れの女性が横たわっていたのだ。


「口裂け女が脅かしてくると思ったけど、まさか手術現場を見せてくるとは」

「じゃあこれって、口裂け女が誕生した瞬間なの?」



 この現場から口裂け女の恐怖が始まる。



 絶対に見てはいけない場面の遭遇に、今後この口裂け女に付き纏われるのはないか?

 そんな言い知れぬ不安が全身に駆け巡ってくる。


「襲って来たりは、ないよね?」

「大丈夫、手術台の周りには障害物があるし侵入禁止の線もある。そういう演出はない筈だ」


 手術室内の通路は壁際をなぞる様に遠目から口裂け女を見るだけって感じだ。それにこれはもう十二分に怖い絵面で、これで襲ってくる演出まで加わったら冷静でいられる自信がない。なので手術台で横たわる口裂け女をチラチラ見つつ、ゆっくりと移動して出口が近付いた所で、



 カラーン



 不意に後ろから地面に小さくて軽い金属が落ちたかの様な音が、静寂に支配されていた手術室内に響き渡る。


「なっ、何? なになになに!?」

「落ち着け、多分メスか何かが落ちただけだ」


 2人で振り返ったけど何もなかった。


「で、でも、何かが落ちたって事は、何かが動いたって事だよね?」

「けど何もないし、お化けが出てくる気配もない」

「う、うん。気のせいだったのかな?」


 そんな不可解な演出に2人で首を傾げてから改めて出口に向かおうと視線を前に戻そうとしたら、



 目が合ってしまった。



 ついさっきまで手術台で横たわっていた筈の女性が上半身を起こしてこちらを凝視、だけどその口元は左に大きく裂けていて、頬の内面が剥き出し状態の顔で微笑みながら、



「わたし、きれい?」



   ◇  ◇  ◇



「はぁ…、はぁ…、最近のお化け屋敷って、こんなに怖かったの?」

「やっと中間地点に到達か。大丈夫か?」


 最初からクライマックスな怖さと思いきや病院を通過した後の廃校・西洋館はそれ以上で、さっきの人形館はもう心臓が飛び跳ねたんじゃないかと錯覚した程だ。

 そしてココは2階から1階に下りるだけの簡素な作りで、今までも部屋の間には途中退場口・注意書きがあるだけの安全が保障されているセーフティーゾーンだ。

 なので足元注意の貼り紙を見てから階段を下り、6つ目の部屋の前に近づくと、



 もーいーかい?



「また、この声だね」

「真意が分からないだけに、気味が悪いな」


 この声は各通路の合間に聞こえてくるだけだが、何かの伏線で間違いないだろう。


「ねぇ、あっちに退場口があるけど……」

「悪い。俺もあの出口から逃げたいけど、それ以上にこの先が気になる。だから一緒に来こうぜ」

「……そうだね。『もーいーかい』の声の真相も気になるし、途中棄権する方がモヤモヤしちゃうかもね。はぁ、今日はもう安眠できないかも。夢に絶対何か出ちゃうよ」

「だったら俺が寝かさない様にしようか?」

「もー エッチだなー」


 そんな軽口で気を紛らわせてから、6つめの部屋に足を踏み入れた。

退場口:お化け屋敷で途中離脱できる出口です

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