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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
attraction
28/35

01

prologueの続きになります

 夏休み前の休日、興味本位でリニューアルオープンのお化け屋敷に彼女と並び、やっと順番となって魑魅魍魎の巣窟に足を踏み入れる。


「いきなり階段なんて変な構造だね」

「安全を考慮したんじゃないか? 普段なら絶対に踏み外さない階段も、お化けに脅されて余裕のなくなった心境なら、転ぶ奴がいるかもしれないから」

「あー、成程ね」

「じゃあいくぞ! お化け屋敷探索だ!」


 1~4人までの3グループ毎に入場がこのお化け屋敷〝赤い家〟のルールで、俺と彼女を含む3グループが階段を上がり、右の入口通路を進んだ先にあったのは。


「……………神社、でいいのかな?」


 彼女が疑問符を付けて呟いたのも無理もない。前方に仰々しい()()付きの注連縄(しめなわ)、対の(とう)(ろう)、賽銭箱等が飾られているが、気になるのは部屋の両側にある御札が付いた巨大な空の木箱で、それら全てが内側から力尽くで抉じ開けられたの様に、綱や鎖が散乱という異様っぷりだからだ。


「うわー、真っ黒に煤けてるね」

「封印されていた妖怪が逃げ出した跡みたいだな」

「ちょっと怖いこと言わないでよ」


 木箱を覗き込む彼女を茶化したが、これってもう始まっているのか?

 だが照明は普通に明るいままで、他の客も手持無沙汰な感じで不気味な境内を見ていると、前方からスッと人影が出現する。


「皆様、本日はお化け屋敷に来ていただき、誠にありがとうございます」


 この登場に皆が息を呑む。

 それは巫女装束を纏ったふんわりアップヘアーの女の子で、これだけなら全然怖くないのだが、腰に人間の倍くらいあるサイズの、まるで悪魔の腕から切り落としたかの様な禍々しい手首がチェーンベルトの様な紐でぶら下がっているのだ。


「まずこの〝赤い家〟について説明しますので椅子に座って下さい」


 そうして中央にある簡素な長椅子に各3グループが座った後、このお化け屋敷のコンセプト・注意事項の解説が始まる。


「成程、ストーリー性を持たせる手法か」

「どういう事?」


 巫女さんの解説中にそう呟くと、彼女が小声で尋ねてくる。


「スタート前に客を物語の世界に入り込ませて演出に深みを持たせるんだよ。それに事前注意も大切なご時世だからな」

「へぇ、最近のお化け屋敷は凝ってるね。でもそれだと回転率悪くない? 私達に話してる間、中は待機状態だよね?」

「俺達は右の入口から入ったけど、前のグループは左だった。だからきっと左側もココと同じ作りで、左客を入れる時に右は説明・右を入れる番になったら左で説明、それを交互に繰り返せば無駄はない」

「そっかー、成程ね」


 そんな雑談をしている内に巫女さんの解説も終わり〝赤い家〟に踏み入る準備終了。そして神社部屋の死角にあった扉から1グループずつ入る手筈となり、俺と彼女の順番は最後。そして最初のグループが巫女さんと一緒に扉に入ってから程なくして、



「「「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!」」」



 悲鳴が扉の向こうから響き渡り、それと同時に巫女さんが扉から戻ってくる。


「今の方々が進むまで、少々お待ち下さい」


 いや、あなた何かしましたよね?

 だがお化け屋敷でそんな質問ができる筈もなく、すぐに2グループが巫女さんと一緒に扉に入り、さっきと同じ悲鳴が響き渡る。


「だ、大丈夫かな?」

「ははっ、問題ない。お化け屋敷なんだし、怖い方が面白いだろ」


 怯える彼女の肩を抱き寄せ、戻ってきた巫女さんと緊張感漂う睨めっこをしていたら遂に順番となり、息を呑みながら扉の向こうへ踏み入ってみると、


「ただの通路だね」


 彼女の言う通り何の変哲もない簡素な狭い通路で、ちょっと先の曲り角まで仕掛けがある感じもない。

 じゃあやっぱり、さっきまでの悲鳴の原因は…、

 そんな疑惑を巫女さんに向けると、その反応を待っていたかの様に口を開いて、



「〝赤い家〟は生きています」



 この言葉に俺と彼女はどう反応していいか分からず、だけど巫女さんはお構いなしに続ける。


「なので何か質問をされても、絶対に同意しては駄目です」

「は、はぁ」

「分かりました」


 展開的にココは同意しておくべきと判断して頷くと、巫女さんが腰にぶら下げている禍々しい手首を見せてくる。


「私はうっかり同意してしまい、この悪魔の手に体を貫かれそうになりましたが、そうならない様に絶えず封印を…」



 パリン



 何かが割れる、床にお皿を落としてしまった時みたいな音と同時に急に巫女さんが蹲り、苦しそうに息を荒げ始める。


「だっ、大丈夫ですか?」

「やだ、これ絶対何か起こるよね?」


 たとえ演技でも苦しむ姿につい心配な反応をしてしまい、彼女は俺の後ろで様子を窺っている。



「封印がっ‼ 胸が苦しっ……、あぁああぁぁぁぁAAaAaa亜亜◎★■」



「なっ? 声が、変わる?」

「何で? これ人間じゃ出せない声だよね?」


 巫女さんの呻き声が途中から野太く、低音に下がり続けて、更にはノイズが混ざり、その異様さに慄くのも束の間、蹲っていた巫女さんが急に飛び跳ねて、その反動で巫女服がバサッと肌蹴けて上半身が露わになる。

 だがそこに肌色はなく、全身に巻かれた包帯と夥しい護符が真っ赤に染まっている。



「ばっ、馬鹿なっ!!」

「嘘でしょ?」



 その理由は腰にぶら下がっていた悪魔の手が巫女さんの胸を貫くかの様に生え、しかも動くはずのない5本の指がワシャワシャと無機質に動いている。

 そんな有り得ない光景に唖然としていたら、巫女さんがこちらを向いて。


「は、はやく先に…」



「「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」」



 俺と彼女は前の2グループと同様、悲鳴をあげてのスタートとなった。



   ◇   ◇   ◇



「なっ、何あれ? 本当にトリックなの?」


 逃げる様に巫女さんから離れて通路を進んだ後、彼女がそう呟く。


「ああ、最初はあの手首が巫女さんの体を貫いたって錯覚したけど、実際は蹲った時、俺達に見えない様にしてあの手首を胸に固定したんだ」

「じゃあ異質な声は?」

「ボイスチェンジャーで予め録音しておいた声だ。作り物っぽい音だったし」

「そっ、そっか。じゃあ指が動いたのもそういう仕掛けかぁ」


 こうして冷静に考えればどういうネタだったか予想できるけど、初見で見破るのは不可能だ。

 お化け屋敷という恐怖に流されやすい雰囲気なら尚更に。


「とにかく進もう。このままじゃ後がつっかえる」

「そ、そうだね」


 そうして狭い通路を進むと



 もーいーかい?



「何だ、今の声?」

「さっき巫女さんが言ってた、赤い家が生きてるってやつかな?」


 それはくぐもった子供っぽい無邪気な声で、何が「もういい」のか意味が全く分からないものだった。


「なら忠告通り同意せずに進めばいい。行くぞ」

「うん、ちゃ~んと私を守ってね」


 こうして俺達は1つめの部屋に足を踏み入れたのだ。

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