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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
chapter 6
26/35

25話 河童の川流れ

 毎日お化け屋敷に訪れるアロハおっさんがどうしてココに?

 確かに来てほしいとは思ったけど、本当に現れてどうする?


「どちら様ですか? ココは関係者以外立ち入り禁止ですよ」


 うん、主任の言う通りだ。

 そう思ったのだが、この指摘に役員の方々が唖然というか、呆れたと言わんばかりの反応を示している? ぬらりひょんは妖怪の長で、いつの間にか周囲に溶け込む能力があるらしいけど、まさかパーク従業員を掌握しちゃったの? だったらマジで妖怪じゃん!

 そんなアホな事を考えていたら、一緒に会議室に入ってきた親父が動揺気味に尋ねてくる。


「根津、まさか見覚えないのか?」

「当たり前です。お化け屋敷の常連客など知る由もありません」

「いや、そうじゃなくて……。はぁ、だから会議くらいはスーツをって言ったじゃないですか、社長」


 えっ? 今なんつった?

 まさかのキーワードに唖然だが、すぐ横の主任はもっと酷い顔になっている。


「あんな堅苦しい服は午前が限界だ。だから面倒な雑務は朝までにさっさと終わらせて、午後からはアロハで現場視察、それが私の流儀だ」


 そんな雑談を親父とぬらじいがしてるけど、もしかして、


「あの、失礼ですがお名前は?」

「私はこの山桜グリーンキャッスルの社長、山桜(やまざくら)大竜(ひろたつ)だ」


 俺は水戸黄門で印籠を見せられた悪人の如く「ははー」とひれ伏しました。


「そうとは知らず、河童で粗相しまくってすみませんでした!!」

「おおっ、君が最近加わった河童か! 毎回楽しみにしているぞ」


 笑い飛ばしてくれたけど生きた心地がしない。

 毎日来てくれるからには飽きさせない様にと、ぬらじいには過剰演出・秘策を駆使して驚かせようと躍起だったのだ。物好きな常連とばかり思っていたけど、パーク社長なら難なく通えるし、視察の意味合いもあったのだろう。

 それにしても親父の奴、とんでもない隠し玉を持ってきやがった。

 根回しが好きだから何か仕込んでいるとは思ったけど、これは反則だろ。

 もう主任が哀れで、てゆーか何で社長の顔知らないんだよ。


「根津、社長とは朝礼で毎日会ってるだろ。スーツ着てなきゃ分からないのか?」

「いや……、それは……」


 親父の指摘にタジタジで、見てるこっちが切なくなりそうな姿だ。


「社長も昼食はランダムで社員に声掛けてますよね? 根津も誘いましょうよ」

「何度か誘ったぞ。だが全部断られてしまってな」

「それはっ! 社長とは気付けず申し訳ありませんでした!!」


 確かに主任は相手の顔見ずに喋るけど、まさかここまで見えてなかったとは。

 てゆーか、何でお化け屋敷の方々は誰も社長の存在知らないの?


「これを機にお化け屋敷の面々ともランチをしようかの。社長とバラしたら脅かしが手抜きになりそうだから今まで遠慮しとったんだが」


 ええー、そんなお茶目な事情で黙ってたの?

 こっちは誰を頼るべきかで至難しまくりだったのに。

 そんな脱力感に見舞われながら、社長と親父が気楽に話を始める。


「それにしても、お化け屋敷が閉鎖になったら悲しいね。あれはココが遊園地だった頃の名残だ。川葉君も当時はバイトだったな」

「ええ。経営不振・上は退職金せしめて逃げたのに社長だけが残って『私が再建させるから手伝ってくれ』とスカウトでしたね」

「なぁに、ただの繰り上げ当選だ。社長になってからは怒涛の日々で、人の入れ替わりも激しく、もう初期メンバーは君と玉藻さんくらいか?」


 この言葉に3人が視線を合わせ、どうやら玉藻さんもグルらしい。

 まさかの展開に現状把握が精一杯で何も言えずにいたら、ぬらじいがパンパンと手を叩き、仕切り直しと言わんばかりに壇上に上がってきた。


「さて、今回の会議は私も別室でカメラ越しに見せてもらった。私にとってお化け屋敷は思い入れのある場所だが、優遇はしない。赤字続きなら取り壊しを承認するのが責務だ。……だが、復活の目があるのなら、チャンスを与えたいと思っている」

「ですが今更っ、バイトも全然集まらないのですよ!!」


 主任の指摘にぬらじいがこちらを見てきて、慌てて手を挙げる。


「すみません。その件で1つ質問をさせて下さい」

「宜しい、言ってみなさい」


 ぬらじいの許可が貰えたので、部外者という立場を遠慮してずっと風雷コンビの後ろに隠れている切り札に登場してもらった。


「わ、わわわ私は神岸巫月といいまして、川葉の御学友ででデース」

「何でそんなに緊張? いつもの図太さ何処いった?」

「だって! ここまで本格的な会議だと思わなかったから!!」


 神岸の手が震えっぱなしだったので、ギュッと手を握る。


「落ち着け神岸、大丈夫だ。一緒に恥かこうぜ!!」

「ううっ、………すーーーっ、はぁ。……分かった」


 大きく深呼吸をして、俺の手を強く握り締めながら神岸が前を見る。


「私はGW前にお化け屋敷のアルバイトに応募して不採用でした。ですがGW後に川葉から人手不足だったと言われました」

「見ての通り神岸の人柄に問題はなく、生徒会副会長で先生からの評判も良いです。なのに根津主任、どうして不採用に?」

「それは…、不適格だと思いまして、学生の短期は信用できないという判断を…」


 主観だけの苦しい言い訳が続く中、更に親父が1枚の書類を出してくる。


「あと根津、お化け屋敷のバイト募集予算が行方不明な理由は知らないか? どう調べても募集した形跡がないのに消えているんだが」

「それは……………。一時的に預かっているだけで、今後然るべき時に使う為に…」


 いやそれ完全にアウトだよね?

 これじゃ増員ないのも当然で、もう冷や汗ダラッダラだよ。


「てゆーか親父、知ってたなら募集しろよ」

「いや、何か粗がないかと調べたら出てきた事実で、分かったのも昨日だ。この件については悪かったと思ってる」


 そんなやり取りを見ていた根津主任が、


「親父? 川葉……………、はっ、まさか君達は親子か!?」

「え? 今更?」


 もっと早く気付いていい筈なのに。

 だがこの事実に主任が目の前の机を蹴り飛ばして迫って来た。


「ズルいぞ!! 僕は1人で一生懸命頑張ったのに卑怯じゃないか!!」

「いや、そう言われても」

「とにかく僕、僕の企画が正解なのだぞ!!」


 うわぁ、一人称が僕に変貌して完全に駄々っ子だ。

 しかも逃げたくなるレベルで顔を接近させ、まくし立てまくりだよ。


「大体、短期間でリフォーム出来る訳ないじゃないか!! ハイ論破!!」

「いえ、元大工の明智さんのツテで長年続く地元建築会社が使えます。中間マージンもなく予算もお手頃に…」


「じゃあ人! 閉鎖宣言で辞めたバイトいっぱいだよね? ハイ論破!!」

「それは野土さんの人望で呼び戻せました。それに主婦仲間が沢山いて、増員のアテもあるって…」


「なら安全!! またクレーマーが来たらどうするの!? ハイ論破!!」

「リフォームで安全面は考慮します。それに去年の夏、主任が身を挺してクレームを受け止めたそうですね。それは皆感謝してます。ありがとうござ…」


「うるずあああああああああい!! 今更感謝しないでくれ! なんでだよおおおおお!!!」


 この叫びと共に崩れ落ちる根津主任。

 もう全部ぐちゃぐちゃになった所で、ぬらじいが主任に手を差し伸べてきた。


「根津だったか、1人で頑張れるのは結構な事だが、限界がある。儂は廃業寸前になったパークを再建させたが、1人では無理だった。川葉君・玉藻さんを頼って仲間と共に頑張れたから今がある。お前さんには出来ないやり方だ」

「僕だって、この企画が通ったら絶対に上手く…」


 主任の呟きに、ぬらじいが首を横に振る。


「君の後ろには誰もいない。1人だ。それでどうやって成功させるんだ」

「それは、新しくバイトを雇って、次から本気を…」

「今まで出来てなかった人間を信じるのは不可能だ。もしその企画を君に任せたとしても、雲行きが怪しくなれば今までと同様に諦めてしまうのでは? そんな不安が拭えんのだよ」


 そう指摘されて主任が自分の背中を、そして俺の後ろにいるバイト達を見比べた後、力なく項垂れてしまった。


「偶には周りを頼ってみなさい。川葉君の息子がそうした様に。ちゃんと相手の顔を見て応え続ければ、お前さんにも味方ができる筈だ」


 そうぬらじいに告げられてからゆっくりと主任が立ち上がり、この会議室内にいる全ての人物を1人1人じっくりと見据えた後、姿勢を正して直立して、



   ズガッ!!!!!



 全力で頭を下げて前にあった会議用テーブルに額が直撃。

 だが本人は痛がる素振りを一切見せず、何も言わずに会議室から出て行っちゃいました。

 


   しーーーーーーん



「おい親父、どうすんだよこの気まずい状況」

「知らん。とりあえず根津はほっとくが、案外成長して戻ってくるかもな。今のお前みたいに」

「俺はあそこまで捻くれてない!」


 そんな抗議をする横で、ぬらじいが根津主任の資料を手に取る。


「根津の企画も作り込まれていて悪くなかったが、要点がボヤけて客観性に乏しい部分が多かった。勿体ない限りだ」


 きっとその辺りが1人の限界なのだろう。

 常に群れながら行動が正しい訳じゃないけど、悩んだ時に相談できず・間違えそうになった時に指摘してくれる存在が居なければ、狭い視野で突き進むしかない。

 この条件で正しく有り続けるのはきっと想像以上に難しくて、寂しい事だから。


 そしてぬらじいがまたパンパンと手を叩いてから壇上で高らかに宣言する。


「根津の企画は却下、お化け屋敷の取り壊しもしない。そして川葉息子の企画については、上層部で検証させてもらう」


 ええっと、それってつまり。

 理解するよりも早く、親父が俺の背中を叩いてから。



「お前の勝ちだ。よく頑張ったな夕護」



 この言葉に全力でガッツポーズ!!

 更には後ろで見てくれていたバイト仲間達が押し寄せて、



「やったな坊主」「おばちゃん見直しちゃったわ」「お兄ちゃんやっる~」「学校とは大違いだったよ川葉」「後でとっておきの大道芸でお祝いするからね」「筋肉筋肉‼」



 まるでプロ野球の優勝が決まった様な洗礼で揉みくちゃにされ、会議室内じゃなかったら胴上げが始まりそうなムードだ。

 今日に至るまで皆には本当に助けられて、感謝したいのはこっちの方だ。

 喉が潰れるまで「ありがとう」って言い続けたい程に。

 そして親父は根回しをしまくってくれた様なので、改めて感謝を伝えようと近づいてみたら、親父は玉藻さん・ぬらじいと会話中で、今はタイミングが悪いと判断して戻ろうとしたら、



「この情報、精度は大丈夫?」「問題ない。愚息を誘導して効率良く情報を掻き集めさせたので。優秀な犬でしたよ」「この内容なら事前説明も不要だったのでは?」「やらかす可能性の方が高かったですし、皆に説明は当然です」



 んんんんんんんんんんんんんんんん???



 何か、俺が聞いちゃったら駄目な会話してませんか?

 そういえば役員の皆様も随分と大人しく話を聞いていた気が……………

 もう答え出ちゃったけど、どうしても認められず、不躾だと思ったが親父達の会話に割って入り、


「親父、質問していいでしょうか?」

「どうした夕護、お前のプレゼン成功に尽力した父への感謝の言葉か?」

「ああ、本当に感謝してるよ。俺の為に随分と根回しをしたみたいだな。まさか社長や専務がグルだとは思いもしなかったよ」

「なぁに、付き合いが長いだけだ」

「それなんだが、まさかその2人だけじゃなく、ここに居る役員の方々も全員…」


 後ろに座っている皆さんを見ると、バツが悪そうな態度・失笑をしてから親父に視線が集まってからの。


「ああ。根津以外全員グルで情報も全部リーク済みだ」

「ちょっ、マジかよ!! プレゼンやった意味あるの!?」


 ガチで茶番じゃねーか!

 さっきのガッツポーズ返せ!

 恥ずかしいってレベルじゃねーぞ!!!


「当然だ。お前みたいなガキを出す以上、俺には説明責任がある。それにバイト集団が会議室に押し寄せたら普通ならパニックだぞ」


 確かに、確かにその通りだけど……っ。


「それにお前がこのネタを持ってきた時、最初は脅しまくって諦めさせてから情報だけ預かって上に報告・解決しようと思ったんだぞ。なのにお前が食い下がって、しかも昔のトラウマが再発しそうだったから、じゃあ任せてみるかーって」

「軽っ!! あの時そんな風に思ってたの!?」

「それに夕護を動き回らせた方が情報収集もスムーズって打算もあったが、期待以上だったぞ。だから俺も張り切って根回ししてやったんだ。有り難く思え」


 完全に親父の手の平で踊らされた。

 ここまでされたら上手くいって当たり前じゃねーか。

 そうして自分の滑稽さを思い知り、どす黒い感情が噴き出してきた所で、労う様に親父が俺の肩を叩いてから。


「ちょっと意味が違うが、河童の川流れにならんで良かったな。ご苦労さん」



   ブチッ



「うがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 絶叫と共に不満爆発、行き場のない感情を拳に込め、目の前にある憎らしい顔に叩き込もうとした所で、


   ガシッ


 後ろから羽交い絞めにされ、拳が虚しく空を切る。


「駄目だよ川葉君。暴力は良くない」

「そうだ! 筋肉は人を傷つける為に鍛えるものじゃない!」


 風雷コンビに止められたけど知るかボケ!!

 こっちはあの顔をへしゃげなきゃ気が収まらねーんだよ!!


「おい糞親父っ、俺が今まで、この瞬間の為にどれだけ頑張ったか知らねーのか!!!」

「見縊るな。お前がどれだけ頑張ったか分かるに決まってるだろ。昨日なんて一睡もしてないだろ」

「ああそうだよ!! ずっーーーとプレゼン練習しまくったのに全っ然思い通りに進まず、予定の半分以下で終わっちまったよ!!!」

「ははははは(笑)、本番なんてそんなもんだ。予定通りに進む方がおかしい」

「うるせー!! 中2の時みたく、気が済むまで殴ってやらぁ!!!」


 そう叫んだが筋肉担当の雷山さん拘束が全く解けず、そして親父の指摘通りずっと頑張り続けて寝不足だったせいですぐガス欠となって轟沈。お化け屋敷は救われ、これから良い方向に進むのは間違いないのだが、どうしても納得できないまま終焉となりました。

河童の川流れ:泳ぎのうまい河童でも、水に押し流されることがある。 その道の名人でも、時には失敗することがあることのたとえ。 弘法にも筆の誤り。 猿も木から落ちる。

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