21話 託された思い
お化け屋敷バイト求人は公式HPの端っこに小さく掲載された電話番号だけという敷居が高いもので、事前に練習・丁寧な言葉遣いで電話したにも関わらず、素っ気ない男の声に不採用を言い渡されたそうだ。そして求人連絡先がお化け屋敷の最高責任者かつ閉鎖を言い渡してきた根津主任の番号と同一と分かった瞬間から心がざわつき、学校終了と同時にパーク前まで駆け付けたけど、我武者羅に走ったせいで息が絶え絶え、落ち着く為に深呼吸をしていたら、気づいてしまったのだ。
もし意図的に人員補充を避けたなら、真正面から抗議しても揉み消されるだけだ。
だが、そうする利点がどこにある?
お化け屋敷の売上が下がれば根津主任の評価も下がるだけで、自分で自分の首を絞めている様なものだ。
それとも別の目的があるのか?
じゃあそれが一体何なのかとパーク内をウロウロしながら考えていたら、
「あれ? 川葉君?」
呼ばれた方を向いたら、海賊がいました。
「って早風さん達か。大道芸お疲れ様です。衣装替えなんて珍しいですね」
今の風雷コンビはドクロ海賊帽にジェストコールを羽織った船長・上半身裸のバンダナ下っ端というカリビアンなパイレーツに扮している。
「朝はいつも通りのドラキュラ・包帯男だったんだけど、昨日の閉鎖宣告がショックで集中できずにミス連発中に乱入してきた野土さんにお尻を叩かれて、それからお化け屋敷に連行されて『今日はコレ着て気持ちを切り換えなさい!』って檄を飛ばされちゃってね」
「えっ? 今日って休みじゃないの?」
「今後どうするかを考える為に来たらしくて、明智さんもいたよ」
成程、それに2人はリーダーだから思う所もあったのだろう。
「しっかし久々に2階に入れたな! そしてこの幽霊船イベント衣装も懐かしくて広背筋が疼いちまったぜ!」
「そうだね。これ以外にも使えそうな衣装がないか確認しておこうね」
下っ端海賊の意見に船長が同意、そういえば2階あるって話もあったな。
「ところで川葉君はどうしてパークに来たの?」
そう尋ねられて目的を思い出す。
それに自分1人で考えても答えは出てこないだろう。
だったら、
「あの、相談したい事があるんですけど」
◇ ◇ ◇
「確かにおかしいね」
「つまり主任が黒幕なのか?」
「どうだろう。それに去年の夏休み最終日、僕達は外で大道芸をやっていたから詳細は分からないんだ。ごめんね川葉君」
申し訳なさそうに海賊達が頭を下げてくる。
シュールな絵面だ。
「だけど野土さん達なら詳しい筈だから聞いてみるといいよ。まだお化け屋敷の2階に居ると思うから」
「分かりました。因みに2階の入口って何処です?」
「古井戸がある部屋だよ」
河童の出没スポット場所じゃん。
灯台下暗しとはよく言ったものだ。
「じゃあ行ってみます! 2人も大道芸頑張って下さいね!」
「進展があったら教えてね。僕達も協力するよ」
「上腕肉の限りを尽くして応援するからな!」
そんな激励を受けてからお化け屋敷に直行。
とにかく今は情報収集だ。
全貌が見えなきゃ話にならない!
◇ ◇ ◇
「あんの糞主任、やってくれたわね!」
「ほっほっほっ、まさか獅子身中の虫だったとは参ったわい」
お化け屋敷2階に上がり、埃の被った衣装が並ぶ廃校・ゾンビ山積み手術室の先にあった閻魔大王像と地獄の釜オブジェ部屋で2人を発見、知りうる情報を全て暴露した反応がこれである。
「因みに2人はどうしてココに?」
この疑問に野土さんが感慨深げな顔になってから、
「今年の夏が最後なら、長年続いたお化け屋敷の集大成にしてあげたいじゃない」
「そういう事じゃ。夏のイベント内容・2階の使用許可をどう取るかを2人で思案しておった所じゃったが、坊主が来てくれたお蔭で事情が変わった。若造に交渉しても徒労に終わるじゃろうし、はてさてどうしたものやら」
それで2人がお悩みモードになった所で小さく挙手する。
「あの、去年のトラブルで2階が使えなくなったんですよね? 使用禁止の期限は決まってないんですか?」
この質問に2人が首を横に振ってくる。
「分からんのじゃ。あの騒動後に2階の使用禁止を若造が宣告、あとは他言無用のだんまりでな」
「あの糞主任が糞なりに解決して、その時はちょっとだけ見直してやったのに、それからは消極的な態度でお化け屋敷は衰退の一途。たった1度の失敗でウジウジしっぱなしなんて男らしくない! 川葉君もそう思うでしょ!!」
「うっ……、まぁ、そうですね」
迫られての物言いにタジタジ姿勢で言葉を返す。
やっぱり、男らしくないか。
「ほっほっほっ、昨日は無言で立ち去ったから心配したんじゃが、いつもの大奥に戻った様で何よりじゃわい」
この物言いに野土さんが踏ん反り返ってから、
「あの後に家族全員で焼き肉食い放題に直行したの。ストレスはすぐ発散しなきゃ健康に悪いからね! それに翌日以降も暗ーい雰囲気引き摺ったら周りだってウザいじゃないの」
「成程、だからニンニク臭が」
「えっ? 私臭いの?」
「「臭い」」
明智さんとハモっての物言いに3人で笑ってしまった。
お化け屋敷の危機なのに何やってんだか。
だけど、こういう時だからこそ笑えるのかもしれない。
深刻顔で睨めっこを続けても解決しないし、笑えば肩の荷が下りて、狭まっていた視界が一気に広がっていく様な気分になれる。
例えそれが気のせいだとしても、暗い気持ちを引き摺るよりずっと良い筈だから。
「昨日はごめんね。けど見ての通り復活したから安心して頂戴。やっぱり辛い時、気兼ねなく愚痴吐けて励まし合える存在って大事ね」
「ほっほっほっ、そうじゃなぁ。儂も嫁には感謝しっぱなしじゃよ」
まだ高校生で彼女すら居ない俺には生返事で頷く事しか出来なかったけど、昨日の行動が、たった1人で20歳の誕生日を迎える筈だった雫先輩の励ましになっていたなら、嬉しいかな。
そんな事を思いながら本題に戻る。
「けど川葉君の情報が確かなら糞主任以外に頼らないと」
「じゃがあの若造以外の従業員にいきなり話すのもなぁ。ツテもないし、下手に動けば悪手になりかねん」
根津主任を頼るのは駄目と分かったのは僥倖だが、だからこそ先が見えない。
それに去年のトラブル真相も分からず終いで、このまま突き進むのは危険だ。
だったら、
「この件、俺に預けてくれませんか?」
この提案に野土さんが顔を顰める。
「その申し出は嬉しいけど、高校生に任せるのは…」
「1日、今日だけ時間を下さい! それだけで構いませんから!」
そんな押し問答を静観していた明智さんが、いつになく真剣な眼差しになる。
「坊主、アテはあるのか?」
「あります!」
この力強い返事に明智さんの凝視が続いて妙に居心地が悪かったけど、今更怖じ気付けるかって意地で引き下がらずにいたら、
「分かった。ならこれは選別じゃ」
そう言って差し出されたのは、数冊の古ぼけたノートだった。
「これは歴代のバイト達が残してきたお化け屋敷のネタ帳じゃ。そろそろ坊主にも書いてもらおうと思っとったんじゃがな」
「ええっ!? このお化け屋敷の演出ってバイトの手作りだったの?」
予想外な真実に驚いていたら野土さんが前に出て、
「他は知らないけど、ウチはこれで30年以上やってきたの。専門家に頼んだらお金かかっちゃうからね」
いや確かにそうかもしれないけど、そこは削っちゃ駄目な必要経費では?
雪山に河童追放・古井戸の中からジェイソンと殺人鬼が出現して襲って来たりなカオス演出の正体が発覚した所で、野土さんがノートの最終ページを開くと、そこにはビッチリと事細かに書かれた企画が記載されている。
「これが次に使う筈だった案よ。こう言っちゃ何だけど、改心の出来よ。30年以上続いた中で一番かも」
「ほっほっほ、30年分の意見を参考にして、去年の夏からずっと作り続けた力作じゃからの。これで低迷するお化け屋敷を救いたかったんじゃがな」
その内容を見てみたら、凄いぞこれは!!
バイト歴の浅い素人の俺にも分かる。
もしこれが実現すれば、絶対に人が来る!!!
そう感じていたら、明智さんが俺の右肩を叩いてくれた。
「期待しておるぞ。何せ坊主は若造の小細工を掻い潜ってバイト潜入、妹まで参加させる無茶をやってのけたんじゃ。アテというのも本当じゃろう」
そして今度は野土さんが俺の左肩を叩いてくれて。
「だけど無理はしなくていいからね。もし空振りになっても私達は絶対に責めないからね」
そんな2人の励ましに心が高まる。
今なら何だって出来そうな気分だ。
「ありがとうございます! 事情は明日、言える範囲で全部話しますので!!」
そうして託された30年分の思いが籠もったノートを握り締めながらパークの従業員である親父の下に直行する。2人にはもう殆どバレバレだったけど、勝手に話す訳にはいかないからね。
そうして退社済みの親父を捕まえるべく、急いで自宅に向かったのだ。




