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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
chapter 4
18/35

17話 お化け屋敷の過去

 選んだのは有名チェーン店でメニューも定番だけど、普段食べない焼き鳥・軟骨の唐揚げ・枝豆・たこわさという居酒屋ラインナップに初来店の学生としては興奮せずにはいられず、比奈菜に至っては携帯で店内を撮りまくる有様だ。

 そして雫先輩は人生初のビール、俺達はジュース(ノンアルコールビールは未成年でも駄目らしい)で乾杯、それから飲んで食べてが始まったんだけど……


「……うううううう、……恥の多い生涯を送って来ました」


 グラス1杯で雫先輩が轟沈、人間失格の烙印を押し始めちゃいました。


「雫先輩、これ以上飲むのは止めた方が」

「……大丈夫、新潟はお米の宝庫で、遺伝子レベルで新潟県民はお酒に強いの。……私のお父さんもお酒大好きで、翌朝はいつも全裸で転がっていたから」

「それ全然強くないよね!?」


 雫先輩の故郷は新潟だけど音霧家のお酒耐性は0、なのに飲む手は止まらずにチビチビと飲み続けた結果がこの愚痴っぽい泣き上戸だ。これ以上のビール追加はヤバそうだから、今後はノンアルコールビールにすり替えないと。


「お兄ちゃ~ん、このモツ煮、食べてみたいな~」

「好きにしろ」

「やった~、お兄ちゃん愛してる!!」


 そして比奈菜は居酒屋メニューに興味津々で、あれこれ注文して食べまくりながら一緒に雫先輩の愚痴を聞き続けている所である。


「……もう20歳なのに彼氏いないし、いた事もない。……きっとこのまま年を重ねて、ずーーっと1人で寂しく生きていくしか」

「大丈夫だよ雫ちゃん、お兄ちゃんも童貞だから」

「何がどう大丈夫なんだよ!? だけど雫先輩、焦って好きでもない男と付き合うのは駄目ですよ。それに20歳なら全然手遅れじゃないですから」

「……だけど同い年の鈴芽ちゃんは彼氏どころか結婚済みで、赤ちゃんまで」

「いや、あれはレアケースという事で」

「お兄ちゃん、鈴芽ちゃんって誰?」


 比奈菜の反応を受け、勝手にスマホに送信されてくる赤ちゃん写真を見せてみると、


「うっわ~、超可愛い! ぷにぷにっぽくて抱いてみた~い。いいなぁ~」


 いや確かに超可愛いけど、絶賛するほど横の雫先輩が涙目追い打ちになってるからやめたげて!


「……家族に無理を言って都会の大学に来たけど、勉強とアルバイトに明け暮れるだけの日々、……将来の夢も未定で、ダメダメの駄目人間だよ」

「いやいや! 俺も未定だから全然大丈夫です。アルバイトも絶対イイ経験になってますって! それに雫先輩がずっと居てくれたからカツカツのお化け屋敷も上手く回っ、あっ…」


 やばっ、言葉のチョイスを間違えた。

 比奈菜もジト目で呆れていて、女子との会話経験の少なさが露呈しまくりだよ。

 そして雫先輩のテンションは更に低下、憂鬱な表情と共に言葉を溢し始める。


「……夕護君の言う通り、アルバイトはとってもイイ経験になってるね。……時給は安いけど、いい人ばかりだからね。……………けど去年の夏休み最終日から、おかしくなっちゃったなぁ」


 あれ? そういえば前にもこんな話あったな。

 今のお化け屋敷は人が少ないらしいが、やっぱり原因があるのか?


「お兄ちゃん、何かあったの?」

「いや、それは俺も知らない」


 そうして雫先輩を見たら目を逸らされてしまい、喋りたくないらしい。

 それと同時に比奈菜が俺にアイコンタクトを出してきて、その返事は勿論OKだ。


「じゃあ飲みましょう。今日は雫先輩の誕生日ですから」


 そう言って俺はグラスにビール(ノンアルコール)を注ぎ、比奈菜は雫先輩の隣席からベッタリ密着という構図になる。


「雫ちゃ~ん、言えば楽になる事ってあるよね?」

「……う、うん。……そうだね」

「それに比奈菜とお兄ちゃんは部外者じゃないから、話しても大丈夫だよ~」

「……で、でも」

「それとも雫ちゃんは比奈菜を仲間外れにするの? 比奈菜は今日でバイト辞めちゃうから、もうこれっきりなの?」


 目を潤ませながらの上目遣いで雫先輩に迫り、女に免疫がない野郎でも気付けそうな大根演技なのだが、雫先輩が目に見えて動揺している。

 アルコールは判断力を鈍らせると聞いているが、ここまでとは。


「……そ、そんな事ないよ。比奈菜ちゃんさえ良ければ、今後もお友達でいいよ」

「ほんとに? わ~い、雫ちゃん愛してる!! じゃあ教えて。お願~い」

「……………誰にも言わない?」

「勿論っ!!」

「……………じゃあ、話すね」


 ちょろい! 雫先輩ちょろ過ぎだよ!!

 お酒飲ませて土下座したら何でもしてくれそうなレベルじゃん!!

 素面に戻ったら注意してあげようと決めてから、雫先輩がゆっくりと語り始める。


「……去年の夏休み最終日、親子連れがお化け屋敷に来たんだけど、父親と逸れた子供が階段で怪我をしちゃったの。……私達はすぐパーク内の医務室に移動させたんだけど、父親が激怒しちゃって」

「えー、それって子供と逸れた父親にも責任あるよね?」

「いやいや比奈菜、そういう指摘は言いたくても言えないんだよ」

「……うん。だから父親の激昂は止まらず、責任者の根津主任に何時間も罵声を浴びせ続けたの。……怪我も軽い捻挫ですんだのに」


 うわぁ、これは主任が可哀相だ。

 クレーマーに正論言っても火に油だし、こちらに少しでも落ち度があれば、奴らは執拗に責め続けてくる。自分にも落ち度があったとしてもだ。


「……最後は『訴えてやる!』と、物凄い形相で立ち去っていったの。……その後に訴えられたかは分からないけど、お化け屋敷の2階が使用禁止、バイトの半数が解雇。それからの待遇も悪くなって今に至るの」


 俺はまだ遭遇してないけど、やっぱりそういう客も居るのか。下手に揉めて大事は避けたいし、何よりもクレーマーとの会話は非常に面倒臭さそうだから、もう天災と割り切って適当に流して謝り倒すのが一番楽な気がする。

 きっとこれが接客業の悪循環で、闇なんだろうなぁ。


「2階なんてあったんだ。お兄ちゃん知ってた?」

「いや全く、上はてっきりハリボテかと」


 確かに2階があって然るべき高さの建物だけど、気にするタイミングなかったな。

 だけどこれで事情は分かった。

 つまりこのお化け屋敷は、過去の問題が払拭できてないのだ。

 トラブルは仕方ないにしても、その後の対応が駄目だ。

 2階の閉鎖だって、ずっと続ける必要あるのか?

 だがこの辺は事情が分からなければ意見できず、しかもバイトという身分じゃ踏み込めない領域だから完全にお手上げだ。


 そう思いながらも流石にこれ以上のしんみりムードは駄目なのでどう話題を変えようかと思案していたら、目が虚ろになっている雫先輩が、服を脱ぎ始めたのだ。

雪女の起源は室町時代の越後国(新潟県)らしいです。

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