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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
chapter 4
17/35

16話 誕生日

「このお化け屋敷は8月末に閉鎖、取り壊しとなりました」


 GW最終日の夜、バイトが終わって打ち上げムードだった時に根津主任が現れ、何の脈絡もなく言い放たれた宣告にメイク室内が一瞬で沈黙してしまった。


「このお化け屋敷はもう古い。だから潰して新施設を作る事になりました。皆さん今までお疲れ様でした」


 と、サラッと重大発表をしてサッサと帰ろうとした根津主任に、バイトリーダーの野土さんが慌てて声をあげる。


「ちょっ、ちょっと待ちなさい! そんなの聞いてないわよ!」

「当然です。今話しましたから」

「そーいう事言ってんじゃないわよ! 改装はどうなったの!?」

「中止です。夏は有り合わせで凌ぎます。大丈夫、閉店セールと告知すれば『じゃあ最後に』という心理でお客が来ますから」

「そーいう屁理屈じゃなくて、何で取り壊しなの!?」

「こういった事は得てして早急に決まるものです。ですが予兆ならずっと前からあったと思うのですが?」

「うっ、それは……」


 この指摘に野土さんが押し黙る。

 GWなのにイベントなし・増えない人員・カツカツな現場、みんな口には出さなかったけど、このお化け屋敷はもう長くない。

 そんな空気は、確かにあったのだ。


「売り上げが振るわなければ淘汰される。これは世の常です。それに正社員ならまだしも、あなた達アルバイトに口出しする権利はありません」

「っ!! ……………っ」


 確かにその通りだけど、あんまりな物言いだ。

 そのたかがバイト達の働きで成り立ってきたお化け屋敷なのに、これじゃ長年勤めていた野土さんが報われない。今も何か訴えたいのに言い返せずで、物凄い形相になっている。


「兎に角、GWのお勤めご苦労様でした。労いの意味も込めて明日は特別に臨時休業にします。有り難く思って下さい。尤も、長期連休明けの平日に営業した所で利益が出るか怪しいですからね」


 そんな有り難み皆無な労いの言葉を吐き捨てながら、根津主任が退場していった。

 なおその後、自然とアルバイト主婦が固まってから、



「何あれ?何様のつもり?」「全く策を講じなかった主任が一番の戦犯でしょうが」「あの変な見下し敬語どうにかならないの?」「相変わらず視線が明後日のままね」「あのスーツにスニーカーって、ほんとクソダサファッションリーダーね」「最低、最も低い」



 ドス黒い愚痴合戦が始まってしまい、それ以外は戦々恐々とメイク室の片隅に退避という最悪ムード変貌。そして縮こまったドラキュラが自分の衣装を見ながら呟いてくる。


「閉鎖になったら衣装どうしよう? お化けの大道芸人で売り出し中なのに、今更普通の格好に戻るのも…」


 この意見にミイラ男も沈黙。

 風雷コンビにとって大道芸でお化け屋敷の衣装が使えるのは強みであり、使えなくなるのは大きな痛手だろう。

 そんなしょぼくれた背中に、落ち武者がドラキュラの背中を撫でる。


「なぁに、貰えばええじゃろ。取り壊しなら衣装も捨てられる運命じゃ。だったら今後もお前さん達が使えばいい。その方が衣装も嬉しかろうて」


 この励ましにドラキュラの顔に生気が戻る。


「そうですね。じゃあ後日、根津主任にお願いしてみます」

「ほっほっほっ、ついでに坊主もどうじゃ? 大人になった時、その河童で会社の忘年会に出れば大ウケ間違いなしじゃぞ」

「えぇ、それって忘年されずに一生語り継がれませんか?」

「比奈菜もサキュバス欲しい~」

「ほっほっほっ、じゃあ儂も落ち武者を貰おうかの。別嬪さんもどうじゃ?」

「………………………………………」


 雪女からは何の反応もない。

 余程ショックだったのか、ただただ惚けている感じだ。

 そして主婦グループ内で黙り続けていた野土さんは何も喋らずに帰り支度を開始、いつもなら必ず行っていた今後のシフト確認もせずに立ち去ってしまった。


 終わった。


 もうお化け屋敷の閉鎖は覆せない。

 誰もがその現実を肌で感じ、どうしようもない諦めムードが蔓延する中、明智さんが皆の前に出る。


「皆の衆、お疲れ様じゃ。本来ならリーダーが労う筈じゃが、お疲れ様じゃ。主任の言う通り明日は休もう。あと残念じゃが、この後に予定していた打ち上げは中止じゃ」


 この言葉に誰1人として賛成も反対もせずに静かに受け入れた後、そのまま散り散りに解散という流れになったが、俺と比奈菜だけは落ち込んだ雫先輩の帰り支度を待つ事にした。


 心配だったから。



   ◇   ◇   ◇



 去年まではGWを楽しむ側だったのに今年は楽しませる側に立場逆転、そして無数にあるGWイベントの中から山桜グリーンキャッスルを選んでくれた人達が大勢いて、今も閉園間近になったこの場所を満足気な様子で帰路に着いている。

 そんな光景が不思議なものに見えて、フワフワな気分だ。

 お化け屋敷には何もイベント無かったけど、それでも多くの人が訪れてくれて、常連のぬらじいも毎日驚かせて、そんな日々がそれなりに続くと思っていたけど、3ヶ月後の夏休みで終了か……

 親父にハメられてのバイトだったのになぁ。

 そんな感傷に浸りながら日が落ちて暗くなった夜道を3人で歩いている所だ。


「あ~あ、折角の初バイトだったのに残念な終わりになっちゃったな~」

「悪いな比奈菜、後味悪くなっちゃって」

「お兄ちゃんのせいじゃないよ。全部あのネズミ男が悪い」

「ネズミ男って、根津主任のことか?」

「そうそう、だけど打ち上げしたかったな~、居酒屋行ってみたかったのに~」

「まぁ、あんなムードになっちゃったからな」


 会社倒産・リストラ宣告後の飲み会なんて、どう足掻いてもお通夜だ。

 それにバイトとはいえ20年以上勤め続けた野土さんにとっては相当ショックだったに違いない。

 バイト歴1ヶ月ちょいの俺には分からない程に。


「雫ちゃ~ん、元気出して~」

「…………………………うん」


 雫先輩のバイト歴は1年。

 大袈裟な気もするけど思い入れは人それぞれで、ココは変な口出しをせず、最後に励ましの言葉を伝えて別れるのが大人の対応だろう。

 こういう所に気付ける様になって、俺も成長したなぁ。

 そう思っていたのに、比奈菜が予想外の質問を出してきたのだ。



「雫ちゃん、もしかして今日が誕生日?」



「っ!! ……どう、して?」

「ええっ! マジですか!!」


 すぐに雫先輩が否定したけど、もう遅い。

 雫先輩は大学2年の19歳だから、今日が記念すべき20歳の誕生日らしい。


「比奈菜、何で分かった!?」

「メアドにそう書いてあったから」


 この指摘に慌てて雫先輩のアドレスを確認すると、GW最終日である〝0505〟羅列が含まれていたのだ。


「お兄ちゃんは鈍いなぁ。女の子はこういうさり気な~いサインでアピールなのに」

「うぐぅ……」


 畜生、何も言い返せない。

 気付いていればプレゼント用意したのに。


「……えっと、今日はアルバイトで打ち上げ予定もあって、皆で飲み会ができるなら、……それでいいかなって」


 この寂しそうな作り笑顔が全ての答えだった。

 謙虚で自己主張をしない雫先輩に誕生日アピールは無理で、だけどバイト打ち上げがあるのなら、それで満足だったのだろう。

 なのにお化け屋敷閉鎖・打ち上げ中止という最悪展開で、だからこそ今日が誕生日だなんて言える訳がない。言った所で追い打ちになるだけで、強行開催しても辛い思い出になるだけだ。

 だけど今日は雫先輩にとって記念すべき20歳の誕生日なのに、このまま今日が終わるのはあまりにも不憫だ。下手すれば今後の誕生日も今日の思い出がフラッシュバック、もう心から誕生日を楽しめなくなる可能性もある。


 だったら。


「祝おう雫ちゃん! 3人だけでも! こんな寂しい誕生日は駄目っ!!」


 比奈菜がそう叫んで雫先輩が驚いているけど、俺だって同じ気持ちだ。

 それに知ってしまった以上、ここで何もせずに帰れる訳がない。


「これから駅前の居酒屋に行くぞ! 比奈菜は携帯で家に連絡!」

「らじゃーっ!」

「……えっ? ええっ!?」


 動揺する雫先輩を我ら兄妹が両サイドからガッチリホールド、逃げられない様にしながらの強制連行となった。

 比奈菜がいてくれて本当に良かった。

 俺だけじゃ誕生日に気付けなかったし、こういう明るくて強引な所、救われるなぁ。


「……でも、居酒屋は結構お金が、……それに2人は未成年」

「だいじょーーぶっ! 私達はノンアルコール飲むから! それにお兄ちゃんの奢りだから問題なし!!」

「えっ、マジで?」


 つい反射でそう呟いたら、死角から比奈菜にガチ蹴りされちゃいました。

 くうっ、痛い。

 ついでに痛手だけど、払うしかない。

 そう覚悟を決めてから、人生初の居酒屋入店となりました。

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