13話 アルバイトの条件
「川葉比奈菜です! そこのお兄ちゃんの妹で、15歳の学生です!」
緊張なんて微塵も感じさせないハキハキした声で深々と礼をする。
「注意事項は全部教えましたし、俺もフォローします。どうでしょうか?」
「宜しくお願いします!」
このやる気全開な姿勢に現場リーダーの判定は。
「即戦力じゃない! 川葉君の妹なら信用できるし、私はOKよ」
「社会勉強とは感心々々。若い子がいればやる気も出るし、儂も大歓迎じゃ」
よし、上々の反応。
やっぱり可愛いは正義で役得だな。
「それにしても小さくて可愛い子ね。小6の私の息子より低いじゃない」
「15という事は、嬢ちゃんは高1か?」
という血塗れナース・落ち武者の言葉に。
「はい、15歳の学生です!」
という満面のゴリ押し笑顔回答に、2人の表情に疑問符が出現する。
「いや、高1……」
「はい、15歳の学生です!」
「「…………………」」
その質問にはこの回答しか返しませんという姿勢に、2人が顔を見合わせる。
「確かにアルバイトの年齢制限は15歳だけど」
「そういえば坊主、初のバイト代が妹の誕生日プレゼントで消し飛んだと先週愚痴っとらんかったか?」
2人がそう呟いてから俺に視線が集中する。
あー、やっぱりバレちゃったか。
だがこれは想定内で、無理を承知で連れてきたんだ。
このまま引き下がる訳にはいかない。
「ここで2人に質問ですが、どうしてアルバイトが高1からかご存知ですか?」
「労働基準法ってルールがあるからでしょう」
「子供は学業優先じゃ」
「その通りです。ですが何事にも例外はあります。例えばテレビドラマの子役は15歳以下でもOKですよね?」
「まぁ、確かに役者は例外だけど……」
「比奈菜にはお化けという役者を演じてもらいます。つまりこの労働は役者と捉える事もできるので、ギリギリセーフですっ!!」
清々しいまでの暴論に2人を唖然とさせちゃいました。
すみません自分から言っておいて何ですが無理は重々承知です。
それから気まずい沈黙が続いた後、血塗れナースがヤレヤレって感じの溜息を出してくる。
「物は言い様ね。無茶苦茶過ぎて感心しちゃったわ。バレたらどうするの?」
「大丈夫です。お化け屋敷内なら絶対にバレません!」
変装した人間の年齢なんて見破れる訳がない。
精々背の低い子って思うだけだろう。
「勉強の方は大丈夫か?」
「勿論です。それにGWだけの短期なら学校も休みなので支障もありません!」
ルール的にはアウトでも、アウトになる理由は全て潰した。
この言い分に2人も悩んでいるし、もうひと押しだ。
「ちゃんと親のOKも貰ってますし、人事部の面接も通過、履歴書も提出済みです。何かあれば責任は全て俺が負いますので、黙認していただけないでしょうか」
「お願いします!」
兄妹そろって頭を下げ、やれる事はやり尽くした。
これで駄目なら仕方ないという思いで反応を待っていると。
「ま、いいんじゃない?」
という血塗れナースの一言に兄妹揃って顔を上げる。
「それに人手不足で猫の手も借りたい状況だし、文句言ってられないわ」
「ほっほっほっ、若者の無茶を見守るのも大人の務めじゃ。それに猫より女子中学生の手の方が儂は好きじゃよ」
「「ありがとうございます!」」
ふぅ、どうにか乗り切った。
因みにこれは、全てシスコン糞親父の陰謀である。
事の発端は昨日の夜、私もお化け屋敷でバイトしたい~って比奈菜が駄々を捏ね、親父が許可したらと適当にあしらったら、まさかのOKが出たのである。そしてバイト面接・履歴書は親父が職権乱用で誤魔化し、現場はお前の口車で押し切れと、さっきの言い訳を俺に伝授させるという、子供のお願いを全力で叶える素晴らしい父親だ。なお、もしバレたら社会勉強という名目で無給にすればOK。そして比奈菜の働き分は俺のバイト代から天引きという、どう転んでも俺だけが損をする完璧な糞シナリオである。
あのシスコン糞親父め、バレたら全部白状して責任ブン投げてやるからな。
そう心に誓ってから、臨時収入イェ~イと浮かれる比奈菜を捕まえる。
「じゃあ俺が指導するから、ちゃんと言う事きけよ」
「えー、折角だからお兄ちゃん以外から教わりた~い」
「をい、ただでさえ迷惑かけるんだから我が儘言うな」
「やー、河童じゃやる気出ないー」
このやろう。
そのあざと可愛いさが社会じゃ通用しないって事を教えてやろうとしたら。
「まぁまぁ、兄妹だと緊張緩みそうだし、他の人の方が社会勉強にもなるでしょ。だから川葉君は影でフォローという事で」
「まぁ、野土さんがそう言うなら」
「ほっほっほっ、じゃあこの爺が教えて」
ガシッ
「なんじゃ小僧、ワシが信用できんのか?」
「いやらしく手をワキワキさせながら妹に迫る落ち武者をどう信用しろと?」
「心配するな。これはジョークで実際は愛でるだけじゃ。成長中の孫と今後どう接するかの予行練習をするだけじゃって」
まぁ実際手を出すとは思えないし、明智さんなりに比奈菜の緊張を解そうとしているのだろう。
そして当の本人はというと。
「お孫さんって何歳ですか?」
「10歳の女の子じゃ。嬢ちゃんも中々じゃが、儂の孫の方が可愛いぞ」
「またまた~、比奈菜の方が可愛いですって~」
即行で打ち解け済みで、もっと緊張しろって言いたい程だよ。
だけど明智さんなら任せても大丈夫そうだし、あとはGWのシフト表と睨めっこ中の野土さんの返答待ちだが、
「んー、でも妹さんも川葉君と同じく出ずっぱりなら、他にも教育係がほしいわ」
「確かにその方が色々教えられますからね」
けどシフト表を見る限り殆どが疎ら出勤で、教育を任せるのは都合が悪い。
雫先輩も出ずっぱりだけど大学課題があるのにフル出勤にしてくれた経緯があるので、野土さんもこれ以上の負担はかけたくないらしい。
「だったら風雷コンビはどうじゃ?」
「あー、それいいわね。あいつらならGW中ずっとパークにいる筈だし」
落ち武者の提案に血塗れナースが同意、これでGWを乗り切る算段が整ったな。
「お兄ちゃん、風雷コンビって誰?」
「んー、いつも通りならそろそろ戻ってくる筈だけど……」
比奈菜の疑問に俺が答えた後、丁度よくメイク室の扉が開いた。
「皆さん、おはようございます」
「おはようさん!」
この馬鹿丁寧&威勢のいい挨拶はいつも通りだが、初めての比奈菜だけが驚きと共に駆け寄る。
「おおっ! イケメンドラキュラとマッチョ包帯男だ!」
この言葉通り、真っ黒な夜会服にマントを羽織ったドラキュラが登場。
長身のほっそり体型・整った顔立ちに目を引かれる女子は数知れずで、吸血鬼よりインキュバスと評した方が適切な容姿だ。なお顔色が悪くて病弱に見えるのは、貧血体質だそうだ。そして包帯男はドラキュラよりも高い長身、更には包帯の上からでも丸分かりな鍛え抜かれた筋肉と相俟って、絶大な存在感を醸し出している。
「おっ? もしかして新人さんか?」
包帯男がそう尋ねると、怖がる様子もなく比奈菜が駆け寄っていく。
「川葉比奈菜といいます! そこの冴えないお兄ちゃんの妹でGWだけの助っ人です! って、お兄ちゃん何でチョップするかな?」
「冴えないは余計だっつーの。比奈菜、この人達がさっき話した風雷コンビだ」
「ほんとに! じゃあこれから宜しくお願います‼」
礼儀正しく頭を下げる比奈菜に、2人も条件反射で礼を返した後、
「すみません野土さん。状況がよく分からないのですが」
「言葉通りこの子は貴重な助っ人で、あんらに教育係を任せたいんだけど」
ドラキュラの疑問に血塗れナースが答え、今までの経緯を説明すると、
「分かりました。僕らで宜しければ面倒を見させていただきます」
「宜しくな! えっと、川葉さんって呼べばいいか?」
「比奈菜でいいです!」
とても丁寧で礼儀正しいドラキュラと豪快で気さくな包帯男に、比奈菜が笑顔で応える。
「じゃあ宜しくね、比奈菜ちゃん。僕は早風といいます」
「俺は雷山だ。頼りにしてるぜ‼」
そんな自己紹介が終わると、ドラキュラが血塗れナースの方を向いて。
「あと野土さん、予想以上に仲間が集まってくれたので僕達のシフトを増やしても大丈夫ですけど」
この提案に血塗れナースが首を横に振ってくる。
「夢を追い駆ける若者はそんな気遣い無用よ。シフト調整はするけど、あんたらは本業に専念なさい」
「すみません、気を使っていただいて」
そんなやり取りを見て比奈菜が尋ねてくる。
「お兄ちゃん、本業って何? あと夢って?」
「あの2人にとってお化け屋敷バイトは副業で、本業は大道芸人なんだよ」
あじゅい。超暑いです。




