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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
chapter 3
13/35

12話 落ち武者と血塗れナース

 雫先輩の標準語マスターという使命を課せられたが、お互い学生なので平日は会えず、さりとて休日は共にバイト三昧なので会う頻度は前と全く変わらずな有様だ。


 それにバイトを始めて時間の大切さを思い知ったのだ。

 勉強をしなければ成績が落ちる。

 これは逃れられない現実だ。


 だからこそ文武両道ならぬ文バ両道を成立させるべく時間を計画的に使う様になってからはダラダラするだけの時間は消失。これはバイトを言い訳に成績悪化は格好悪いという意地で、しかも自由時間激減という焦りから結果的に以前よりも集中して勉強できる様になり、比奈菜から「捻くれお兄ちゃん」と笑われた程だ。


 そんな現状に鈴芽ちゃんから苦情殺到、さりとて雫先輩も大学レポートがある訳で、悩んだ末にファミレスで一緒に勉強をしてみたのだが、鈴芽ちゃんからの苦情は治まりませんでした。だがJDがすぐ傍で勉強しているって絵はポイントが高く、勉強の合間に一緒に一服したり、ちょっと雑談したり、勉強を教えてもらったりな時間は居心地が良く、この条件なら一生勉強が続けられると思った程だ。それにGW後はお化け屋敷は改装で強制休暇らしいし、その時に遊べばいいよね?



   ◇  ◇   ◇



「おはようございまー……って、これだけですか?」


 GW初日の朝、パーク内は既にスタートした朝市に主婦が殺到、他もイベント目白押しなのだが、お化け屋敷だけが一切変わらずの平常運転。GWの盛り上がりに加われない除け者状態で、オマケに人手不足という有様だ。そんなどんよりムードのメイク室で、落ち武者衣装に着替え終わった明智(あけち)さんが声を掛けてきた。


「すまんな坊主。学生なのに出ずっぱりで勉強は大丈夫か?」

「大丈夫です。それに明智さんもシフト多めですよね。体はもう平気ですか?」

「なぁに見ての通り腰は完治した。息子もGWは戻ってこんし、だったら小遣い稼ぎせんとな」


 そう笑ってみせた明智さんは60過ぎのおじさんで、数年前まで大工一筋だったけど怪我で入院した後に退職。子育てが終わって蓄えもあるから今後はバイトでまったり働きながら余生を楽しむ事にしたそうだ。


「だけど無理は厳禁ですよ。春休みは急に倒れて、お化け屋敷に救急車が来ちゃったんですから」



「ああ、ちょっと休めば治まると言ったのに心配した客が119番、落ち武者姿のまま担架に乗せられて救急車に搬送された時は、60年生きた人生で一番恥ずかしかったよ」


「あの時はアトラクションと勘違いされて凄い人集りでしたね。しかもネット拡散までして〝落ち武者、救急車に搬送される〟って話題にもなって……、ぶふっ」



「笑わんでくれ。あれで駆け付けた息子夫婦は爆笑、飲み仲間からもネタにされ、明智なのに落ち武者かと言われたりで散々じゃったよ」


 そう愚痴りながらもお道化てみせる人柄なので人望は厚く、バイトでも副リーダーを任されている。

 そしてリーダーはというと。



「はいはい、雑談は着替えながらにして頂戴。今日は音霧さんも来てくれるからギリギリ回せるわ。大丈夫、何とかなる!」



 威勢のイイ声で激励してきた血塗れナースが、リーダーの野土(のづち)さん。貫録のある体型の主婦で、バイトも10代から続けている大ベテランだが、子供が5人もいて、産休と復帰を繰り返し続けた歴戦の子育てママである。


「了解です。あと野土さん、GWは新規客も多いのでその格好のままフードコートは止めて下さいよ。血塗れナースのドカ食い姿は衝撃的ですから」


 河童衣装を持ち出しなからツッコミを入れたのだが、当の本人は豪快な笑い飛ばしてくる。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ! むしろ珍しがって写真撮ってくるから! お化け屋敷の宣伝になってるわよ。大体、最近の若い子は食べなさ過ぎだって。もっと食べなきゃ成長しないわよ!」


 いやー、野土さんは成長し過ぎて横に膨らんじゃってますけど?


 お化け衣装の着用・メイクは時間が掛かるので、食事は菓子パン等でサッと屋敷内で済ます人が殆どだが、野土さんだけが堂々とそのままの格好で外食、フードコートの皆様も説得を諦めて「ゾンビ衣装で来るのだけは勘弁」と言ってくるだけだ。


 大喰らいな妖怪に()(づち)っていうのが居るけど、野土さんはその末裔なのではと疑ってしまうレベルだ。

 そんな雑談をしながら河童スーツ・甲羅の着用完了。

 あとはマスクを被るだけだ。

 メイク室内には更衣室あるけど男子は殆ど使っておらず、一部女子もその場で着替えたりしている。

 尤も女性の殆どが主婦で、若い女性は雫先輩くらいという有様ですけどね。


「今日は野土さんだけですけど、他の主婦の皆さんは駄目だったんですか?」

「ええ、半分以上がアウト。駄目元で鈴芽ちゃんにも連絡したけど、GWは親戚一同が赤ちゃん拝みに押しかけて無理だそうよ」

「あー、それは仕方ないですね」


 子守りをしながらの来客対応となれば、鈴芽ちゃんの気が休まる時間は1秒もないだろう。


「主婦業は仕事より楽かもだけど、やるべき事がテンコ盛りよ。特に子育てはね。だからこそリフレッシュが必要なの。だから出ずっぱりの川葉君・音霧さんには感謝してるわ。GW明けたら旅行土産プレゼントするからね」


 年下相手に気を使い過ぎな気もするけど、こういう好意には遠慮せずにお礼を言っておくべきだろう。


「けど皆さん、人手不足でも堂々と休み取るんですね」


 普通なら遠慮して休み辛いだろうに。

 そんな疑問に血塗れナースがしたり顔になる。


「そりゃそうよ。所詮はバイトじゃない。現場がどうなろうと、続ける・辞めるは自分第一でいいの。責任云々は上の管轄よ」


 おおう、見事に言い切った。

 ここまで正直だと清々しいとさえ感じてしまう。


「なんだ坊主、もしかして休みたいのか? 1日なら儂が変わってもいいぞ」


 落ち武者からの申し出に、思わず首を横に振る。


「いえいえ今更休むなんて言いません。GWはガッツリ稼がせて頂きます」

「それなら構わんが、今は馬鹿正直に従っても損するだけの時代じゃ。出ずっぱりなのは助かるが、無理は駄目だぞ」

「了解です。……因みにGWの増員って、結局どうなったんですか?」


 この問いに重い溜息だけが返ってきたので、駄目だったのだろう。


「主任からは何の連絡もないわ。期待してなかったけど」

「最近加わったのは坊主だけで、本当に募集したのか怪しいくらいじゃよ」


 俺も期待してなかったけど、好都合だ。

 なので大きく深呼吸をしてから、



「あの、実は社会勉強したいからGWだけ働きたいって奴が急に見つかって、ぶっつけ本番になりますけど、いいですか? もう外で待たせてるんですけど」



 自分からの紹介って責任感じるなぁ。

 もしそいつが役立たず・即辞めたりなんて事になれば、紹介した側としては気まずい事この上ない。

 緊張で喋りが早口になっちゃったけど、声が裏返らなかったのは僥倖だろう。

 そしてこの提案に2人の反応は、


「本当に⁉ 大歓迎よ‼」

「そりゃ有難い。是非会わせてくれ」


 ふぅ、まずは好印象で何よりだ。


「じゃあ紹介しますね。おーい、入っていいぞ」


 大声でそう言うとの同時にメイク室の扉が開き、出てきたのは…

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