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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
chapter 2
12/35

11話 先輩の後押し

「新人君、驚き過ぎー」


「いや、だって若過ぎでしょ! 鈴芽ちゃんっていくつなんですか!?」

「雫ちゃんと同じ19歳。高校卒業と同時に籍入れて、苗字も変わりましたー」


 こんなにちっちゃいのに人妻なのか。比奈菜と並べたら同級生って言われても違和感0の容姿なのに、音霧先輩と同い年だなんて全然信じられない。


「別に不思議でも何でもないよー。クラスに1・2人はちっちゃい子がいて、高校卒業と同時に結婚する子もいる。それが私だっただけだよ。それに新人君も2年後にはパパになる可能性だって0じゃないよー」

「それは、そうですけど……………」


 凄まじい現実を突き付けられてしまった。自分は16歳で、そろそろ大人になる準備しないとなーとは思っていたけど、これはもう真面目に考えないと駄目だな。てゆーか俺がパパになれるなら、さっき会った岩田さんに佐久夜さん、そして神岸も2年後からママになれる訳で、その時は大人の階段を……


 いや、やめておこう。

 これ以上は変な想像しちゃいそうだから。


「じゃあ鈴芽ちゃんがバイトを辞めたのは産休だったんですね」

「そだよー。ほんとは夏休み終盤まで続けたかったけど、GW頃からお腹が膨れちゃってねー。お化け屋敷内は寒くて妊婦に悪い、何かあったら困るから辞めろって追い出されちゃったんだよ。酷くない?」

「いや、えっと……。ごめんなさい、よく分かんないです」

「あとさー。妊娠が超辛いのは知ってたけど、出産後のお腹大惨事は想定外だったよ。赤子が出た後のお腹がもうぶっかぶかのガバガバで、だから元通りにしたくて超頑張ったんだよ。そしてその成果がこれ!」


 バサッ!!(丸見え)


「ぶほっ! 不意打ちでコート開かないで! ってまさか引っ込めたお腹を見せびらかす為に口裂け痴女になったの?」

「その通り! まだ10代だし、頑張って頑張って超頑張った成果を自慢したくなるのは世の常だよ! 因みに変装は久々にやりたかっただけ」

「その頑張り自慢は旦那だけにして下さい!」

「えー、でもでもイイ体だったよね? まだ制服プレイもセーフだよね?」

「知らんがな!!」


 出産したとはいえ、やっぱり10代だなぁ。

 ノリが幼いというか、学校の先輩と話している気分だ。

 だけど女子からの下ネタは扱いが難しい訳で、ここは同性に任せるべく奥で縮こまっている雪女に駆け寄る。


「音霧先輩、さっきは俺の勘違いですみませんでした。機嫌直して下さい」


 ううっ、振り向いてはくれたけど無言である。

 謝罪不足ならいくらでも謝るけど、音霧先輩の場合、これ以上の謝罪は変に気負っちゃう可能性もあるし、どうしたら……。

 という具合に悩んでいたら、口裂け女がこちらに駆け寄ってから、



「きゃっ! ちょ、やっ……、ああんっ」



 縮こまっていた雪女に口裂け女が飛び乗り、しかも全力で胸を揉みしだくという暴挙に雪女が為す術もなく喘ぎ声をあげている。

 何してんのこの痴女!


「やっぱり雫ちゃんは大きいね。私も妊娠で一時的に巨乳になったけど、すーぐ萎んじゃってさー。ほんと裏山、羨ましい限りだよ」

「だからって音霧先輩の胸に八つ当たりは駄目でしょ!」

「あー、信じてないね新人君! ほんとにちょっと前まで巨乳だったんだよ! ちゃんと証拠写真もスマホに残してあるあるだから、確認して…」



「駄目! おんなもんが、はしたにゃーだっちゃ!」



 突然の怒鳴り声に河童と口裂け女が沈黙したが、雪女の方は激しく動揺しだして、


「……いや、今のは違う。……………うわーん」


 また部屋の片隅に引っ込んじゃったけど、音霧先輩は全然悪くないよね?

 あとさっきの言葉も訛ってはいたけど〝女の子なのにはしたない〟って意味かな?


「雫ちゃん、やっぱり無理してる。我慢して標準語を話す必要なんてないよ。方言の雫ちゃんも可愛いよ」


 まり音霧先輩が片言口調なのは、慣れない標準語に悪戦苦闘で、方言コンプレックスが原因らしい。


「……でも、大学で私が喋ると笑われて、だから直さないと」

「それは方言が珍しいだけで、最初だけだよ。何度も言ったけど、気にしちゃ駄目駄目だよ」

「……でも、……だけど」


 俺は都会育ちだから分からないけど、地方民にとっては深刻な悩みらしい。方言を馬鹿にした事なんてないけど、冗談でも傷付く人がいるのか。憶えてお…って痛い痛い! 俺の脇腹を口裂け女が小突き、満面の口裂けスマイルを向けてからの。



「新人君も、変って思わないよね? よね?」



 こ、こええ。

 ここで間違えたら鈴芽ちゃんがガチの口裂け女に変貌するだろう。

 だから馬鹿にする気なんかサラサラないって事を、ちゃんと伝えなければ。


「音霧先輩、俺も最初はビックリしましたけど、それだけです。絶対に笑ったりなんてしませんから」

「……………本当に?」

「勿論です。むしろ出身地の名物・観光地について教えてほしいです」

「……………そう、なんだ」


 うーん、納得してくれた様だが、まだ弱い。

 それに口裂け女からの脇腹小突きが収まらないし、もうちょっと踏み込もう。



「音霧先輩はどうして標準語をマスターしたいんです? 恥ずかしいって理由だけですか?」



 極論だけど、恥ずかしいだけなら人を避ければいい。

 だけど音霧先輩は一生懸命って感じで、それだけが理由とは思えない。


「……………笑わない?」

「笑いません。てゆーかココで笑ったら、横にいる口裂け女に殺されます」

「……ふふっ、そっか」


 音霧先輩が小さく笑ってくれてから、理由を教えてくれたのだ。



「……全然上手くいってないけど都会に来た以上、やっぱりココで上手くやっていきたい。……郷に入っては郷に従えで、ちゃんと方言と標準語を使い分けられる様になりたいの。これは偽らざる本心だよ。……そうすれば鈴芽ちゃんとの会話も今以上に楽しくなるし、川葉君の指導も上手くいく筈だから」



 それは本当にささやかで、切実な願いだった。

 本当に音霧先輩は真面目で、優しくて、不器用な人だ。


「じゃあ…」

「雫ちゃーーーーーーーーーーーーーーーん」


 あれー、俺の台詞が終わる前に鈴芽ちゃんが抱き付いちゃったよ。

 途中だったのにもう俺の役目終了じゃん。


「ごめんね。私そこまで理解してなかった! 駄目駄目だね!」

「……そんな事ない。大学と同時に始めたバイトで鈴芽ちゃんとは一ヶ月しか一緒じゃなかったのに、友達になってくれてありがとう。……それに今日も、会いに来てくれてありがとう」

「そんなの当然で当たり前だよ! 私達ズッ友だよ!」


 しかも感動劇まで始まっちゃったから、もう俺は退場した方がいいのかな?

 元々雪山に河童はおかしい訳で、ここは雪女と口裂け女にお任せ……、って雪山に露出狂もどうなの?

 河童よりも先に凍死しちゃいそうだよ。


「私もバイト復帰したいけど、今は子育て中だからなぁ。今日は旦那に任せたけど、毎回って訳にもいかないし」

「……鈴芽ちゃんは子育てを優先しなきゃ駄目だよ」

「でもでも標準語マスターは実践で慣らすのが一番だよ。友達と話すのが一番で、1人じゃ無理無理だよ」

「……だけど大学に友達いないし、アルバイトも今は学生が殆どいなくて、私なんかと話してくれる人なんて……………」


 あれ? 雪女と口裂け女がこっちを見ている。

 それから口裂け女が河童に迫り、ポンと肩を優しく叩いてから。



「新人君、雫ちゃん任せたよ」



 この提案に、雪女が申し訳なさそうに答える。


「……でも鈴芽ちゃん。川葉君は男の子だし」

「別に新人君を彼氏にって訳じゃないよ。オフでも会って遊ぼうってだけでバイト仲間として仲良くするだけだよ。……………新人君、雫ちゃんはこーんな美人で美人なのに、不満? 不満なのかな?」

「滅相もない! 年上最高です!」

「よしっ! じゃあ呼び方も変更、お互い名前で呼び合いなさい!」



「「ええっ!?」」



 まさかの追加指令に2人して声をあげたが、口裂け女が畳み掛けてくる。


「だって二人とも苗字でよそよそしい! あと他人行儀だから敬語も禁止!」

「あの、流石に急ぎ過ぎでは? これでも当初よりずっと仲良くなってますけど」

「……うん。それに今日は川葉君と沢山話せた。もう満足」



 バシーンッ!!!



 何で叩かれたの俺!?

 まさかの不意打ちビンタに河童が転倒、そこに口裂け女がマウントを取ってきたが、ちっちゃいから全然重くないな。


「このヘタレ新人! お前は週刊誌のラブコメ主人公か! 毎週アホな引き伸ばしを延々5年も続ける気か!」

「いや、どこの主人公かは知らないけどこっちはまだ一ヶ月足らずなうえにバイトだから会える頻度が全然違います!」

「だからこそ名前で呼び合うの! それまでお客様対応は私がするから!」

「やめて! 営業停止になっちゃう!」


 下手すりゃ〝お化け屋敷に口裂け痴女出没〟なんてアホなニュースが駆け巡り、お化け屋敷が変態ハウスにリフォーム完了だよ! なのでトレンチコートを緩めた口裂け痴女を河童が羽交い絞めにしたら、ギギギっと首がこちらに向いてから。


「じゃあ名前で呼び合うの? 合うのかな?」


 満面の口裂けスマイルで発せられたこの言葉に、河童と雪女は肩を落とし、それから微妙な間が延々と続き、それを見かねた口裂け痴女がまた脱ごうとした所で、観念して喉に詰まっていた言葉を絞り出した。



「……………雫先輩」

「……………夕護君」



 うぐぅ、めっちゃ気恥ずかしい。

 河童の眼光(被り物)は常時剥き出しなのに、中の人はもう目が開けないレベルで恥ずかしい。それは雪女も同様らしく、顔を覆っている長い髪を全部前に寄せ、表情を一切見えない様にしている。


「まぁ、今日のところはココまでかな。かな」


 口裂け女は不満気だけど、こっちはもう目一杯踏み込みました。

 チキンレースならもう崖っぷちで、もう半歩で谷底まっしぐらだよ。


「もっと話したいけど、鈴芽ちゃんはサクサク挨拶周りしなきゃだから、先行くね」


 忙しないけど、赤ん坊の世話もあるからね。

 そうして鈴芽ちゃんが立ち去ろうとした時、



「そういえば新人君、何で雪山なのに河童? ビックフッドじゃ駄目なの?」

「えっ? そんな衣装あったの?」



 あれば迷わずそっち着ましたけど。


「あっれー。前に見かけた筈だけど、気のせいだったかな? まぁいっか。それじゃあ雫ちゃん、新人君、私はもう行くけど、最後に質問あるある?」


 そう言われて、聞くべきか迷っていた疑問を尋ねてみた。


「あの、いくらダイエット成果が見せたかったにしても、何で口裂け痴女?」


 せめて水着なり何なりで恥部を隠そうよ。

 そんな至極当然な疑問に、口裂け女が笑顔でこう答えてくれました。



「旦那の趣味!!」



 結論、鈴芽ちゃんは変態新妻でした。

 そうして口裂け痴女が去っていったが、お客さんが来なくて本当に助かった。

 今だけは過疎っていて何よりだが、どうやら1年前のお化け屋敷はもっと来場者が多かったらしいけど、現状からは想像できない。

 何かトラブルがあったのかな?


「あの音霧先輩、じゃなくて……………、雫先輩」

「……な、何かな? 夕護……君………」


 ううっ、やっぱりまだ慣れない。

 まぁ今更何があったかを知った所でどうにもならないし、今は雫先輩との関係に専念しよう。


「その、これからもバイト、頑張りましょう」

「……う、うん。もうすぐGWだし、一緒に頑張ろうね」


 そんなギクシャクしたやり取りの後、カップル客が近付いて来たので、俺達は配置に戻りました。

 こうして俺は鈴芽ちゃんのおかげ?で雫先輩とより仲良くなれたけど、今は以前よりも距離を感じる訳で、職場の人間関係って難しいなぁ。



   ◇   ◇   ◇



 余談だが、カップル客が雪山を通過した後、隣部屋から彼氏の色めいた絶叫と彼女のビンタ音が響いてきたが、幸いにも営業停止にはなりませんでした。

 そして帰宅後に調べてみたら、口裂け女の嫌いな整髪料は〝ポマード〟、わたしきれい?と尋ねられたら〝普通〟と答えるのが正解だそうです。

タイトル回収場面がありましたが、勿論アレで終わりじゃないですよー。

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