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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
chapter 2
10/35

09話 ワシントン条約違反

「おおう。今度は雪山だ」

「ミッキー早いって。もっとゆっくり」

「ううう。怖い」


 こちらの用意が終わった所で女子高生っぽい3人組が部屋に入ってきて、怖い物知らずな子が先導・後の2人が怖がりながら追随って感じだ。そうして3人が雪山通路を進むと、一角に注目が集まる。


「見て見て、あそこに何かある!」

「ちょっとミッキー、勝手に触るのはマズいって」


 通路脇に置かれたそれらは雪女のウィッグ・お化けの被り物・河童の予備甲羅という小道具で、さっき俺が掻き集めたものだ。


「だいじょーぶ! あからさまに放置してあるから触っていい筈だよ。むしろこれに手を出さなきゃイベント発生しないレベルだって」


 ミッキーの誘いに2人も続いて小道具の物色を始める。


「うわー、よく出来てるね」

「ウィッグや衣装はともかく、この被り物はどうやって作るのかな?」

「これ着てみたいけど、流石にそれはマズいかな~って、何これ?」


 1枚の紙切れが紛れ込んでいた事に気付いた3人が確認してみると、赤い文字でこう書かれていた。



『後ろを見ろ』



 ここで小道具を漁っていた3人の手が止まり、恐る恐る『こちら』を振り向くと。



「………………………………………ぁぁぁぁァぁあァぁぁアァぁぁああ」



「「「うぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!」」」



 女の子らしからぬ絶叫と共に3人が尻餅をく。


 この雪山部屋の入口の影から音を出さず細心の注意を払いながら3人をストーカー、もし小道具をスルーされればこちらから物音を立てて振り向かせて驚かすという魂胆だったけど、思惑通りに事が進んでくれて何よりだ。


 お化け屋敷という一本道で前に進むだけという構造だと目先は全力で警戒するけど、通り過ぎた後方を確認をする客はまずいない。誰もいない筈の背後に何かが居たというシチュエーションは恐怖と共に驚きも相俟って、盛大に驚いてくれるという算段である。そして盛大に驚かせた以上、更なる追撃は厳禁で、こちらは微動だにせず3人が落ち着くのを待っているのだが……


 ミッキーさん、いまM字開脚中で白パンツ丸見えっすよ。


 尻餅でスカートが捲れ上がった事に気付いてないらしく、流石にこれは注意した方がいいのかなーと悩んでいたら。



「あれ? 神岸?」


「えっ? 何で私の名前を……………、あーーーーーっ! お前、川葉だな‼」



 しまった!!

 見知った顔につい名前を言っちゃったよ。


 だがさっきまでの怖がりっぷりが一転ガバッと神岸が立ち上がった後、河童の両肩を力強く掴まれてしまい。


「かーわーはー、今のはかなりビックリだったよー」


 顔を急接近させての睨みに、こっちは視線を逸らしながら。



「カワハ? ノーノー、アイアムカッパ。カワハ、チャウチャウ」



「嘘吐け! 私に知り合いに河童はいない! あと河童がエセ外国人風に喋るな!」

「待て! 被り物を剥ごうとするな! 分かった! 俺が悪かった!」


 観念して謝罪した後、どうにか落ち着いた神岸がジト目で非難してくる。


「折角来てあげたのにこの狼藉。私と知って恐怖増し増しにしたよね?」

「してねーよ。そもそも暗くて判別できないから! しかもお前、学校と全然雰囲気違うじゃん。髪まで下ろしてて分かるかっつーの!」

「えっ……。もしかして変?」


 不安げな表情を見せてきた神岸に、こう答えておいた。


「いや、ふつーに似合ってるぞ。おまえ元陸上部でオープンな性格だから私服は絶対ボーイッシュだと思ってたけど、ちゃんと可愛いぞ」


 シンプルな肩出しブラウスにフリフリのスカート、清楚ながらも活動的なイメージと相俟ってとてもいい感じだ。


「お、おおう。ありがとう」


 あれ? 率直な感想を述べただけなのに照れてる?

 河童に褒められて嬉しがるなよ。


「ミッキー、私達先に行こうか?」

「何でお化け屋敷に誘われたのか謎だったけど、これが目的か」


 背後から2つのニヤケ顔に迫られ、それを神岸が慌てて制止する。

 あと神岸巫月だからミッキーらしい。


「違うから! 確かに私が誘ったけど2人も興味津々だったじゃん!」

「えっと、確か同じクラスの……」


 やべぇ、名前が出てこねぇ。

 新クラス発足から一週間足らずで話した事もないから当然かもしれんが、気まずい。

 そんな残念な反応をしていたら、2人が軽く笑って自己紹介をしてくれました。


岩田(いわた)です」

佐久(さく)()だよ。これを期に憶えてね」


 この2人は神岸と話す場面を何度か見ている。双方とも大人しいイメージだけど、その上で岩田さんが礼儀正しい・佐久夜さんが親しみ易いって印象だ。


「どうも。河童の川葉です。ミッキーの我が儘に付き合ってくれてありがとう」


「このタイミングでミッキー言うな! それより何で河童が雪山にいるの? 早く保護しなきゃ国際問題だよ⁉ ワシントン条約違反とか!」


「俺は絶滅危惧種か! 今日は配置転換でココにいるだけで普段はホームグラウンドの古井戸にいるっつーの!」


 ワシントン条約は希少動植物の国際取引禁止という取り決めで、国内なら何処に移動しようと問題ない筈だ。この雪山も日本内って設定だろう。よく知らんけど。


「じゃあ今、古井戸には何がいるの?」

「ジェイソンと殺人鬼」

「それ何処のエルム街⁉ 今晩悪夢で魘されないよね⁉」


 古い映画ネタを即座に拾ってくるとは、神岸ってホラー好き? そう勘繰っていたら岩田・佐久夜さんが俺をジロジロと舐め回す様に観察を始め、妙な居心地の悪さにじっとしていたら、佐久夜さんが俺の頭をガシッと掴んできた。


「うおっ! 何事⁉」


 真正面からの真剣な眼差しに息ができない。しかも佐久夜さんの顔がどんどん迫ってきて、もしかしてここは抱き付く場面なのでは?と思考が暴走しかけた所で、


「とっても精巧、これどうやって作るの?」

「えっ? はい?」


 どうやら佐久夜さんは俺ではなく、この河童衣装が気になるらしい。


「水掻きもリアルだね。背中の甲羅も重厚なデザインだけど重くない?」

「いや、重くないっす」


 岩田さんも全身を隈なくチェックしていて、どうやらこの2人は変わった趣味をお持ちの様だ。


「2人は演劇部の衣装担当なの。お化け屋敷の衣装に興味があるって言ってたよ」

「あー、成程」


 商業だけあってクオリティは本当に高く、この河童衣装もオーダーメイドで職人が作ったものと聞いている。特に被り物は気持ち悪いの一言で、剥き出しの眼光、爛れた皮膚、歪で尖った嘴、細かいヒビ割れが入った脳天の皿など、たとえ河童が実在したとしても顔はこっちの方が怖いんじゃないかって思う程だ。そんなプロの仕事に佐久夜さんが質問とばかりに手を挙げてくる。


「ねぇねぇココに来るまで死神やゾンビがいたけど、あれも被り物だよね? 顔メイクの人って少ないの?」

「まぁ、メイクは時間掛かって面倒だから」


 被り物はすぐに装着可能で簡単だ。

 物事を円滑に回すには何事も効率化である。


「でもメイクの人もいるよね? ちょっと前にあった病院の血塗れナースとか」

「あれは元々血が付いたナース服で、顔にパパッと血糊塗って腕に傷跡シールを貼って終わりだから」

「へぇー、そんなシールあるんだ。どんなのだろう」


 この回答に岩田さんが頷き、どうやらこの2人の衣装に対する情熱は本物みたいだ。


「気になるなら帰りに拝借しとこうか?」

「えっ? いいの?」

「いっぱいあるし、ちょっとなら大丈夫だって」

「本当に? ありがとう」

「へぇー、川葉ってこういう奴だったんだ。河童だけど」


 今の俺、思いのほか普通に女子と話せているな。

 異性との会話は妹の比奈菜くらいで、後はたまーに神岸という有様だったから……


「神岸、何で微笑ましい顔でこっち眺めてるんだよ」

「いやー、中学でやんちゃ者だった川葉のこういう姿が拝めて、安心できたから」


「……………あれは若気の至りで折り合いは付けたよ。それにお前の生徒会活動だって中学じゃ迷走しまくりだっただろ」


「そうだっけ? そんな事よりお化け屋敷って面白そうだね。私もやってみたいかも」

「じゃあGWだけでいいから手伝ってくれ。人手不足だか…」



 しまった!

 仕事中なのに話し込んじゃ駄目だろ。



「はいはーい、3人とも先に進んでー。次のお客様が来ちゃうからー」

「あー、そだねー。ごめんね仕事中に」


 これに神岸が素直に従って出口に向かい、岩田・佐久夜さんもそれに続く。


「じゃあ川葉君、シールは週明けのクラスで」

「お化け衣装についても詳しく教えてね」

「分かった分かった」


 こうして3人が出口に向かい、俺は所定配置に戻ろうとした瞬間、急に神岸がくっついてきて。



「みんな川葉に集結!」



 この言葉に岩田・佐久夜さんも従い、俺を囲む様に3人の女子が密着して俺だけが困惑していた所で。



 パシャ!



 シャッター音と共に3人が離れて神岸のスマホに注目が集まる。


「よっし上手く撮れてる。後で皆に送信するね。じゃあ川葉バイト頑張ってね」


 美女と野獣ならぬ、クラス女子と河童な絵をどうしろと?

 そんな感想を抱きつつ、3人が去っていった。


 本当に神岸が来てくれたのは嬉しかったけど、さっき音霧先輩に褒められたばかりでこの失態、反省せねば。そう自分を戒めながら所定配置に戻ろうとしたら、目が合ってしまった。


 この雪山部屋の入口に佇む、コートとマスクを着用した女性客の視線が。

『フレディvsジェイソン』という映画をどれだけの人が知っているのだろうか。

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