第9話:容赦無き裁きを
私は魔王ルシス。イグナイテッド城に堂々たる態度で浸入を果たし言葉だけでザルバトーレ王の考えをねじ曲げる事に成功を収めた私は早速同胞達を北西・北東・南西・南東にある有力な町を支配し魔王軍の地盤を固めていく。
その間にも私達魔王軍の存在を滅ぼそうと躍起になる連中が命知らずで襲い掛かるので欠伸をしながらも殲滅の命令を下している始末。
いつになれば私にとっての理想が完成されるのだろうか。今は耐えるべき場面か。
「魔王様。前日占拠した場所を取り戻そうと躍起する人間が同胞相手に圧している模様。このままでは奪われかねません」
ちっ。最近に至って奴等は手を打ってきたようだな。どこまでも小賢しい。
イグナイテッド王国を治めるザルバトーレ王の屈服は風の噂で流れ始め最近に至っては全ての人間に知れ渡り恐怖の存在として置かれている魔王軍。
しかしながら、そのような中でも私達を消す為に知力を武力が秀でた人達だけを結集させた魔王討伐団なる忌々しき連中。
今やそいつらが頼りない軍に変わって闇の城や同胞達が占拠した場所を沈めようと躍起になるという状況。
「くそっ。私が望んでいない状況になってしまうとは」
これも私がやってしまった弊害か。こうなってしまった以上私達の圧倒的な実力で思う存分嫌と言うほどに味わって貰う他無い。
「報告! 南西にある占拠地が奪われました。私達の敗北です」
「ちぃぃ! 私に余程喧嘩を売りたいようだな!」
南西の都を奪われたのなら、時間さえ経ってしまえば全ての都が奪われてしまうのも想定される。
だが私が安易にここを離れてしまえば最悪の場合、この本拠地は沈められてしまう。
魔王である私が人間相手に手こずるという事にはならないが、城と同胞達を失うというのは大きな損害を生み出し士気が下がってしまう。
それだけは是が非でもやらせてはならない。
「人間に好き放題されれば私達魔王軍の威厳に関わる。この望まぬ事態に対処する為にもブレイド・ギャレン・カリス・レンゲルを各都へ早急に向かわせろ!」
「はっ、承知しました」
おのれ人間。お前達が好きにしていられるのも今の内。私が人間を滅ぼす一心で作り上げた知力そして武力と共に秀でた幹部に容赦無く悲鳴を上げろ!
「魔王様。魔王討伐団の旗を掲げる集団が数を揃えて本拠地である闇の城へと接近中! 指示をお願いします」
どうやら私に命知らずな連中が歯向かいに来たようだな。ここまで来たのなら遊んでやるとしよう。嫌と言うほどに……な。
「私が表に立つ。戦力を最大限に解放し、悲鳴を上げようが殺せと同胞達に伝えよ!」
魔王討伐団。イグナイテッド王国のザルバトーレ王が魔王である私の命令に屈服した後から設立した私設部隊だと言う噂をギャレンから報告を受けてはいたが、果たしてどれぐらいの実力を誇っているのだろうか?
「承知しました」
そして、本拠地に許可無く入りあまつさえ最強である私に対して沈めようとする心構え。
この闇の城の主である私がお前達の肉体をズタズタに切り裂いてやるから楽しみにして待つ事だ。ふはははっ!
「魔王様。言われた通り、部隊を最大限に展開。いつでも戦闘が可能です。なお観察部隊によると、間もなく大量の人間が押し寄せて来る模様」
外に出ると、緊迫とした状況で本気で自分達を殺そうとしている人間相手に戦闘を備えている。
観察部隊の報告からして人間相手に総力戦を仕掛ける事になろうとは。
七割を支配しているイグナイテッド王国が頼りない状況では致し方無い事か。
「同胞達よ、恐れるな! 魔王軍代表魔王ルシスである私が健在ならば、私達のより良き世界を築き上げる事が出来る。その為にも悪足掻きをする人間に目に物を見せてやれ! 私達の圧倒的な戦力を!」
鞘から引き抜いた長刀を天高く掲げる。目標は旗を掲げる魔王討伐団の根絶。
この私に喧嘩を売った事を深く反省しながら死んでいくが良い!
「全軍突撃! この城だけは必ず守り通せぇぇ!」
作戦は決めていないが、彼等の出方で考えていくとしよう。
「来たか。我々の力で魔王軍を叩き落とすぞ!」
人間共も私達が近付いてくる事に気付いて武器を構え出したか。ならば、こちらも誠心誠意……では無く、手始めに空からの奇襲で戦力を削っていくとしよう。
「リザードラゴン!! お前達の力を見せるのだ!」
空から火炎放射を浴びせるリザードラゴンに何人かの人間は盾で弾きながら進んでいく。
どうやら、リザードラゴンの火炎に耐熱性のある達ので弾いたようだ。
やれば出来るじゃないか、人間よ。
「放てぇぇ!」
遠方から弓が降り注ぎ空を舞うリザードラゴンを撃ち落としていく。その状況を皮切りに人間達は士気を高めて飛び掛かる同胞達を苦戦しながらも切り裂いていく。
この連中、中々に手強い。もしかしたら勇者と同等の戦闘力を誇っているのだろう。
一度たりとも勇者に直接出会った事が無いが。
「どんどん進め! 目指すのは正面にある城と魔王の首だけだ!」
しかし、この私が居る限り好きにはさせぬ! お前達のような野蛮な連中には死を与えるのみだ!
「魔王ルシスの首なら、ここにあるぞ」
馬に乗って襲い掛かる人間に対して私は馬の足を長刀で切り刻んで馬からふるい落すと、尻を擦りながらも得物であろう武器を構える。
「魔王ルシス。我々の世界を脅かす元凶……」
ふっ、取り囲んだか。この状況下なら総大将であり人間にとって元凶である私を殺す事に専念せざるをえない。
その判断は非常に正しい……が、私はそう簡単には死ねない。父を殺し、話をすれば分かり合える魔物を無惨にも殺した人間を私の手で果たさない限りは。
「来い。魔王として君臨する私の力を思う存分見せつけてやる」
「調子に乗るなぁぁ!」
人間が扱う武器を弾きながら、一人一人丁寧に急所を狙う。足・右腕・左腕・腹。
隙が出来た所は徹底して与える。私が人間であろうとも決して情けは与えない。
この魔王軍の本拠地に来た以上、お前達が迎える結末は死あるのみ。
「あぁぁぁぁ!」
「どうした? さっきまでの威勢が嘘のように消えてるぞ」
これで終わると思うなよ。私に無作為に挑んだお前達には五体満足出来ない身体に仕上げてやる。
「や、止めてくれ!」
「今更嘆いた所でもう遅い。お前達が私相手に挑んだ時点で死は確定しているような物なのだよ」
私に襲い掛かってきた何十人もの腕・足は切り落とした。後は悲鳴を上げながら無惨に果てて逝け。
五体満足の身体を始末した俺はもはや戦う事すら出来ない相手を無視して後にすると、反対側の谷の方から慌ただしい音と共に大砲らしき武器を城に向けて傷跡を残す。
まさか、私が戦っていたのは足止めをする為に過ぎないというのか。
「陽動に嵌められるとは私も浅はかだったか」
こうしてはいられん。急いで本部隊を鎮圧せねば。反対側の谷から随分と距離がある事で、徒歩を断念した私は口を使ってリザードラゴンを呼び寄せてから迅速に向かう。
もう少し、あともう少し。この本部隊を沈めて潔く終わりを迎えさせて貰う。
「ワイバーン、キメラは武器を破壊! スライムは一斉に液体攻撃で人間を粉々に溶かし尽くせ! 残りの者は補助に回れ! 私は部隊の壊滅に力を貸す」
大声で叫び指示を出すと同胞達は指示に迅速に従い的確に動き始める。私は空から飛び降り、襲い掛かる地上部隊の人間を切り刻んで始末する。
本命の部隊は陽動部隊よりも遥かな人数で押し寄せて来たが私にとって、その人数は造作も無い。
何故なら私の方が圧倒的に強いからだ。だが、人数が多い分私が一人で戦うのは少々疲れるので同胞達が居る事により更なる力を発揮出来る。
「あと少しで城を落とせたというのに」
「残念。魔王である私と力を高めた同胞達が居る限り、弱者であるお前達が勝つ事など……一生無い!」
これで敵の始末は完了。かなりの人数を切ってしまったお陰でお気に入りの長刀に血がべたりと付着してしまったが後で洗い落としてしまえば良いだろう。
「少々の犠牲が出てしまったが、見事勝利を収めた。人数相手に
踏ん張ったお前達には感謝する!」
これから対策を練っておかねば。いつまでも守りを固めていてもいたずらに戦力を削られかねない。
やはり、遊びは止めて本格的に落としていくとしようか。手始めにイグナイテッド王国を……いや。
「魔王討伐団と名乗るふざけた名前をした奴等を潰す方が先か」
弱小したイグナイテッド王国に用は無い。それよりも今後私達の邪魔をする私設部隊を潰す方が先かもしれん。
邪魔な種は早く根絶やしにした方が楽になるからな。
「同胞達よ、聞け! 次なる目標を魔王討伐団と名乗る連中を完膚無きまでに粉砕する! その為にはお前達の力も必要となる。どうか、私の為にもそしてお前達自信の栄光を勝ち取る為にも力を貸してくれ!」
魔王討伐団を無事に退いた私は城の頂上に立ち上がり、同胞達にこれ以上無い位の威厳を見せ付ける。
すると同胞達は私の宣言に喜んで舞い上がる。
どうやら、俺の目的の為にも力を貸してくれるらしい。
「まずは魔王討伐団の本拠地を探る! 探索部隊を募集するので出向きたい者は私に顔を出すように!」
さぁ、反撃の時だ。イグナイテッド王国とは違って遥かに越えた物量で最高の報復をしてやる。
その時までゆっくりと待っているが良いさ。ふはははっ!