表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/31

第4話:生き別れ

 俺は勇者ジャスティー。故郷に住まう皆を討ち滅ぼした魔王をこの手で殺すという思念を胸に仕舞い込んで各地で散らばる活性化した魔物をぶっ殺す旅に出る事となった。

 朝日の眩しい太陽の中でどこからか空を舞う鳥が手紙を後ろの背中に着けながら地面に着陸する。


「手紙か!」


 ハワードは一目散に鳥の背中に付いた手紙を広げて文章を手短に読んでいくと視線を下に向ける。

 あの目はどう考えても良い知らせでは無い。きっと何か悪い知らせなんだろう。


「イグナイテッドの遥か南に位置する都ゾルダがカリスという魔王の幹部に占領されたらしい」


 カリスの見た目はカマキリのような緑色をした身体に黒の服を被せた細い目付きを持った人物。

 魔物の監視に見つからないよう探っていた人からの情報によるとカリスは相当に傲慢であり入り口に入る為の門を封鎖して好き放題に人間を奴隷として遊んでいるらしい。


「許せねえ。こいつも俺の手で殺してやる」


「ここからだと到着するのは早くても夕方になりそうだな」


「早く急ぎましょう」


 急ぎ足で向かう事になった俺達はいつも通り馬車を頼る事になり一先ずの目的地であるゾルダへと向かう。しかし、道中には魔物らしき奴等がうようよと蠢いている。

 馬を扱う人は魔物となるべく接触しないように避けていくも後ろから怒涛の足音を大きく立てる金棒を持った魔物が大きく振りかざす。


「やばっ!」


 このままだと確実にやられると踏んだ俺達は仕方無しに馬車から飛び下りる形でごろごろと地面に打たれると同時に馬車は原型を無くしてボロボロに砕かれた。


「見つけたぞ。覚悟しろよ勇者」


 俺達と人間の言語を話すとは……魔王ルシスから教わったというのか。くそっ、魔物の分際で!


「向かわせる気は無いらしいな」


 ミストの手には杖。ハワードの手には弓。俺は背中の鞘に収めている剣を引き抜いてから金棒を所持している魔物の回りを包囲する。

 どう考えても俺達の方が有利な場に置かれている中で金棒を持った魔物は恐れる事無く我が物顔で鼻息を荒げる。


「三人か。朝の練習とやらには好都合……お前ら全員纏めて掛かってこい」


 野郎。挑発のつもりか? だったら、こっちはお前の息が止まるまで全力で相手してやるよ!


「うらぁぁぁ!」


 まずは俺ご自慢の接近戦で黙らせてやる! さっさと白い輝きを放つ自慢の剣で眠りやがれ。


「ふぐっ、効かぬわ!」


「避けろ、ジャスティー」


 剣と金棒が互いに交わる中で後方支援を徹するハワードから矢が何本かこちらに向かってきたので俺は素早く後ろに下がると金棒を持った魔物に一本の矢が膝を直撃。

 その間にミストは火の玉を投げつけて火炙りに仕立てあげる。

 だが、大きくそしてこれまでよりも雰囲気が違う魔物には一筋縄ではいかずハワードとミストが連携で繋げた魔法は奇しくも失敗を告げた。


「これ程の攻撃にやられるなど私達は甘く見られた物だな」


「くそっ、敵が場違いに強かったか」


「ジャスティーさん。私達を置いて一人で向かって下さい。ここは何とか私だけでも抑え込みます!」


 嫌だ嫌だ。今まで共にしてきたハワードとミストを放って先に行くなんて納得出来ないぜ!


「こうなったら俺だけでやってやるよ!」


「無茶だ! 引き返せ!」


 無茶だろうと何だろうと男であり勇者である俺がひそひそと魔物相手に退散するなど言語道断なんだよ!


「まだ、やる気か」


「あぁ! そうさ、俺はいつでも殺る気だ!」


 振りかざす金棒に間合いを上手く付けて魔物の脇腹に剣で抉り込む。抉り込まれた身体から緑色の液体が飛び出すて魔物は怒りを込み上げた表情で金棒を豪快に振り回す。

 何とか、その時に剣を顔の横に持っていっていたから吹き飛ばされただけで済んだが直撃でもしたら俺のキリッとした顔はぐちゃぐちゃになっていたであろう。


「さすがは勇者。いざとなれば私達の予測を越えた動きを噛ましてくれる」


「金棒の魔物さんよ! あんたにはここいらで死んでもらう!」


 剣から包まれる灼熱の炎。間違って触れたりでもしてたら身体は一気に日のだるまと化す技を全力でぶつける!

 俺の気で纏われた炎の剣を天に掲げて一気に解き放つ!


「炎舞龍王ーー」


「甘い!!」


 振りかざそうとした瞬間に地面が大きく砕かれる。技の注入に気合いを入れていた俺は勢い良く振りかざす金棒の一撃で都ゾルダに繋がる道である橋が設置された崖に放り込まれる。

 くそっ、どうも俺が技を解き放つ瞬間に!


「ジャスティー!!」


「ジャスティーさん!!」


 気を取られたばっかりに……俺は奈落の底へと導かれるのかよ!


「ちきしょうがぁぁぁぁ!」


 叫びは虚しく広がり、死をも覚悟した俺は崖の壁を剣で必死に突き刺すも次第に景色は真っ暗に包まれる。

 仲間として共に魔物退治の任務を遂行していたハワードとミストを道中ではぐれてしまう事になってしまった俺に、もはや居場所は無い。

 だが、この命が! まだ、息長らえているのなら俺は一人だけでも魔王の首だけは貰い受ける。

 俺とハワードの故郷を潰したお前の責任はどんな山や谷よりも深いぞ!


「ありりぃ、こんな奈落の底に人が落ちているとは私と同じく中々に不幸じゃないっすか」


 ん? この声は女の声か? しかし、見覚えの無い声だな。ミストなら物静かな声質だから、今聞こえてくる甲高い声は女だと推測したぞ。


「取り敢えず運ぶとするっすか。放置するのは何か罪悪感を感じますし」


 頭が酷く痛い。身体全体が重く鋭い痛みが襲うので俺は知らない奴に担ぎ込まれて行く。行き先は何処なのだろうか? 

 目が両方開けれそうに無いから分からない。


「それにしても、この顔とこの服装……どこか見覚えがあるっすね。う~~ん」


 俺を知っているのだろうか。女は唸り声を上げながらも黙って歩いている。

 するとしばらくしてから川のせせらぐ心地良い音が耳に優しく響き渡る。

 俺を担ぎ込んだ女は砂利がある場所で俺を重そうに下ろすとそそくさと何処に走ったのだろうか慌ただしく消え去る。


「ぐっ、身体が痛い」


 歩く所か立てやしない。これじゃあ、どう足掻いても魔王の元に向かえないじゃないか! くそったれが!

 どうしようも無い事に腹が立った俺は川の流れる音を聞きながら黙って待つ事に。

 何分待とうが現れてこない女に眠気が強烈に襲い掛かると身を任せて就寝に入りロクでも無い夢を見ていると女の声に目が覚める。


「大丈夫っすか? 随分とうなされてたっすよ」


 はぁ、そうか。それにしても恐ろしい程に上が高い。これじゃあ、どう足掻いてもハワード達と合流が果たせそうに無さそうだな……こうなったら別ルートで回るしか無いかも。


「溜め息吐いてたら寿命が1つ消えるっすよ」


「それは寿命じゃなくて幸せだろ?」


「そうとも言うっす」

 

 今置かれた状況を整理するに俺の足にひびが入っているのか分からないが上手く立てそうに無い。

 どうにかなんとかして奈落の底から地上に抜け出してハワードとミストとの合流を果たさねば。


「その怪我で頑張るのは何故っすか?」


「今も魔王の脅威に苦しむ民を放置するなんて出来やしない。それに俺は故郷を奪った元凶である魔王を殺して未だにのたまう魔物を始末しなければならないんだ! だから俺はこんな場所で無駄に過ごす時間なんて無い!」


 おい、俺の足に何をしている? 


「これは一応の応急処置っす。取り敢えずこれで自分の村に目指す事にしましょう」


 何だ、これは。さっきまで立ち上がれなかった痛みがみるみる内に消え失せた。

 名前も未だに知らない女だが、こいつには感謝しないとな。


「助かった。俺はジャスティーで職業はーー」


「あぁぁ! 思い出したっす! 確かイグナイテッド城で勇者を勤めているジャスティーっすよね? いやぁ、光栄っす!」


 おぉ。何か知らないが見知らぬ女の子も俺の名前は知れ渡っていたみたいだな。


「自分はアリーゼ。大陸全土に住み着く指命手配の魔物を倒して金を頂く魔物ハンターをやらせて貰っているっす! 地上に出るまでは宜しくっす!」

 

 表も裏か分からない笑顔でいて短髪。そして極めつけはさばさばとしていて尚且つ耳に犬のような変わった姿をした金髪。

 それに魔物を狩るとは思えぬ身軽な服装で身を包むアリーゼはくるりと1回転するや否や床にごろんとあろう事か寝始めやがった!


「ちょっと、待てぇぇ! 何で寝るんだよ! 上の空は僅かではあるが快晴っぽい雰囲気。これで歩かないのはおかしいだろ!」


「ふぁ~あ。自分の村は早朝になると寝る習慣があるんで少しだけ寝るっす」


 早朝に……寝る!? 普通は人間は晩に寝るのにアリーゼは朝に寝るのか。

 うーん、かなり変わった女の子だな……こうなるとアリーゼが住んでいる村は俺達が住む街とは随分と違うのだろうか?


「まぁ、その間に自分が適当に拾い上げて作成した焚き火に温めておくと良いっすよ! それじゃあ、おやすみっす」


 俺が倒れている最中に作った焚き火のそばでぐっすりと就寝に入るアリーゼ。

 一方の俺は早朝に寝る態勢を取るアリーゼに半ば呆れながらも奈落の底で太陽が直接届かず冷えきる身体を焚き火に火が移らないように接近して身体を暖めていく。

 それにしても、このアリーゼという女の子は男の俺が居ようがお構い無しに寝るなぁ。俺の事を意識していないのだろうか?

 別に襲うつもりは微塵も無いけど。

 

「ふぅ。早く脱出したいんだけどな」


 しかし、これじゃあ地上に行けないな。せっかくの早朝だし天気もかなり良かったんだが命の恩人であるアリーゼを放置して先には進めそうに無いな。

 それにアリーゼが居ないと地上を脱出する所か応急処置で終わっている足を完璧に治す村に行く事が出来ない。


「急いでいると言うのに」


 今回招いてしまった一件は地上の時にまんまと奈落の底に落ちていった俺にも責任があるよな。

 くそっ、もうちょっと金棒を持った魔物に何発か斬撃を入れ込んだ後に俺自慢の奥義で終わりにしておけば良かったぜ。


「むにゃむにゃ。そんなにあっても食べられないっす~」


 いつになったら起きるのやら。なるべくなら昼までには起きてくれよ。

 真っ暗になったら道が暗すぎて進めそうに無いからさ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ