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第30ーA話:完全なる理想郷。ようやく叶った……成就された世界に嘲笑う

魔物と人間の共存を目指し、志半ばで殺された父ルシファーの仇を討たんと魔物を引き連れ人間を滅ぼさんと決起する魔王ルシスの結末はこちら。

 私は魔王ルシス。最後の幕締めの舞台はこのイグナイテッド王国。全てはここから始まり、終わりはここで。

 私の憎しみも勇者ジャスティーという戦士を討ち滅ぼす事で華麗なる終わりを迎え入れようではないか。

 

「父よ。もう……間もなくです」


 これが終われば、貴方の墓を立派な場所に携え盛大に弔わさせて頂きます。

 一方で息子の私はこの世界の新なる統制者いわゆる神として永代に称えられる事になるでしょう。

 惜しくも父が理想としていた人間と同胞が共存しあう社会は人間の利己的で身勝手な理由で崩れさってしまいましたが、同胞だけがすくすくと育つ温かい営みがこの理想郷を中心として設立されます。

 だから父ルシファーよ。私の今後の……大いなる活躍にご期待下さい。


「私は負けんよ。未来を確実とする為にも」


 紫という独特の色を施した長刀。しっかりと刃の部分を研ぎ澄ませ今か今かと扉の部分を見つめる。

 この城で当初配備していた同胞達には外に退去するように指示を送っている。

 一対一の正々堂々とした殺し合いに置いて、味方でさえ居るのも邪魔。

 私の村を焼き払い、今こうして私に故郷を焼き払らわれた勇者ジャスティーがどのような面で立ち向かってくれるのか。


「勇者ジャスティー。思えば、お前は」


 仇を取らなければならないな。部下として一番優秀なギャレンと少し変な性格を兼ね備えながらも統率力は群を抜いて素晴らしいカリス。

 私が理想郷を実現する為だけの開発した彼等は便利な駒である事に変わりは無いが一応仇くらいは取っておくとしようか。


「王に与えられた称号勇者。その実力はいかに」


 戦士の最高格に当たるとされる勇者。王様が直接認めた者にしか与えられない称号ゆえに相手は尋常に無く強い。

 油断出来ない緊張に私の手は若干濡れている。そうして、いつまでも待機していた中で大きな足音が両耳に響く。

 奴だ。いよいよ私を討たんとする勇者ジャスティーに合いまみえる日が訪れたのだ。

 ようやく会える事で私の胸は高揚感に満たされていく。構える長刀にも不思議と力が握られる。

 そして、そこに私という魔王が居るのにも関わらず遠慮の無い音で顔を出す橙色の髪をした勇気ある青年ジャスティー。

 歳は私よりも10代上だと言う情報は既に掴んでいるが……なるほど、確かに大人びてはいる。

 しかし、相手が歳上だろうが何であろうが敵として私の前に立つ以上敬意を払う必要は一切無い。

 表向きは悠然とした態度で望み、裏向きでは勇者から漂う殺意らしきオーラに内心焦りが募る。

 こいつは……ひょっとしたらハーツ以上に恐ろしい奴だ。


「お前がしてきた事を……俺は絶対に許さない。これまで失ってしまった多くの人の無念。そして、故郷を焼き払った仇を今ここで! 果たさせて貰う!!」


 果たさせて貰うのはごめんだ。私にこれからやるべき事が沢山残っているのだ。

 統率者として新たな世界を創造する為にも。


「魔王ルシス。人間の殲滅の為、人類の希望たる勇者ジャスティーをこの手で始末する!!」


「お前も人間だろうが!」


 はっ。人間と同じ扱いをするな! 私は……私は人間という存在を逸脱した同胞達に支えられる存在たる魔王!!

 人間と同じ区別をされるなど片腹痛いのだよ!!


「腐った人間と一緒にするな! 貴様らなど同胞達の踏みにじる化け物に過ぎない!」


 怒りに任せて振る長刀の威力は驚く程に発揮。迎え撃つジャスティーは私の力に押されぎみだ。

 くっくっくっ、所詮は口先だけで何も考えずに王に与えられた仕事だけを忠実にこなす戦士。

 この世の中の構造を深く読み取っている私に遠く及ばないようだな。ふははははっ!


「お前は……今この時までどんな想いで人を殺してきた!」


「知れた事。私は人間の無差別な理由で燃やし尽くし同胞の存在を否定する貴様達を殺したくて仕方なかった! 故に人を殺しす事に未練も無ければ罪悪感も無い!」


「そのお陰で新たな火種が勃発した! お前が作り出す理想郷とかいう腐った計画で何の罪も持たない人達が無惨に散った! その傲慢な理由は……万死に匹敵する!!」


 ああ言えばこう言うか。自分だけが正しいと主張しているのなら……それこそ傲慢な理由。


「実に下らん! お前のそのひねくれた性格をぶち壊してやろう!!」


「黙れ!! 世界を脅かすお前の方が俺よりも何十倍ひねくれている! だからぁぁ!」


 勇者の構える剣に一筋の光が目映く照らし出す。そっちの覚悟は大いに伝わった。

 なら、私も理想郷の設立を邪魔するお前を殺してやる。この生み出された天性の力に押し潰されるが良い!

 天井に掲げたと同時に纏わりつく闇に染まりし邪気。私は魔王として皆の象徴たる勇者を滅ぼす。

 そうして希望を見出だせなくなった人間共は絶望に陥り自然消滅……くっくっくっ、そう! これで邪魔は無くなる! 

 もう私の計画を阻止しようと躍起に回る連中は嘘のように消え失せる。

 

「魔王を倒して世界に光を!!」


「勇者を滅ぼし、我が覇道を貫く!!」


 私と勇者の放つ一閃は互いに直線上へと飛んでいき、やがては交互に炸裂。

 力勝負に持ち込まれたぎりぎりの状況。出し惜しむ事無く能力を全解放する形で押し込んでいく事によっては形勢はこちら側に有利となる。

 光が闇に飲み込まれていく。負けじと力を出しきろうと努力を惜しまない勇者ジャスティー。

 今さら、そんな悪足掻きをこまねている時点で敗北を決定済み。大人しく私の力に飲み込まれて楽に死ね。


「うがぁぁぁ。こんな所でおめおめと負けられるか!!」


「必死に足掻くではないか。大した戦士で感心するよ。お前が私の部下であったのならどれ程助かっていたか」


「お前の部下だなんて心底お断りだ。それに有り得ない仮定の話をされても……ぐっ!」


「虫酸が走るか? ふははははっ、そうかもな! 私もお前がへこへこと付き従っているイメージが想定出来そうに無い」


「へっ。お前なんざ俺の他であろうとも、誰にも慕われやしねえよ! どうせ地位に取り付こうと目論む糞生物の集団なんだ。俺という勇者が死ねば、お前の地位を奪い取ろうと反旗を翻すに違い無いぜ!」


 聞き捨てならないな言葉だ。さっき口から出た不用意な発言をする敵には……こうして殺るとしよう!!


「下手な発言は慎め。愚かなる勇者ジャスティーよ」


「ごぼぉぉ」


 体内に長刀の刀身をぐりぐりと弄び、勇者ジャスティーの反応を心から楽しむ。

 あぁ、その憎しみに支配された瞳で私の瞳を睨み付けるが良い。

 この勝敗が決した状況で何をされようが痛くも痒くも無いが……な!


「私の世界にお前は不要。これからは遠くで活躍を見守っていたまえ」


「ここで無惨に死ぬのなんて絶対に嫌だ。故郷の人達と失ったハワードの想いを抱え込んだ俺が! こんな肝心な所でむざむざ死ねるかよぉぉ!」


 まだ私に楯突こうと剣を振るうか勇者ジャスティー。だったら、お前には至高の斬撃を沢山くれてやる! 私の厚意に有り難く受け取れ!


「目がぁぁぁ!」


 最初はその腐った視界を奪う。先程までの攻撃によって動きが鈍ったお前の眼を壊す事なんて造作も無い。

 次に、よく動く足を両方ともばっさり切り捨てる。瞳を潰すだけでも別段良かったのだが、今まで私と同胞達を散々苦しめていた事を考えると……瞳だけで済ませるのは甚だ疑問。

 だから私は勇者ジャスティーの全てを奪い取る。今まで散々その手で葬り去った剣を粉々に砕き、泣き叫ぼうが喚こうが何度も食らわせる斬撃。そして悲鳴に飽きてきた時に繰り出す両腕の切断。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!」


 おやおや。さっきまで扉を遠慮無く開けていた勇者ジャスティーの威勢はどこに行ってしまったのかな? 

 正直、勇者である以上骨のある者が来ると内心ひやひやしていたのだが……これでは杞憂に終わってしまうでは無いか。


「はぁ、お前にはがっかりだよ。魔王である私をもっと楽しませてくれると思っていたのに」


 最後は両腕・両足・両目を失った哀れな勇者か。存外大した物でも無かったか。

 どうやら、私の期待していたハードルとやらが高すぎたようだ。


「では、ごきげんよう」


 勇者という身体は粉々に砕け散る。真っ赤な飛沫が更にアクセントとなって、床が赤く染まり始めていく中で私はただただ笑う。

 部屋には真っ赤な液体を広げる身体と所々に転がった腕と足。そして世界の理想郷が完全に果たされるという願いに喜ぶ私と青ざめた表情で床に座り込む女。


「いやぁぁぁぁぁ!」


 こんな所に来るとは、わざわざご苦労。折角なのだから……勇者と同じ気分を味わうと良い。

 どうせ、人間は私を支える同胞達に喰われるのだ。ならば、魔王である私が自ら捌くとしよう。


「君は……どう解体しようかな」


 女の悲鳴は一瞬。部屋の匂いが血に充満した中で私は大勝利の狼煙を世界中に撒き散らす。

 勇者という希望に掛けた人任せの連中はどう反応したのか? それは直接見ていないので分からず仕舞いだったが、世界を同胞達の理想郷に染め上げるのにそう時間は掛からなかった。

 そうして計画は私の思うがままに動き、最終的に全ての人間の殲滅を報告にて確認。同胞達が本気を出せば僅か一ヶ月で完了した人間殲滅計画。

 問題を粗方片付けた私は全ての同胞達に称えられる統率者として君臨。

 

「これより……この世界は我々の思うがままとなった! これからは心置き無く遊び尽くそうではないか!!」


 各地に転々と新しい街を組み上げ、イグナイテッド王国を新たなる名前として街ごと大きく変えた私は統率者として舞台の中心地に舞い降りる。皆が私を一同に見つめる景色は正に圧巻。


「おおおおおお! 統率者ルシスに万歳!!」


 やりました。やりましたよ、父上。晴れて私はこの世界を手中に納めました! これで私達を脅かす敵はもう来ない--


「ぐはぁ!」


 な、何だ。何故私の肩に武器が刺さっている? おかしい、これはおかしい。世界に敵という敵は全て滅ぼした筈だ。それなのに!


「統率者は俺になるんだよ! 人間風情がぁぁ!」


「良い気になりやがって。まぁ、人間という障害が消え失せた今ようやくぶっ殺す機会が訪れたな」


「皆! 武器を構えろ! 今日で俺達の理想郷を今度こそ築き上げるんだ」


 ふっふっふっ。くっくっくっ……ふはははははははっ! そうか、そうか。それが私に支えてきたお前達の答えか。

 折角私が与えた知識と力をそうやって逆手に取るんだな。


「親に反旗を翻すとは。この恩知らずめが!!」


 父よ。どうやら同胞……いや魔物は性格すらも歪んでいたようです。

 これから私は勝ち目があるか定かでは無い大戦争を始めます。


 天国に居るであろう貴方はどうか私の勝利を祈って下さい。


「死ねぇぇぇ!」


「宜しい! ならば戦争だ。統率者の立場に君臨するルシスが裏切り者のお前達を……完膚無きまでに」


 殲滅してやる。くっくっくっ、ふははははっ……くそがぁぁぁぁ!!!


 








   TRUE END:報われない末路

 





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