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第3話:故郷を奪われし青年の矛先は

 俺は勇者ジャスティー。今年で25にもなる俺は5年前から剣の才能に人一倍突出していた事から王に勇者としての名誉ある職を頂き、大陸全土でのたまう魔物の野郎を塵一つ残さず道中で出会った仲間達と共に殲滅するという正義の執行をしていた。 

 その結果、魔物はやや減少傾向にあり俺達の活躍は益々王様の耳に入るという嬉しい知らせ。

 けれど、魔物の寄せ集めて楽園とか抜かしやがるルシファーとかいう糞野郎があろう事か王の前で魔物と人間で互いに手を合わせましょうとか意味不明な言葉を言いやがった!

 無論そのふざけた提案に考える事も無くルシファーを処刑し魔物の楽園の撃滅の任務を下された俺は仲間を引き連れて魔物の群れだらけである気持ちの悪い里を破壊。

 北の方にある魔物の群れを倒した事によって、少しはマシになったと喜んでいたのはいたのだが……


「くそっ、しくじった!」


「今日に限って魔物の勢いが強いな」


 イグナイテッドという中心の都から東方向にある離れた豊かな作物と酪農を自慢としている非常に喉かな村クワイト。

 俺達はイグナイテッド王国に仕える派遣部隊の一員により任務として派遣されている。

 5年前の魔物は確かに脅威的な外来生物だと言う事は変わらないが、今年に入ってから魔物の脅威が底無しで増加している気がしてならない。

 森の中で蠢く魔物に立ち向かっている俺達は尋常では無い強さに少しばかり手こずってしまっている。


「ミストル!」

 

 魔法陣から発生する緑のせせらぎ。シンプルな眼鏡に薄い桃色の髪をくるくると一つに纏める大人しい性格をしている生真面目なミストは魔物の攻撃を喰らった俺達に回復を施したり後方から遠距離の魔法で牽制する僧侶のような役目を担っている。

 出会った当初は非常に暗くねちねちとしていたが街道でミストの思わぬ才能を見て連れ出そうとした際に色々と話したりしてみたら、よっぽど他人の俺と打ち解けて嬉しかったのか俺の手を僅か1週間で掴んでくれた。

 今やミストは俺達のチームでは無くてはならない貴重な戦力として見ている。


「助かった」


「すまない! ここからは何としても名誉挽回してやる」


 ミストルの影響下で痛め付けられた身体の痛みが少しずつ引くの実感した青色の短髪の青年ハワード。

 得意武器は遠距離に非常に優れている弓でハワードの手に掛かれば遠い場所からでも豆粒のような的に狙い撃ちが出来る。

 おまけに誰にでも分け隔てなく愛想を振り撒いて喋るので道行く女性の瞳を虜にしている。

 一応はハワードは俺の幼なじみで昔から仲良く遊んではいたのだが今となっては薄い壁を感じつつある。


「喰らえ、マグナム・シュート!」


 弓から放たれた矢はどこまでも燃え盛る紅蓮の炎は真っ直ぐと魔物の身体を貫いてから再びくるりと方向転換してから複数の魔物を瞬く間に大ダメージを与える。 

 しかし、今年から妙に活性化している魔物は今の攻撃で倒れていてもおかしくないというのにまだしつこく立ち上がる。


「だったら、俺の剣で!」


 素早く剣を振りかざして、未だに立ち上がる鳥型の魔物の羽を片方だけ切り落としてからとどめに頭を貫く。

 抉りに抉って引き抜いた後に続けざまに襲い掛かる同様の魔物を得意の剣で滅多刺しにすると周辺の魔物は消滅。

 大分魔物に手こずってしまったが、仲間のフォローがあったお陰で何とか無事に終える事が出来た。


「ふぃ~」


 あぁ、今日はやけにうざい魔物のせいで普段よりも疲れたぜ。

こういう時は距離は遠いが故郷に帰って暖かい風呂でぬくぬくとしたいもんだぜ。

 しかしイグナイテッドの王様に仕えている現在、ふらふらと故郷に帰る訳にはいかない。

 魔物が活性化している現状を無事に終われば帰れそうだからそれまでは気合いを入れてやってやるぜ!


「お疲れ。今日は空も暗いから、村に戻って宿屋で存分に寝ようぜ」


 魔物退治が終わると武器を背中に仕舞って町の方へと戻っていくハワード。

 一方でミストは倒れている魔物に不安げな視線を向けている。


「どうかしたか?」


「今日出会った魔物はかなり興奮していました……それで、何かこうなってしまった理由があるのかなと」


 理由か。俺は妙に興奮している魔物に何も考えずに討伐して訳だが、やはり今日に限って魔物がこうも手こずらせるのは理由があるのだろうか?


「嫌な予感がします。そういえば、ここだけでは無く大陸全土で魔物の活性化が浮き彫りになっていると噂が流れていますので」


「物騒な世の中になったもんだな。けど、そんな事は俺が全て片付けてやるぜ! 俺は大陸全土に名前が轟いている勇者ジャスティーだからな!」 


「ふふっ、ジャスティーさんが何人か居たら大陸全土が瞬く間に平和になりそうですけどね。ジャスティーさんは凄く強いですし」


 ははっ! さすがは俺の活躍を後ろから見ているだけはあって良く分かっているじゃないか!


「っと、いつまでも話していたらハワードを見失う! さっさとこの森から抜け出すぞ!」


「はい!」


 ミストと共に急いで森の出口でのんびりと待っていたハワードと合流を果たしてから俺達はクワイトという豊かな作物がある村で村長にお褒めの言葉を受け取って思う存分に自由を謳歌する。

 今じゃ、勇者としての地位を王から頂き素晴らしい人生を堪能する俺。

 牧場に広がる緑一杯の床に気持ち良く風に揺られながら瞳を閉じようとすると馬鹿みたいに煩い馬の足音が何頭かどたどたと騒がしく地面を叩き付ける。

 さすがの煩い音に寝ようとしていた瞳を開くと、鼻息が荒い馬の内の一頭の馬に乗っている兵士が膝を付く。


「藪遅く申し訳ございません! 本日何としてもお伝えしなければという報告がありまして私が使者として村に来た次第であります!」


 報告だと。こんな、のんびりとしている時に来る慌ただしい音で駆け付けてきた兵士の報告には何故だか嫌な予感が尋常に無く漂う。


「使者、ご苦労。報告を言ってくれ」


「では……本日、ジャスティー様の故郷である村が魔王ルシスと名乗る者と魔物の襲撃によって壊滅しました!」


 襲い掛かる絶望そして何も出来なかったという無力感。助ける事が出来なかった自分に強烈に腹が立った。

 嘘だと思いたいし、そんな情報は世迷い言だと言い聞かせたかった。

 だが、それはあり得ない。報告をはっきりと言い切った兵士の表情に一点の曇りが無いからだ。


「ははっ……そんな、そんなのって」


 今すぐ行かないと。こんな場所でのこのこと居座っている場合じゃない! 兵士の報告を聞いた俺は頭を真っ白にして宿屋で寝ようとしているハワードを無理矢理に叩き起こす。

 眠そうにしていて大変申し訳無いとは思うが今置かれている状況を考えるとそれ所では無い。


「ふあぁ。何だよ、せっかくのリフレッシュタイムを壊す気か?」


「大変だ。俺達が小さい時から住んでいた故郷が……魔王ルシスと名乗る人物と魔物の襲撃によって破壊された! ちくしょおおおお!」


 真夜中に聞かされた絶望的な知らせに俺は怒りが沸々と込み上げる。

 寝ようとしていたハワードが突然の陥落を聞いてからは一変して青ざめた表情を浮かべる。

 くそっ、何でじっと黙っているんだよ! こんな事をしてても駄目だ。今すぐに俺とハワードの故郷ハデスに戻らないと!


「今から馬車で行ったとしても、かなり時間が掛かるな」


「それでも、行くぜ! このままじっとしてなんて居られないからな!」


「分かった」


 俺とハワードは軽く身仕度をしてから別の部屋に居るミストに事情を説明して宿を後にする。

 それからは村にある馬車屋さんにお願いして俺達三人はハデスの村へと直行する事となった。

 道中では魔物らしき奴等が以前よりもうじゃうじゃと居て俺達の妨害を図ってきたが弓の扱いが人一倍上手いハワードの手によって何とか魔物を退ける。

 そうして馬の休憩やらを入れて六時間の長旅でようやく村らしき建物が見え始めて来た。


「やっと到着か」


「いよいよか」


「ハデスの村。ジャスティーさんとハワードさんが小さい頃から住んでいた故郷ですね」


「あぁ。だが、兵士の知らせによれば村は奴等の手によって壊滅された……らしい」


 胸が苦しい中でやっと到着したハデスの村。馬車を降りて急いで駆けつけた俺とハワードの故郷は小さい頃から世話になっていた喉かな景色は嘘のように消え失せ代わりにあるのは無数の遺体と焼き付くされた建物だけ。


「くそっ! 何でこんな卑劣な事を簡単にやってのけれるんだ!」


「原因は魔王ルシスとそいつに従う魔物。よくも俺達の故郷を潰してくれたな……絶対に生きて帰さん。あの世で後悔させてやる」


 顔に眉間が寄るハワードは俺と同様に醜い景色に怒りを露にする。

 遺体が散らばる景色を他所に村の異常事態に駆け付けてきた都イグナイテッドの兵士達が現場を調べている。


「ジャスティー殿。ご苦労様です」


「魔王と名乗るルシスはどこに行きやがった!」

 

「魔王は魔物を引き連れて居城に戻られたと思われます。魔王と名乗るルシスが大陸全土を脅かそうとしていると我々宛で伝達鳥にて知らせてくれた者が居ましたが、現状村を調べる限り全員意識がありませんので詳しい状況も分かりません」


 村がどうやって壊されたとか俺の知った事では無い。今は一刻も早く、魔王の元に駆け付けてぶっ殺してやるんだ!


「どこに行くのですか!?」


「決まってんだろ! 俺は魔王と魔物が住まう城に殴り込みを掛ける! このまま、じっと何かしてられるかよ!」


「お待ちください! 現状魔物が各地に蔓延っており手が回っておりません! どうか我々の為にも力をーー」


「うるせえぇぇぇぇ!!」


 俺は魔王を殺す。どんな手を使ってでも、どんなに力尽き果てようとも俺は床を這いずってでもぶち殺す!


「落ち着け。お前がそうなる気持ちは激しく分かる。だが、お前は仮にでも俺とミストを率いるリーダーだ! もう少し頭を冷やせ!」


 なっ、ハワード! お前は何で今の状況で冷静にいられるんだよ!


「離せ! 俺は喉かに暮らしていた皆の無念を晴らさないと気が済まないんだ!」


「頭ごなしに行ったとしても無駄死になるだけだ。今は俺達の故郷のような醜い犠牲が出る前に俺とお前とミストで犠牲者を出さないように魔物を殺すしかない!」


「ジャスティーさん達の故郷を壊した元凶である魔王は絶対に私達の手で滅ぼしましょう。だから、今はどうか落ち着いて下さい」


 故郷を失った今日。俺の気持ちは強く固まった。

 

 絶対にこの命に代えても魔王と魔物をぶっ殺す。特に魔王ルシス……お前がやった罪は俺の剣で滅多刺しにしてやるよ!

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