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第29話:僅かな希望へ

 これは二人の女の子が勇者ジャスティーに未来を託し、眼前と佇む一人の男を何とか食い止めようと死力を尽くす話。

 二人の内のアリーゼは補助を担当するミストを守る形で前方に赴き、両手に構えた短刀で素早く弾く。

 だが、物量の差で圧倒的に違いが出た結果アリーゼの短刀はじりじりと男の剣に押し出されていく。

 実力で負けていると悟るアリーゼ。押し込めば、勝てると判断した男は女が相手であろうとも容赦無く続行。

 そこに無数の強大なる炎が空中に浮かんでいくと真っ先に男の方へと向かっていく。

 男は追撃をすぐさま中断。二転三転と常人では難しい動きを難なくやり遂げ後退してみせる。

 

「ふんっ。二人相手だと少々手こずるな」


「あんまり自分達を舐めないで下さいっす」


「勇者の仲間だと簡単には殺せんか。だったら、こちらも本気で殺ってやるとしよう」


 刀身に溜め込まれる黒い邪気。アリーゼはただただ緊迫の想いで武器を握る。

 この男は巡りあった人間そしてどんな所にでも出没する魔物よりも確実に強い。

 一つでも手を抜けば間違い無くゲームオーバーだと。息をゴクリと鳴らすアリーゼとは対照的にミストは青ざめた表情で男の持つ剣を見つめる。

 誰一人として言葉を切り出さない空間に置いて、男は刀身から黒い邪気を二人に見えるよう存分に振り回すと一気に地面を駆け抜ける。


「せめて、苦しまないようにしてやる!」


「死ぬつもりは全く無いっすよ!」


 物量では圧倒的に不利な場に立たされるアリーゼはそれでも短刀を投げ捨てる事は無い。

 震えた声で叫ぶアリーゼと淡々とした態度で黒い邪気を纏う青い剣に豪快に振るう男。

 そしてアリーゼを補助する努力を惜しまず、自分の持てる最大限の魔法技で時に男を翻弄していくミスト。

 二体一という端から見れば、二が勝てる状況下に置いても男の方は悠然とした態度で両者を叩き潰す。

 

「うぐっ!」


「所詮は勇者より劣った兵士。闇の力を抱きし俺に叶うはずも無い」


「そんな事……やってみなければ分かりません!」


 負けじと応戦していくミスト。あらゆる属性魔法を全身全霊でぶつけていこうとするも全ての攻撃を青き剣で弾き飛ばす。

 それ所か男は一瞬にして距離を詰め寄りミストに強烈な一撃を加える。

 


「口先だけとは。憐れな女だ」


「調子に乗るなっす!」


 背後から奇襲を仕掛けるアリーゼ。それに対して男はくるりと振り向きざまに強固な一閃で対応。

 ぶつけられた短刀は大きく火花を散らして、場外へと転がっていく。

 そこを隙と突いた男はすかさず刀身をアリーゼの顔に狙いを定め追撃を加えようと一撃を突く。

 男の顔は完全なる殺意。アリーゼはたまらず目を閉じる。


(すまないっす。約束はどうにも果たせそうにないっす)


 武器を失い、死を覚悟したアリーゼは約束を破る事に申し訳無い気持ちを抱きながら男の突く刀身に目を瞑る。

 真っ暗な視界で沈んだ空間。そこに強烈な痛みは……まだ襲ってこない。


「あれ?」


 普通なら、もう身体が血だらけになっても何らおかしくない瞬間。

 いつまでも来ない痛みに両目で閉じていた視界をゆっくりと開けていく。

 そこには目と鼻の先にある刀身。少しでも僅かな距離で近寄れば出血は免れない。

 しかし、男の手は止まっている。両手と両足に縛られた鎖に動きを止められているようだ。


「アリーゼさん。早く……逃げて!!」


「うっ!」


 間一髪で助けられたアリーゼはミストに感謝しながらも後ろに大きく後退。

 同時に鎖を呆気無くぶち壊す男の刀はミストの身体を貫く。


「先にお前からだ。補助魔法で邪魔されるのも厄介でしか無いからな」


「がはぁ!」


 男に貫かれた場所は心臓付近。しかし、激痛が走る事に変わり無い。

 ありったけの血みどろを大量に吐き捨てるミスト。視界が安定していないのか瞳をぐるぐると回す。

 アリーゼは重体寸前のミストを助けようと一目散に走り寄っていく。

 だが、そんな肝心な場面でどこかから一斉に遅い来る新たな魔物達。


「どうして! こんな時に邪魔をするなっす!!」


「まずは一人目だ。己の無念を刻み付けろ」


 地面に転がった短刀を素早く回収し、遅い来る魔物達の相手を仕方無く相手するアリーゼ。

 助けたい仲間が居るのに助けられない状況。ミストが今にも失う。

 関わり合いの深い勇者ジャスティーと違って、僅かな期間でしか旅を共にしてないアリーゼでさえも一時的に共に歩んだミストを亡くすの非常に胸が張り裂ける想いがあった。

 男は孤軍奮闘しているアリーゼを横目でちらりと窺うと重体寸前のミストに近寄っていく。


「憐れな末路だ。勇者ジャスティーと旅をした事をあの世で悔やむが良い」


「悔やみません。あの人はうじうじしていた私を何度も助けてくれた恩人ですから」 


 代々家系の血として教会の神父の手伝いとして小さい頃から否応無く手伝わされたミスト。

 12の頃から通っていた学校のお友達から遊びを誘われても拒否するのが彼女の定め。

 当然、遊び相手も無視され仕舞いには誰からも相手にされないミストはある日を境に父と喧嘩を起こして外に飛び出す。

 不用意に飛び出した野原の先に居たのは我先にと詰め寄る魔物。ここで死ぬんだと覚悟したミスト。

 そこに二人の男性が駆け付けた。


「おいおい。そんな所で殻に閉じ籠るなんざ正気じゃねえな」


「そんな事を言ってる場合かよ! さっさと魔物をぶっ倒して彼女を助けるぞ!」


 一人は面倒臭いのか青髪を掻き立てて渋々と得物である弓と矢を構え出す。

 一方でもう一人の男性は立派な剣と朝日に照らし出す太陽と似たような色合いを持つ綺麗な橙色で我先にと得物を持って先導。

 

 戦闘は呆気無く終了。

 

 無理無駄の無い戦闘で鮮やかに終わらせた二人に疲れの顔は見えない。

 それどころか青髪の男性は気だるそうに欠伸を出している。


「ふぁぁぁ。何だって真夜中に女の子が逃げ込んでいるんだよ。もしかして死にたがりか」


 首を振った。そんな勘違いをされるのは心外で原因は別にある。

 面倒臭さそうにしている男の第一印象は関わりたく無いかつ余り喋りたく無いだった。

 対してもう一人の橙色の男性は青髪の男性の言葉を無視して、魔物の出没に腰を抜かしていた自分に手をゆっくりと伸ばす。

 

「立てるか?」


「あっ、すいません。ありがとうございます」


 顔の輪郭からしても年が一緒かは現時点では不明。しかし助けられたミストはぺこりと橙色の男性だけに頭を下げる。


「あの……本当にありがとうございました。お陰で助かりました」


「良いって良いって。それよりも何でこんな場所に居たんだ? 普段この真っ暗な時間から魔物の出没を考えて、家に籠る時間帯なのに」


「ごめんなさい……反省しています」


「何か訳ありだな。俺さえ良ければ話を聞いてやるぞ。無論他言無用で貫き通してやる」


 この人なら私の話しを聞いてくれるかもしれない。僅かな希望を胸にミストは橙色の男だけに聞こえるように詳細をつまんで話していく。

 一方で相手にされない青髪の男性は罰の悪そうな表情で周辺に魔物達が近づいてこないか索敵役に徹した。

 

 正直話せる相手が橙色の男で心底良かったと思うミスト。

 

 逆にあの感じの悪い男と話し合いに持ち込んだとしても、緊張感が高まって余計に喋る事が出来なくなる恐れがあった。

 家族の喧嘩で家を出たという場面ではふっと笑う橙色の男。真面目な話をしているのにも関わらずである。


「悪い悪い。俺も君と似たような経験をしていたからつい笑ってしまった」


「私と同じ……なんですか?」


「君よりも小さかった頃、些細な事で父と揉め合いに発展してな。家を飛び出した俺はゴブリンに教われそうになったんだが……そこに颯爽と駆け付けたアーストは滅茶苦茶格好良かった。今はもう亡くなっているらしいから、次に息子のハーツに会えたら俺の仲間に……って話が逸れすぎたな。まぁ、俺から一だけ提案ある。勿論断ってくれても結構だが」


 塞ぎ込んでいるミストに笑顔で見つめる橙色の男。顔が紅潮しそうになる。

 教会を経営している父にキツイ言動を繰り出され、母の何言わぬ方針に疲れが溜まっていたミストにとって橙色の髪をした爽快感を駆け抜ける男性は救いの神に匹敵する存在。

 この後の言葉が更に拍車を掛ける。


「俺はジャスティーって言うんだけど、そこで索敵をしてくれているハワードと共に魔物退治の旅に出てみないか? 見た感じ、俺達の補助役にぴったりそうだし」


「えっ?」


「あっ……やっぱり駄目か?」


 ハワードという男性は遠くから聞こえていたのかミストが仲間になるという事に拒絶している様子。

 それをジャスティーという橙色の髪をした青年がなだめている。

 仲間として誘いを持ち込まれたミストは両親にどう言うべきか思い悩んだが、今ここで街に戻れば再び教会の手伝いとして辛い日々が続くだけ。

 だったら自分を変えてくれるかもしれない青年ジャスティーと共に旅をした方がよっぽど良いのでは? 

 ミストは気持ちを切り替えて、意を決した様子で手を伸ばす。その顔は気迫に満ちた顔でハワードでさえも黙り込む。


「お前……本気か?」


「はい。私はいつだって本気です。やる時は徹底的にやらせて貰います!」


「へっ。その答えを密かに期待していたぜ」


 ジャスティーに想う淡い恋心。いつの日か家族として結ばれればと……しかし、それは唐突に終わる。

 アリーゼと目を合わせ、若干照れているジャスティーを見て。

 もう叶わない恋であれば自分から切った方が良い。

 無事魔王の退治が終われば、未だに和解していない両親と話し合える……そして、ジャスティーとは顔を合わせなくても済む。


「さようなら」


 旅を共にして、補助役の担いとして魔法を沢山覚え込み道中ジャスティーと当初は猛反対していたハワードを影ながら支えるミスト。

 その旅に悔いは全く無い。強いて言うなら……


 喧嘩で不意に飛び出し、ジャスティーに会って以来疎遠状態になってしまった両親との仲直りが出来なかった事に。


「ふっ。ふははははっ」


 身体を貫通させた青き剣。引き抜く事とそこに寝転がる彼女の意識は無い。

 堪らず笑みを溢す男と魔物を全て薙ぎ倒し、いざ助けに行こうとして間に合わなかったアリーゼの叫び。


「さぁ。最後はお前で終わらせ……何!?」


「はぁ……はぁ。行って……い」


 血にまみれた身体で油断していた男に抱き付くような形で氷付けにするミストのか細い言葉。


「この野郎」


 行けと言う無言の圧力。決死の覚悟で男を動かせないように縛り付ける彼女の想いに呼応はするかのようにアリーゼは明後日の方向へとひた走る。


「今から行くっすよ! ジャスティー!!」


 その奥に佇む、暗闇の混沌とした城を目指して。

次回、二つの最終回をお送りします。ここまでご愛読頂いた全ての読者に感謝を、、

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