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第27話:正義の再確認

 俺は勇者ジャスティー。魔王ルシスが待ち構えるイグナイテッド王国へと足を進めていく中で、ふと思い出に浸るのは何故だろう? 

 きっと終わりが近いからだろう。

 

 そうに違いない。そう思わないとやってられない。


「あれ?」


「どうかしたっすか?」


 足は自然と草原にぽつりと目立つように存在を主張している大木の前に止まる。

 触れた感触はただだだ固くてずっしりとしている。

 だけど、そこから微かに懐かしい思い出が脳内に流れ込んでいく。

 確か、あの頃はハワードとの二人旅で各地を転々と回っていたっけ? 魔物の完全討伐と希望に満ち溢れるであろう平和。

 最初に村を出ていこうとした時は父に大反対されていた訳だけど、正義感に溢れていた俺は話を聞かずに出ていった記憶が残っている。


「本当に行くつもりか? 今なら、まだ間に合う。魔物退治なんて他の者に任せて、私の家業を継ぐんだ。そっちの方がお前にとってーー」


「父さんには分からないだろうが……今も苦しんでいる人達を放置して、自分だけ蚊帳の外でのこのこと生活を営むなんて俺には到底出来ない」


「そこまで決意が固い理由は何だ? 父さんに、納得が出来る理由をくれ」


 村の外に広がる壮大なる草原。小さい時から外には絶対に出るなと言い聞かされた俺は子供心が災いして、周りの大人に見付からないように村を抜け出していた。

 抜け出すと周りに広がる草原に目を輝かせて走り回る。無邪気過ぎた俺に危険という文字は存在しない。

 そんな時に不意に出現した二体のゴブリン。彼等は全体が緑色の身体でカタコトながらも尻餅を付いている俺に近づく。

 何を言っているのかが上手く聞き取れなくとも分かる思考。

 

 きっと俺を捕食しようとしているのだろう。

 

 目の前に浮かぶ出来事に俺はただ反省していた。こんな事になるのなら父の言い付けを守るべきだった。

 これは言い付けを守らなかった報いなんだって、勝手ながらに悟りを開いた。


「マイゴ……」


「オウチニツレモドソウ」


 怖い怖い怖い。いやだ、いやだ。死にたくない!


「そこまでにして貰おうか、下等生物!」


 諦め掛けながらも死にたくないという矛盾した願い。目に涙を流しそうになった時に背後から一筋の剣が音速を持って振り下ろされる。

 驚いて振り向いたゴブリンは瞬く間に真っ二つにされると、緑の液体を吹き上げながら倒れ伏す。

 

「立てるか、少年?」


 大きくて、とてもごつい手。掴み取ると暖かい感触が確かながらに伝わる。

 俺の無事を確認して一安心する目の前の青年は安堵するも、すぐに表情が切り替わる。


「駄目じゃないか……こんな場所に来たら。君は何で大人の言い付けを守らなかったんだ?」


 観念した俺は洗いざらいに事の次第をぶちまける。すると、聞き耳を傾けていた青年。

 話に相槌を黙々と打ちながらも最後まで聞くと肩に優しく手を置いた。


「今回の事で色々と分かったと思うが、魔物という奴は我々人間に容赦無く牙を剥く。私が運良く居合わせていたから良かったが……最悪の場合、君は死んでいた。そうすると君に忠告していた両親がどうしようも無い涙に暮れるだろう。今日は私が家まで送ってあげるから今回起こした問題は君自身で反省しなさい」


 不謹慎ながら、俺は思う。死を前にしていた光景に颯爽と駆け付けてやっつけた目の前の青年が格好良く映っていた事。

 俺も大きくなったら、こんな人になってみたい。そう……剣を振るう剣士って奴に。


「あの……名前は?」


「名前を聞く前に自分から名乗るもんだぞ。それに最初に聞く前に君は私に対して言わなければならない言葉がある筈だ」


 ええと……何だっけ? 最初に俺は助けられたから言うべき言葉は。あっ! そうか。


「ありがとう」


「そうそう、それ。私に限らず、礼はきっちりとしておくんだよ」


 それからは互いに自己紹介を交えると判明する青年の名前はアースト。

 世界に未だに蔓延る魔物を討伐しながらも大陸の中心地に位置するイグナイテッド王国の王様に仕える勇者をしているらしい。

 道理で無茶苦茶強い訳だ……と、同時に強い憧れを持ち始めた。こんな風に剣を振るい困っている人達をがむしゃらに助けたい。

 力もまだまだ無い俺がこの先どうなるのかなんて神様でも知りもしないだろうけど、それでも俺はいつか皆から希望の光として一目置かれたい。

 実現出来るかなんて、全く持って分からない……けど。


「なるほど。それで、君は外に飛び出して来たという訳か。随分と無茶をしたな」


「あんな風にしつこく言われたら、行きたくなるから当然だよ」


 まだ初対面だと言うのにアーストにべらべらと事の次第を話す俺に呆れた表情を浮かべながらも聞く耳を立てている。

 村の方に連れていかれるのではと思っていた俺は観念して戻ろうとした矢先、別の方向に指を指して歩き出していく。一体どこへ連れて行ってくれるのだろう?


「まぁ、大人の言葉に耳を傾ける程純粋にはなれないのは痛い位に分かるよ。私も昔から忠告されると無性に逆らいたくなって反抗していたし」


「ええっ!?」


「驚いたか? 私も実は君と凄く似ているという事に」


「見た感じ、礼を重んじる青年に見えたので真面目な人だと思っていました」


「ふーん。別にそこまで真面目でも無いよ私は。暇あれば、すぐに睡眠したり適当な場所をぶらぶらとしたりするから……どちらかと言うと自由人に近いかもしれない」


 互いが互いにプライベートな事を話し込んでいると正面にとても大きな大木が草原の中心? かは分からないけど主張するかのように立っている。

 弱い風ながらも葉っぱが揺れている大木に近付いて木の部分に背中を預けるアーストはこっちに来いと手招き。

 

「この木は不思議と魔物が近付かない。理由は知らないが何か固い守りが張ってあるんだと思っている」


「何か落ち着く」


「良かった、良かった。今日ここに連れてきたのは成功だな」


 そう言って剣を見せ付けるアースト。灰色の髪と不似合いの青い投身はどこまでも鋭く、何人足りとも傷が付かない位に頑丈そうな剣。

 それでいて繊細な形をしている剣をじっと眺めるアーストの表情は固い。


「本来なら私も身を引かねばならない時期になっているんだが、今も苦しんでいる人達を見ると……やっぱり勇者として足を止められないんだ」


「どういう事?」


「事情を話しても良いが、余り言い触らすなよ?」


 口止めの口実として指切りを勝手にされる俺。指切り元万の後の針千本飲ますの時に吐く言葉は背中に悪寒が走る程に怖い。

 アーストなら冗談抜きで殺りかねない。


「生まれつき心臓の病でな。お医者さんから剣を振るうのは止めろと苦言されているんだ。全く……結婚して、晴れて君くらいの年の子供が居ると言うのにあんまりだよ」


「俺と同じなんだ」


「名前はハーツ。君と違って、酷く人見知りな所があるんだが君が上手くリードしてくれば……良い友達になれると思うぞ。ただ、俺は運命に逆らえないから妻と子供を残して死ぬ。こんなご時世で死んだら、後が心配で気が気でならないよ」


 魔物が蔓延している世界。村の爺さんの言葉では、確か魔物は動物達の食物連鎖? とか言う難しい言葉から突如起きた急激成長から成り立ってしまった悪魔の生物と言われているようだけど。

 確かにあの見た目はちょっとグロテスクだ。魔物はどれも草原で歩き回る生物とは容姿がかけ離れているし、中には顔が非常に怖くて獲物を狙わんとばかりに徘徊している奴等も存在する。

 こいつらを倒すにも武器と魔物に対する知識が必要だけど、魔物を倒して報酬を手にして営む剣士であろうが、魔物は数は一向に減少する事無くむしろ増加傾向にある。

 だからこそ、爺さんから話を聞かされていた俺はより一層剣士としての道を志そうと。


「君がもし、剣士としての道を歩むのなら親としては止めるだろう。それでも、目指す意思が固いのなら……君なりの正義を教えてやれ」


「正義?」


「君の中に眠る熱い心だよ! ただ、それで上手く成功するかは自分自身だと言う事を忘れるなよ!」


 初対面でありながら長い時間まで付き合ってくれたアーストとの貴重な時間。

 あの時に教わった言葉……正義という意味を噛み締める。

 そして時間が一気に引き戻され、今真正面に固い表情を浮かべている父に言い正す。


「魔物を根絶して、皆が笑い合える世界を目指す! その為にも俺は誰からも慕われる最強剣士の称号勇者を掴むんだ!」


 誰が言おうとも考えを変えるつもりは一切無い。言葉一つで静まり変える空間。

 まさか、駄目だったのか? 説得が上手くいっていないと思った俺は内心落ち込むも、やがて父の方が口を開けた。

 半ば観念したかのように。


「はぁ。分かった、分かったよ。お前がそこまで貫き通す意思が固いのなら、やってみなさい。但し、勇者という職業は命の危険に晒される可能性がある以上取り返しの付かない事になる事。これを肝に命じておきなさい」


「あ、ありがとう父さん。」


 それからはすぐに旅支度をして、勇者としての道を目指す頃から目をつけていたハワードを何とか説得。

 12の頃から魔物退治を生業として生活していた激動の日々から一転して王様に勇者としての称号を与えられた20歳。

 今もこうして、いつの日か魔物を根絶する旅を歩んでいる。だが、俺の人生で取り返しの付かない事態を招いた。

 それは……ハワードという男友達の中で気兼ねなく話し合えた誇り高き友人。


「この大木を見て、ハワードは優しい温もりを感じるとかあいつにしては随分と不似合いの言葉を言ってたな」


「へぇ。ハワードもキザな所があったんすっね」


「それ馬鹿にしてるだろ」


「いやいや、全然馬鹿にしてないっすよ」


 全力で手を横に振っている以上わざとでは無いのだろう。まぁ、もしハワードが今の言葉を迂闊にも聞かれていたらアリーゼの頭はぐりぐりにされていたかもしれないと思うと笑える。


「大木があるとなると、目的地に近いですね」


「さぁ、準備は良いな? 休憩は終わりだ」


 向こうに見える大きな建物。あそこの中では魔物共と人間の破滅を目論む魔王ルシス。


「魔王を倒した後はどうするっすか?」


「どうするも何も魔物討伐だろ。魔王は世界の破滅を急速に進行させるだけ迷惑な異物だからな」


 そう。魔王を倒した所で世界に平和なんて訪れない。倒したとしても一定の平和。

 本当に俺が望む平和は人間と生物だけが共存して暮らしていく豊かな生活。 

 俺が剣を捨てる日はまだまだ先になりそうである。


「ふ~ん。だとしたらお別れになるっすね」


「お前が良いなら、これからも付いてきてくれ。何だったら半分雇ってやるのも良いぞ。どうせ、魔物ハンターと言っても生活安定しないんだろ?」


「うぐぐっ、痛い所を突くっすね。確かに私の身分では大した報酬が無い任務がざらにあるっすけど」


 満更でも無い表情を浮かべているから、交渉次第で付いてきてくれるかも。


「ミストはどうする?」


「私は……その、お二人方が良……やっぱり、これからは自分の街に戻って神父の仕事を引き継ごうと思います」


 そうか。ミストも元々神父の手伝いを嫌々そうにしていた時に半ば連れ出した子だからな。

 そろそろ、父の仕事を引き継ごうと思っているのだろう。だったら俺が止められる道理は無い。


「お前なら良い女神さんになれるかもな。今度暇があったら訪れるよ」


「その時は何かご馳走しますね」


「おう。期待している」


「それじゃあ、行くとするっすか?」


 見ていてくれ。俺の決意を。この白き刃で虚悪の根元を断絶する!

 

「行くぞ! この戦いで、魔王を打ち倒し王国を奪還する!!」


「(はい!)っす!」

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