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第25話:これで計画通り

 私は魔王ルシス。イグナイテッド王国は今を持ってして制圧下に治めた……が、最後の関門が私の試練として出現した。

 青き剣を構え灰色の髪を持つ男ハーツ。人を誰も信用しない目付きだけが私の瞳に深く刻み込まれていた。

 そう言えば、洞窟の時に始めて会って以来再会していなかったが……こうして会えたのも奇跡だろう。

 どうも、自分の心臓の病の治療費とやらを稼ぐ為だけに私の命を執拗に狙っているようだが。

 話の耳さえ傾けて頂けば、今すぐにでも心臓を直してやれるのに。

 ここは力でねじ伏せてやるとしようか。抵抗次第では手加減出来ないから、悪く思わないでくれよ。


「まずは貴様の足を削ぐ!!」


 良い判断だ。足さえ削ぎ落としてしまえば、どんな奴でも身動きが取れなくなるからな。

 ただ、人間の考えとして酷く冷徹だな。多くの人間は身体の中心に傷を持っていくように話を持っていくのに。

 疾風と呼んでも良い程の素早い斬撃に時には太刀で受け流し、壁に追い込まれる前に反撃の一手も加える。

 しかし、それなりに場数も踏んでいるのか奴の動きは尋常に無いくらいに機敏。

 これは……久々に私を心の底から楽しませてくれそうだ。やはりハーツは私に新たな右腕として何としてでも置きたい。


「洞窟の時よりも動きにキレがあるな。私を殺す為だけに、随分と鍛えたようだ」


「悠長に喋っていられるのも今の内だ」


 剣を振り払っただけで何体もの分身を呼び出したか。これでは、どれが本物かさっぱり分からない。

 全員丁寧に相手をするにも、一人一人が強いせいで骨がかなり折れるだろう。

 やれやれ。手っ取り早く終わらせておきたかったのが本音なのだが。


「くたばれ!!」


「ふははははっ! そう簡単にくたばる程魔王は弱くは無いのだよ!」


 俊敏な動きで追い込む分身の一体一体をお相手。さっきは奴にあれほどの啖呵を切ってしまったが、流石さすがに数で押さえ込まれると私の力も上手く発揮出来そうに無い。

 どうにか数だけでも減らして叩き込む隙を。ハーツがまともに隙を見せる保証なんてどこにも無いが、背中を見せれば私の勝利はすぐそこだ。

 数で攻め込む状況を私は太刀だけでふるい落とす。一転して有利に出来たと思っているようだが、残念。そんな技で殺せる程弱くは無いのだ。

 それにしても、攻撃の手を緩めるつもりは一切無いか。では、こちらの方でも手を打たせて貰うとしよう。


「一瞬で終わらせただと!?」


「まだまだ、これは序の口。落ち込むには早すぎるぞ?」


 分身の数は8人。相手をするにも非常に体力を消耗する……普通の人間なら。あらゆる力を逸脱した私にはそのような茶番は一切通用しない。

 たかが本体よりも性能が劣化した分身なら攻撃のパターンは常に一定。

 動きを程良く観察していれば、叩き潰すのにそう手間は掛からない。


「一方的にやられるも癪に障るな。そろそろ、君を本格的に黙らせるとしようか!!」


 間合いを詰めるのは一瞬。呆気に取られた顔を浮かべているハーツに縦の一閃をなぞる。

 どうにかして直撃だけは避けまいと寸での所で身を翻したようだが、片方の肩に赤い鮮血が吹き出したようで。

 形勢はこちらの方に回ったか。これで、奴の力も弱まるだろう。

 肩に傷を受けては本来の力も引き出せまい。


「ぐっ。これくらい……耐えれば」


「我慢比べか」


 形勢逆転。肩の傷を受けて歯軋りするハーツに怒濤の斬撃を振り下ろし、幾つかの壁に刀の傷を付ける。逃げる方に回ったか。

 それでも、私の手を緩めるつもりは無い。逃げるなら飽きるまで逃げ回れば良いさ。

 

「仕上げに入るとするか」


「ここで終われるか!」


 交差する閃光。激しく争い、一瞬の隙でさえ死を招く攻防戦に置いて私達は怒濤の戦闘を繰り広げる。

 ハーツは青き剣を持ってして、地を駆け巡り素早い動きで翻弄。

 一方の私は一撃でねじ伏せる威力を間合いを図っては振り落とす。

 時間が経てば経つほどにじりじりと体力が奪われていくのはお互い様で一向に終わりが見えない程に面倒な物はこれ以上にあるだろうか?

 やれやれ、この男はどれ程私を楽しませれば済むのだろうか。

王国を制圧し父を無情にも殺したザルバトーレを始末し、いよいよと言った所で……

 

「はぁ……はぁ」


 汗が垂れてきたか。それに胸の辺りを押さえている所を見るに戦闘に入るにも限界。

 さてと、私の一手で楽にして差し上げよう。君はこれから私の右腕として理想郷の重要な柱として役立って貰うのだから……


 永遠に生きる生物として。


「終わりにしよう。廃れた人間としての存在を」


「なっ、何をーー」


 邪王獄龍斬。対象の範囲内に黒い龍の咆哮と共に絶大なる斬撃を浴びせる最強最悪の技。

 これを受けて生きている奴は今まで誰一人存在しない。しかし、今回に置いてはわざと威力を弱めておいた。

 貴重な戦力は殺さず、こちらから懐柔するに限る。ハーツの狙いは何度でも言うが、自分の……命。

 つまり、私が圧倒的有利な立場に立った時に命を救ってやると提案すれば目の色が一転して変わる。

 そこで、奴は私の案に乗る形で事実上懐柔されるという訳だ。野望を為すべき事ならあらゆる物をも利用する私は天才だな!我ながら実に……素晴らしい!


「がはぁ。くそっ、俺は……こんな所で終わるのか」


「まだ死にたく無いのなら、私の言葉を良く聞け」


 睨み付けながらも青き剣を落としたハーツ。流石に空気を読んでくれたようだな。まぁ、当然と言えば当然だがな。

 散々身体を痛め付けられている状態で反撃の一手を緩めない奴は余程の死にたがりでしか無いのだから。


「お前の心臓? で間違っていたらすまないが、状態を見る限り残りの余生もそれ程無いだろう。だから、私が代わりに君の命を救ってやる」


「どういうつもりだ? 一体何の狙いで敵である俺を救う?」


 それは、勇者一同に殺されたカリスと裏切ったレンゲルとブレイドの戦力補充並びに同胞達に置いて圧倒的な立場として称えられる存在を置いて置きたいからだよ。

 と、直接言っても良いがオブラートに包んでおくとしよう。そういう企みは魔王である私だけが握っていれば良い。

 

「お前の強い意思に引き込まれた。命を救う代わりに私の右腕として、その青き剣を世に知らしめてくれ」


「交換条件のつもりか」


「そうだ。お前が首を縦に振ってしまえば、その僅かな命を永久に伸ばせる。その代わりと言っては何だが……私の元で尽くしてくれ」


「……なるほど。そう来たか」


 さぁ、どうでる? 命を欲しているだけなら、この条件は喉から手が出る程に欲しい筈。

 次に返ってくる反応が実に楽しみだ。心の中に眠る闇を隠しつつ戦意を失っている彼に手を差し伸ばす。

 しばらく沈黙の時間が過ぎ去る中でハーツは決心が付いたのだろう。

 答えとして差し伸ばした手を掴む。これは言わずとも交渉成立。

 くっくっく……これで私の使える駒は新たに増えた。ふははははっ! 実に愉快! 今、私の思うがままに風が吹いている!


「では、早速お前の願いを叶えてやるとしよう」


「難病をもう治すつもりか?」


「お前の病気が何であろうと私の魔法に掛かれば全てが無に期す。それ故に代償が一つだけあるのがネックになるだろう」


「代償?」


「人間という存在から切り離され、新たな生命体として生まれ変わる……分かりやすく言い換えれば魔物。私に慕う同胞達と同じ存在になるだろう。今更言うのもあれだが、本当に後戻りが出来なくるぞ。それでも良いのかな?」


 それでも、お前は首を振る。自分の命に何よりも誰よりも執着しているお前なら。

 嘘を吐かずに全て正直にありのままの真実を告げる私の答えに予想通りハーツは首を縦に振った。

 そうか、そこまでして助かりたいのか。ならば遠慮無くやってやろうではないか。


「少々痛みが伴うだろうが辛抱していろ」


「痛みなら耐えてやる。それよりも、やるならやるでさっさと終わらせてくれ」


 儀式の承諾を得る事に成功を収めた私。すぐに儀式を執り行う。内容としては対象人物に星形の魔法陣を精製。

 それから、儀式の最中に来るであろう強烈な痛みから逃げないように鎖などの固定魔法で完全固定。

 後はなるべく苦しませないように人間という存在から分離して、私の中に眠りし闇の力を混入。

 上手く成功すれば疑似の心臓が形成されハーツは新しい力と共に唯一無二の存在として生まれ変わる。

 逆に失敗すれば身体は闇に飲み込まれ、蒸発する形で消滅。はっきり言って成功する確率は半々。

 だから私は最初に必ず成功するとは一言も言っていない。それは彼も理解している筈。


「ぐっ! あぁぁぁぁぁぁ!」


 かと言って、ハーツだけに痛みが伴うだけではない。無論私にも、その代価はじりじりと押し寄せている。

 私の中に眠る力を送り込むのは人間で例えるなら、血を抜かれているのも同義。

 この状態をいつまでも続けていれば、いずれ私の方でも不調を起こすだろう。

 しかし、諦めが悪い私に撤退という文字は存在しない。実行した限り、結果が見えるまでは付き合ってやる。

 言い出しっぺの本人が無様に逃げるなど魔王がする事では無いのだから。

 だが、力を抜かれていく内に意識が朧気にもなってきた。最悪の事態も想像する必要がありそうだ。

 ペース的には順調。後はハーツの身体に変化が起これば、この苦しい儀式も終われる!


「ハーツ、痛みを乗り越えろ! お前が目覚めれば、究極の力が手に入る! 無論命すら気にする事が無い最強の身体も取り込める!」


 だから、乗り越えてみせろ。私の優秀な第二の駒となる新たなる……ブレイドよ!!


「ぐっ。うおぉぉぉぉぉ!」


 そうだ。それだ! その意気で目覚めろ。お前は真なる存在として生まれ変わるのだ!

 不思議と痛みが消え去りつつある私の願いに呼応するかのように今まで闇の力を口から取り込んでいたハーツは叫びを止めて、静かに目を閉じる。

 時を経て、魔法陣が自然解除されると同時にハーツの瞳は大きく見開かれる。

 その瞳は今までの赤から大きく変わって紫色となり、以前の姿と共に更に人を寄せ付けない雰囲気を身に纏っている。

 正直、これ程までに上手く成功するとは思ってもみなかったが……今現実問題、彼はこうして新たなる存在として生まれ変わった。何とも喜ばしい限りでは無いか。


「ハーツ……いや、ブレイド。新たなる生命体としてお前には新しい名前を刻もう。これからは私の右腕となって力を存分に振るえ」


「あぁ。貴様の右腕として生まれ変わったこの力で障害となる物は全て叩き潰してやる。それがお前と交わした交渉……だからな」


 では、そろそろお待ちかねの計画を進めていこうでは無いか。私の最終計画がこれで計画通りに進行する。

 もはや誰にも止められる事無く、世界は……我々の手に墜ちるのだ。


「くっくっく。 ふはははははっ!」

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