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第21話:もはや、この流れには逆らえまい

魔王の本格進軍。勇者は止められるか?

 私は魔王ルシス。万が一の際に敵が侵入してきた際には魔王の部屋に誘導するようにしてから、じわじわと殺せとギャレンに言い残している。

 だから、そう簡単に私の城が撃ち落とされる心配も無い。これまで王国側の連中とそこらの討伐団を完膚無きまでに倒している以上、それ程の強さを兼ね備えた奴が来る可能性は……

 いや、勇者ジャスティーが強襲してくる可能性も考慮すべきだったか。

 奴は私の駒の一つであるカリスを殺してくれたしな。もっともカリスを殺ったのは弓使いのハワードと聞いているが。


「まぁ、ギャレンが居る内は大丈夫だろう」


 どんよりとした雲の中で顔の方に強烈に吹き付けてくる風。引き連れた同胞達もそこそこに私の足は大本命であるイグナイテッド王国の門を見つめる。

 今回ばかりは兵士も随分と手数が増えていてる上に強そうな連中が周囲を警戒している。

 前回のように潜り込むには無理があると言うことか。


「だが、所詮は首を見せびらかしただけで頭を下げた雑魚の王様。最終フェイスに移行した計画を止める事など、最早誰にも不可能」


 計画の最終段階。それは大陸の中心地にあるイグナイテッド王国の占拠と街の中でのうのうと生きている全人間の抹殺。

 それからは王国を第二の拠点として全ての魔物達に大陸中にある都と村の全ての占領を指揮。

 状況が落ち着き次第、父が為し遂げる事無く無念に死んでしまった弔いとあの日に失った私が理想郷であるエデンの設立!

 それで、私の思い思いの国がようやく叶う事となる……が、厄介な障害は確実に存在する。

 まずは勇者ジャスティーとその仲間。ジャスティー自身は剣を得意とした戦士であらゆる障害を力で跳ね除ける。

 知略に関してはそこまででは無いと言う情報だが、奴は村を壊した私を酷く恨んでいる事だろう。


「とは言え、その行動をさせたのはお前なんだよ」


 エデンの里を燃やした際に来ていた橙色の髪をしている男を一瞬だけだが目撃している。

 あの特徴的な剣に随分としっかりしていた服装から考えても、かなりの手練れだったのだろう。

 魔王に君臨する前に橙色の髪の人物について情報などを洗いざらいに調べ上げた結果、私の予想していた人物である事が判明。

 勇者ジャスティー。恨むのなら自分が過去に仕出かした過ちを悔やめ。

 

「勇者ジャスティーの他には……」


 弓使いハワード。遠距離の視力は人並みに優れており僅かな動きをした魔物を瞬時に狙い撃ち。

 カリスも奴と同様に弓が使えていたらしいが、弓に関してはハワードが実力に関しては上手だったという事か。

 敵としては惜しい奴だな。

 どうにかして戦力の手駒として吸収出来ればなお良いが、勇者ジャスティーと行動を共にしている以上勧誘は困難を極めるに違いない。

 そうなると、ハワードはジャスティー同様に血祭りにして差し上げるのが無難か。

 残りのメンバーは魔法使いのミストと名前も存在も情報が拾われていない女。

 詳細不明な女と魔法使いはジャスティーだけを独立するようにして叩き上げれば綺麗に終われる。

 所詮は魔法でしか戦えない無力な女。詳細不明の女については落ち着き次第調べておけば良い。


「魔王様」


 はっ、いかんな。少々物思いに更けていたお陰で呆然と立っていたらしい。

 計画の終わりの実現を叶える為にも動くとしよう。


「私が前に進む。お前達は私に続く形で前進しろ」


 今日も今日として異様な輝きを誇る紫の長刀。紫色の長髪が自慢である私は得意とする武器を、片手でぶらさけながら前へと踏み込む事で相手側は予想通り警戒心を露にして一気に押し寄せる。

 瞬く間に流れ込む勢力に怯む事無く着実に無駄無く首を落としていく私。

 後ろから続いてきた彼等の奮闘を称えるべく計算通りの言葉を伝える。


「さぁ、物語は大詰めとなった! これからは誰が真の覇者か? 思う存分に分からせてやれ!!」


「おぉ!!」


 計画の初期はクリア。上手く順調に進めば私が王に改めて、交渉だけで首が折れるかどうかを確かめる。

 もし、不可能であれば残念ながら全ての民に本当の絶望をくれやろう。

 軽快な歩み。鍛えられた兵士を尽く切り裂く長刀。

 呻き声だけが広がる死体の山は私の勢力によって踏み潰されていく。

 そうして門を頑なに守る勇敢な兵士は私の手で消され、門の先にある街は時を待たずして制圧。

 思いの外、手筈通りに運びすぎて私の顔は不気味に笑っている。よしよし、城にお邪魔するとしようか。

 歓迎ムードとはいかないだろうが……


「この街の人間は跡形も無く殺せ。私の奏でる計画に置いて人間の存在は……不要でしか無いのだからな?!」


 父よ。貴方の想いはもはや違う物となっているだろう。人間と

魔物の共存なんては最初から叶わなかったのだ。

 だから、私は別の意思を持って父ルシファーの意思を引き継ごう。

 私がいや、願わくば全ての魔物達が笑い合って暮らしていける平和な理想郷を。 

 

「おのれぇぇ!」


 がむしゃらでひたむきだな。どんなに血塗れになろうが、私に楯突こうとする態度に精一杯の誠意を込めて……綺麗に逝かせてやるとしよう。

 さよなら名も無き一人の兵士よ。お前の死に様は永久に語られずに終わる事となろう。


「ふっ、哀れで儚い人生だったな」


 刹那、宙を舞う一つの物体は地面に着地すると同時に物音を立てて何回転も無情に転がっていく。

 一つの物体は偶然にも私を捉えている。


「滑稽だな」


 この状況下で王様はどうしているのだろう? まさか、私が再び来た事に絶望しているのかな? だとしたら、笑えてくる。


「止まれ!! ここから先は何人足りとも通さんぞ!」


 数は20。城に侵入させまいと全力で戦力を投下してきたか。

王様も必死になっているじゃないか。

 くっくっくっ、これだけ圧巻に揃えてくれると腕が鳴るではないか。

 魔王である私に歯向かうのであれば本気で殺ってくれよ。生半可な気持ちで挑んだ所で私の野望は止められないのだから!


「揃いも揃って必死じゃないか! そこまでするのなら、私に失礼が無いよう……たっぷりと楽しませてくれよ」


「全員掛かれ! この城を全力でお守りするのだ!」


 部隊の中心人物の一声で兵士は散り散りに展開。後方から追い掛けてきた同胞達の加勢を下がらせて私は単独で乗り込む。

 まずは近接戦闘を得意とする集団の始末。こういう奴等に対する有効な手段は守りでは無くて攻めの一点で抉じ開ける。


「邪王獄龍斬!!」


 黒き閃光は時を待たずして前方の部隊を無にして飲み込む。あっという間に戦力の3分の1となった部隊は怯えているかのような瞳で私を見つめる……が、一切の容赦はしない。

 私に歯向かった時点で既に敗北は決まっているのだ。お前達は潔く死んで行くが良い。

 せめて、苦しむ事の無いようにしておこう。


「ひ、怯むな! まだ活路はある!」


 活路はあるだと? ふはははははっ! こんな負け試合に勝利の機会が見えるとでも言いたいのか? だとしたらお前は相当の馬鹿だ。

 幾ら何でも、この状況で活路など見える筈も無いだろうに!


「妄言はそこまでにして貰おう」


 槍と斧を主体とした戦闘部隊。目に見えない残像で戦闘部隊の急所を次々と狙い込んで、始末していく事により残りの後方部隊の一部の者が悲鳴を上げて逃げ出していく。

 しかし、その逃亡も許されないのだよ。この街で生きている時点でお前の死は決まっていたのだから。


「ぎゃああああ! 助けーー」


 城の入り口に回り込んだパワーゴリアンの補食によって、足からバキバキと食べられていく光景は実に愉快。

 逃げ腰を取る君には最高にお似合いだ。パワーゴリアンも満足げにしているようで何より。


「あ、あぁ!」


 戦意を失った兵士を殺すのに、そう時間は掛からない。苦しまないように兵士一人一人を華麗に殺して差し上げた長刀の刃から血の匂いが酷く鼻にこびりつかせてくる。

 ポタポタと絶え間無く落ちていく血だらけの長刀を下に垂らしながら本命の城に突入。

 城は歓迎ムード所か静寂ムード。あれれ、魔王である私を盛大に祝わないとは一体どういう神経をお持ちなのかな?


「やれやれ、やる気の無い城だ」


 外に部隊を集中させたお陰で裏目に出てしまったな。王様にしては随分と抜け目のある作戦だと思っておくとしよう。


「さて、お邪魔するとしよう」


 藻抜けの殼でしかない玄関に続く長い階段を一歩一歩着実に伸ばす事で再び王様の視線が私と合う。

 ただし、その表情は完全に怯えきっていて王様の威風すら感じさせない弱者ぶりに周囲の兵士は呆れた顔を心の中で隠しながら城の侵入者である私に対して歓迎の刃が突き出される。

 実に愚か。まだ、この状況に置いて諦めを知らぬとはな。


「大した者だよ。君達は……だが、どれだけ私に矛先を向けるのはお前達で勝利をもたらす可能性は限り無く低い。何故なら、君達が仕える主君は私の圧力に屈服する程の底辺だからなんだよ!」  


「なっ! ふざけるな! 王様とあろう方が貴様のような低俗にあれこれ言われる事は何にも無い!」


「やれやれ、ならば身体の隅々まで手厚く……葬って差し上げようでは無いか」


 四方に取り囲むと一斉に取り掛かっていく連中。闇の力を迸る長刀はあらゆる攻撃をも無効にして全てを切り裂く。

 綺麗に分断された遺体に頭だけがさっぱりと飛んだ遺体に足を取られて仕舞いには呻き声を上げる遺体。

 

「ふはははっ、すまないな。お前達が余りにも目障りなお陰で本気で相手をし過ぎたようだ」


 まぁ、謝った所で死体が生き返る筈も無いだろうからさっさと本題に入るとしようか。


「お待たせしました、この国を治める王様であるザルバトーレよ」


 お前の首が縦に振ろうが横に振ろうが、私の命令に従って頂くとしようか。


「何がお望みだ?」


 その震えた顔で何と言われようが怯える気にはならない。寧ろ状況から考えて明らかに私が優勢。

 王様としての肩書きだけはさぞ立派な貴様には用が済み次第死んで貰う。

 どうせ、こんな顔だけ立派な王様など存在する価値は等しく無いのだから……な!


「この国を含む世界の掌握……ですよ。王 様」

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