表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/31

第20話:どうやら……してやられたようだ

幸先良いと罠に掛かりますよね~何故か

 俺は勇者ジャスティー。長くうざったらしい険しい道を何とか乗り越えると目的地は堂々と目立つようにそびえ立つ城が姿を現す。

 その城はイグナイテッド王国にある城よりもスケールが一回り小さいが雰囲気から押し出されるような異様で怖いオーラを解き放ってる様に俺でも息をゴクリと鳴らしてしまう。

 あそこに魔王が居るのだとすれば気合いを入れなければならない。

 どこかで手を抜いてしまえば確実に死を招く危険性が訪れる。


「城内に蔓延る魔物は」


 見えない場所で作戦決めをしておく。取り敢えず最初にミストの魔術で魔物を上手く錯乱状態にさせてからハワードお得意の遠距離射撃で一体一体を始末。

 それからは俺とアリーゼで残りの魔物を大方片付けてから合流してきたミストとハワードと一緒に城内に突入。

 なるべく離れる事が無いよう集団行動で動きながら魔王が居るであろう部屋へと突撃して一斉に仕留める。

 うん、これで上手くいくという保証は全く無いけれど、知略に関して自信が無い俺にしては我ながら良く出来た作戦だと言える。


「おいおい、緊張感が無さすぎだぞ」


「ん? そうか……そんなに顔に出てたか?」


「あぁ。自分にしては上手く考えられたって顔に書いてあるぜ」


 うわぁ、そんなに分かりやすかったのかよ。今度はばれないようになるべく顔を作っておくとしよう。

 結構正直者だから簡単に見破られてしまうけど。


「じゃあ、最初の初手を頼むぜ」


「はい。皆さんに迷惑が掛からないよう懸命にサポートします」


「ミスト、そんなに荷を積めるなよ。まだまだ作戦はこれからだから無理だと感じたら、直ぐに離脱しても良い。力ずくの戦闘は俺とジャスティーとアリーゼだけでやってやる」


「ふふっ。なるべくそうならないようにしますね」 


 無理をさせないようにと言葉を投げ掛けるハワードにふと微笑むミストは表情を一瞬で変え、決心が付いたのかこれまでに無いくらいに真剣な眼差しで城内に漂う魔物を全体的に観察してから杖を力一杯握り締める。


「ミストの補助は俺がやっておくか。ジャスティーとアリーゼは手筈通り上手くこなしてくれよ?」


 作戦を立案したからには責任を持って成功させてやるよ。こんな大事な局面で失敗するつもりは更々無い。


「気合いだけは充分っす。後は勇者ジャスティーが上手く導いてくれるかが鍵になりそうっすね。じゃあ大体の事はお任せするっす」


 人任せは良くないぞ。俺と同行しているからには役目通りにきちんとこなしてもらう!

 どれだけ四の五の言おうとも!


「……ちょっとした冗談っすよ、本気にならないで下さい。本当に怖いっす」


「たくっ、お前は頼れる存在なんだから、手は抜かないでくれよ」

 

 アリーゼが抜けるだけでも戦力として大幅に削がれてしまうんだから冗談は止してくれ。


「えへへ。何か凄く嬉しいっす」


 気のせいか? 随分と頬が紅潮しているような? そんなに頼られているのが嬉しかったのか……まぁ、俺がアリーゼの立場だとしても嬉しさが隠しきれないか。

 頼られているというのも悪い気が全くしないし。


「二人だけの空間は後にしてくれよ。今は目の前の事に頼むから優先してくれ」


 別に二人だけの空間は作ってはいないが? とは言え、こんな状況下に置かれているのに少しマイペース過ぎたな。

 さっさと突入計画を始めるとしよう。


「アリーゼ、付いてこい」


「了解っす!」


 軽快な返事で後に付いてくるアリーゼ。俺はこそこそと相手側から見えないよう障害物を盾に、上の方で魔力を高めているミストを見上げる。

 あそこの高さだと詳しくは見えないが魔力を使用する際に出現する魔法陣を展開し、空に干渉するように間接的に伝えてから落雷で魔物を何体かふるい落すつもりなんだろう。

 やがて、空はどんよりとした雲に包まれ一閃の光が地面を降下していく。

 

「サンダー・スパイラル!」


 打ち付けられた雷撃。避けるのは困難な技に魔物達は続々と倒れていく。

 その圧巻なる光景にガッツポーズをしながらも錯乱状態に陥った魔物をアリーゼと共に蹂躙。

 門の入り口を通すまいと遮る魔物はハワードが放った二発の矢で顔面狙いで敢えなく射殺。

 城の周辺を何とか振り払った俺達は後から合流してきたミストとやけに上機嫌なハワードと一緒に門を蹴破る形で突入。


「勇者だ! 絶対に生きて返すな!!」


 取り囲む魔物。特に大した実力も持っていないので俺にとっては雑魚でしかない。

 それよりも俺を歪ませ世界をその物を狂わせている魔王。あいつを滅ぼせば自ずと魔物は自滅する。


「アイス・シャワー!」


 氷柱が連続して降り注ぐと魔物は微かな動きも不可能。残りの連中は簡単にふるい落として先を急ぐ。

 この城は不気味な雰囲気を放ちつつ奥がよく窺えないという構想。

 俺達一同は玄関のロビーから襲い来る全ての魔物の死体を横目に真っ暗闇に広がる向こうへと足を伸ばす。

 一体どれだけ歩けばゴールが見えるのだろうか? やけに暗いから不安感が勝手に募る。

 

「はぁ……はぁ。くそっ、全然辿り着かねえ!」


「あぁ、全くだ! こんなに走らされるのも迷惑だって事を魔王に嫌と言う程に分からせてやる!」


 真っ直ぐに時には枝分かれする通路を行き来しながら辿り着いた先にあるのは一点に目立つ螺旋階段。

 静まり返っている城の中で、嘆息を混じらせてから重い足を動かす。

 誰も喋ろうとしない空間の向こうにある変わった形をした扉に足を止める。

 何だろう……ここから先は簡単には戻れないような気がしてならない。

 生半可な覚悟で踏み込むべきでは無いだろう。ここは一度、皆の意思を確認するべきだ。

 幸い、魔物が追い掛ける事も無ければ出没する様子も無いから一応大丈夫だと思う。


「多分、この先を生半可な覚悟で進むのは危険だ。ここでお前達の意思を聞かせて貰って良いか?」


「ふっ、言われずとも俺は進むぜ。こんなくそったれな世界は俺達で変えないとな!」


 ハワードの顔はこれまでに無いくらい気迫に満ちている。彼の覚悟は下手したら俺よりも凄いな。


「……正直怖いです。けれど、世の中に蔓延る悪は必ず滅してみせます。それが私に出来る唯一の事ですから!」


 そうか。その調子なら心配する必要は無さそうだな。これからも魔物退治の際に頼らせて貰うぜ……ミスト。


「お前は……聞かなくても良さそうだけど」


「えぇ! 仲間外れなんて酷いっすよ。ジャスティーは私を虐めて楽しいんっすか?」


「馬鹿言え! お前が虐められたり、ピンチに陥った時はどんな状況であれ助けてやる! アリーゼが泣きじゃくる顔なんて見たくも無いからな!」


「相も変わらず凄い言葉を吐くっすね。もしかして自分に惚れてるんっすか?」


 ほ、惚れてる!? な、何を言い出すかと思えば! 別に俺の気持ちとしてはお前がそうなる姿を想像出来ないから言っただけで他意はこれっぽちも無いんだが!

 

「まぁ、自分も最初に会った時から……って、こんな状況で言うのも可笑しいっすね」


「あぁ……そうだな。取り敢えずお前達の意思も改めて聞かせて貰った事だし扉を開けるとしようか」


 背中側から俺に対する視線が猛烈に痛いような気がしてならないけど! 

 とにもかくにも扉を慎重に開けてみると、そこには何の飾り気も無い部屋が広がる。

 それこそ、どんなに乱暴に暴れまわろうが充分に戦い合えるスペース位にはある。

 そんな部屋の中央で待ち構えるのは一人の槍使いで俺達の姿を目視で確認すると、赤い短い髪を横で振り払ってからどこまでも見通すような目付きで俺達に礼儀正しく挨拶を交える。


「ようこそ。魔王ルシスが理想郷を作り出す為に日々邁進していらっしゃる我々の城へ」


 見かけに騙されるな。こいつは律儀に対応しているが、俺達人間にとって許されざる魔王の幹部である敵!

 姿は非常に人間として、そっくりな部分ではあるが生かしておけない。

 魔王の部屋に辿り着く為にも……まずはお前という障害物を乗り越えてーー


「魔王ルシスは奥の螺旋階段にてお待ちです。どうぞ、お急ぎ下さい」


 なっ、奥の閉まっていた扉が開いただと!? ……これは予想外だったな。

 このまま乱闘に突入すると覚悟を決め込んでいたが。


「どうかしましたか? 私は一対一の純粋なる勝負を望んでいるのです」


「らしいな。だったら俺が前に出るとしよう」


 弓を構えるハワードは俺達を行けとばかりな目線で合図を送る。

 けど、本当に良いのか……ハワードを一人だけ残して先を急ぐなんて。


「魔王を葬れるのはお前だけだ! 俺は前座相手を叩きのめす!」


「くっ」


「なんで湿った顔をしてんだよ! さっさと行ってこい」


 必ず後から合流して来いよ。前に率先して歩んだハワードに勝利の祈りをしながらも俺とアリーゼとミストは開かれた扉から繋がっている廊下を進んでいく。

 その時、背中の方から不意に扉がガチリと閉まる音が耳に伝わった。

 どうやら、決着が付くまで扉は開かれないように仕様にしているらしい。

 頼むから勝ってくれよ……ハワード!


「あったっすよ! ここが恐らく魔王がふんぞり返っている部屋っす!」


「……っ。中に魔王が居るんですね」


 そうか。ようやく辿り着いたのか。これで無念に散っていた皆の想いと故郷を滅ぼした張本人である魔王の顔を拝める事が出来る!

 待たせたな……魔王。この俺勇者ジャスティーが正々堂々と勝負して全てを終わらせてやる!

 勢いを掛けて扉を開けるとそこには誰も……居ない?

 

「なっ、隠れてんのか?」


 まさか怖じ気づいたのか? いや、だとしても部屋の中に誰も潜んでいないの余りにもおかしい。

 人影すら見せない空虚な部屋の周辺を探し回ろうとも魔王はおろか誰も居ない。


「この部屋には居ないのでしょうか?」


 そんな、馬鹿な。だったら何故この城に幹部の者と魔物が待ち構えていたかのように待機していたんだ? 

 いや、そもそも魔王は……この城に居なかったのか!?だとしたら俺達は最初から嵌められていたのか!?


「くっ! さっさと出るぞ! この城に魔王は居ない!」


 直後、閉まっている扉の上から鉄格子が振り下ろされると共に天井だけが空いた四角形の檻が俺達三人を一斉に取り囲む。


「してやられたっすね」


「フレイム・バーナー!」


 杖から絶え間なくほとばしる熱い炎でさえも強固に防御する檻。

 ミストは諦めずに何度も何度も魔法の属性を変えていくも効果は何一つ変わらない。

 それどころか上からガコンガコンと聞くにも恐ろしい声が耳に伝わってくる。

 まさかとは思うが……冗談だろ?


「魔王を居るように見せたフェイク。ちゃっかり城に突入してきた自分達を纏めて殺すつもりらしいっすね」


「魔王……あんたはどこまでも」


 腐ってやがる!! ちくしょう……ここまで、ようやく来れたのにこんな場所で死ぬのかよ! まだ何も出来ていないのに!


「ぐっ、すまねえ。ハワード」


 道を切り開いてくれたハワードの想いを無駄にしてしまった。ミストの魔法であろうと俺の剣であろうとも、ここまで頑丈ならどうしようも無くなる。

 全てが終わりなのか? 魔王に嵌められた俺達はそのまま上から垂らされてくる針千本のような機械に踏み潰されて……くそっ! 想像なんてしたくも無い。

 早く、どうにかして!


「うぉぉぉぉ!」


 この! このぉぉぉぉ! さっさとぶっ潰れろよぉぉぉ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ