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第17話:諦めの悪い攻防戦

魔王の方が書きやすい、、、

 私は魔王ルシス。この夜中に鳴り響く怒号が舞う戦場の最中にて置ける最大規模の真っ最中に仕組んだ罠。

 指と指の間で弾く華麗なる音と共に奈落の底に飲み込まれた彼等は無情に死んでいく。

 ふははははっ! 見事に成功したな。これで大方の勢力は無力化したも当然。

 残りの奴等はギャレン一行に任せるとして私はさっさと城に潜り込む事にしよう。

 この調子なら早急に向かわなければ直に状況を覆されてしまう恐れもあるからな。不安の種は潰しておくに限る。


「ルシス……貴様は俺の生命に掛けて逃さん!」


 向かう先にブレイドありか。やれやれ、無駄な時間を使わされるのは非常に不愉快極まり無いのだが?


「そこを退け。今なら私の気遣いで逃しても良いぞ」


「な、何を考えている?」


「君が首を縦に振るか? さてはて、横に振るのか」


 出来ればお前と戦闘はなるべく避けたい。余計な事で時間を裁かれてしまうのは誠に本望では無いからだ。

 私の言葉に賢明になれよ……ブレイド。お前はレンゲルに比べて、まだ利口な性格の筈。


「……ふぅ」


 軽く整える息と共に空を切り裂く一閃の刃。残念な事に交渉は決裂した。

 こうなると実力行使の出番となる。私の力でブレイドを徹底的に黙らせる他無い。


「ふははははっ! あぁ、残念だ! 折角慈悲を与えたと言うのに無駄にしてしまうとは!」


 上等だ。ならば私の凶悪なる太刀を持ってしてお前をねじ伏せるとしよう。

 裏切った代償はただでは済まされないと死を持って思い知るが良い!


「手段は選ばない。例え刺し違えようとも魔王様の架け橋となってみせる」


「そこまでして従う道理がどこにあるのだ? 私の元に居れば理想郷を想像するという事も容易いと言うのに」


「理想郷は俺達の存在だけで作らなければならない。だから、人間の立場でありながら魔王を名乗るお前を生かしてはおけない」

 

 なるほど、それでレンゲルの元に付き従ったのか。お前達を造り出して間もないのにそこまで自我が成長するとは。

 もう少し自我能力を落とした方が良かったな。そうすれば、こんな身内合戦は避けられたに違いない。


「覚悟しろ、ルシス!」


 降り注ぐ刃に一切の躊躇は見られない。こいつの攻撃は一撃に一撃に強力な攻撃力を誇ってはいるが大振り。

 上手い具合に避ければ、全く持って造作も無い。


「何故だ! 何故こんなに避けられる!?」


「どうした? お前の力はその程度の器だったか」


「くっ、調子に乗るなよ」


 目で避けられる斬撃は全て避けつつも反撃の手を加えるとブレイドが構える剣と私の誇る太刀は凄まじい音を鳴らし出す。

 しかし、技量は私の方が遥かに上。何故なら私が造り出したブレイド・ギャレン・カリス・レンゲルは強さを著しく同等の強さに調節しているから……理想郷の頂点として君臨せし魔王の立場にある私がこいつらに先を超されるのは癪なんでな。

 きっと私よりも弱い事に苛立っているのだろう。ふはははっ、何とも笑える話だ。

 良心としてそろそろ教えてやった方が良いな。真実を知った瞬間果たしてブレイドはどんな表情を浮かべるのか?

 

「ブレイド……突然だが、お前の真実を知りたくないか?」


「何?」


 真実という言葉にピクリと反応を起こすも警戒体制を崩さないブレイドは白く透き通った刀身を見せつつつも前へと歩み寄っていくのを止めない。

 この調子でのさばらせていたら、ごり押しで倒す他無いがレンゲルに会うまでは力をなるべく蓄えておきたい。

 だから、良い加減に楽に逝かせてやろう。


「お前達の生命は私が造り出した物。悲しい事だが、お前達は魔物より高位種でありながらも魔王ルシスの部下として……理想郷の手伝いを担う存在でしか無いのだよ。だからお前達がどれだけ抗おうとも私の力の前では無力! なのさ」


 青ざめたブレイドは剣をぶらぶらと垂らし始める。どうやら私の話だけで絶望に落とし込めたようだ。


「あり得ない。私がお前のような人間に産み出されただと? そんな話はでっち上げに過ぎない!」


 往生際が悪いな。真実を聞いてもなお挑みに掛かるとは……宜しい、ならば私から最高の慈悲を授けるとしよう。

 心して受け取るが良い!


「させるか!!」


「もう遅い」


 さらばだ。私が最初に産み出したブレイドよ。初期に従ってくれたお前には深く感謝していたが、裏切ったのは本当に残念でならないよ。

 お前を始末した暁には城の椅子で待つレンゲルを葬ってやる。

 だから、あの世で見守っているが良い。


「ぐぁぁぁ! ルシスゥゥゥ!」


「レンゲルは私が直接殺す。だから、お前は安心して旅立て」


「人間である貴様が創る理想郷なんて所詮はまやかし。例え私達を滅ぼし目的を為し遂げようとも待っているのは破滅の道でしかない」


「だから何だ? 負け犬の遠吠え程醜い物は無いな」


「魔王レンゲルに……栄光あれ」 

 

 黒い波動に為す術も無く消し炭となったブレイドの悲鳴はもう聞こえない。

 ふぅ。力はかなり消耗してしまったが何とかなるだろう。


「あっちの戦況は思わしく無いな」


 城に乗り込む前に救援に向かった方が良さそうだ。遠目から見ても状況は芳しく無いようだしな。


「それにしても……」


 次から次へと湧いてくる魔物。さっさと終わらせない限り、じり貧の攻防戦にしかならない。


「魔王様! 早く乗り込んで下さい! この場は我々でどうにか持ちこたえてーー」


 数に圧されそうだな。早く乗り込めと言われたが放っておくのは私の理に反する。


「加勢する。全員どうにかして持ち堪えろ!」


 私の登場に腰を引く敵側の同胞がちらちらと出始める。だが、レンゲルの術によって意識をコントロールされた今は敵とし無情にも始末する。

 本当は斬りたくないという想いが胸に溢れ出している……が、味方が殲滅されるよりは遥かにマシと言える戦法。


「ふっ、やってくれるな」


 これは仕方の無い事だ。死んでいったお前達の分は必ず償わせて貰う。

 魔王の座に居座るレンゲルの首と君達の自由を奪い去った人間の殲滅を持ってして。


「悪いな」


 飛び掛かる敵に堂々と真っ二つに振り払う太刀に滲み出る緑色の液体は地面にぽつぽつと垂れていく。

 やがて状況は一転し、こちらが優勢となる頃には城の方から新たなる飛行生物であるリザードラゴンを呼び寄せる。

 ここらが潮時と言った所か……後の事はギャレンに対応を一任させるとしよう。

 さっさと偉そうに私の席に居座っているレンゲルを始末しない限り理想郷の実現は遠ざかってしまうからな。


「ギャレン、私は城に単独で乗り込む。後の俗事は任せる」


「お任せ下さい!」


 元気良く返事をしたギャレンは我先にと宙を舞うリザードラゴンに突っ込んでいく。

 変幻自在の動きによって空に滞在しているリザードラゴンを何体かふるい落としてから槍を豪快に振り回して宣言する。


「道を作れ! 我々の理想郷を実現させる為に!」


 ありがとう。これなら乗り込める。ここまでしてくれたのなら何としてもやり遂げてみせる。


「待て」


「ふっ、まだ私に挑むか? 大した度胸だ」


 スライムは形を変貌させて凶悪な姿へと形を変えていく。ゼリー状の個体から鬼の形を遂げた生物は両手の爪を鋭く伸ばして構え出す。

 踏み出す一歩に私は一切足を退かない。挑んでくるのなら味方であれ敵であれ後悔が残らないようにしてやろう。


「では、始めるとしようか!」


 魔王ルシスによる聖なる裁きを!


「うぉぉぉぉ!」


 一同に群れを為して襲い来る鬼の生物。一体目の鬼には首をぐさりと差し込んでから力強く抜き取り、二体目と三体目は風のように走りながら終わらせる。

 背後から襲ってきた鬼には横で避けた後に長刀で腹を抉るようにぐりぐりと弄んでから抜き去り最後の五体目は正々堂々の勝負で首をもぎ取ってみせる。

 場は一気に静まり返ると場内から私を称賛する声で溢れる。今置かれている状況に置いて私は最高に気分が良かった……が、こんな事をしている場合では無い。


「後は託す。ギャレン、お前は私が一番信頼する部下だ! 同胞達を上手く導いてくれよ」


「はっ、全ては魔王様のお心のままに!」


 見てるか? レンゲル。お前が用意した戦力の殆どは私が潰してやったぞ。

 後は藻抜けの殻と成り果てているであろう城に乗り込んで貴様の首を吹き飛ばしてやるだけだ。

 それはそれで上手く成功した暁には一気に魔王軍の代表格として人間を滅ぼす偉大なる計画を発動させてやる。

 そろそろ、お遊びは終わらせて本格的に黙らせてやろう。世界は私と同胞達が住まう領域…神域として全ての人間に滅んで頂かなければなぁ。

 

「ふっ、そうすると一番の障害は」


 勇者ジャスティー。私が直接動き出した数年前から驚異的な実力で活躍を伸ばしていると風の噂で聞いた事がある。

 奴と直接会うのは、もう時間の問題だろう。


「障害は確実に潰す」


 城の罠は全く無いのは私を出迎えているのだろう。扉を開けた直後に両手で盛大に拍手するレンゲルの姿からその様子が窺える。


「ようこそ……私の城へ」


 何時からお前の城になった? それに、そこの席は私が座る席だ。偉そうに座っているのに虫酸が走る。


「魔王は……私だ。後は分かるな?」


 これが最後の勧告。どうせ素直に聞く筈も無いとたかをくくってはいるが。

 不気味に笑うレンゲルは椅子の隣に置いていた杖を手に取ると矛先を私に差し向ける。

 どうやら、答えは聞くまでも無いらしい。


「ルシスは今日この場で朽ち果てる。私の力で泣き叫びながらねぇぇぇ!」


 赤く敷かれたカーペットの周辺からレンゲルが作り出したお手製の生き物が奇妙な声を上げながら取り囲む。

 

「言っておくが……お前の頼れるブレイドは始末した。魔王の頂点として君臨する私に勝てると思うなよ?」


「魔王は私ですよ。はてさて何を言っているのやら」


 性根も腐ったか。宜しい、だったら徹底的に抉ってやるとしよう。


「レンゲル、本当に残念だ。お前は私の参謀役としてこれからも計画の成功の担い手として活躍する筈だったと言うのに」


 取り返しの付かない事をしてくれたな?


「私が参謀役? 全く心外だ……元より私は魔王として君臨する立場にあった存在レンゲル!! 人間でありながら我々に味方する貴様の存在は必要無いんですよ!!」


 埒が明かないとはこの事か。ふっ……


「くっくっ。笑えてくる。お前ごときが魔王を勤めるなど片腹痛い」


 産みの親である私が手を下されるという事……これ程名誉な事は無いのだからな。ありがたく感謝するが良い。

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