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第15話:俺達の反撃

 俺は勇者ジャスティー。都ゾルダにようやく合流を果たしたハワードとミストとの再会に喜びながらも、新しくメンバーに加わったアリーゼを頼りに魔王の幹部であるカリスを倒すべく作戦を練り始める。

 だが、そうも簡単には決行出来ない。それは俺達の人数とカリスが所有する戦力に明らかな差が生まれているから。

 しかも、相手側に人質という都合の良い物を与えてしまっている為無闇に突入が出来ない。

 だから、どうにかして人質を救出してから本格的に攻略を始めなければならない。


「下手に失敗は出来ない。慎重に事を運ばなければ人質の市民が全員殺されるという危険性が発生する」


「ふーん。上手く人質さんを誘導出来れば、こっち側は本気を出せそうなんですが……中々上手くいかないっすね」


「くそっ、ここまで来ておいて!」


 ふざけんなよ! 俺は都を乗っ取るカリスをぶっ倒す為にようやくの思いで辿り着いたのに、こんな所でじっとしているなんて我慢ならねえ! 

 今にもあの非道な処刑に怯えている市民の事を考えたら、時間は残されていない筈。

 最悪は俺一人だけでも行ってやる! 機会を狙って、じっとしている性格でも無いんでな!


「落ち着けよ。お前だけが地団駄踏んでも物事は良い方向に進んではくれない」


「あぁ、分かってるさ! けど今も怯えている人達の事を思い浮かべてしまうと、気が気でならない自分が居るんだ!」


「ジャスティーさん……」


「焦っているのはお前を含めて俺も同じだ。だから、今日の真夜中に決行される惨殺の儀式に弄ばれている人質を一斉に奪還。その後、この都を牛耳るカリスと魔物を殲滅。失敗は許されないから気を引き締めていくぞ」


 人気ひとけの無い小屋の棚に丸めている地図を取り出すハワード。地図を机の上に広げる事で詳しい潜入ルートが張ってあった。

 どうも、路地などの目立たない場所を行きながらも屋根を伝って進み最終的に目標地点を迂回するように進んでいくルートに形成されているようだ。


「どうにかして手にいれた情報から察するにカリスが出てくるのはこの地点。ここではカリスを取り巻く魔物共が周辺を警戒しながらも今宵悲鳴を上げてくれる人間をルーレット形式で今日も楽しむ算段になっているだろう」


「魔王の幹部を勤めるカリスは都ゾルダを占拠して以来、人の悲鳴を楽しむ為に毎日気分で選別して殺すようです……」


 頭がぶっ飛んでやがる。ハワードとミストの話を併せ、今日見てしまった光景の事を考えると一刻も早く殺しておかなければ街の崩壊を招く。

 今日、真夜中に決行されるならそこでカリスを始末して魔物も一匹残らず殲滅してやれば良い。

 上手く成功すれば、都ゾルダの平和が再び訪れ魔王の戦力は大きく衰退する。


「ハワード、ミスト。俺が居ない間に情報を集めてくれてありがとう。お前達のお陰で今日中に奴等を殲滅出来そうだ」


「いえいえ。これぐらい当然です」


「感謝するなら、作戦が成功した時にしてくれ。今言われてもむず痒いだけだし」


 潜入ルート及び作戦内容もある程度決定した。後は作戦が始まるまで、目立たないようにひっそりと身体を休めておくとするか。


「ふーむ。さすがは勇者一行だけあって素晴らしく手際が良いっすね」


「そうか? これぐらい、普通の事だと思っていたんだが」


 俺とハワードとミストの三人旅の時で困っていた時も直ぐにハワードが助言をくれたりする。

 ミストはミストで別の視点から調べてくれたり……って今に思えば、無意識に頼っていたんだな。


「それよりお前らは少し寝ておけ。時が来たらビンタしてでも起こしてやる」


 全く寝るつもりが無かったが、ハワードが言うなら寝ておく事にするか。


「悪い。それじゃあ寝るわ」


 古びれた小屋の壁で眠る感触は言わずもがな最悪の一時。本来なら、ふわふわのベットに癒されておきたい気持ちをぐっと我慢して眠り続けると不意に肩を叩かれる感触。

 頭がぼっとしている中で起きてみると視界にミストが映った。どうやら、作戦時間の真夜中に差し掛かったらしい。


「行くぞ。時間は待ってくれないからな」


「あぁ」


 爆睡しているアリーゼをミストの代わりに叩き起こし、軽い身支度を済ませてから一人ずつ外に出ていく。

 その後は大きな物音を立てないようにハワードに続いて、くねくねとした道を進んでいくハワードが登っていく屋根に何とかよじ登り足音を最小限にしてうさぎのように人様の屋根を渡っていく。

 そうしてしばらく無言のままに緊迫とした時間を過ごしていく内に視界に光のような物が目に写る。

 近くで見てみないと分からないが、恐らくはカリスによる気紛れな余興の最中なのだろう。

 こんなくそったれな光景に歓声を上げる魔物に俺はどうしようもない殺意が脇始める。


「慌てるな。もう少しであいつらの好き勝手な生きざまも今日限りで終わりだ」


 目標地点までは難なく接近する事に成功。後は隙を見計らってダイレクトに人質を開放してから、溢れんばかりにうよめく観客面をしている魔物と都ゾルダを支配下にしているカリスをこの手で容赦無くぶっ殺すだけ。

 待っていろよ、カリス。お前をぶち殺して魔王の戦力を大きく削ぎ落としてくれる!


「私はいつでもいけます」


 杖を両手で強く握り絞めて準備をしっかりと整えるミスト。俺達は外から見えないように伏せて待機。

 気が熟した所で突入する算段で決まりだが果たして上手く攻め込めるか……いや、弱気になってどうする?

 俺は闇を切り裂き光をもたらす希望の勇者ジャスティー! どんな悪も俺の手で振り払ってみせるんだ!


「皆の者! 今宵の真夜中! この余興を共に盛り上がろう!」


 広場のど真ん中に目立つように張り付けてある民間人。それを選ばれた余興と宣言するカリスは観客である魔物を盛り上がらすように誘導しながら怯えている民間人の一人一人に容赦無く鋭い鎌を首元に持っていく。


「さぁさぁ! 今日は誰が最初に悲鳴を上げるのかな~! 精々我々を楽しませるような悲鳴を上げてくれよ~」


「嫌だぁぁぁ! 止めてくれぇぇ!」


 どんどんヒートアップする観客。一人一人の悲鳴を聞きながら楽しみカリスに俺の隣で息を殺しているハワードは自分でも気づいていないかもしれないが歯軋りを強く立てている。

 もう、これ以上黙りを決め込んでいたら取り返しのつかない事態になりかねない。

 

「では、最初は君だ! いかにも服装がずぼらしくしていて尚且つ顔立ちもまだまだ幼く身体も小柄な女。今日の余興の最初に選ばれた事を光栄に思うが良い」


 こいつ! まだあんなに小さい子供の首を跳ねるつもりか!


「いやぁぁぁ!」


「くっ、私達はただ見守る事しか出来ないのか……」


 何でだよ? 何で大人のお前達は子供が殺されそうな場面で諦めきっているんだよ! 


「大人のお前達も中々にゲスイね。これが人間の底から出る汚い感情か~」


 最初は声を大きく上げて抵抗を激しくする子供。しかし、隣で張り付けてられている大人達の言いようも無い表情を見て遂に諦めを悟る。

 

「覚悟は決まったようだな……では、本日最初に選ばれた余興として存分に我々を盛り上がらせてくれよ?」


「もう、駄目。ごめんね……母さん、父さん。私は一足先に逝きます」


 鎌を大きく振り上げる瞬間にミストから放つ杖の閃光は広場の視界を目映く照らす。

 目映い視界に観客の魔物とカリス一同は目を塞ぐ。その間にミストの杖魔法の加護により、目映い視界の中でも自由に動ける俺達は一分一秒でも早く張り付けている人達の手錠を振り落として救出。

 一旦遠く離れた所に上手く逃げ延びた俺達は余興にされていた人達に激しく感謝される。

 だが、ハワードはその対応に酷く塩対応だった。


「仮にも貴方達はその子よりも引いては俺よりも精神的に育ちきっている人達だ。なのに、貴方達は何も出来ないと見捨てた。少なくとも俺は絶望しました」


「ハワード」


「仕方なかったんだ……何も力が無い俺達には見守る事しか出来ない。どうか、この通り……許してくれ」


「貴方達の安い土下座を見た所で何も解決しない。俺は勇者ジャスティーの親友として仲間として一刻も早く都の解放に赴きます。貴方達は巻き込まれないように子供と一緒に逃げて下さい。良いですね?」


 頭を地面に擦り付け、後ろ目で見てくる子供を余所にハワードは気持ちを切り替えて背中に供えた弓を構え出す。


「よし。さっさとボスを叩いて、この都に囚われた闇を解放するぞ!」


「あぁ! ハワードは後方で無理せず援護射撃。ミストは補助魔法でアリーゼは俺に続けて魔物とカリスを駆逐する!」


「腕が鳴るっすね!」


「はい! 宜しくお願いします!」


 全員の気合いが高らかに響いた中で繰り広げられる大戦闘。俺を討伐目標として密かに掲げていたカリスは広場の高台で偉そうな口調で指揮を取り始める。


「魔王様の最大の障害である勇者ジャスティーがおめおめと姿を現してくれるとは何とも運が良い事か! 皆の者、あの勇者一行共々全員の首を切り取ってでも私の前に持って来るのだ!」


「おぉぉぉ!」


 威勢の良い声をはっきりと上げる魔物一同。ハワードは俺とアリーゼの後ろに待機しながら矢を弓に持っていきながら、これまでに無い力を強く強く矢を後ろに引っ張っていく。

 やがて、力が最大限に解放されるのを見計らうとハワードは唇を噛み締めながら。


「くそったれな魔物にはありったけのプレゼントを送ってやるよぉぉ! インパクト・マグナム!!」


 一直線上に素早く放れた矢は大きな衝撃音を持ってして魔物の原型を消失。

 周辺に居る魔物達に大きなどよめきが沸き立つ間に俺とミストは一体一体着実に凪ぎ払っていくという光景にカリスの表情は明るく無い。


「ぐっ、私に付き従う忠実なる者達が……」


「魔王ルシスの部下であり、俺達人間に恐怖と絶望を与える悪しき存在であるお前は俺の剣で断罪してくれる!」


 広場の真ん中に一対一で向き合う俺とカリスは互いに得意とする武器を構えてからゆっくりと前に歩み出す。

 カリスは鎌を思う存分に振り回しながら舌をべろべろと舐め回す。


「勇者ジャスティー。貴方の身体の中にある心臓を引き裂いて魔王様の元に謙譲させて頂きますよ!」


「はっ! やれるもんならやってみろよ! その前にこの俺がお前をバラバラに引き裂いてやる!」


「勇者だからと図に乗るなよぉぉ! 魔王様に仇なすごみ風情がぁぁ!」


 ここから始まる俺達の反撃。どこに居るのか知らないが見ていろよ……魔王。 

 皆の光として闇を振り撒き今も嘲笑う魔王に敗北など無い事を嫌程見せつけてやる!




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