第10話:戦闘の連鎖
私は魔王ルシス。今回の一件で魔王討伐団たる馬鹿馬鹿しい名前を名乗る連中に報復を与える為に本拠地に在中する同胞達を視察部隊として新たに設立。
その後は視察部隊を送りながらも奴等の本拠地を探りつつ未だに歯向かう連中を生きて帰さずに始末していく事数日。
ある視察部隊の報告によって、ようやく私達は立ち上がる事となる。
「本拠地は山岳地帯にあるブレイン地帯。あそこは確か一般人が通るには余りにも険しい道で尚且つ道中に巨大な洞窟があると囁かれている有名な場所であったな」
そこに魔王討伐団が居るのなら、もはや叩き落とすには絶好の地。私がお前達を袋叩きにして差し上げよう。光栄に思うが良い。
「総員配置につけ。これより私は魔王討伐団の本拠地であるブレイン地帯に赴いて腑抜けた組織を壊滅させてやる! 一部私が言い渡す者はこの城が落とされぬよう徹底的に守るように努めるのだ」
「承知しました」
山岳地帯という険しい障害物が目立ち殆どの人は近付く事すら無いブレイン地帯。
視察部隊の情報を元に整理していくと本隊である魔王討伐団は様々な職業柄の連中が揃って集まる部隊で優れた戦闘力を誇っているとの連絡が入っている。
確かに私が本隊に赴く前に立ち向かっていた魔物が滅多刺しにやられたりと人間の本性を剥き出しにするような容赦の無い攻撃。
実は私が相手にした時、若干は苦戦した。恐らく奴等が個々の力を止めて一気に力を合わせてきたらと思うと正直まずい状況になるかもしれないと思っている。
だからこそ、今回の作戦は慎重にかつ大胆に仕留めなければならない。
今度は根っこごとへし折って二度と姿を見せる事が無いようにぶっ潰すしかない。
魔王討伐団というふざけた名前を跡形も無く砕いてやろうと同胞達と共に密かに魔王討伐団が訓練し合っている状況下で、見付からないように物影に潜む私はわんさか居るであろう本隊を根絶やしにする為にも気の棒で同胞達に静かに合図を送り様子見から始めていく。
「頼もう。私も、この部隊に入りたい!」
良く村で見掛けるであろう青年は擬態したスライム。普通なら、絶対に見破れはしない筈だが……どうだ?
「魔王討伐団の希望か? ならば!!」
なっ、いきなり斬りかかって来ただと? 一体どういう了見で仕出かしたのだ!?
「な、何をする!?」
「おい、お前。さっき身体を前進させる時に一瞬だけ身体がぶよぶよと揺れていた。普通なら、そこまで横に揺れる事は無いがな!」
奴等、魔物だと分かっていてやらせたのか? だとしたら、かなりの手強さ。
姑息なやり方は全く通じないと判断した方が良さそうだ。
「大方スライムか。魔王軍の手先であり世界を滅ぼしかねない存在である以上我々は容赦しないぞ!」
剣を引き抜くと同時に人間に化けたスライムを真っ二つにしてばっさりと切り落とすと、剣を引き抜いた人物は的確に指示を始めていく。
「この近辺に魔物が潜んでいる可能性があるかもしれん。徹底的に探して、奴等を根絶やしにするぞ」
こうして居れば発見されかねないか。そちらがそう来るのなら私もそれなりの期待を答えて上げるのがセオリーか。
「突撃。私に続けて進め! 地上部隊共に空中部隊も洞窟に潜入して本拠地を思う存分に叩き潰すのだ!」
作戦変更だ。こそこそと姑息なやり方をするよりもこいつら武闘派には力ずくで教え込んだ方が手っ取り早い事この上無い。
「私は魔王ルシス。お前達が仕出かした後悔をあの世で泣き叫べ!」
まずは一人。次に二人。ふはははっ、大した力も持たない雑魚が。こうなってしまえば、こちらの物量で押し通してやる!
「総員戦闘用意! 本陣にわざわざ足を運んできた元凶魔王を討ち滅ぼせぇぇ!」
それしても、やはり侮れん。こいつらは武道を嗜んだ奴等なのかははっきりと断言出来ないが、私の力を尽くして作り上げた同胞の力でも充分に渡り合える実力でいがみ合っている。
「死ねぇぇ、魔物!」
しかし、ここで被害を増やす訳にはいかない。私が居る以上は徹底的にお前達を切り刻んで勝利の旗を掲げさせて貰う!
「全キメラ! 人間を火だるまにしてしまえ。ロックゴーレム並びに前線部隊は剣などの接近系の敵を掃討。残りの後方と空中部隊は私に続けて来い」
幾ら私を狙おうが、この長刀と魔王という名に見合った力がある限り貴様らは無力。
私の力とお前達が見くびる魔物の底力で朽ち果てていくが良い!
「行かせるか!」
顔面を狙う大剣の刃を長刀で退き、片手で敵の顔面を掴んで何もかも溶かす闇の光線を大量に放射する。
次に掛かってきた敵には手と足と一体ずつバラバラで削ぎ落としてながら先にある地面を蹴っていく。
すると、私が来るのを想定していたように大量の魔王討伐団の団員達が勢揃いで睨み付ける。
ふっ。そこまで私を殺す為に躍起になるとは。これは失礼の無いように本気でお相手をした方が良さそうだ。
「来たな。この場所でお前を地獄に送ってやる! 無念に死んでいった者達の仇を取らせて頂こう!」
生憎だが、私の首はそこまで安売りする程甘くは無い。しかしお前達愚民の首は私や同胞に比べれば安い物だ。
「残念。今日死ぬのは私では無くお前達人間という分かり合おうともしない愚かなる愚民だ!」
人数はざっと見て30人以上。ここは少しキツいが私だけで乗り越えてやるとするか。
同胞には私の偉大なる力を改めて見て貰おう。
「全軍、手出しするな。この戦いに置いては私だけの力で沈めてみせる」
「魔王が自ら前線に出て、我々の物量に対しては一人で挑むとは。お前はどうやら死にたいようだな」
好き勝手に言ってろ。どうせ、この戦いが終わればお前達は私の手により天へと昇っていく事になるのだからな。
「さぁ。お前達から先に仕掛けて来い。魔王軍にして代表の魔王ルシスが華麗に天国へと誘ってやろう。深々と感謝するが良い」
「ほざくなぁぁ!」
大勢で。そして物量で私を潰す作戦で来たか。その手法であるならば単身一人なら実に有効性があり成功する確率は斜め上に上がっていく。
しかし! お前達は私という魔王を侮り過ぎだ。
そう簡単に物量だけで潰せると……思うなよ。
「綺麗に掃除してやる! 塵となって消え失せる事に感謝しろ!」
長刀から込み上げられし負の力が呼び起こされし時、私の持つ長刀は何倍も超えた力を発揮する事が可能。
そして力が最大限に溜まりし時に一太刀振るってしまえば、どんな物をも粉々に消し去る技を解放する事が出来る。
今こそ、とっておきの技によって砕け散るが良い!
「邪王獄龍斬!!」
咆哮と共に突き進む邪悪なる牙は武器で守りの体勢に入る者であろうとも一撃で骨をも消滅させる技。
この攻撃で無事に生き残れる者は居るのかな?
「なっ、なんと恐ろしい」
遠くで見物している敵には当たらないか。原因は射程と捉える他無さそうだ。
「ほぅ。無事に生き残れて良かったですね。次は私が長刀で貴方の身体を切り刻んでご覧に入れましょう」
「くっ、させんわ!」
洞窟の広場で散り散りに消滅せし者達の背中を眺めた者は得意とする大剣を取り出すと私の長刀の刀身に激突させる。
刃こぼれするのを狙っているのかな? そうだとしてもそうで無くとも私はお前の五体満足の身体を終焉にさせてやるよ。
それがお前達が私達魔王軍に喧嘩を売ってきた落とし前だからな。
「これで!」
おっと、今のは中々じゃないか。私がしっかりと見ていなかった場合はもれなく天国か地獄に送られる切符を無償で行ってしまいそうだったぞ。
「良い斬撃だな。一切の躊躇いも無く私相手に怯もうとしない顔付きには驚きの言葉が出そうになる」
「敵に誉め言葉を貰った所で!!」
さて、お世辞も言い渡した。この男には後悔も無く綺麗さっぱりとバラバラになって逝って貰おう。
「相手が悪かった事を呪うが良い」
懐に飛び掛かろうとした団員に私は右腕・左足・右足・左腕と順番に瞬時に切り落として、最後の一撃を心臓にぶっ刺す事で男は瞳の光彩を無くして項垂れる。
呆気ない。生きていた時は私を殺そうという目付きをしていたというのに私の手によって長刀に刺された時はこんなにも脆く意識を無くして死んでしまうとは。
「これで私に飛び掛かる相手は根絶やしに出来たかな」
「お見事にございます。魔王様」
私が葬り去った人物が魔王討伐団という名の主犯格なのだろうか? そうだとしたら随分と呆気無く死んでくれた物だが……
「他はどうなっている?」
戦闘中か? 私は既に片付けてしまったし、向こうの方に戻った方が良さそうだな。
「一旦戻るぞ!」
やれやれ、私が任せている間に片付けて欲しかったのが本音になるが致し方無い。
戻った先に居るであろう雑魚の集団を始末するとしよ……うか?
「本命のご到着か」
狼のように荒々しい形の黒髪に狐のような眼光。そして青を基調とした騎士のような服装をした人物は私の同胞を切り裂いたであろう青色に輝く刀身をこちら側に差し向ける。
「ほぅ。勇者と同格と思われしき奴が出てくるとはな」
勇者に実際会った事は無いが、噂ではどんな奴であろうとも木っ端微塵に葬り去るという要注意人物だと認識している。
だから、目の前に居る奴は要注意人物に匹敵する程の実力を持ち合わせているに違いない。
「名は?」
「俺の名はハーツ。この命が尽きるまではお前の命を狩らせて貰う!」
命が尽きるまでか。悪いが、私にも為し遂げる事は山程にもあるのでな。
残念な事ではあるが、お前の命が風前の灯として存在になるまでは嫌と言うほどに付き合ってやるよ!
「魔王ルシスが居る限り、この世の中は私で回るのだ!」
どれ程の実力か貯めさせて頂こう。騎士ハデスよ……くれぐれも私を失望させてくれるなよ。
「では、相手をしてやろう。魔王ルシスが相手になる事を光栄に思うが良い」
「その余裕な顔付きも俺の手で終わりしてやる」
私相手にここまで堂々とされると、本気を出さないと失礼になりそうだな。
「ふっ、なら来い。私が完膚無きまでに潰してやる」




