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むしゃくしゃして聖剣抜いたら夫と娘が出来て幸せになった話  作者: くろくろ
むちゃくちゃ暴れたくて聖剣抜いたら家族が増えてもっと幸せになった話
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むちゃくちゃ暴れたくて聖剣抜いた

何か、ぞわっとした。


「どうした?」


「悪寒がした」


ぶるっと震える私の背中を言葉少なげに撫でる夫。こういう気遣いがうれしいんだよね。

息子もこれくらい出来ないといかんよ。

遠くの方で何やらやらかした気配のする息子に向かって、心の中でエールを送っておく。男を磨け。


「どうされましたの?」


のっしのっしと歩く鎧をつけたホルスタインに乗り、武装した兵士たちに脇を固められた第一王女がこちらにやって来る。横にはあのときの護衛こと婚約者の偉いお兄ちゃんがいる。

女王陛下の伴侶になる貴族にしては、非常に身軽だね。

まあ、第一王女も彼に負けてはいないってことはわかってる。護衛役の婚約者と聖獣である牛さんだけを連れて人々を癒す旅をしてたんだからね。


本日、そんな聖国の第一王女ははじめて会ったときの旅装束でも、お姫様然としたドレスでもなく鎧に身を包んでいた。彼女自身は見た目、おっとりさんだけどスカートタイプの純白の鎧が似合う人でもあったとはじめて知る。

手に持った、やたらと使い込まれたハルバードが眩しいね!


「何か、背筋に悪寒が走って」


「まぁ、風邪ですの?あなた様はこの場に必要な存在ですの。すぐに聖牛様のお乳をお渡ししますの」


「いや、大丈夫だよ」


王女とは何か。

ちょっと考えたくなる武装第一王女の優しい言葉に苦笑する。


「必要って、子どもたちの露払いくらいしかやることなかったから」


そうなのだ。

あのとき据わった目をした夫が、急に乗り気になってしまった。

大黒柱は夫といえるんだけど、私と違って彼は自分の意見を押し付けることはほとんどない。基本的に家族内のことは話し合いで決める。

そんな夫だけど、今回に限って私の意見を聞いてはくれなかった。


私が言葉を重ねる毎に頑なになっていく夫に困り、娘に助けを求めようとしたんだけど彼女は彼女で笑いながら父親である彼を支持するのだった。孤立無援状態だ。

でも、何で遊んでいたはずの娘の目が笑っているようで笑ってないんだろうか?ちょっとママ、わからないよ。


その場で父娘の意見が通ってしまい、細かな意見のすり合わせはいずれ…ってことになって帰宅して、留守番二人に事情を説明。そして…何故か呆れ顔の息子と目を三角にしてカッカする弟もまた夫を支持して、家族全員で第一王女の話しに乗ることになってしまった。

どうしてこうなった?とも思わなくもない。


でも、フタを開けてみれば中心となって『脳内お花畑連中をぶっ飛ばせ☆作戦』を実行しているのは、娘と息子である。いや、ハデな立ち回り担当が子ども二人であり、露払いもとい陽動は私たち夫婦や弟だ。もちろん、陽動はもっと数がいる。どうやって仲間に引き入れたのか、ミルお姉もいてびっくりした。


でも、メインは対聖国第二王女に第一王女とその護衛である婚約者、対王太子以下略に何故かカラ男がそれぞれ担当するそうだ。

カラ男は作戦開始前まで熱心にミルお姉を自分と同じくメインに据えようとしていたけど、さらーっとフラれていた。ぷぷ、ざまぁ。

ちなみに、ミルお姉が近くにいた私の弟を引きずって行ったせいで、カラ男に睨み付けられてた。哀れなり、弟よ。


「露払いだけとおっしゃりますが、それでもたった二人で相手取れる人数ではないのですの」


「いやいや~黙って通してくれる人もいたからね」


子どもたちのためにやる気満々でかつて生活していた国に入った私だけど、聖剣持って突っ込んでったら速攻で騎士たちは武器を捨てて両手を挙げた。中央に向かうにつれて、勇者になるための特訓中に見た顔をちらほら見たから、昔の誼で通してくれたんだよ。顔色が悪かった気がするけど、誼だよたぶん。


中央から遠いところはむしろ、『王太子派を倒して下さい!!』と懇願していたから、辺境の地はきっと大変なんだろうね。近くで見ていた限り、かなり国庫の中身を散財してはいろんなお偉いさんに文句をいわれ、逆ギレしているところを見ていたから知ってる。

逆ギレした挙句、正しいことをいってた人たちはクビにされたり王城から追いやられたりしてたから、今残っている人ってあいつらの腰ぎんちゃくかうまい汁を吸う人たちだろうね。

…そういえば、私も何回か周囲に懇願されて幼馴染にいったことあったっけ。まあ、どう伝えたかわからないけど、すぐに王太子たちがやって来て、私が幼馴染に嫉妬してるって決め付けられて散財についてはうやむやにされてたなーやなこと思い出した。


ミルお姉に対して何人かが『姫』と呼んでたから何だと思ったら、彼女は宰相家の御令嬢だったと、このとき発覚。なるほど、だからあんなに政治についても教えてもらえたんだと納得する。

しかしガラではないらしく、その後は弟を盾にして隠れて進んでた。もしかして、カラ男に王太子たちに対峙するよう頼まれたのって、高い身分だから…?

ちなみにそのカラ男に向かって、何人かが『王子!!』とか呼んでたけど…キット気ノセイダヨ。


こんなにたくさん、一か所に高貴な身分の人々がいるわけがない。


「…やはり、自分の手で天誅をくれてやりたいと思いますの?」


高貴な身分代表・聖国第一王女が気遣わし気にそういった。

いってることはだいぶ物騒だけど…天誅をくれてやりたいかって。


私はたぶん、微妙な顔をしてたんだと思う。

頭に重さを感じたと思ったら隣に立つ夫がそこに手を置いていて、そのまま優しい仕草で撫でてくれた。

心配してくれてるんだろう。きっと、第一王女の話しを聞いてからずっと。

だからあんな、頑なな態度でこの作戦に参加すると主張していたんだろう。

それは私の自惚れじゃなくて、彼の優しさだってことはわかっていた。


もし、あのときに召喚された国から出て行ってなかったら、私は夫に出逢うことも彼の優しさに触れてその気持ちを素直に受け入れられなかったかもしれない。そういう意味では、幼馴染やそのおともだち一同に感謝しても良いのかもしれないね。


「いや、私が天誅をくれてやる必要はないよ。だって、私たちの天使のように清らかで可愛い娘にけちょんけちょんにされるんだよ?生意気な平民の子どもである、私たちの息子に簡単に攻撃を無効化されるんだよ?あの選民意識の強い奴らにはそれだけでも堪えるだろうね」


何せ、温室育ちの挫折も知らないようなお坊ちゃまたちだからね。あんなにコケにされてまだ立ち上がるんだったら、ある意味ガッツがあるだろう。もしくは、理解出来ない程に頭の中がお花に占領されているか。プライドが高いから、子どもたちのやり方は正解だと思うんだけどね。でも、私は奴らのお花畑の侵食具合は知らないし、知る必要性も感じない。

本当に、『無関係な人たち』っていうカテゴリーに入っているだけの人々だ。強がりじゃなくて、本心からそう思えるようになってた。


だから、本当にもういいんだよ。

そういう気持ちで、隣に立つ夫の腕にそっと私は触れるのであった。


しかし、それにしても…。これっていわゆる。


「クーデターとか…いや、まさかね」


そんな物騒なもののわけ、ないよね。ね、ね?

視線で夫と第一王女に問い掛けるけど、誰も答えてはくれぬ。何故に。


思案顔だった第一王女はひとしきり私と夫のやり取りを見て、やっと勇者による物理的ざまぁを諦めてくれたようだ。

納得してくれた彼女は、自身の婚約者である護衛と一緒に去って行く。これから妹に他国でやらかしたあれそれを説教しに行くようだ。『ウフフ、フフフフフ』という若干ホラーテイストな笑い声を残して去る背中は、華奢な見た目の割に黒い何かが噴き出していた。

いろいろ、ストレスやら不満やらが溜まっているらしい。ストレス発散に、何か教えてあげられたらいいんだけど。

せっかく、敬語無しのタメ口OKな関係になったんだから、そのくらいは教えてあげたいな。まあ、『次期女王陛下』としての彼女とは、気軽に会えないだろうけど。


「いたぞ!!」

「あそこだ!!」


「うん…?」


彼女の妹である第二王女がどんな目に遭うかはわからないけど、自業自得だ諦めろ!と思いつつ第一王女の背中を見送っていた私の耳に、そんな声が聞こえて来る。

てっきり今回の騒動の主導者の一人である第一王女を見つけ出した第二王女の信者だと思って身構えようとした私だけど…どうやら違うようだ。

何せ、囲うべき人間が違うからね!


夫と私を取り囲む剣を構えた人々が、どこからともなくわらわらと集まって来て周囲を固める。勢いよく間合いを詰めないで、だからといって警戒を怠らないところは、剣を扱い冒険者としてやって来た私なりに好感が持てた。


「だけど、囲むの私たちとか…っ」


違うでしょ!!そういいたい気分に駆られる。


「いや、陽動で動いていたから顔を覚えられていてもおかしくはない」

「あっ、そうか」


そうでした。だったら、彼らが武器を持って集まって来るのもしかたないか。

遠くて姿も声も聞こえないけど、たぶん子どもたちはまだ脳みそお花畑たちとヤリ合ってるところだろう。だったら、ここにいる騎士たちが向こうへ行かないよう、私たちでどうにかした方がいいかな。


見覚えのない騎士たちがフォーメーションを組むのをのんびり眺めつつ、私はそんなことを思っていた。


「隊長!金の短髪と黒目の見目麗しい男と、黒髪黒目の貧相なちびっこを発見しました!」

「報告に上がっていた通りの容姿です!」

「いや、待て。黒髪黒目の方は少女となっているだろう。あれがそうなら、相当ひんにゅ」


「てめぇら、覚悟は出来てるだろうな」


ジャキンと背中に背負っていた聖剣を構えて、私はすごむ。でも、黒髪黒目のちっちゃくて小柄な女の子だから、こわくないよ?

私は鬼ではないから安心してほしい。


「間違っても小鬼でも貧相なちびでも男並みの絶壁胸部でもないんだからな!!」


夫に対してはだいたい合ってる。むしろ、もっといっていうが良いよ?

でも、誰が人相を報告したんだか知らないけど私に対するのは悪意しか感じられないってどういうことだよ!!見付ける気あるの!?

どっちかというと、このヒドイ人相報告を聞いてキレて飛び出す可能性の方が高いから!!

今みたいにな!!


「「「「「そこまで()いってない!!!!!」」」」


勇者として培った動きで騎士たちに肉薄した私は、鞘に収まったままの聖剣を振り回して彼らをまとめて宙へと吹っ飛ばす。

私の動きに付いて来れず、ガードも出来ずに吹っ飛ばされた彼らは同時に同じことを叫んでたけど…『は』ってなんだ!!


「ヨウ、落ち着け。この騒ぎを聞き付けて、他の騎士たちも集まって来る」


「いいんじゃない?カラ男も敵を出来るだけ引き付けろっていってたし」


「…カラ男?」


『誰それ?』みたいな顔で首を傾げる夫が可愛い。…ごほん。

咳払いして努めて真面目な顔を作った私は、夫を見上げてこういい直した。


「なんかむちゃくちゃ聖剣を振り回したくなった」


建前はともかく、本音も大事ね。と、いうわけで、もうひと暴れして来ます☆

標的は私の人相を伝えたヤツだから、関係ない奴は逃げればいいと思うよ?


聖剣で素振りをして士気を高める私を見遣り、夫はちょっと溜息を吐いた。

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