落ちこぼれ冒険者
俺は落ちこぼれの冒険者だ。
突出した武器スキルは何もないし
初歩的な魔法しか使えない。
盗賊や踊り子のように変わった特技もない。
だから、こうして今も上級ギルド員のために
雑魚狩りをやらされているのだ。
「早くしろよ!カイル!」
「ちょっと待ってくれ。もう終わるから…」
「おめぇの仕事はいつも遅え!そんなだからいつまでたっても使いっ走りなんだよ」
そう言うと周りの連中もどっと笑う。チラと奥の方を見やると、俺が思いを寄せるリズもおかしそうに笑っていた…。
恥ずかしいやら情けないやらで、やるせない気持ちになりながら、今日も俺は雑魚狩りに精をだす。
「ぶはー。」
ザブーンとお湯に浸かると一気に疲れが取れる。
「結局今日稼げたのは100リルだけか…。」
この国での平均生活水準は一日300リル。
まさにど底辺の収入だ。
「全くカイルは冴えないな?こんなに甲斐性
がないと、彼女の一つも作れねえぜ。」
こう軽口を叩いてくるのは、俺の使い魔のクリーヴ。小型の狼の姿をした魔獣だ。軽口を叩く、クリーヴを咎めるように俺はワシャワシャと荒く撫でる。
明日こそはなんかいい仕事を見つけなきゃな…
俺はそう心に誓うのだった。
「この依頼オメーにぴったりじゃねえか?」
朝ギルドに行くと、依頼の紙を持って
またグレイグが絡んできた。
昨日、俺に雑魚狩りをさせた上級ギルド員だ。
依頼はこういうものだ
『急募 魔術図書館の整理任務!丁寧な仕事ができる人、求む!』
「オメーに魔物なんて狩れねえから、図書館で埃まみれになりながら本の整理でもしてろ!」
言い終わるとグレイグは大爆笑をする。昨日のように周りもつられて笑う。ほんとに俺はど底辺で最低だ…。
「お前も何か言い返せよな。見てるこっちが腹がたつぜ?」
図書館へ向かう道すがらクリーヴは呆れたように言う。結局圧力に負け、クエストを受けることになったのだ。
「俺の今の実力じゃ仕方ないよ」
「悟ってんなあ…。スキルもレベルもそれなりに育ってはきているんだろ?」
「徐々にはね、俺は成長率が悪いんだよ」
ついでに伸び率も。
「俺はお前が努力して来てるのを見てるから、
あいつらには腹わたが煮えくりかえりそうなんだよ。」
ガルルと腹立たしげにクリーヴが唸る。
本当に友達思いのいい奴だ。
「ありがとな。」
とりああえず目の前の依頼を一つずつこなすだけだ。
魔導図書館は町の外れにある。今は魔導機械の発達で、図書館に行かなくても魔導書が読めるため利用者は少ない。俺は当然魔導機械なんて買えるわけないからよくここに魔導書を読みにくる。
「フランツさーん?」
司書室に声をかけてみるが返事がない。いつもは野太い返事ですぐ出てくるのだが。
クリーヴと顔を見合わせると、俺は司書室に足を踏み入れた。
司書室は本の山でまるで迷路だ。うず高く積もった本と書類で部屋の大部分が埋まっていた。
と、前あたりに人の足が見える。フランツさんを脅かしてやろうと、俺は駆け寄って足を引っ張ってやると
「ニャッ!?」
「「ニャ?」」
思わずクリーヴとハモってしまった。あのおっさんにしては声が高い。
回り込んで顔を確かめると、そこでは黒髪の少女が椅子から転げ落ちてひっくり返っていた。
「あんたたち何なのよ!」
少女は手近にあった本を俺たちの方にぶん投げる。
「うわぁぁぁあ!?」
ガツーンと頭にクリーンヒットし、俺は即座に意識を失った。
実はこれが落ちこぼれの俺の運命を大きく変える運命の出会いだったのである。