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肝試しのすゝめ

「此処がドリームランド……!!」

「噂に何ら遜色ない外装及び雰囲気。本物の気配がする」

「一応心霊マニアだと思っている身としては1度は来たかった場所だよね!」


 目を輝かせ声を弾ませて語る様子は、まるで小さな子供の様にも見える。しかも此処は遊園地の前。無邪気で、さぞ微笑ましい光景だろう。

 廃園になった、という前置きさえなければ。

 はしゃぐ3人とは正反対に秋良(あきよし)は体の震えも、顔が引き攣るのも隠しきれていなかった。心霊マニアである冬里(とうり)(かすみ)が雰囲気がある、本物の気配がすると太鼓判を押しているというのも秋良の恐怖を助長するが、彼等が入り口だけでそう言える程に、それはそれは雰囲気のある佇まいをしていた。

 懐中電灯の明かりで照らせば浮かび上がるのは、テーマパーク特有のファンシーな作りのアーチ。頂点にはテーマパークのマスコットキャラクターのモチーフが飾られ、明るい笑顔で子供達を迎えていたのだろう。しかしそのアーチの鮮やかな色は殆ど剥げていて、ところどころ残った全盛期の影を思わせる明るい色が夜闇と懐中電灯の微かな明かりのコントラストによって却って不気味に映っている。マスコットキャラクターについても同様で、うさぎと思しき生き物が浮かべる笑みは塗装が所々剥がれ、モチーフ自体も溶けているのか醜悪で不気味なものへと変貌している。見ようによっては笑いながらも目から血の涙を流しているといった風に見えなくもない。こんな飾りつけ、遊園地内で許されるとしたら精々お化け屋敷だけだろう。

 そして当然と言えば当然なのだが、アーケードを潜った先は暗闇に包まれて何も見えない。それこそ何か良からぬものが蠢いていて、訪れた人間を別の世界へと引き摺り込むのではないかという嫌な想像が湧いてくる。

 それを口に出せば心霊マニア2人の燃料となり、林湖を怒らせかねず、口に出す事で秋良自身の恐怖も増す為、その想像を振り払う様に秋良は首を左右に振った。

 そんな秋良に気が付いたのか、林湖は半ば呆れて、半ば案じる様に秋良の顔を覗き込む。

 懐中電灯の明かりというのは安堵と同時に恐怖を与えるものである事は3人との付き合いの中で林湖も理解している為、懐中電灯を持つ位置には最大の注意を払いながら。


「今に今始まった事じゃないけど、本当に大丈夫なの?1人で帰れって言うのも酷だけど、無理はしなくていいよ?私なら大丈夫だし、何ならタクシー呼んで、タクシーが来るまで一緒に待っててあげるけど?」

「だだ大丈夫……いや、大丈夫じゃねーけど!寧ろお前を1人にしたり、お前を1人で心霊組の中に置いとく方が怖ぇーよ!!」

「探索自体は1人でも平気だけど……確かに心霊現象を目の当たりにするかもしれないっていう時の冬里や霞と私だけっていうのは……ちょっと自信がないかも。ごめんね、秋良」

「正直迷惑はしてるけど!でもそれだけお前が未確認生物を愛してる、って事だろ」

「うん、私自身の愛もあるし、受け売りと言うか血筋もあるかなぁ。でも私は未確認生物を愛してるよ!彼等が与えてくれるのは不幸じゃなくて幸福!今回こそ出会って、秋良にもお裾分けをしてあげるね」

「じゃあ秋良も落ち着いたみたいだし、オレ達も入り口から感じる興奮は落ち着いたから、そろそろ行こうか」

「いざ探検」

「おー!」

「……おー」


 チケット売り場をスルーし、入り口を軽く飛び越える。チケットを売っている窓口には錆び付いたシャッターが重く下りているし、閉園になった遊園地には正当な手段で入場出来ない為それは仕方ない。

 それもどうかとは思わないではないが、心霊好きと未確認生物好きがグループの大半を占めていれば、こうした行為への躊躇いも徐々に薄れていくものである。未確認生物については兎も角、心霊話は廃墟や閉園になった施設というのが多い。最初こそ戸惑っていても今は秋良にさえ恐怖以外の戸惑いは殆どなくなっていた。

 園内に入ってみれば、少なくとも極普通の、閉園した遊園地といったところだった。時間による劣化に加えて人の手が一切入っていない為、塗装は剥がれ荒れていたが、心霊現象に縁ある不気味さはあまり感じられない。そもそも秋良は俗に零感と呼ばれる霊感の持ち主であり、林湖は所謂第6感めいたものを未確認生物の発見に極振りしている所為か霊感の類は全く。

 ただそんな2人を尻目に残りの2人はわくわくどきどきという擬音が体中から放出される勢いで周囲を見回しているが、深くは触れないでおこうと特に秋良は強く思った。


「それでどうする?何時もみたく2人に分かれる?」


 冬里と霞の心霊組が落ち着いた頃を見計らって林湖が問い掛ける。

 ホラー小説やホラーゲームに触れていて思うのだが、基本こうした場では別行動をとるべきではないと思う。別行動をとった事で得られるものはプラスよりマイナスが多く、危険な選択である。まあゲームも小説もそうしなければ話が進まないのだろうが。少なくとも何処かに篭城して震える事になるだろう人種は単独行動を控えるか、そもそも同行しない方がいい。

 それを秋良の前で言うのはまあまあ酷な話であるが。

 さてしかし、それを理解しながらも提案したという事は、この4人組に限っては例外であるからだ。

 林湖の目的はあくまで未確認生物にあり、心霊現象を望む気持ちもなければ暴く気持ちもない。秋良は寧ろその手の話題が大の苦手で、目的はあくまで林湖の付き合い及び言い争いの回避役。

 対して心霊現象に興味津々なのが冬里と霞。霊感も知識も大分持ち合わせ、心霊現象に触れる事を深く深く望んでいる。ただ林湖が怒る様に未確認生物による心霊現象も心霊現象として歓迎している為、普段冷静な場であればまだしも、如何しても興奮が完全には隠し切れないこの場で衝突する事は避けられない。心霊現場に訪れるやや本格的な肝試しに於いて仲間割れはタブー。バッドエンドフラグだ。2人に付き合ってホラーゲームをやや嗜んでいる林湖と、そんな林湖のプレーを物陰から覗く程度の形で触れている秋良のレベルでも分かるお約束。

 そして本格的に心霊現象に触れる事を渇望している冬里と霞はそういったものの対処パターンも無数に持っており、それを林湖と秋良は散々聞かされていた。幸いにお世話になった事はないが、零感レベルであってもいざという時対処出来るだけの術は心得ている。

 以上の理由から本来であればバッドエンドフラグともなり、楽な道を自ら潰す行為でもある別行動が、林湖達に於いては例外、寧ろメリットになるのだが。


「別行動をするにしても中途からで問題ない。クルージングアトラクション迄はあからさまな心霊現象も報告されていない。加えて道は殆ど同じである上、未確認生物に纏わる心霊話はクルージングアトラクションのみ。遭遇したところで口論の問題は薄い」


 ドリームランドの心霊現象内容や地図を完全に把握しているらしい冬里がつらつらと語る。心霊組の片割れである霞も同意見らしく大きく頷いた。

 そうなれば答えは1つだ。

 いくら林湖達にとって別行動によるメリットが大きいとは言え、それをする必要が無い時に迄する事もない。林湖と秋良は1度互いに顔を見合わせるも、それは殆どポーズだけ。秋良については若干嫌々ながらの面があるかもしれないが、2人の答えはとっくに決まっていた。


「じゃあ途中まで一緒に行こうか。ただ1つだけ約束」

「クルージングアトラクションを調査する時は林湖ちゃん達がいない時か、林湖ちゃんの目に入らないようにする事だよね」

「ごめんね。私も大人気ないと思わないでもないんだけど、未確認生物を呪いとかの象徴の様に語られるのは如何しても嫌なんだ」

「拘りは大切。その愛は立派。霞がよくよく肝に銘じておかないのが悪い」

「返す言葉もないよ」


 そんな風に、何処か心霊現象で有名な場にいるにしては不似合いな、和やかな会話さえ交わしながら。

 それでもふと表情を引き締めたものに変えて、4人はドリームランドの奥へと1歩を踏み出した。




 あからさまな心霊現象は報告されていないという冬里の言葉の通り、雰囲気こそ不気味であるものの恐ろしい何かを直接的に感じる事はなかった。

 とは言えそれは林湖と秋良が零感だからであって、心霊マニアにして霊感も持っている心霊組は何時にも増して目を輝かせており、此処が本物なのだと2人に嫌でも理解させた。触らぬ神に祟り無しと言うし、この手の話題が一切駄目な秋良は勿論、積極的に興味を持っているワケではない林湖も彼等が何を見ているか聞こうとは思わなかったが。

 閉園になってから久しいらしいがドリームランドはそれなりに遊園地の形相が保たれていた。アトラクションの数々は勿論、軽い休憩や子供がアトラクションを楽しんでいる際保護者が利用していたと思しきベンチに至る迄、塗装が剥げ落ちたり、懐中電灯の明かりで視認出来る程度の傷が付いていたりもするが、しっかりと原型を止めている。

 腐食している可能性や呪われそうという危険性を除けば、普通に今でも問題なく腰を落ち着かせる事は出来るかもしれない。アトラクションについては電力を失った今、ただのベンチに成り果てているだろうが。


「ドリームランドが何故閉園に至ったか知っている?」


 きょろきょろと周囲を見回す事に一先ずは満足したのか、視線を此方に戻すと冬里は誰にともなくそう訊ねた。とは言っても同じく心霊マニアである霞はそれくらい知っていそうだから、正確に言えば林湖と秋良に訊ねたのだろうが。

 ドリームランドの噂は心霊が苦手な秋良の耳にも入る程有名だ。あまり考えたくないと顔を顰めつつ、それらしい答えを探す。顔こそ顰めていないが林湖の方も直ぐに直ぐピンと来たワケではないらしく、考える仕草を見せていた。


「うーん。確かに不思議ね。ドリームランドは目立った事故も起こさず、結構人気の高い遊園地に数えられたらしいけど……」

「……やっぱ心霊現象の所為か?」

「極論を述べるのであれば、施設の閉園は経営不振を主たる理由に起こる。此処ドリームランドも同じ事。但しドリームランドについては心霊現象の拡散が客足を遠退けた」

「まあ、遊園地という場で起きちゃいけない噂も立ったしね。結果その噂を恐れた人間は遊園地から遠退き、時には遊園地側を糾弾して、結果経営は立ち行かなくなり、閉園に追い込まれた。此処が閉園になっているにも関わらず遊園地の体を残しているのは、当時経営者側に解体費用を算出するような余裕がなかったのと、経営者の手を離れた後も心霊話に事欠かない此の地に手を付けるのが恐れられていたかららしいよ」

「それが心霊話によってまた賑わいを取り戻している。皮肉」


 2人の言葉で秋良も林湖も納得は出来るが、どうにも素直に受け止めにくいところではある。

 心霊スポットとして有名になっているのは4人の内林湖以外は知っている話であり、心霊マニアが1度は訪れたいと思う場所に裏野ドリームランドは挙げられるらしい。しかしドリームランドが廃園に至った経営不振の原因は、その心霊現象なのだ。

 まったく冬里の言う様に皮肉な事この上なく、秋良の顔は恐怖以外で顰められた。


「本当皮肉だな。そんな噂が出回りさえしなきゃ今でも此処は普通の遊園地として賑わってたかもしれないのによ」

「うん。それに未確認生物も悪者扱いされる事はなかったのに」


 若干2人の主張がズレている様にも思えるが、冬里と霞としては多少気まずい事に変わりはない。

 確かにドリームランドの現状と過去は皮肉であり、やりきれないとも思う。それでも1心霊マニアとしてはどうしてもこの現象に触れたくて仕方がない。理解しつつ心霊現象に喜色を示しているのが1番罪深いのかもしれないが、こればかりは理性や知性の外の感情、言ってしまえば霞の気持ちを理解しつつ未確認生物を貶められたことを怒る林湖の心情に似ているため、気の持ちようでどうにか出来る事でもない。

 切り出す話を間違えたかもしれないと互いに感じながら、話題を変えるべく何か別の話はないかと脳内検索をかける。勿論心霊話は駄目だ。秋良が行動不能になる。

 憧れの地にいる興奮も相俟って何時ものように働かない頭の中、道中の会話に最適な話題を探す2人の思考を遮る様に。


「   」


 か細い声が、聞こえた、様な気がした。


「!?」

「!!」


 咄嗟に反応して周囲を見回したのは勿論冬里と霞。

 2人の様子を見て秋良は何かが起きたのかと顔を青くし、林湖はきょとんとしつつも身構えながら、2人に倣って周囲を見回す。

 しかし零感の林湖には勿論、強い霊感を持つ冬里と霞の目にすら何も捉えられない。

 周囲にあるものといったら、塗装の剥がれたベンチ、光の消えた自動販売機、海外の道路標識をイメージしたかの様な、しかし文字は掠れてまともに読み取れない案内図。そして観覧車。

 何処にも心霊現象の姿は見えない。それでも何かが起きている気配を2人は確かに察知し、もう1度よく周囲を見渡して、その視線を観覧車で固定する。

 それと同時に1歩秋良が後ずさった。


「声がしたよね。多分気配的にも観覧車から」

「無風状態。及び周囲に何らかの要因を与える物は皆無。幻聴である可能性は薄い」


 冷静に語りながらも目を輝かせる2人に、秋良は自分の中の恐怖が肥大化していくのを感じ、林湖は特に何も思っていなかった。強いて言えばよく飽きもせず、と2人に対する呆れと感心を少しだけ抱いたが、心霊現象を未確認生物と変えれば自分も人の事を言えないのだろうと自覚はある為、その感情は直ぐに霧散する。

 ……て。

 そうした構えの林湖にも、微かな声が届いたような気がして、思わず林湖は2人の視線を追う様に観覧車を見つめる。秋良が裏切り者とでも言いたげに追い縋る様に林湖の方を見たが、その視線さえ林湖同様観覧車で留まった。


「林湖ちゃん達にも聞こえたの?」


 霞が驚きを示して問い掛けるが、何か自分の中で答えを見付けたのだろう、直ぐに納得した様に頷いた。

 先程迄の楽しそうな様子は2人の顔に既になく、何処か落ち込んでいる様にさえ見える、悲しげな顔で2人は観覧車を見上げていた。


「   て。 して。  けて…………だ、して」


 とても微かな声。よくよく耳を澄ませていても聞き逃してしまう様なか細い声ではあるが、今度ははっきりと意味を持って林湖と秋良の耳にも届いた。

 秋良はすっかり顔面蒼白で体を震わせながらも、ここでパニックを起こしては同行した意味がなくなるどころかただの足手纏いになると己に言い聞かせ、林湖は慌てて冬里達に視線を向ける。

 霊を刺激しない様にあまり大声は上げずに。隙を見せない様に過度な同情はせず。少し遅れながらも2人から教わった鉄則の1つを言い聞かせながら、問い掛けた。


「今のって……観覧車の中から?」


 廃園となった遊園地に電力など通っている筈もなく、観覧車が動いている筈もない。その証拠に夜になればライトアップされ幻想的な雰囲気を醸し出す円形のアトラクションは、今は闇に包まれて沈黙を保っている。

 しかしその沈黙の間を縫う様に、微風でも吹いていれば聞き逃してしまう様な微かな声が、観覧車の傍を通ろうとした4人の耳に届いていた。


「噂と照合。結果高確率でそう判断して間違いない」

「観覧車に対する噂もあるからね。此処を通ると小さな声で助けを求める声が聞こえるって」

「閉じ込められたのかな?営業中の事故?それとも肝試しの子が」

「過度な同情及び深みに嵌まる様な推測は厳禁。特に現地での其れは御法度」

「ただ助けを求める声である事は実際聞いてみても間違いなさそうだね。出して欲しい、助けて欲しいって」

「霞。同情心を呼び起こす様な発言も禁物。素人を危険に晒すのはマニアの風上にも置けない。最低」


 冬里の嗜める言葉が終わるよりも早く、霞の整った顔に苦々しげな色が浮かぶ。どうやら冬里に指摘されるより早く自分の失態に気付いたらしい。

 そんな2人の様子に散々言われている忠告を再度胸中に刻み込みながらも、観覧車をもう1度見上げてから視線を2人に向けると、林湖は小さく告げた。


「私は零感だし、2人の話を聞いてると怖いものばっかりだってイメージだけど、胸が切なくなるものもあるんだね」

「そう。でも過度な同情は禁物。それでも多少私達の好んでいる世界を理解してもらえたのなら嬉しい。こうした事例は私も胸を痛めるけれど」

「……ただこの声」


 林湖は冬里に首肯して最後にもう1度、というようによく耳を澄ませる。

 今迄心霊スポットに付き合った事はあるが、些細な現象さえ理解する事はなかった。それだけ裏野ドリームランドが本物なのだと言われればそれまでだが、如何してかそれだけが理由ではない様に思えて。

 深入りはしない。そうだ、そろそろ着くだろうクルージングアトラクションの事でも考えながら。思い詰め過ぎず、気楽に。それでいてしっかりと耳を澄ませた林湖に、再びその微かな声は届く。

 2人のようにはっきりと聞こえたワケではない。元からか細い声ではあるものの、やはり林湖が零感の所為だろうか、届いた声は酷く微かで途切れがち、何を言っているか判断するのも難しい。それでも1つ、林湖には引っ掛かる点があった。


「この声、何処かで聞いた事がある気がするのよね」

「気を付けて!?引き込まれたら危ないよ!?」

「同情も同調も厳禁。再三再度警告及び忠告をしている!!」

「そ、そういうんじゃなくて」


 自分の呟きに2人が血相変えて、鬼気迫る勢いで注意を促した事に、寧ろそっちの勢いに驚きながら、林湖は自分の言葉不足を補う。


「2人に教えてもらった事はちゃんと心得てるし、明確に聞こえたワケではないから誰の物とも言えないけど、聞いた事がある気がする声なんだよ。悪霊とか、そういう悪い予感は一切しなくて、ただ記憶の方が覚えのある声だなぁって訴えてる感じが」

「……ああ、だけど、言われてみれば確かに、切ないけど此の声、怖くはない、ような」


 心霊現象に直面したにしては早い復活を果たした秋良も、林湖をフォローするように言葉を付け加える。

 確かに数多ある噂の中で観覧車の噂は脅威として低い方だ。乗り移られる心配も皆無ではないものの、訴えている内容が一環して“出して欲しい”である事から乗車しない限りは然程有害でもないだろう。また、秋良の復活の早さからも害意の薄さは明らかだ。かと言って油断も禁物なのだが。

 霞は軽く手を挙げ、さも降参というようなポーズを示す。

 冬里の方は注意を観覧車に向けつつも、仕方ないというように溜息1つ。


「まあ、それでもあまり深く考えない様にしてね?」

「安全策に不足はあっても過度はない。そろそろ別行動になる。よくよく肝に銘じて」

「うん、分かってる!釈迦に説法かもしれないけど、2人も気を付けて!」

「……待てよ、此処から別行動って事は、お前等が行く先は……」


 2人のと言うよりは秋良をからかう様に、そして先の雰囲気と彼等の興味を断ち切る様に、霞は満面の笑顔を浮べて言い切った。


「多分秋良の想像通り、本格的な心霊ツアーになるよ」

「いいいい行こうぜ、林湖!!!直ぐに!お前の行きたいクルージングのアトラクション!!」

「い、行きたいけど、ちょっと秋良!?引っ張らないで!転ぶってばぁ!!」


 林湖の手首を掴み、自分の懐中電灯を片手でしっかりと握り締めて、それこそ足がギャグ漫画の様な回転を見せるのではという勢いで、秋良はクルージングアトラクションに向けて走り去っていった。

 少し怖がらせ過ぎたかもかもしれないと霞は反省しつつ、しかし次の瞬間には整った顔に完璧な微笑みを浮べて、冬里を見る。対する冬里は呆れた半眼で霞を見据えつつも、その半眼に期待の色は隠せていない。


「じゃあオレ達はオレ達の目的を果たそうか。いざ心霊マニア待望の裏野ドリームランド巡り!!」

「噂の真相解明。何より如何に噂に触れる事が可能か。楽しみ」

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