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7、僕が可愛いので嫉妬されています。

「スバスバって凪沢高校なんだよな 」


 メイド喫茶ゆーりんの社員用休憩室。今ここで休憩を取るのは丹沢双子と僕。少しでも時間を節約しようとこの暇なときに学校の宿題をやっていたのだが、そこに何をするわけでもなく先ほどからじっと僕のほうを見つめていた双子のうち姉の芽衣が唐突にそう話しかけてきた。


「そうだけど、それがどうしたの? 」

 店内にいる間は基本的に女の子の声。たとえ休憩室だろうと、客に聞こえるかもしれないし間違って入ってくることもあるかもしれないからだ。

「ほら、もうすぐで山凪定期戦があるじゃん。スバスバって何の競技に出るのかと思って。ちなみにウチはサッカーで・・ 」

「麻衣はバスケットボール 」


 山凪定期戦とは何なのか。簡単に言えば近所にある凪沢高校と山手高校がスポーツで競い合う日だ。毎年春の5月ごろに行われ今回で62回目となる伝統行事。

 種目はバスケ、サッカー、野球、陸上系、ラグビー、テニス、水泳・・などなど多く、それぞれがどの競技をやるかは個人の希望による。

 尤もスポーツ系の部活に入っているものはその部活の競技に出てその他はサッカーとか野球の無難なところに出て隅っこのほうで適当にやっているのが普通だろう。

 ちなみに山凪定期戦と山手高校では呼ばれているが、凪沢高校では逆に凪山定期戦と呼ばれている。


「僕はサッカーにしたよ。部活は入ってないから無難なところにね 」

「じゃあ、同じ1年だし1回戦で当たるんじゃないのか。おぉ楽しみだな 」

 そういえばこの双子も1年生だったっけ。凪山定期戦では同じ種目でもそれぞれの学年ごとにチームは分かれる。そして1回戦はそれぞれの高校の同じ学年同士で戦い、2回戦は1年と2年の勝った高校同士・・と対戦していくのだが、そうだとすれば芽衣の言うとおり1回戦で当たることになる。


「麻衣もスバスバと戦う 」

 麻衣ちゃんが急にそんなことを言い出す。当然のことながらいくら学年が同じでも種目が違えば戦うことはない。残念だがここは諦めてもらうしかない。


「あのねぇ麻衣。あんたはバスケでスバスバはサッカーなの。違う種目で戦えないのは分かってる? 」

「2つを同じ場所でやれば問題、なし 」

 Vサインを作ってすべてが解決したかのような満面の笑みを浮かべる麻衣ちゃん。現実的に考えてそんなことあり得ないので何も解決していない。


 それにしても突拍子もないアイデアを思いつくものだ。危険そうで1つ間違えればクソスポーツになりかねない。だがひょっとすると面白いかもしれない。ゴールはサッカーのもバスケのも2つあって選手は手も足も使える。これでオリンピック種目が一つ増えたんじゃないのか?


「あれぇ、芽衣ちゃんと麻衣ちゃんだ 」

 金井さんが伊達眼鏡を外しながら休憩室に入ってくる。金井さんについて少し説明をしておこう。高校2年生で学校は山手高校、つまり丹沢双子の1つ先輩にあたるわけだ。

 さなえさんなど、僕以外にはそれなりにいい子を振舞っていて、特に丹沢双子には後輩だからか優しく可愛がっている。しかし、それは僕以外に対してのみ。何が原因なのかはいまだにさっぱりだが、僕には毒舌を吐いてくる。


「私もちょうど休憩なんだよ。奇遇だね 」

「はい、奇遇ですね。金井先輩 」

 どこが奇遇なのかさっぱりだ。同じ職場で働いている限り休憩時間が被さることもよくあるし、もともと休憩時間は決められていて、全員のシフト表は張り出されているのだから今日こうして被さることも知っていた筈だ。


「ねぇねぇそれより芽衣ちゃん、この漫画読んだことある? すごく面白くって私のお勧めなんだけど 」

「そんなのがあるんですか。僕も漫画は読みますけど初めて見ました。何のジャンルなんですか? 」

「それでね芽衣ちゃん・・ 」

 なるほど。入ってきたときに僕の名前だけ言わなかったり、今の僕のセリフへのスルーといいこの人は僕の存在に気づいていないフリをして楽しんでいる。

 ならばこちらも無理に話には入っていかず傍観者を楽しむことで逆に金井さんの思惑を外してやろうではないか。


「これはね、人がどんどん殺されていくストーリーなんだけどその死に様がもう傑作で。ああ今思い出しただけでも笑いが出てくるわ 」

 それってただのホラー漫画ですよね。どうしてそれに笑うシーンが出てくるのかな? 前から思っていたがこの人の笑う感覚は僕たち一般人とずれているらしい。


「面白そうですね。貸して貰えませんか? 」

 お前もいくら相手が先輩だからとはいえ同調するなよ! 


「いいわよ、明日に全巻持ってくるから 」

「ありがとうございます 」


『ごーんごーん』 


 芽衣が本当に嬉しいのか定かではない嬉しそうな顔で礼を言ったちょうどその時12時を示す時計の鐘が鳴る。僕の記憶が正しければ丹沢双子はこの時間から仕事に戻る筈だ。

「あのぉ、ウチらは仕事に戻らなくちゃなんで。本当にありがとうございます。ほら麻衣行くよ 」

 どうやら僕の記憶は合っていたようだ。焦った口調でそう言った芽衣は鐘が鳴ってものんびり座っていた麻衣の腕を無理矢理引っ張って表に出て行く。


 さて、これでこの場には僕と金井さんの2人になり、急に休憩室は静かになる。


ー勝った。これぞ僕の作戦通りー


 話す相手が僕しかいなくなって味方がいなくなった現状、僕の存在を今まで無視していたため向こうは妙に気まずくなる。さらに金井さんはこのまま思惑が外されたまま引き下がれないだろうからいつかは話しかけなければいけない。

  反対に僕はというと、もともといない存在なのだから悠々と宿題をやって後は向こうから話しかけてくるのを待てばいい。

 傍観者を決めた時点からこうやって丹沢双子がいなくなるのを見越してのことだったのだ。完璧すぎないか、今日の僕。


 5分ほどの経過。まだ話しかけてこないが僕の休憩時間は後10分ほどで終わる。金井さんもその程度は分かっているのでもうそろそろ話しかけてくる筈である。

 現に先ほどから口を開こうとしては止めての繰り返しを5回ほど行っている。そして6回目、とうとう言葉を発しようとした時だった。


「おーい、スバルはいるか? 」

 いつものごとく乱雑に足で扉を蹴ってさなえさんが休憩室に入ってくる。

「いないのか、金井でいいからちょっと来てくれ 」


ーあれ? -


 僕はさなえさんの目の前の見えるところにいた筈だ。それなのにまるで僕の存在などないかのような態度だ。そして何事もなかったかのように金井さんはさなえさんに付いていって休憩室には僕1人だけになる。

 もしかして僕が色々考えた作戦のおちは僕の影が薄すぎてもとから金井さんは僕の存在に気づいていなかったっていうことなのか! 

 いや冷静になれ。流石に店長もあの距離で気づかないなんてことはないし、さなえさんの性格、さらには立ち去る前に微妙ににやけた顔。それらを総合して考えられることは一つ。外でこのやり取りを見ていたさなえさんにはめられた。


ーはぁ・・ー


 金井さんといいさなえさんといい、どうして僕がこんなに(いじ)られる対象になるのだろう。もしかして僕が可愛いから!? これが女の嫉妬というやつか。

 僕は初めて女の世界の恐さというやつを身をもって感じたのだった。

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