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5、僕がメイド喫茶で幼馴染の教育をしています。

「じゃあ、基本的事項はこのぐらいだ」

 僕とコトはメイド喫茶「ゆーりん」の休憩室にいる。僕もコトもピンクのメイド服を着て、軽くメイクをしている格好だ。

 僕は、昨日ここで働くことが決まったばかりでまだメイドについて何も知らないコトにメイドとしての教育をしている。


 僕がコトの教育係になったのは僕やコトの希望というわけではなく、さなえさんが決めたこと。その決定に特に反論するところもないので了承はしたが、その理由がさなえさん曰く「その方がこの後の展開が面白そうだから」と暴露したのは店長として大丈夫なのか疑問に思うと同時に、こんなのでよく店長になれたものだと感心までしてしまう。


「何か質問とかあるか? 」

「はいはーい。どうしてスバルちゃんは今男の声で喋っているんですか? 可愛い女の子が男の声を出すと違和感があって気持ち悪いです。ついでに学校でも女の子になればモテモテになると思うよ」

 待ってましたとばかりに手を挙げるコト。


 冗談のつもりなのかは知らないが、僕自身は微妙に傷つく部分がある。好きな幼馴染からの気持ち悪い発言に、男の僕を否定されているような発言。

 声のほうは男と女のどちらがいいか迷って結局幼馴染の前だからということで男の声を選んだだけだから変えてやってもいいが、女装して学校にいくなんて校門で先生に連行されて即終了という局面が見えている。


 そもそも女装をして女にモテモテなんて理屈としておかしい。僕の学校に百合はそんなにいないぞ。たぶん・・。

「あ、言い忘れてたけど男の子にモテるんだからね」

 百合ではなくてホモでした。いや、この場合僕は女装しているんだから純愛?

 って、こいつのせいで変な方向に話がずれてしまった。そろそろ本題に戻ろう。


「次はお前のキャラを決めなくちゃいけない。僕は一応清楚な乙女メイドっていう謎の設定なんだけど・・」

 この僕のキャラは周りの人の満場一致で決まった。どうして男の僕が超女の子っぽいキャラなのかは不明だが、これまたさなえさん曰く「お前は可愛いから大丈夫だ。素のお前を出せばそれだけで清楚な乙女だから」らしく、周りも珍しくさなえさんの言葉に頷いていた。

 僕もその言葉通り素の自分を演じているのだが、果たしてこれで大丈夫なのか分からない。2位という高順位ではあるし、クレームも今のところないので大丈夫と勝手に認識するようにはしているが。


 ちなみに他の人のキャラも紹介しておこう。


 さなえさんはご存じの通り猫メイド。

 菊さんが頼れるお姉さんメイド。

 順位3位の椎名(しいな)美千代(みちよ)さんが、大学までずっと大阪に住んでいたということで関西弁メイド。

 順位5位・6位が丹沢(たんざわ)麻衣(まい)芽衣(めい)の双子メイド、妹の麻衣のほうが僅かに5位である。

 最後に7位の金井(かない)風香(ふうか)さんが眼鏡っ子メイド、これが普段は眼鏡どころか両目1,5でコンタクトも何も必要ないというのだから面白い。


 さて、話はコトのキャラだが・・どうもピンとくるものがない。

「ドジっ子メイドなんてどうかな?もうみんな萌え萌えだよ」

 コトが自ら1つのアイデアを出す。

 コトのドジっ子姿かぁ。一体どんなものになるのだろう。その瞬間僕の頭の中にドジっ子コトの働く姿が浮かんでくる。



「お帰りなさいませ、ごひゅじんさ・・きゃ! 」

『ドテン!!』

 突然来た客に走ってお出迎えしに行くコト。急いだせいで噛んでしまっただけでなく足を滑らせて思いっきりずっこける。メイド服の中からは水色の縞々パンツが覗かせていて、客は声には出さないように興奮する。

 気を取り直してコトは客を席まで案内して注文を取ろうとする。

「こちらがメニュー表になります・・あれ? すみませんご主人様、間違えました」

 コトが渡そうとしたのはメニュー表ではなく1万円札? いやいやこの設定おかしいでしょ。


 自分で妄想しておきながら自分で突っ込みを入れる。メニュー表と1万円札では材質も大きさも明らか違うのでいくらドジっ子とはいえやりすぎだ。それに、もし本当に1万円札を渡せば大問題だ。

 おかしなことになったところで1度現実世界に戻ろう。



「とりあえず、お前が借金状態になるから却下だ」

「どうして借金! お皿とか割って弁償させられるっていうこと? 」

「あ、いやこっちの話だから気にするな。それで他にないか? 」

「じゃあ、うさぎさんメイドとかはどうかなぁ? 」

 僕の否定に対してすぐに新たなアイデアを出すコト。そしてまたもや僕は妄想の世界へと引きずり込まれた。



「お帰りなさいませぴょん、ご主人様ぁ」

 衣装はメイド服の面影は一切なくなってただのバニースーツ。口調もうさぎらしくぴょんとは付いているものの妙に生々しいのはなぜだろう。

 客はもう少しで見えそうな胸と網タイツ越しではあるが露出した太ももに目がいっている。

「それでは席に案内しますぴょん」

 客を席に座らせてメニュー表を渡す。

「メニューはそちらに載っている商品と・・」

「と、何ですか?」

 客が意味ありげなコトの言い方に気になって質問する。するとコトは客の耳元まで口を持っていって・・。


 駄目だ。ここから先は妄想してはいけない。服装もそうだが行為もメイドとは大きくかけ離れてしまってる。僕は、うさぎメイドと聞いてバニーガールではなくメイド服にうさぎの耳と尻尾を付けただけのコトを想像すればよかったのだ。

 先ほどの1万円札といいどうして僕の妄想はこうもおかしなことになるのだろう。もし、これが僕の欲求の表れだったら・・。つまり1万円札はお金が無いことからの金欲で、バニースーツはコトに対する恋欲ということだ。そう考えると妄想というものがどこか恐ろしく感じる。



「おぉーい、まだ終わらないのか? もうそろそろ実際にやらせてみたいのだが」

 どんどん僕の頭がおかしな方向へ行きかけていた時さなえさんが休憩室に入ってくる。コトがいるせいか今日の思考はよく変な方向に行ってしまう。

「まだ、キャラが決まっていなくてですね・・」

「そんなもん妹メイドにさせておけ。さあ、行った行った」

「は、はい」

 こうしてしばらく悩んでいたコトのキャラはさなえさんの一言で一瞬にして決まった。



『カランカラン』

 店の扉がゆっくりと開いていく。その前で必死に心を落ち着かせようとしながら待機しているのはコト。その扉は完全に開いて客が入ってくる。


「お帰りなさいませ、お兄ちゃ・・・・え? 」

 妹メイドらしくお兄ちゃんと言おうとしたが途中で止まった。カウンターの影に隠れて見守っていた僕でさえも驚いた。接客が初めてのコトが言葉に詰まるのも無理は無い。

 客はジーパンに黒のTシャツを着て、頭には赤い帽子を被った10代の1人の男。かつ僕たちに見覚えのある顔だ。そうその客とは純だった。


 2度目で慣れたのか落ち着いていて、前回のように宅哉は連れていなかった。コトを見た瞬間純も驚いた顔を見せたがすぐに元の顔に戻る。

「よぉ神凪だっけか?昴の幼馴染の」

「お兄ちゃん!お席にご案内しますね」

 コトは怒った口調で純を無視するようにして無理矢理席に案内する。思わぬところで出会った知り合いと少しぐらい言葉を交わしてもいいのでは、無視は冷たいのではないかと感じるかもしれないが、むしろ純が無神経というべきだろう。この様子を他の客も見ているのだから。


「こちらがメニュー表になります。」

 メニュー表を受け取った純の目線はメニュー表ではなく、コトのほう。おそらくコトのメイド服姿の可愛さに見とれているのだろう。


ーコトは僕のものだ、お前なんかにはやれないぞー


 顔を少し赤らめている純を見ていると敵対心が芽生えてくる。大丈夫だ、落ち着け。僕が純に負けるところなんてあるか? 勉強は勝っているし運動も同じぐらい、性格面や顔のかっこよさとかは分からないが、可愛さでは勝っているはず。うん、純には勝てる。


「あのぉ、お兄ちゃん。ご注文は決まりましたか? 」

 見とれていてまったく注文をしようとしない純に催促する。尤も純にだからこそできることで他の客に同じようにして、メイドに見とれてはいけないとすればもはやメイド喫茶といえるのかどうかすら怪しくなってしまう。


「いやぁメイド姿の君があまりにも可愛くって。前に来た時のスバルちゃんっていう子も可愛かったけど君も負けないぐらいだよ。俺的には君のほうがタイプだなぁ」

 コトの引きつった笑顔。痛いほどコトの気持ちが分かる。実際の女の子が女装した男に可愛さで負けないぐらいと言われているのだから傷つくのは当たり前だ。純としてはスバルちゃんが昴とは知らないので(けな)している気などなく単純に褒めているだけなんだが。


「それじゃあ、このハンバーグ定食、メイドのあーん付きをお願いします」

「へ、へぇーハンバーグ定食メイドのあーん付きですか。畏まりました」

 引きつった笑顔にさっきよりも怒りが増している気がする。純は楽しめるうちに楽しんでおこうと思っているのかは知らないが次に学校で会った時にどんな仕打ちをされるか知れたものじゃないぞ。例えば中学校の時に僕が不可抗力で下着姿を見てしまったときなんて1日の授業をふんどし一丁で受けさせられたのだから。


 でも同情する気はない。コトにあーんをさせるのだから少しの罰は受けなければいけない。純の罰を受ける姿を想像すると思わず笑ってしまった。

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