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4、幼馴染がメイド喫茶でメイドやっています。

前話(第4話)のコト視点ですのでご注意ください。

  昼休み、ふとスバくんの教室の前を通りかかると机に突っ伏すスバくんが見えた。あれは落ち込んでいるのかな? 

 いつもならこの時間は2人の友達とお昼ご飯を食べているはず。(スバくんは食べていないことも多いけど)

 それが今日は1人のところを見ると喧嘩でもしたのだろうか。こういうときこそ私が慰めてやらなくちゃ。


「スバくん。おーい、スバくん生きているかぁい? 」

 教室の中に入ってスバくんの前の席まで行った私はそう言う。ついでに泣いていないか確認するために顔を覗き込むが泣いてはいないいようだ。別に悲しそうな顔というわけでもなくただ単に退屈しているだけの顔だったので喧嘩とかではなさそうだ。


「何か用か? コト」

 声からもスバくんの退屈で仕方が無いという気持ちは伝わってくる。


「スバくんが倒れているから様子を見に来たんじゃないか。そういえば、いつもの田川くんと佐々倉くんはどうしたの? もしかして喧嘩かい?それなら駄目だよ、スバくん。すぐに謝らなくちゃ」

 前途したように声からも表情からも喧嘩ではないことぐらい分かっていた。おそらく2人とも用事でたまたま1人になっただけなのだろう。

 だが、その次に言う言葉が咄嗟に思いつかなかったのと一応の確認のためにそう言った。


「サッカー部のミーティングと生徒会の会議だよ。二人とも急がしいんだから。」

 予想通りというべき答えだった。まあ、退屈しているのなら少しぐらい暇つぶしの相手になりましょうか。

「へぇーみんな大変だねぇ。ところでスバくんはお仕事大丈夫?毎日頑張ってるっぽいけど・・」

 今ふとこう言ってみて気になることがあった。スバくんって何のアルバイトをしているのだろう。幼馴染でありながら全然そう言うのは聞いたことがなかった。


「えっあぁ・・うん。大丈夫だよ」

「ほんとにぃ? 怪しいけど」

「大丈夫だって」

 スバくんのこの焦った口調。長年の付き合いだから確実に分かるけれど絶対に何かを隠している。この場ではどうせ聞いても答えてくれないので、敢えて聞かなかったが、これは調べる必要がありそうだ。早速、今日はスバくんの後をつけてどこで働いているのか探ってやろうじゃないか。




 放課後になった。友達と駄弁るわけでもなくさっさと帰りの支度を済ませたスバくんは1番乗りで教室から出てくる。

 あらかじめ教室の外で待ち伏せしていた私は速足のスバくんを見失わないようにかつ、気づかれないように一定感覚の距離を保ちながら追跡を開始した。


 正門を出てすぐのところを右に曲がる。この方向なら駅の方向だ。特に気づかれることもなく順調に追跡をして10分ほど。

 あまりばれそうになかったことに安心してついついボーっとしていると急にスバくんは走り出した。信号が青から赤になろうとしていたのである。

 スバくんは走ったおかげでぎりぎり渡ることができたが、私はというとスタートが出遅れたことと距離をとって追跡していたために渡ろうとしたところでちょうど信号は赤に変わった。交通量の多い交差点だけに赤になった瞬間車はびゅんびゅん走り出してとても信号無視をして渡れそうにはない。


ーあぁ、どうしよう。このままじゃ見失っちゃう。早く青に変わってよぉ-


 心の中ではそう念じ続けるがその甲斐もなくスバくんは次の曲がり角を右に曲がって視界から完全に消える。それから30秒ほど過ぎてやっと信号は青になって、曲がり角を右に曲がるが、もうそこにはスバくんの姿はなかった。つまり見失ったわけである。


ー追跡は失敗かぁ。また明日にするかー


 そうやって諦めて帰ろうとした時だった。


「いやー今日はスバルちゃんいなくて残念だったなぁ」

「学生だから平日の昼間はいないんだろ? 今度は休日に行こうぜ」

 通りすがりの20代ぐらいの男2人の会話が聞こえてきた。

 スバルちゃんと学生の2語が妙に気になる。ちゃん付けなのがなぜだかは不明だが、このスバルちゃんがスバくんの可能性は大いにある。これは確かめてみる価値がありそうだ。


「あの失礼ですが、お2人は先ほどまでどちらに行かれていたんですか?」

 見知らぬ人にこんなことを聞くのはおかしく躊躇われたが、勇気を振り絞って男2人に聞いてみた。

「えーっと・・あそこのメイド喫茶だけど。それがどうかしたの? 」

「あ、いえ。ちょっと人探しをしておりまして」

 男は見知らぬ人からの意図もよく分からない質問に疑問を持ちながらも答えてくれた。


 さて、それがスバくんなのかは定かではないにしても多少の手がかりは掴んだわけである。しかしもし本当にこのメイド喫茶で働いているとなるとそれはどういうことだろう。

 考えられるとしたら掃除係とかの雑務系かあるいは料理を作っているかだが、さっきの男が掃除とかをやっている人目宛に来たというのはマニアックすぎるし、料理を作っているのならまずスバくんはそんなに料理はできなかったはずだ。

 一瞬スバくんがメイドをやっているという可能性も考えたが、そんな馬鹿げた話があるわけないとすぐに否定する。

 とにかくここで色々考えず、中に入ろう。それに今男が話していた人物がスバくんであると決まったわけではないのだ。



「お帰りなさいませにゃん、お嬢様」

 中に入って出迎えたのはピンクのメイド服を着て猫耳と猫の尻尾をつけた女の人。おまけに喋り方も「にゃん」がついていておかしい。

 メイド喫茶とは名前ぐらいは聞いたことがあるがまさかここまで強烈とは。子供でもないだろうにこんなことやって恥ずかしくないのだろうか。せめて中に入る前に心の準備をするべきだったと反省しつつ案内されるがままに席につく。


 ふと壁に目をやるとここで働いているメイドの写真入りポスターが7枚張ってあった。左のほうから順に見ていくと3つ目のところで先ほど私を案内してきたメイドさんのが目に入る。どうやらあの人はこの店で1番の人気らしい。


ー見つけたー


 場所にして右から2番目の位置。それは先ほどの男の話していたスバルちゃん。ぱっと見は可愛らしい女の子だが、よくよく見ると間違いない。スバくんだ。

 信じ難いことではあるが幼馴染の私がいうのだから間違いない。とりあえず落ち着いて分析しよう。


 まず、スバくんがメイドになっていたのであれば、私にアルバイトのことを聞かれて慌てていたのも辻褄が合う。どんな事情があったにせよ女装をして働いているなんて恥ずかしいことだし、クラス中にばれたら苛められる原因にもなりかねないからだ。


 次に考えるべくはどういう事情があったのかだけど・・。


 理由その1:女装に目覚めた

 理由その2:悪い人に脅されている

 理由その3:誰かに頼まれた

 理由その4:給料がいい

 理由その5:理由など無い、偶然アルバイト募集の紙を見つけただけ


 どんどん思いついてくるがどれが正解かなんて分からない。確率が高そうなのは女装をしてみると可愛い自分に惚れて働き始めた1の理由か、人のいいスバくんなら3の理由、あるいは家計のことを常に考えているから4も有力候補だ。

 もちろん2や5の可能性も考えられなくはないし、他の可能性もある。もうこれは本人に聞くしかない。

「すいません、スバくん・・あ、いやスバルちゃんとお話がしたいです。駄目でしょうか? 」

 思い切って人気ナンバー1の猫メイドにそう頼んでみた。


「遅くなりました、お嬢様。何か御用でしょうか? 」

 猫メイドに頼んでから気づいたが壁には店の注意書きとしてメイドの指名は禁止となっている。ところが、どうしたことか素直にOKしてくれてすぐにスバルちゃんはやってきた。良心で1回だけ指名をOKしてくれたのか、私の真剣さを察してくれたからなのか。


 しかし、今はそんなこと関係なく大事なのはこのスバルちゃんだ。それはポスター通りの顔で同時にウィッグやメイクで誤魔化した幼馴染の顔でもある。

 いざ、会ってみるとどういう顔をしてどういう風に接すればいいのか分からない。スバくんの方は完全に別人のフリを突き通そうとするつもりらしい。

 スバくんの名誉のためにこちらも気づいていないフリを突き通してもよかったのだが、やっぱりメイドとして働いている理由を知りたかった。


「おぉ、やっぱりスバくんだ! スバくんのお仕事先ってここだったんだね。気になって後をつけてみたんだよ」

「・・・・」

 敢えていつも通り明るく振舞った。こちらから真剣な顔をして訊くのは2人の会話としてはおかしいと思ったのだ。それよりかは終始笑顔でいたい。


「スバくんって本当に可愛いよね。昔っから女装すれば絶対似合うと思ってたんだよね。念願の夢が叶って私はもう幸せでいっぱいだよ」

 私からは核心には触れない。この理由も先ほどと同じ。だが、同時にそれは私がスバルちゃんのことをスバくんだと確信していることを示してもいる。

 経験上、こうなって騙せないと思ったスバくんはよっぽどのことが無い限り自分から真実を打ち明けてくれるはず。


「その・・コト。ちょっと話があるから僕についてきてくれないかな? 」

 私の計画通り、スバくんは諦めたようだった。



 連れてこられたのはテーブルと椅子だけが置かれた殺風景な部屋。おそらくメイドたちの休憩室といった感じだろう。

 特に前置きもなく椅子に座るよう促すとここで働くようになった経緯を順に話し始めた。


「それでコト、こういう事情でここで働くことになったのだけど・・」

 スバくんはそう締めくくって話を終えた。

 どうでもいいが、メイドの服を着て超可愛い女の子が男の声で話すのには返って抵抗がある。本人は真面目さを出そうと思っているのかもしれないが、着替えてからにするか女の子の声で話して欲しかった。


 さて、結論から言うと私の考えた理由その4が1番適切だったといえるだろう。いくら可愛いとはいえ、男のスバくんにメイドの仕事を紹介する叔母さんの無茶苦茶さには内心笑ってしまったが、それ以外は納得できる話だ。


 正直、理由その1の女装に目覚めたとかなら、本人の自由かもしれないが幼馴染として元のスバくんに戻させたい。だが、まともな理由なので私にはどうすることもできないし、もちろんそれでスバくんを嫌いになったりはしない。


 1つだけ心配があるとするならば、働いているうちに女装に目覚めることだ。客から可愛い、可愛いと褒められているうちに目覚めることは大いにあり得そうだ。

「ねぇ、私もここで働きたい! 」


ーこうなった以上スバくんを監視して危ない方向に行かないようにしてやるー


 私はそう意気込んだのだった。

 ラブコメディーとしておきながら書いている本人としてはここまで堅苦しい話になった印象でしたがどうでしょうか。次話はもう少しコメディー要素を入れられるよう努力させていただきます。

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