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番外編6 僕たちは砂浜でスイカ割りをします。ー海水浴編 D-

 地獄の海の家でのバイトを終え次の日。いよいよ、今日から本格的にパラダイスタイムが始まると昨日の夜からもうみんな楽しみだったに違いない。少なくとも僕は楽しみでやや早めに寝ようと努力はしたし、コトも再三楽しみだなぁと言っていた。

 現に今、海のほうを見渡せば女の子たちは水を掛け合ったり、ボートに乗ったり、適当に泳いでいたりと非常に充実した時間をお過ごしのようだ。


 もっとも「海のほうを見渡せば」とかから分かるとおり僕はあの広くて大きい海の中にはいない。僕は可愛らしい女の子たちの笑い顔を眺めながらビーチパラソルの下で足を伸ばしてただ座っていた。


「あっちーー 」


 気温にして35度ぐらいはあるはずだ。その気温の高さの中、海を前にして入らなければ暑くないわけがない。もちろん海に入ることができるなら是非ともそうしたいのだがそれができない理由はすべてあのロリ店長にある。


 あのロリ曰く「男がメイドとして働いていたとバレルとわらわの店が困るのでなぁ、これから外に出るときは女の格好でいてくれ 」ということなのだ。まったくもって理不尽な要求だが断ろうとすれば「この旅館から追い出すぞ」の脅迫なのでもう打つ手がない。

 水着に関しては女子用スクール水着とかワンピース型の水着、ビキニまで準備されていたが当然そんなの男の僕が着れるはずもなく渋々借り物の水色のスカートと白色のTシャツを着用してここにいるわけだ。


「スバくーーんっ 」

 そんな哀れな僕にコトが走って近づいてくる。青と黒の縞々ビキニは色のチョイスがなんともコトにぴったりである。また、露出した真っ白な肌は水に濡れたせいか余計に光り輝いていて、程よい大きさの胸が走るたびに僅かにゆれるのは芸術といっても過言ではない。コトの水着に対するこの感想もまた朝から何度思ってきたことだろう。

 と、それはさておきわざわざ少し離れたこの位置まで来たのはどうしたのか。どうせ喉が渇いたとかボールをとりに来たとかだろうけど。


「いやーずっといたら疲れちゃって。隣いいかな? 」

 コトは隣に僕と同じように足を伸ばして座る。おそらく疲れたからとはいってるがそれは建前で、海に入れない僕を気遣ってのことだろう。僕はそれに甘えてすっと軽くコトのほうにもたれかかる。


「コトは本当に可愛いなぁ 」

 特に話題もなかったのでのんびりした雰囲気のままただ思ったことを口にした。


「それ朝から3回ぐらい聞いたよ 」

「でも可愛いし 」

「もうー、スバくんの方が可愛いよ 」

「いくら謙遜だとしても可愛さを彼氏である僕と比べるのはおかしいと思うよ 」

「じゃあ世界一の美女には到底及ばないよ 」

「比べる対象が抽象的すぎて判断できないし 」

「うーん・・・・・・アルパカには到底及ばないよ 」

「何でアルパカ!? 可愛いのかもしれないけど可愛さの次元がおかしいよっ! 」

「それじゃあ、えーっと・・・・・・ 」

「さなえさんのほうが可愛いとかそんなのでいいんじゃないの? 」

「へぇー店長のほうが可愛いって思ってるんだ 」

「いや、そうじゃなくって!! 」


 始めはのんびりした雰囲気意だったはずの会話がいつの間にかヒートアップしていた。

 これもすべてコトの冗談に違いないがそう分かっていても話していると元気が出てくる。よし、ずっとここで座っているだけってのも退屈だし何かしようか。


「じゃあみんなを呼んでスイカ割りでもしようか。ほら、スイカは元々用意してあるし 」

「うん、そうしよっか。じゃあ呼んでくるね! 」

 コトは小走りで海のほうへいって他の人を呼びにいった。ふむ、このスイカを用意してくれたのが誰だか知らないがちょっとした余興として面白そうだ。



「スバスバー、お留守番お疲れ様だぞ 」

「大丈夫やったかスバルちゃん 」

「スバスバは元気、だいじょーぶ 」

「奴隷として当然の行為だわ 」

 コトに呼ばれて戻ってくるなり僕に声をかけてくれる。気遣う声だったり奴隷呼ばわりされたりと様々であるが、一ついえることは楽しんでいる人に心配されると余計に腹が立つということだけだ。


 とはいえ、そんな仲間はずれもここまで。ここからは皆で仲良くスイカ割りだ。

「それじゃあ始めようと思うけど誰か割りたいって人いる? 」

 別に僕としては横から間違ったことを言って惑わすほうでも楽しそうだし、実際に自分で割ってみるのも良いと思う。つまり、どっちでもいいのだ。

 そんな僕が勝手に割っても不満が出るかもしれないと、聞いてみたが無反応。芽衣とかならやると思ったんだが。


「誰もいないのならせっかくだしスバルちゃんがやればいいじゃない 」

「構いませんけど……芽衣とかはいいのか? 」

「うーん……やりたいんだけど棒がないし、いいかなって 」

「えっ 」

 芽衣の指摘を受けてはじめて気づいたがスイカだけあるくせに割るための棒がねぇじゃんか。ってか芽衣も知ってたなら「いいかな」で終わらさずにもっと早くにおしえてくれるかな。僕にスイカを素手で割れとでも言いたいのか。


「で、このスイカ持って来てくれたのって誰なんですか? もし棒を持ってきてるなら貸して欲しいんですが 」

「それやったらうちの店長が持ってきてんの見たで。なんかおやつに食べるためとかにやったっけなぁ 」

 まさかのこの主はさなえさんだったか。しかもスイカ割りのためではないと。さなえさんなら今日も同様少し離れた場所でビーチチェアに座って日を浴びていらっしゃるが。一応、持ってるか聞くだけ聞いてこよう。



「さなえさん、ちょっといいですか 」

「ん? 」

 さなえさんのほうまで行ってすっかり気持ちよさそうなその体を揺さぶると、サングラスを取ってこちらを見る。


「その明らかにめんどい感ださないでくれますか。表情が恐いですよ 」

「仕方ないだろ、実際にスバルの相手なんて面倒だからなぁ。それより何のようだ? 聞くだけなら聞いてやろう 」

 いちいち上からくるな。とにかくそんな細かいことはどうでもよくって早く用事を済まそう。


「スイカ持ってきたのならそれを割るための棒とかないんですか? 」

「包丁なら持ってきてるぞ。ほれ 」

「ちょっ!? 」

 さなえさんは胸元から包丁を抜くと僕のほうに向かって投げて渡す。刃がむき出しで超危なかったんですけど! 普通に怪我するとこだぞ!!


「包丁を投げないでください!! それにどうして包丁を持ち歩いてるんですかっ!! 」

「わざわざ起き上がって渡すのは面倒だ。包丁はスイカを切るために持ってきたのだが、置いておくと誰が怪我をするか分からないだろ? 」

 いやいや、誰が怪我をするか分からないってそこ心配するなら包丁投げないでくれますかね。それと包丁だけ持ち歩いてたらただの危ない人だから絶対やめてっ!!!


「で、折角の包丁ですけど肝心の棒はないんですか? 」

「だから渡したじゃないか。その包丁で割ればいいだろ 」

「もう、いいです。勝手にスイカはもらいますね 」

 僕はもう諦めの境地に入りビーチパラソルのほうへと歩いていった。


 想像してみて欲しい。家族連れもいっぱいいる人の多い砂浜で若い女の子が目隠しをしながら包丁を振りかざす姿を。どんだけシュールなスイカ割りだよ!


「さぁみんなスイカを食べるぞ 」

 結局僕達はスイカ割りは完全に諦め、スイカを包丁で切って仲良く食べたのだった。

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