番外編5、さなえさんが王様で僕はMになります。-海水浴編 Cー
「わっひょーーー!! 」
「すごい広いわ! 」
ここはある旅館の一室。一仕事を終えた僕たちメイドご一行はロリ店長に案内されてここまできた。
部屋はみんなが泊まっても狭苦しくないぐらい十分な広さがあり、まさに和風といった感じの畳やふすまあるいは壁にかかった掛け軸なんかは心を落ち着かせてくれる。実にいい部屋である。
「それより本当に僕が一緒の部屋に泊まっても大丈夫なんでしょうか? 」
僕は再度確認のためうちの女子勢にたずねる。というのもロリ店長曰く部屋が一つしかとれなかったので全員同部屋だ、ということらしい。こうなってしまったのは不可抗力とはいえさなえさんを除いて若々しくデリケートな女の子たちばかりだ。僕みたいな男と一緒の部屋で寝るというのに抵抗を感じる人もいるかもしれない。
「私はまったく問題ないぞ。むしろスバスバだったら大歓迎だな 」
「ま、まぁ嫌ではあるけど仕方ないわね。ホント、汚らわしいけど我慢してあげるわ 」
「せやね。しょうがないことやしスバルちゃんは女の子やからまったく問題ないで 」
「私もスバルちゃんなら大丈夫よ。この今宮くんは早く出て行って欲しいけど 」
「ちょっと児子さん? 僕に冷たくないですかっ 」
「事実をいっただけじゃない 」
もう一人の男である今宮さんはどう対処されるかは分からないが、少なくとも僕は大丈夫らしい。本当に皆優しくて助かる。ってか僕は女の子じゃないっ!!
「ふぅ、疲れた・・・・・・ 」
僕は荷物を詰め込んだスポーツバッグを部屋の隅に下ろすとそのすぐ横に腰を下ろす。てっきり海に入って楽しい旅行だと思っていたのが働く羽目になったのだから疲れは尋常じゃない。今晩はしっかり疲れを取って明日からの海水浴ライフに備えるとしよう。
「さぁ諸君! 今こそ青春を謳歌するとき!! 立ち上がれ、そして始めようではないか 」
他の人たちも僕と同様疲れて腰を下ろしたところに芽衣が部屋の真ん中にたってどっかの隊長のようなセリフを放つ。一体なにを始めようとしているのか、どうせ何かのゲームなのだろうが到底立ち上がる勇気など湧かない。
「ちょっと・・もっと立ち上がろうよ。青春は謳歌しなきゃだよ 」
案の定ほぼ全員が疲れきっていたみたいで芽衣の呼びかけに立ち上がったのは麻衣ちゃんだけだった。まったく麻衣ちゃんも芽衣も元気なところだけは姉妹だなぁ。
「あー私は店長としてやってもいいぞ。うん、青春の謳歌は大事だからな 」
「おぉ! 流石店長だぞ 」
「てんちょう、さすが 」
ここでさなえさんが加わる。あたかも店長らしく子供の遊びに付き合ってあげている感を出しているが実際にはただ遊びたいだけじゃないかな。昼間は一人だけビーチチェアでくつろいでいて疲れてないだろうし。ってかさなえさんには謳歌する青春はもうない気がするが。
「さぁコトちゃんもやろうよ 」
いよいよ全員に呼びかけているだけでは反応してくれないと悟った芽衣はコトに直々に話しかける。
「うーん・・・・・・スバくんも一緒にやろ? 」
少し考えたかと思うと僕に振ってくる。ちょっと、どうして僕に振ってくるの! お優しいコトだから僕と一緒なら困ってるようだし遊んであげるか、みたいな感覚なのだろうが。もう、コトの頼みなら断れないじゃないか!!
「分かったよ。それで始めるって具体的になにするんだ? トランプなら持ってきてるけど 」
「ちっちっち、そんな低脳が遊ぶ運ゲーを遊んでも面白くない 」
芽衣は人差し指をふって偉そうにしながらそんなことを言う。こいつあの素晴らしいトランプ様になんてことをいうんだ。世界中のトランプ愛好者に謝れ! そうしないとお偉い人が襲ってくるぞ。
「今からやるのは王様ゲームだよ 」
「王様ゲームってあれよね。王様だーれだって言ってクジを引いて、王様の人が何番と何番が何かしてくださいって言うやつだよね 」
「コトちゃん、よく分かってるね 」
王様ゲームか……今までリア充のするゲームだと思ってやったことはなかったがこの機会に一度やってみるのもいいかもしれない。まぁ、トランプより王様ゲームのほうが頭まったく使わない分低脳なんじゃないかというのは突っ込まないでおこう。
「じゃあクジを作って……さっそく始めよう!! 」
芽衣は手際よく工作を完了させるとそれをどっから用意したのか細長い木の筒に5本入れる。そして、5人が部屋の中央にある机を囲んで座ると準備は終了。疲れていた僕ではあるがいざゲームが始まるとわくわくしてくる。
『王様だーれだ! 』
その威勢のいい声とともにゲームはスタートする。
「王様は私だ 」
さなえさんが赤印のついた紙を見せてそう名乗る。うぅ、この人だったらどんなひどいことを命令してもおかしくない。これは用心せねば。
「うーむ、一番は二番の足を舐める 」
「はっ? 」
どんな酷いことをと待ち構えていたらさなえさんはそんな命令をする。ある意味予想通り酷くて、ある意味まったく想像もしていなかった命令だ。あれ、そういえば僕の番号って……。嫌な予感がして自分の紙を再度見ると案の定一番。ぐっ、一体誰を舐めるのだ?
「一番は誰? 」
「僕だよ 」
「麻衣が二番 」
麻衣ちゃんは安定の無表情ボイス。この子はこの罰になんとも思わないのか。僕にとってはコトという彼女の前で他の人の足を舐めなければいけないというこれ以上ない屈辱だというのに。
「じゃあいくよ 」
「うん 」
本当は断りたいところだがそれでは白けてしまうし、あまり長引かせるのもよくない。そう結論を立てた僕はさっさと終わらせることにした。
麻衣ちゃんは右の靴下を脱ぎ素足を僕の前に差し出す。白く小さくて非常に可愛らしい足だ。これを舐めなくちゃいけないのか。
完全に心を決めた僕は舌をちょろっと出し顔を足に近づける。そしてついに、足の甲をほんの一瞬だけ一舐め。
「ひゃんっ! らめっ!! 」
「ふぇ? 」
一舐めした瞬間麻衣ちゃんは叫ぶ。実際に舐めた僕ですら驚く大きな声だった。僕としてはできるだけ短くできるだけ何も感じないように舐めたつもりだったがどうやら麻衣ちゃんは大変感じやすい子らしい。今も顔を真っ赤にしながら右足の甲を抑えている。
「どうだ、私の素晴らしい命令は。スバルもM属性に目覚めたんじゃないのか? 」
「目覚めませんよ!! 」
まったく本当にさなえさんは趣味が悪い。こんなに麻衣ちゃんの顔を真っ赤にさせて僕が悪いみたいじゃないか。
それと隣のコトのほうから「いいなぁ」と聞こえるのだがこれはどういう意味だ? 僕は彼女が僕に舐められていいなぁとか言う変態じゃないことを期待したい。
「じゃあ第二ゲームいくか 」
『王様だーれだ!! 』
気を取り直して第二ゲーム。それぞれが紙を引き書かれているものを確認する。ちなみに僕はまたもや王様にはなれず3番。僕が王様でないということは2連続のさなえさんでないことだけは祈りたい。
「麻衣がおうさま 」
そういって名乗り出たのは麻衣ちゃん。ふむ、麻衣ちゃんならさなえさんみたいに頭がおかしくない無邪気な子供だから安心できる。
「さぁ麻衣、命令しなさい 」
「うーん……じゃあ1の人と3の人がチューをする 」
「・・・・・・ 」
「ほぅ 」
僕、芽衣、コトの三人は最初の命令をも超越したその麻衣ちゃんの命令に驚き絶句、一方でさなえさんはいかにも面白いことが始まると察してわくわくしている。
麻衣ちゃんなら安心できると思ったが無知さ、あるいは天然さ故の失態が起こってしまった。きっとキスをすることはただの挨拶ぐらいに捉えているのかもしれない。
ってか僕は3番だからまたもやこの罰を受けなくちゃいけない。相手が仮にコトならばそれは少し恥ずかしいだけでただの恋人同士のキスなわけだから問題ない。しかし問題なのはコト以外の2人が選ばれたとき。彼女の前で別の女とキスなんてもう人生の終了を意味する。
「あの、僕が3番なんだけど1番って・・・・・・ 」
「一番は私だぞ 」
「ぐっ 」
僕の期待を裏切りお相手は芽衣になってしまった。ぐぬぬ、とことんついてないが、それでもルールはルール。それを破ってはやはり白けてしまう。
本日二度目の決心をして芽衣と顔を向かい合わせるとすでに芽衣は目を瞑っている。大丈夫、キスなんて欧米ではただの挨拶だよね。
「よ、よしスバスバ。いつでもオッケーだぞ 」
流石の芽衣でもこれには緊張しているらしい。表情が固く声も少し震えている。まさかとは思うがこれがファーストキスだなんてことはないよな。芽衣は顔はいい方なんだから学校でもモテているはずだが、この緊張具合をみるとどうも初めてのように感じてしまう。
「なぁ芽衣。もしかしてファーストキスなのか? 」
もし初めてだったのにこんなゲームでしてしまっては申し訳ない。そう思い、目を瞑って待つ芽衣に思い切って尋ねてみた。すると芽衣はパッと目を見開く。
「ちゃ、ち、違うもん! 」
芽衣は咄嗟に否定したがどう考えてもこの焦りようは初めてだ。いくら鈍感な僕とはいえこのぐらいのことは分かる。まったく、まだしていないというのが恥ずかしいとか思っているのかもしれないがそこまで身をはらなくてもいいのに。
となると、場を白けさせないためにも命令は実行しつつ、芽衣のファーストキスを奪わない方法をしなければいけない。そんな都合のいい方法が何かないかと考えていると一つ名案が浮かんだ。
「芽衣、このジュースもらうね 」
僕はあらかじめそう断ってから芽衣がさっきまで飲んでいたペットボトルのジュースを手に取り、そしてそれを一口飲む。
「ちょっと何するのスバスバ 」
「ほら、これで間接キスだから麻衣ちゃんの命令を達成ってことで・・・・・・・ 」
芽衣はいきなり自分のジュースが取られたことに困惑と怒りの声で抗議したがこれこそが僕の思いついた名案だった。無理矢理ではあるが間接でも一応チューはチュー。この状況を理解しているのであれば誰が文句を言うだろうか。
「おい、スバル。面白くないぞ 」
うん、さなえさん一人を除いてね。




