37、文化祭が終わって後夜祭でエンジョイします。ー文化祭編エピローグ 前編ー
「これより凪沢高校後夜祭を始めますっ!! 」
文化祭の片付けも終わりすっかり暗くなった中、生徒会長の高らかな宣言で後夜祭は開幕する。
後夜祭というと皆の心の中に、まだ祭りは終わっていないこれからだという感じをかもし出すが同時にもうこれで祭りは終わってしまうという焦燥感すらも見えてくる。思えばこれが僕にとって初めての高校文化祭だったわけだがとても充実したものだった。
他のクラスの展示を今年は内部の人間として見ていく楽しさもしかり、自分達の劇でお客さんが満足して帰る顔を見ること、あるいはそのために積み上げてきた皆との練習もどうしてか楽しかった気がする。
と、校庭の端に立ってそんな感慨にふけっていると後ろから肩を叩かれ、振り返るとそこにいたのはほのかだった。
「すばっちは何してるの? 」
「何もしていないことをしてる 」
「それ何もしてないじゃん 」
僕のちょっとした冗談にもほのかは笑って返してくれる。とても可愛らしい笑顔だ。こうしてほのかと話していると落ち着くのはどうしてだろう。
「で、そういうほのかこそ何してたの? 」
「私はね、すばっちを探してたんだよ 」
「そう・・なんだ 」
僕はあえて何のために探していたかは聞かない。あらかじめ分かっていることではあるし、ここで場つなぎのために聞くのはあまりにも無頓着なことだろう。
そしてお互いどちらが先に切り出すのかと腹の探りあいをしているかのように下を向いたまま黙り込む。
「あのねすばっち・・ 」
しかしその沈黙もしばらくすればほのかによって破られた。
「文化祭始まる前に私が言ったこと覚えてくれてる? 」
「もちろんだよ 」
やはりほのかのしようとしていた話は劇の練習後にほのかが体育館裏で僕にしたあのことについてだ。つまりほのかが「チャンスが欲しい」と言って2度目の告白をしてきたあの時のことである。確か返事は文化祭終了後の後夜祭でして欲しいと言われていた。僕にとって忘れる筈のないことである。
「お願い、すばっちの気持ちを聞かせて 」
彼女は必死にけれども悲しげな目で僕に訴えかけてくる。どうしてそんな悲しい目をするのか、僕には検討がついてしまい分かっていることだが心が痛む。
「ごめんほのか。僕はコトが好きなんだ。だから恋愛的な意味で君を好きになることはできない。だからごめん 」
僕はきっぱりとそう言い切った。
それでもコトとほのかを比べたときにコトのほうがいいと思える理由を答えよ、と言われたら正直分からない。コトにもいい点は確かにあってけれどもほのかにもいい点は確かにある。今日の文化祭を一緒に過ごしただけでもほのかのいい点はたくさん挙げられる。
1度告白されたときも彼女を振り今度こそ最後のチャンスだったがまた振った。今度こそ後悔する選択をしてしまった可能性だってある。唯一つだけ言えることがあるのだ。
僕はコトが本気で好きなのだ。どうしてか分からないがほのかよりもコトのほうが好きなのだ。そこに理屈なんてない、恋愛なんてそういうものじゃないだろうか。
「うん、だよね。うん・・・・・・よし! これで完全に私の恋は終了っ! 何かごめんね、未練たらしくつき合わせちゃって。私、恋なんて初めてだったからコトちゃんに負けた後応援してるフリしてたけどホントはこの気持ちどうしたら良いんだろうってずっと考えちゃって・・。でも今回は2回目だしもう大丈夫! 完全にふっきれた気がするよ。むしろやることやって清清しいぐらいだ。未練なんてもはやなし! といわけですばっちは気にせずさっさと彼女のとこに行ってこーい 」
はじめの一瞬だけ暗い顔だったがすぐに笑顔を作りやや早口でそういいきる。そして僕の背中を思いっきり押し出すと校庭の中にコトの姿を発見した。向こうもこちらに気づいたようで大きく手を振っている。
「じゃあ行ってくるよ 」
僕はあえて後ろを振り返らずにコトのほうへと駆けていった。
「今日はお客様が多くて大変だわ 」
「お疲れ様です、菊さん 」
さて、楽しかった文化祭もすっかり過去の出来事、翌日からはゆーりんも平常運転だ。僕がいつものように休憩室にいると菊さんが入ってきたのだ。
思えば土曜の、客もそれなりに入る日に午前中だけでもゆーりんがお休みになっていたと考えるとありがたいような申し訳ないような気持ちがしてくる。店に迷惑かけただけでなくゆーりんのお客様にも迷惑をかけてしまったのだ。
「そういえばスバルちゃんは昨日文化祭があったのよね。用事でいけなかったのだけれど楽しかったかしら? 」
「はい! 椎名さんとか皆も来てくれてとても楽しかったですよ 」
「それはよかったわ。来年にいけたら行くわね 」
「よろしくです 」
こうして見事に来年の約束を取り付けたところで『プルルルルルル、プルルルル・・』と店の電話の音が鳴り響く。あいにくいつも暇そうにしてこういう電話対応係であるさなえさんはこの場にはいない。
あ、一つ勘違いしないで欲しいのはさなえさんが電話対応係になったのは普段あまり表には出ずサボってることも多いので菊さんが無理矢理命じただけで決して真面目というわけではない。
「私が出るわ 」
僕が出ましょうか、と言おうとしたが菊さんが一歩先を越して電話に出る。
そして菊さんが「こんにちは」とか「こちらこそお世話になってます」とか「そうなんですか」みたいなことを言っていたのを聞いて電話の相手を予想してみることにした。
うーん第一候補は食べ物仕入れやらの業者の方。第二候補は店の常連さん。そして最後の第三候補がさなえさん宛に電話をよこした暇人。さなえさんが電話係となっている今だからこそ第三の候補の可能性もあるのではないだろうか。よし、僕の予想はさなえさん宛に電話をよこした暇人ということで。
と、暇つぶしのためにそんなことを考えていると菊さんが「ではお待ちしてます」と言いながら電話を切った。
「誰からだったんですか? 」
「スバルちゃんのお姉さんからよ 」
「え?? 姉さん!? マジですか・・ 」
まったく予想もしていない答えだった。というよりあの菊さんの電話のやり取りで誰が姉さんだと予想できただろうか。「こちらこそお世話になってます」なんて言ってたがあの姉さんのどこにお世話になる要素があるというのだ! むしろ「お世話させていただきます」の間違いじゃないか?
「で、なんて言ってたんですか? 」
「お姉さんがこちらに帰って来るからもうそろそろしたらそっちにつくね、ということらしいわ 」
「そうですか・・ 」
姉さんが突然帰って来ることに驚きはしない。むしろ僕はあの姉さんが帰って来る前に連絡をよこしたという成長に感嘆するぐらいだ。ってかそれ以前に帰って来るからってここにくる必要もないし電話する場所も間違っていると思うのだが。
「じゃあ僕は姉さんが来て迷惑かける前にちょっと早いですが働いておきます 」
「迷惑というわけではないんだけどね・・頑張ってね 」
「はい 」
僕は5分早いながらも見送られて表に出る。
それより菊さん、「迷惑というわけではないんだけどね・・」ってことは多少なりともめんどくさいと思ってるってことですよね?
「あ、ちょうどいいところに戻ってきてくれたわね。これを2番テーブルに持って行ってくれるかしら 」
「了解です 」
表に戻ると早速児子さんに注文の皿を渡される。さすが日曜日というだけあってお客様も多いことだ。こんな日に姉さんも来なくて良いのに。
「お待たせしまたご主人様。ゆーりん特製ランチAでございます。それではご主人様、おいしくなるおまじないをさせて頂きますね。ご主人様も一緒に萌え萌えきゅんと言ってくださいね 」
といつもの決まったセリフを言うとこれまた決まったように「おいしくなーれ、おいしくなーれ。萌え萌えきゅん」とポーズをとる。このご主人様は何回か顔も見たことのある常連さんで「萌え萌えきゅん」を一緒にやってくれた。
さて、メイドの仕事は注文を聞いたり品を持っていくだけではなくもちろん「お帰りになる」お客様と「行ってくる」お客様のお出迎えとお見送りもしなければいけない。
『カランカラン』と店の扉の開く音がして若い男性のご主人様が入ってくるのが見える。今、手が空いた僕がお出迎えをするべきだ。そう判断し店の扉の前に立つと
「お帰りなさいませ、ご主人様 」
丁寧に頭を下げながらそう言う。純が初めて来た時のような態度とは違いその男は堂々とした感じなので一、二回は来たことがあるのかもしれないが記憶にはないので常連ではないのだろう。とにかく今空いてるテーブルは6番しかないのでそこに案内しよう。
そのように一瞬の間に色々考え次の行動に移ろうとしたところで男が口を開く。
「おっ!! 早速発見!! よぉよぉオカマメイドくんよぉ。いやぁ劇の女装もいけてたしメイド姿もいけてるねぇ。これが本当に女だったら間違いなく俺の彼女なんだけどなぁー 」
男は突然店内全体に聞こえるような大声でそんなことを言い出したのだった。
またもや遅くなりましたが今回は宿題に追われておりまして・・。(と言いつつまだ終わってないので次話も1週間少々お待ちください)
ということでこのエピローグが前編中編後編の3部になるのか前編後編で終わるのか未定ですがこの文化祭編のエピローグが終わればたぶん終わりです。もしかしたらというかおそらく間に番外編は挟むと思いますが・・。後数話ですが宜しくお願いします。




