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3、幼馴染がメイド喫茶でメイドをやりたいそうです。

ーあぁ退屈だー

 

 次の日の昼休み。いつもなら純と宅哉たちと駄弁っている時間だが、あいにく2人は今はいない。純はサッカー部のミーティングで、宅哉は生徒会の会議だ。

 ただ机に突っ伏して何かを見るわけでもなくボーっとしていた。


「スバくん。おーい、スバくん生きているかぁい? 」

 目の前に突然女の子の顔が現れる。鮮やかなオレンジの髪の女の子だ。


「何か用か? コト」

 彼女は僕の幼馴染、神凪(かんなぎ)琴美(ことみ)だ。小学校1年のころからの付き合いでお互いのことをスバくん、コトと呼んでいる。

 そして、これは誰にも言っていないが、密かに僕はコイツのことを好きでいる。中学1年ごろにこの感情に気づいてかれこれ3年近くも片思いをしているわけである。早く好きだと言っちまえと何度も心の中で訴えるが、小学校1年から続いたこの関係が崩れてしまいそうで僕にはできなかった。


「スバくんが倒れているから様子を見に来たんじゃないか。そういえば、いつもの田川くんと佐々倉くんはどうしたの? もしかして喧嘩かい? それなら駄目だよ、スバくん。すぐに謝らなくちゃ」

 どうしてこいつはこうもテンションが高いのだろう。そしてどうしてこいつはこうもお節介を焼こうと頑張るのだろう。


「サッカー部のミーティングと生徒会の会議だよ。二人とも急がしいんだから」

「へぇーみんな大変だねぇ。ところでスバくんはお仕事大丈夫? 毎日頑張ってるっぽいけど・・」

「えっあぁ・・うん。大丈夫だよ」

「ほんとにぃ? 怪しいけど」


 いきなり痛いところを聞かれたものだからつい焦って口調がおかしくなってしまった。それを不審に思ったコトは僕の顔を覗き込むようにして見る。


「大丈夫だって」

 無理やりに言い張ったがコトはまだ不審そうな目でこちらを見てくる。

 このときはこれで終了したが、気づかれないように気をつけなければ。さもなければ僕の恋が始まらないうちに終わってしまう。何しろ僕は女装してメイドをやっているんだから。




「菊さん、こんにちは」

 学校が終了して、いつものようにバイトに向かった。休憩室に入ってメイド服に着替えようとするとちょうど菊さんが休憩をしていたところだった。

 真面目な菊さんには表の顔と裏の顔とかはなく、本を読んでいる。もちろん不純な内容のではなくよくある文庫本だ。表紙を見ると今世間で話題になっている直木賞をとった本のようだ。


「こんにちは、スバルちゃん。毎日お仕事頑張っていて本当に尊敬するわ」

「何を言っているんですか、真面目さで菊さんに勝る人なんてこのメイド喫茶には、いや世界中のどこを探してもいませんよ」

「あら、そう言って貰えるとうれしいわ。そうそう昨日のあの不倫騒動のニュース見たかしら? 芸能人も大変よねぇ」


 僕と菊さんの間で繰り広げられるのは本当にただの世間話でこれはいつものことだ。逆に言えば僕たちにはそれぐらいしか話題の共通点が無いのかもしれない。

 そういえば菊さんの趣味とかプライベートのことは一切聞いたことが無いし、今度聞いてみてもいいかもしれない。


 そうやって話をしながら僕はメイドへと変身していると、突然、扉を乱雑に蹴って休憩室にさなえさんが入ってきた。その行動は毎度のことだが、ピンクの可愛らしいメイド服に猫耳と猫の尻尾をつけている人がする行動とは思えない。

「おぉーい、スバル。お前に客が来ているぞ。見慣れない女だが、お前を出せとうるせぇんだよ」


 一体誰だろう。見慣れない女ということはこの店には来たことがなく、そのくせして僕がここで働いているのを知っている人物。


 最も可能性の高い候補は僕の叔母さん。ここで働くのを誘ったのはあの人だし、面接の時は叔母さんは来なかったので店長が見慣れないのも無理はない。


 次に可能性のあるのは宅哉のお母さん。宅哉から僕がここで働いているのを聞いたとすれば不思議ではない。そのときは勝手に僕の情報を流した宅哉をこらしめる必要があるが。


 最後にもう1人心当たりのある人物がある。できればこいつだけではなくて欲しいものだ。


「分かりました、すぐ行きます」

 急いでメイクも終えて、僕は表に出て行った。


 確か3番テーブルのお嬢様だったはずだ。ふとそちらのほうに目をやると顔までは見えないが髪の毛だけが見えた。


ー最悪だー


 その人物はおそらく僕がさっき挙げた最後の可能性の人物で最も来て欲しくなかった人でもある。あの特徴的な色の髪の毛。長年の付き合いの僕が見間違うはずがない。そうその人物は僕の幼馴染、神凪琴美だった。


ーあの店長どれだけ、どSなんだよー


 僕はさなえさんの極悪非道な行為に心の中で泣いていた。おそらくコトが僕のクラスメートと知っての行為だろう。このメイド喫茶では指名制ではないのでいくら僕を呼んだからといってさなえさんが断ることもできたわけなのに。

 それに僕の好きな相手とまでは知らなかったかもしれないが、直感的にそう感じ取っての行為なら究極にえげつない。


 とにかく何とか誤魔化して是が非でもスバルちゃんがコトの幼馴染のスバくんとはばれないようにしなければ。

「遅くなりました、お嬢様。何か御用でしょうか? 」

 声も姿も完全にスバルちゃんで押し通す。


「おぉ、やっぱりスバくんだ! スバくんのお仕事先ってここだったんだね。気になって後をつけてみたんだよ」

「・・・・」

 何の疑問も持たずコトは僕を幼馴染のスバくんだと認識している。普通は感づいても僕がこんなところで働いているのを信じられず1つや2つの質問が飛んできてもおかしくないのに。

 というか後をつけられていたなんてまったく気づかなかったぞ。


「スバくんって本当に可愛いよね。昔っから女装すれば絶対似合うと思ってたんだよね。念願の夢が叶って私はもう幸せでいっぱいだよ」


 ここで1つ悩ましいことがある。当初の予定通り僕はスバくんではないと言い張って誤魔化すか、別に悪い印象を持たれていないのならいっそのことすべてを話すか。

 ここまで僕をスバくんだと信じきっているコトを僕の語彙力で誤魔化せるとも思えないので後者を選ぶことにした。コトなら他の人たちに言いふらす心配もないだろう。


「その・・コト。ちょっと話があるから僕についてきてくれないかな? 」

 

 僕たちが今いるのは休憩室。事情を話したらさなえさんと菊さんからコトを入れてもいいと了承が出たので使わせてもらっている。

 扉の隙間からニヤニヤしながらこちらを覗くさなえさんがちらちらと目に入ってくるが気にしたら負けというやつだろうか。


「それでコト、こういう事情でここで働くことになったのだけど・・」

 男の声でコトにすべての事情を打ち明ける。時折、相槌を打ちながら、興味深い話を聞いてるかのような感じで聞いてくれた。

 どうやらこいつにメイドのことがばれては僕の恋が終わると思っていたのは杞憂に終わったようで、僕は一気に安心する。


「ねぇ、私もここで働きたい! 」

「はぁ? 」

 今の話からどうしてそんな明後日の話になったのか僕はこいつの頭の中が不思議で仕方なかった。

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