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27、僕の唇が劇の練習で奪われてしまいます。-文化祭編 C-

「あぁメアリー・・僕は君に会いたかった。会いたくてここまで来たよ 」

「ありがとうジョン。私もあなたに会えてとても嬉しいわ 」

 今は放課後の劇の練習だ。中間テスト2週間前ということもあって軽くやる程度ではあるが毎日の放課後に練習をやることになった。


 そこでまずはどのようなものかを見るために一通り通すことになり、いよいよ最終盤の感動のキスシーンに入ろうとしていた。もちろん男役宅哉、女役僕というホモホモしいキスである。しかもあくまで練習でメイクはしていないので余計にホモが増している。


「さぁ次はいよいよキスシーンだぜ。みんな! カメラの準備はいいか!! 」

 どこからともなくそんな呼びかけがあったかと思うと『おぉ!! 』という威勢のいい返事が聞こえてくる。

 ちょっと待てカメラでこのキスシーンを撮るだと!? そんな黒歴史をデータ化して永久保存なんて真似をさせてたまるか!


「ちょっとそんなことしたらこの役今すぐ辞めるぞ 」

 と軽く脅しをかけて止めさせる作戦に出た。こんな軽い脅しじゃ全員が全員従うとは思えないがそれなら実際にこの役を辞めてやる。ふざけた女装劇に出なくてすむいい理由にもなる。これぞ一石二鳥!


 と、そんな素晴らしい作戦を立てていると宅哉がみんなをなだめるように

「まぁまぁみんな。撮るのなら今じゃなくて本番と撮ったほうが良いよ。そうすれば昴の女装シーンも撮れるし、ここで辞められたら昴の女装が見られなくなっちゃうよ 」

 とそんな謎な説得をする。あの宅哉のことだから単純に撮るなで終わるとは思っていなかったが本番を撮ると言い出すとは。そっちのほうが女装姿で余計に恥ずかしい。


 それと一つ気になったけど「ここで辞められたら昴の女装が見られなくなっちゃうよ」って普通おかしくないかな? 普通なら「ここで辞められたら劇が続けられなくなっちゃうよ」だと思うのだけれど。

 そしてどうしてみんなもそれに説得されちゃってるのかなぁ? みんな携帯をしまわないで! ってこれも何か違うような・・。


「それじゃあ気を取り直してささっとやろうか 」

「よしじゃあ直前の昴のセリフからでいこう 」

 誰かの写真発言のせいで妙な方向にずれてしまっていたが花沢の一言で劇が再会される。


「ありがとうジョン。私もあなたに会えてとても嬉しいわ 」

 そのセリフの後僕は目を薄っすらとだけ開けた状態でゆっくりと顔を近づける。同時に宅哉も目を閉じた状態で近づいてきて30cm、20cmと徐々にその距離はなくなってゆく。

 そして後3cmとなったところで


「ぷはーっ 」

 顔を天井のほうに向けてそれまで止めていた息をする。ふぅ少しさじ加減を間違えれば僕の唇が奪われてしまうところだった。僕の唇はコトのものだ。


「えっ、ちょっとどうしてやめたんだ。台本にもキスをするって書いてあるじゃないか 」

 と不思議そうな顔で宅哉が尋ねると他のみんなも

「そうだぜ早くやれよ 」

「面白くないぞ 」

「はぁはぁ・・佐々倉君と糸谷君のカップル素晴らしいわ! さぁ早くみせて頂戴!! 」


 と続く。男どうしのキスというなんともいじりがいのあるネタが実現しなかったことを不満に思うみんなの気持ちは確かに分かるが唯一分からないのは宅哉の気持ちだ。

 お前は本気で僕とキスをするつもりだったのか? それともお前にしては珍しすぎる天然行為か? 天然でキスは絶対にしなければいけなかったと思っていたわけでもなさそうなのだが。


「うーん不本意ではあるが今日はこれで終わりにしておこうか。本番にはやってくれるだろう 」

 花沢が最後しめて解散となった。別に不本意じゃないし本番にもやらないからなっ!

 さて心の中での突っ込みもその程度にしておいてさっさと帰らなければバイトの時間に間に合わない。走らなければいけないというほどでもないが悠長に駄弁ってる時間もない。


「昴。途中まで一緒に帰ろう。今日は神凪さんは一緒じゃないんだろ 」

「あぁいいけど今日は生徒会は大丈夫なのか? 」

「基本生徒会はよっぽどのときじゃなけりゃ行っても行かなくてもいいから。もうテストも2週間前きってるんだから勉強もやらないとだからね 」


 コトは僕のクラスだけが練習するということで下校時刻が合わないため先に行っている。ここ最近はコトとばかり帰っていてしばらく一人は寂しいと思っていたのだが、そこにちょうど宅哉からの誘いがあった。やはりコトと一緒じゃないのは寂しいがこれで少しはマシになるだろう。


「そういえばお前自分から本番の写真撮ったらとかなんとか言ってたけど平気なのか? ただでさえ自分のキスシーンの写真って撮られるの恥ずかしいのに加えて相手が僕だぞ 」

 ふとさっき気になったことを尋ねてみる。いくら僕を落としいれるためとはいえあの宅哉が自分を犠牲にするとは思えなかった。


「ゆーりんじゃスバルちゃんと撮るのは至難の業なんだよ。それが簡単にしかもただでなんてこれ以上いい話はないよ 」

 こいつは僕と写真を撮って何が嬉しいのだろう。確かに損得だけで言えばゆーりんで写真を撮るにはそれなりに通う必要があるが何もそんな損得だけで動くようなやつとは思えない。やはり宅哉の気持ちはよく分からない。


「おっと、誘っといて悪いけど家に早く帰れって言われてるのを思い出したよ。じゃあ走って帰らなきゃないけないからまた明日な。頑張れよ 」

 階段を下りて一回の下駄箱の手前まで来たところで宅哉がそんなことを言って走って行った。まったく本当に誘っておいてなんだよ、の一言である。しかも頑張れよって意味不明だし。バイト頑張れよって意味なのか?


 そんな疑問と少し怒りも覚えながら自分の靴箱までいくと

「す、スバくん! い、一緒に帰ろ 」

「コト!? 」

 なんとコトが待っていた。でも授業が終わってから30分以上経っている。それなのに僕のために待っていてくれたのだ。なんて嬉しいことだろう。


「ありがとう待っててくれたんだ。寒くなかった? 」

「うん、スバくんを待つぐらいなら平気だよ 」

 急いで靴を履くとコトの左手を優しく包んであげる。コトのここで待っていたせいか冷たい手と僕のぬくもりをもった手がすぐに調和する。この冷たい手、秋とはいえ今日は冬並の気温の日である。立って待ってるだけなんだから寒くなかった筈がない。あぁ僕はなんて幸せ者なんだ。つくづく思ってしまう。


「ね、日曜日のデートのお昼ご飯だけど何かご要望はある? 」

 ゆーりんに向かっているとそんなことを尋ねてくる。うーんそうだなぁやっぱりコトの卵焼きは食べたいよな。まるで僕の好みのさじ加減をすべて把握しているかのようなあの味はたまらない。


「卵焼きを頼むよ 」

「もぉーいっつもそれしか言わない。他にはないの? 他にもいっぱい作れるんだからね 」

「じゃ、じゃあハンバーグにから揚げに肉じゃがにエビフライにウインナーにムニエルに・・えーっとご飯にサラダに・・ 」

 とりあえず過去に食べたことのあるコトの料理は挙げていった。うん全部おいしかったからね。


「もう! 多すぎだよ。何でもあげればいいってものじゃないんだから。それにご飯とサラダって違うからね 」

「じゃ、じゃあ卵焼きに目玉焼きにゆで卵とか 」

「だからそれも全部卵じゃん。第一目玉焼きを弁当に入れるのは無理があるわ 」

「うーん・・でもコトの料理だったらどれも美味しそうだからなぁ 」


 実際美味しいから何でもいいというのが本音だがそれでは優柔不断と思われて好感度が下がる。仕方なく適当に挙げていってもまともなものをいえない。やっぱこういうところは駄目だなぁ。いっそのこと全部卵焼きで埋め尽くしてぐらい言えばよかったのかな。


「それならサンドイッチでいい? 色んな具作ってくるんだから 」

「うんありがとう。凄く楽しみだよ 」

 サンドイッチか。具はなんだろう。定番ならツナにタマゴといったところか。まぁなんであれきっと美味しいに違いない。そういえばほのかと来た時もサンドイッチだった気がするけど今はどうでもいいか。


 と、そんなことを話しているうちにゆーりんに着いてしまった。

「もう着いっちゃったね。この道が永遠に続いてたら良いのになぁ 」

 コトも同じ事を考えてたなんて嬉しいなぁって毎回このやりとりある気がする。カップルっぽいしなんでもOKだよね。


「またイチャイチャしながら入ってきやがって 」

 ゆーりんの休憩室に入ってきた僕たちをさなえさんが恒例の言葉で出迎えた。こんな言葉ですら凄く暖かく聞こえる。本当にこの時間が永遠に続けば良いのに。そんなことをつくづく思ってしまう。

文化祭編がなかなか終わりそうにないです。次2話はデート、後は中間考査関連や実際に文化祭、ゆーりんでのやりとりも入れたいし・・とするとまだまだ続きそう。とりあえず今年中にもう一本は出すと今年の目標をかかげておきます。これからもよろしくお願いします。

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