26、僕が教室で公開告白します。-文化祭編 B-
「スバくん、そっちのクラスは順調なの? 」
「あ、うん・・配役も決まったし比較的順調なのかな? 」
ホームルームを終え放課後となった。僕は女装の件をからかうクラスメートから逃れいつものごとくコトとともに「ゆーりん」へと向かっていた。
そんな矢先コトに文化祭のことを尋ねられどうしようかと迷う。もちろんメイド喫茶で働いていることも気にしなかったのだからこんな宅哉に無理矢理やらされた劇の女装なんてどうってことないのだろう。しかし彼氏として、男としてさらには人間として自ら言うのはためらわれる。
聞かれるまで言うのは待つべきか、でもこのまま聞かれずに後になって知られる、特に本番当日に見に来たときにバレルというのだけは避けたい。あぁ、なんというジレンマだろう。
「私のクラスはメイド喫茶だからやることもそこまでなくってね。なんかそう考えると劇のほうが達成感みたいなのがあってよかったかもね 」
「うん・・そうだね 」
どうすべきかの思案にふけって簡単に返事だけしてると
「どうしたの。 元気ないとか、それとも悩んでいることでもあるの? 」
と少しうつむき気味の顔を覗き込むようにして見られる。なかなか鋭い。これが俗に言う女の勘というやつか。いやこのぐらいあの僕の適当な返事から誰でも察しがつくか。
「いやただ寝不足なだけだよ。文化祭の前にそろそろ中間テストとかいうものが迫ってきてるからね 」
クラスもすっかり文化祭の話で盛り上がっていたが実はちょうど2週間後に2学期中間テストとかいう魔物が襲ってきているのを忘れてはならない。もちろん寝不足云々は誤魔化すためでまったくやっていないのだが。
さてこれで後戻りはできない。どうせ風邪の噂とかで本番までには知ってくれるだろう。いや、そうなってくれると信じたい!
「うひゃー、思い出したくなかったのに! 」
「コトって別に成績悪くないよね。平均はあった気がするけど 」
「うん。でも毎回勉強しなきゃーって思うと憂鬱になるんだよね 」
「分かるよ、その気持ち。考査さえなければ僕の生活は平和なんだけどなぁ 」
この場だけは別の話題に持っていって誤魔化せたようだがいずれは必ずバレルことでもう先はまっくらだ。
「あれ、そういえばこの前までつけてた動物園のキーホルダーは外したの? 可愛くてよかったのに 」
「ちょっと外れてなくしちゃって。ホント気に入ってたんだけどね 」
動物園のキーホルダーとはほのかとのお出かけのとき貰ったものだが、実際のところ外しているのはコトという彼女がいるのに別の女の子からのプレゼントをつけるのはコトにもほのかにも申し訳なく思ったからだ。
ここで本当のことを言えば、すなわちほのかからのプレゼントだったと暴露すれば少なくとも機嫌は損ねるだろう。
「じゃあさ 」
コトは僕の進路方向に先回りすると、顔を覗き込むようにしながらにこやかな笑みを浮かべて
「今度一緒に動物園行って同じの買おうよ。おそろいで 」
「うん、行こうか 」
彼女からのデートのお誘いだ。すでに5回目のデートとはいえ毎度毎度緊張もするし興奮もする。ましてや初めてのコトからの誘いが嬉しくないはずがない。即答でそう返事をするとまた僕たちは歩き出した。
「で、すばっちはまた神凪さんとデートというわけですか。お熱いことで結構だよ 」
次の日の昼休み。いつもと同じく僕は宅哉、純、ほのかの弁当風景を眺めながら駄弁っている。最近はほのかやコトもこの駄弁り会に加わってさらににぎやかになった。ちなみにコトは今先生に仕事を頼まれてここに集まるのが遅くなっている。
そんな中、ほのかに僕とコトが最近どうなのかと聞かれたので早速動物園デートのことを話した。思えばほのかは僕に告白までしてくれたわけで今はどう思っているのだろう。コトと僕の話を聞いてどう思っているのだろう。
外見上は明るく振舞ってくれてそうしてくれるほうが僕もいらない気を回さなくて済むのでありがたいのだが実際のところは分からない。ひょっとしたら内心は腹を立てているかもしれない。それでもほのかがこうやって振舞ってくれてる間はそれにのっかておくのが筋というものだ。
「ほんとに一人だけハッピーになりやがってよぉ。メイド喫茶にいっても神凪がお前の彼女だと思うと気が引けるし・・。もうこうなったらすばるちゃんに慰めてもらうしかない!! 」
その純の発言を聞いて思わず宅哉とほのかが吹き出すように笑う。
宅哉とほのかは僕がメイド喫茶で働くすばるちゃんと知っての笑いだが、僕がどうしてこいつを慰めてやらなきゃならない。うぅっ想像するだけでも寒気がする。いっそのこと今日はヤンデレメイドデーですとか言ってぼこぼこにしてやろうかな。もちろんヤンが100%デレが0%のだけどね。
「そうそう、分かってると思うけど神凪さんに私と動物園に行ったことがあるってのは絶対に言ったら駄目よ 」
「うん分かってるよ 」
そういえばしばらく前からほのかのカバンから例のキーホルダーはなくなっていた。これも僕たちのことを気遣ってくれての行為だろう。またほのかに対する罪悪感を感じずにはいられなかったがせめて机の中にでも入れて大切にもっていて欲しい。
「おいおい、お前雪前と動物園にデートってどういうことだよ。もしかして前まで付き合ってたのか! それとも今も・・ 」
「いやただ・・ 」
ただちょっとしたお礼がてらに行っただけで一度も付き合っていないよ、と否定しようとするとそれにほのかが遮るように入ってくると
「黙っていたけどねぇ私達は付き合っていたのよ。もう相思相愛の関係だったのにある日彼が浮気を・・・・・・ 」
とそんなハッタリをかました。いやいや、確かに振ったのは僕ですがもとより付き合ってもいないぞ。こんなこといくら冗談でも純は信じかねないし宅哉は冗談と分かっていてもそのことでいじってきそうなのに。
幸いこのことを一番聞かれてはいけない人物コトがいなかっただけマシではある。
『ボトン』
コトがいなかったという不幸中の幸いに安堵していると不意に後ろで何か物が落ちたような音がする。咄嗟に振り返るとまさに張本人であるコトがいた。
どうやら話は聞いていたようでショックのせいか手に持っていたペットボトルが床に転がっている。単純に頭の悪い純は別としてちゃんと話を聞いていたら勘違いはしないのかもしれないが急なことに加え途中からしか聞いていなかったので信じても無理はない。
何が不幸中の幸いだ。こんなの不幸中の超不幸じゃないか。とにかく今は誤解を解くのが先決だ。
「その、コト・・これは誤解で・・ 」
「ハハ、大丈夫だよ。雪前さんとスバくんが仲良かったことぐらい知ってたよ。だから気にしないで 」
僕の言葉すら聞こうとせずそう言うコトは言葉とは完全に裏腹で不安そうで悲しそうな目をしていた。こんなコトを放っておけるわけがない。
「コト!! 誤解だよ、一度も付き合ったこともない。ただのほのかの冗談だから! それに僕が今好きなのはコトだ。このことは今もこれからも変わらない。僕は君のことがずーっと好きだよ! 」
僕はただ感情のままにそんなことを叫んでいた。コトに安心して欲しい。僕はコトだけが好きだとただそれだけを伝えたかった。
「スバくんありがとう。そんなに一生懸命言われるとすっごく安心したよ・・・・ただ場所は考えて欲しかったかな? 」
誤解が解けて僕のほうこそ安心と終わりたかったのだが、コトのその言葉で僕の素晴らしすぎる失態に気がついた。
僕はここが教室でまだ昼休みというコトをすっかり忘れていた。故に他のやつらの冷たい視線がささってくる。まさしく彼女いない男たちのリア充死ね的な目線だ。その目がいちゃいちゃすんなと物語っている。
はぁ、コトの誤解を解くためとはいえ屋上に移動するとか、せめて近くのやつらにしか聞こえない声にするべきだった。これは昨日の劇の女装の件といいまたいじられるネタが一つ増えたわけだ。宅哉のほうを見るとひゅーーという口笛で返された。
文化祭編の後にいつもなら前編や後編とつけるのにアルファベットにしてるのは話数が多くて3話や4話では収まらないからです。




