25、宅哉が劇で何かたくらんでいますー文化祭編 A-
「さぁて前回のホームルームに続いて今日も文化祭の出し物について話していきたいと思う。まずは今配った台本を見てくれ 」
1回目の話し合いから1日が経った。教壇には委員長兼台本担当の花沢と監督の宅哉が立ち、基本的には花沢が取り仕切っている。一方で他のやつらは先ほど配られた台本に目を通している。
「いやぁ花沢の仕事の速さぱないっすね。一日でこの台本創るとか人間かよ 」
「ホント尊敬するわ 」
「それにストーリーもいい感じだし 」
ちらほらとそんな声も聞こえてくるがまったくの同感だ。なにをやらせても最強の花沢は台本創りでも最強だった。生まれ持った才能の差とはこれほどまでに恐ろしいのか。
ストーリーは昨日決めたとおりで恋愛もので、愛し合っていた二人が親の都合で引き離されるが会うために過酷な道を潜り抜け最後見事再会するという話だ。花沢曰く七夕の織姫と彦星を題材にして考えたそうだが高校生の素人作、しかも一日で創ったのならばこれ以上の出来はないだろう。
「それでだ。台本ができて登場人物も分かったところで配役作業に入りたい。主演の二人はもちろんで役者は全部で12人。とりあえずここから決めていきたいと思う。まず主演の男役、やりたいやつはいるか 」
突然宅哉がやる気をだしてそう尋ねる。昨日の劇を推したのといいどこか変だが気のせいだろうか。
まぁ考えていても埒があかない。今は役決めだ。だが当然というべきか誰も手をあげない。このクラスにはもともと花沢以外積極的にやるやつはあまりいない。
「誰もいないか。それなら僕がやるがいいか? 」
手が挙がらないのを確認するとこれまた意外にも宅哉自ら立候補した。
「僕自身構わないしむしろありがたいがそれでいいのか。監督の仕事もあって大変だぞ 」
「あぁ大丈夫だろう。監督なんて対してやることもない 」
「それもそうか。なら主演男役は佐々倉で決まりだな 」
こうして簡単に宅哉に決まってしまった。ますます謎は深まるばかりだ。とはいえ宅哉ならば演技もうまそうだし安心して任せられそうではある。
さて主演の男役が決まったところで次は当然、主演の女役である。個人的な意見ならば可愛さ的にもしっかりした性格的にも是非ほのかにやってもらいたいところである。僕自身が推薦しようとは思わないが可愛いのに加えて胸が大きいことでも男子に人気のある彼女なら他のやつが推薦する可能性は多いにある。
別にこれは浮気とかじゃないんだからね。単純に友達として可愛くほのかだったらいいなと思っただけなんだからね! ってコトがいるわけでもないのに誰に言い訳をしているのだろう。
「女子の主演立候補はいますかぁー 」
同じように宅哉が立候補を尋ねたが案の定誰も手は挙げず推薦に移る。
さぁここが勝負どころだ。誰でもいい、男子よ手を挙げるのだ! いつしか完全にほのかになってもらいたい一心になっていた。祈るようにクラス全体を見る。
しかしながら席に座る男子達がいっこうに手を挙げる気配はなくまた女子も手を挙げない。まったくこんなときになに怖気づいているんだ。本心はほのかにやってもらいたいんじゃなのか! まぁ僕もまったく同じなんだけどね。
と、そんな呑気なことを考えているとまたもや宅哉が手を挙げる。今度は驚くとか以前にどうしてか身の危険を感じて身震いした。もうここまでくると恐ろしいの一言に尽きる。何もないことを祈る。
「今度はどうしたんだ、佐々倉 」
「僕のほうから推薦してもいいかな 」
「もちろん 」
「それじゃあ糸谷なんてどうだろう 」
はっ?! 糸谷なんてこのクラスの女子にいたっけ? 言い間違い? それならお前かっこつけてて挙げたのに緊張して言い間違いとか超恥ずかしいぞ。それだけじゃなく僕もほら、こうして注目浴びて恥ずかしいじゃないか。まったくとばっちりもいい迷惑だよ。
「糸谷ってあの糸谷だよな? 正気かよ 」
「女装ってことか? 」
「いや、冗談だろ 」
「いいわ、すごくいいわ! 佐々倉くんが攻めで糸谷くんが受け。凄くいいカップルだわ!! 」
やはりその言い間違いにクラス中がざわめく。一人変なやつがいたのは気のせいだと思います。さぁ宅哉早く否定してくれ。そう願いすぐに宅哉も否定してくれるだろうと期待していたのだが。
「もちろん、このクラスには糸谷昴しかいないぞ。僕はこういう劇だと一風変わった何かがあったほうがいいと思うんだ 」
え、えーっと・・なんとおっしゃったのでしょうか。僕にはまさかの肯定しちゃったように聞こえたんだけどこれこそ気のせいだよね。
「糸谷ってまじかよ! 」
「やっぱ女装? なんか面白そうだな 」
「でも確かにそっちのほうがうけはいいかもしれないわね 」
「うけ?! えぇ確かに佐々倉くんにお似合いの相手は糸谷くんだけだわ。はわぁー想像するだけでも素晴らしいわっ! 」
「あっ観客のうけだからね 」
すぐに教室中から先ほどよりも大きなざわめきが起こる。これはやはり宅哉が僕を推薦したと考えるしかない。宅哉が僕を主演の女役に選んだ理由については少し考えれば容易に想像がつく。
腹黒さ故の面白そうだから。そしてこれまでの宅哉らしからぬ行動もすべてこのための布石だったのか。
まず劇にしたのは当然女装する機会を作るため。お化け屋敷ならもちろん女装喫茶とかなら男子全員の女装となりそれでは反対意見が多くでると踏んだのだろう。それに比べて劇という案自体は普通なので通りやすく僕が女装することは僕一人が認めるかどうかなので比較的簡単だ。
次に宅哉自身が男役に立候補した理由だがこれはどうせできるだけ近くで僕の面白い姿を見たかったのだろう。これについては監督でも十分近くで見られるがその辺りは宅哉のこだわりだろうか。
だがしかしあくまでも推薦なので僕が断れば済むこと。どうやらこの勝負は僕の勝ちのようだ。
「というわけだが糸谷くん。君は大丈夫だろうか 」
そう花沢に尋ねられてもちろん断ろうとしたところでふと宅哉のほうを見る。すると口を明らかに「ばらすよ」の形にした後さらに威圧をかけるようににっこり笑われた。
つまり逆らったら僕がメイド喫茶で働いていることをクラス中にばらすということだ。コイツ僕の弱みを握ったのをいいことに脅してきやがった。こうなればもう逆らえない。これ半分いじめじゃないかなぁ。
「わ、わかりましたよっ!! 」
少し涙目になりながら投げやりな口調でそう言う。
もうどうにでもなればいい。ここで女装しても僕のメイド人生が終わるわけでもないし所詮僕の黒歴史が一つばかし増えるだけという話なのだ。
あぁー死にたい。
『パチパチパチパチ』
皆が拍手を送る。これは僕の勇敢さへの拍手と受け取っていいだろう。まったく、おだてて木に登るのは豚だけだぞ。僕をおだてたところでやる気をだしたりとかしないんだからなっ!
その後もつつがなく配役は決まった。別に他の役については女装者や男装者がでるような珍事はおきなかった。はぁ・・結局僕の主演女役は決定事項で覆ることはない。もうこうなったら腹をくくって僕の本気を出してやろう。あらかじめ断っておくが僕は可愛いからな。




