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23、僕は16歳になってもメイド喫茶でメイドやってます。

 例えば毎日の朝ごはんは食パン半キレ、昼ごはんは抜き、夜ご飯は肉野菜炒めとご飯のみ。例えば鉛筆や消しゴムは使えるまで使い続けるしシャーペンなら折れた小さな芯一つだって無駄にしたくない。例えば風呂はつからずシャワーを浴びるだけに済ませることでほとんどだ。


 もしもこの生活が一変されればどうだろう。朝は食パン1枚、昼は弁当で、夜は豪華とは言わずとも1汁3菜ぐらいに。鉛筆や消しゴムをすぐに捨てることは無くとも使い勝手が悪くなれば新しいのを買いシャーペンの芯だって折れた使いにくいものまでは使わない。さらには毎日ゆったりと風呂につかることができたら。


 さて今僕は人生を大きく変える分かれ道にいる。



 すっかり暗くなった外。メイド喫茶「ゆーりん」の休憩室にはいつもと違う顔ぶれがあった。一人は宅哉。もう1人は宅哉のお父さん。


「それでどういたしますかな、すばるくん 」

 そう言うのは宅哉のお父さん。もちろん僕はメイド姿へと女装しているのだが、それなのにどうして宅哉のお父さんにすばるくんと呼ばれるのか。

 理由は単純で僕が男だとばれたから。僕の男の姿の写真を見てそこからばれて結果ここまで乗り込んできたわけだ。


「もう一度聞こう。すばるくんはうちの宅哉と付き合い結婚する気はあるのかね? 」

 正直いってこのお父さんの提案はふざけたものだった。僕が手術によって女になり宅哉と結婚しろというもの。そこに宅哉の意思がどこまであるかは知らないが女の僕であるなら満更でもない様子。いや普通気持ち悪いとか断れよ!

 こんなふざけた条件だが即座に断りきれないのは変わりに出された条件があるからだ。それは僕の家の借金をすべて払いさらにある程度の生活援助もするというもの。僕としても親孝行をしてみたい。


 ふと横を見ると心配そうに唇を噛むコトの姿。もう答えは出ているか。

「お断りします。確かに親孝行はしたいですが性転換はさすがにできません。それに・・・・・・」

 チラッとコトのほうをもう一度見て

「あいつにあんな顔をさせたくありませんから 」


「はっはっはっはっは!! いやはや面白い! 」

 それまで眉をひそめていた宅哉のお父さんだったが僕の返答に高らかに笑い出した。


「すばるくんは面白いなぁ。まず一つ、親孝行とな。親よりもこれまでとは打って変わって裕福な暮らしができる自分の暮らしを嬉しく思ってもいいのではないかね。二つ、親孝行は性転換と僅かでも悩むほどとな。3つ、あの娘さんはそれほどまでに大事とな。何とも私が思ったとおり素晴らしいよ君は。さて宅哉はどう思うか 」


「昴は可愛いです。とても僕好みです。しかし彼女が断るのならば潔く引かせていただきます。ところでお父さん、僕は友人として彼を助けてあげたいのですが 」


「ふむ。ということだすばるくん。私は君の家の借金をすべて返してあげようではないか。なにしろ可愛い息子の頼みだからなぁ 」


 まるで芝居のようだった。否、現に芝居だったのかもしれない。宅哉が僕の家の借金を返すためにお父さんと仕組んだ・・・・・・始めの性転換がどうこうも冗談ですべてこのための序章にすぎなかったのだ。まったく宅哉らしい。

「せっかくの申し出ありがたく思いますがお断りします。そんな迷惑をかけられませんし僕を支えてくれる友達やコト、家族がいます 」


「えっ、でも・・ 」

 この断りは予想しなかったようだ。そんな驚きの表所で口をぽっかりあけた息子をお父さんが手で制して同じく高らかに笑う。

「それならばそうするといい。実に愉快だ。これからも宅哉のことを頼むよ。ほら宅哉帰るぞ 」

「はい。じゃあまた、昴 」

「あ、うん 」


 そのまま宅哉たちは帰っていった。急に訪れて変な提案をしてすぐに帰るって傍から見ればこいつなにがしたかったんだ、の一言だがこれはお父さんの事情でいいのかな。会社の経営者という職業柄都合があうのがこの時間だけだったとかその辺りだろう。


 さて同時に真剣な顔でこの一連の流れを見ていたメイド喫茶のみんなは「あぁあ、もう帰ろうか 」と言って身支度だけ整えると次々と帰ってゆく。

 この場に残ったのはコトと僕。


「ねぇ、ちょっとだけ話いいかな? 」

 僕たちも帰ろうと言おうとしているとそれより早くコトはそう言う。

 正直なところ道の途中で宅哉たちに追いついてしまいどこか気まずい雰囲気、という展開も避けたかったしちょうどよかったのだ。

 せっかくの彼女からの頼みを素直に聞いてあげることにした。


「立ち話もおかしいから座ろうか。・・・・・・それで話って? 」

 50センチほど離れて隣り合うように椅子に座ってそう尋ねる。


「私たちは付き合い始めたわけなんだけど・・私、付き合うって何をすればいいのか分からなくて。これであってるのか分からなくて。その、もっとベタベタと一緒に過ごしたりエッチなことだってするものなのかなって思っちゃって。私たちまだデートも1回だけで他はここの行き帰りぐらいで・・・・・・・エッチなこと以前にキ、キ、キスもまだだし 」


 コトの気持ちは痛いほどよく分かる。何しろ自分自身もこう思ったことは一度あるからだ。

 僕たちは2人とも恋愛初心者で始めは自分の好きという気持ちすらよく分からなくて。でもそんな恋愛初心者でも考え、考えた末出した結論がある。


「僕たちのペースでゆっくりやっていけばいいんじゃないかな。そりゃあ週に1回デートとかキスをもう済ませたとかは周りの普通かもしれないけど僕たちは僕たちだよ。どんなにスローペースで周りからそんなの付き合ってるとは言わないと非難されようとそれで上手くいくなら僕たちが思うように恋をすればいい。僕はコトが好き、この事実だけはなにがあっても変わらないんだから 」


 くさいセリフだっただろうか。それでも構わない。だって僕が出した結論をありのままに告げたんだ。


「ホントに? ホントに私のことが好き? 」

「もちろん 」

「ホントにホント? 」

「うん 」


「じゃあさ、1回でいいからキスをして。それでそれで私、安心できると思うから。ダメ・・かな? 」

 僕の返事などなくコトは椅子をじわじわと近づける。カタン、と椅子と椅子とがぶつかり合ってコトの肩が僅かにぶつかる。


「ねぇ、お願い 」

 甘い声で僕を誘う。コトは目を閉じてこちらを向き完全な無防備。プルンとした桜色の唇だけが僕を待つ。

 僕もゆっくりと目を閉じつつ顔を近づけ、ついにその唇と唇は重なり合った。




「いやぁおめでとう。今日はスバルちゃんのお誕生日か。これでまた一歩大人のお姉さんに近づいたな 」

 ここはメイド喫茶「ゆーりん」。今日は僕の誕生日ということで岩尾さんにお祝いの言葉をもらったところだ。僕が近づくのは大人のお姉さんではなく大人のおっさんと心の中で突っ込みを入れつつもやはりこうしてお祝いしてもらうのは嬉しい。


『ルンルルルン♪』

 思わずスキップをしながら次入って来るであろうご主人様たちのお出迎えに向かう。


『カランカラン』

「お帰りなさいませご主人様、お嬢様 」

 扉が開いて入ってきたのは純、宅哉、ほのかの3人。

「お誕生日おめでとう、スバルちゃん 」


 僕は16歳になってもメイド喫茶でメイドやってます。

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