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1、友達がメイド喫茶でメイドやってます。

「なぁ、一緒について来てくれよ。1人じゃ入りづらくてよぉ」

「お金は大丈夫なのか? 純」

「それは割引券もらったから大丈夫だ。ほら2枚」


 昼休み、トイレに行って弁当を食べる純と宅哉のもとに戻ったら、純が宅哉をどこかに誘っていた。


―純はどこに行きたいのだろう―


 遊園地とか水族館とかそういうアミューズメントパークでも行きたいのだろうか。確かにそういうところに1人で行くとちっとも面白くないだろうし、周りからは彼女も友達もいない奴と思われて立っていることさえ苦痛に違いない。


「ねぇ、何の話してるの? 」


 トイレから戻ってきた僕を見た瞬間、純は決まりが悪そうな顔をする。

「その・・日曜日にメイド喫茶に行こうって誘ってたんだよ。悪いな、お前バイト忙しくて日曜日は無理だろ? 」

「うん・・・・そうだけど」


 メイド喫茶の言葉を聞いて嫌な予感がした。いや、予感ではなく99%確信した。だってこの辺りにメイド喫茶ってあそこしかないから。


「そのメイド喫茶ってまさか・・」

「駅前にあるんだよ。名前はゆーりんだったっけ。ってお前行ったことあんのか? 」

「あ、いや・・知り合いがそこで働いているんだ」


 やっぱり・・99%の確信は見事に的中した。「ゆーりん」つまり僕がバイトしているメイド喫茶だ。

 こいつらに僕があそこでメイドになって働いているのがばれてはまずい。少なくとも僕たちの友達関係は破壊されるだろうし、学校中にばら撒かれてはもう学校にもまともに通えなくなる。


 今はうまく誤魔化したが、店に来られて姿を見られたら流石に言い逃れはできない。だからといってこいつらをメイド喫茶に来ささない方法も思いつかないし。

 仕方が無い。さなえさんに頼んで休ませてもらおう。




 日曜日の11時ごろ。僕は久しぶりの休みの日にショッピングとか、家で1日中ごろごろして過ごすということはせずに、今日もメイド服に身を包みメイド喫茶「ゆーりん」で甲斐甲斐しく働いていた。


 なぜ、休んでいないのか。さなえさんに相談したら急に休まれては困るということで拒否られた。

 前に何人か僕と同じように休んでいるのを見たことがあるのに、それができないってことはこの人絶対に「どS」だ。僕が2人にばれるところを見て笑ってやりたいという魂胆だろう。

 

 当日に風邪を引いたと言って休むことができたが、こういうところだけ妙に真面目な僕にはできなかった。



 あいつらの話を聞く限り11時から11時30分ごろの間に来るらしいのでもう来てもおかしくない時間だ。


 日曜日の昼前で客の入りは順調だ。もうすでに9割がたの席が埋まっている。ご主人様の相手を休む暇もなくして、どんどん時間は過ぎていくが、まだ来ない。

 こうやってまだかまだかと待っていると常に心臓がどくどくと激しく動いていて、体に悪い。どうせ来るのなら、さっさと来てさっさと帰って欲しいものだ。


 時刻は11時30分を過ぎた。店はすでに並ばないと入れない状態で、この調子なら本来は11時30分ごろに来るつもりが予想外に並ばされたというとこだろう。


『カランカラン』


 3人のご主人様が店を出て行かれたのと交代にまた別のご主人様がやってくる。


「スバルちゃん、お出迎えしてくれるかしら」

「はい、菊さん」

 彼女の名前は菊池(きくち) (かなえ)、さなえさんの次に年長の菊さんはさなえさんよりも断然真面目で実質、ここの従業員のまとめ役をしている。


 僕は言われたとおり入り口のほうに向かったが。


「いやー緊張するわ」

「そうかな? 僕は全然だけど・・」


 げっ! そろそろ来てもおかしくはないと分かっていたが、ちょうど僕が出迎える時にくるなんて。扉を開けて入ってきたのは男子学生2人、そう純と宅哉だ。


「お、お帰りなさいませ、ご主人様」

 ばれないようにと無意識の内に俯き、小さな声になったのは返って怪しまれたかもしれない。


 ふと顔を上げると純は少し顔を赤らめながら僕を凝視する一方、宅哉はどこを見るでも無くニヤニヤしている。

 純のほうは可愛い僕に見とれているだけだろうが、宅哉のほうが気になる。あの宅哉がメイドたちにエロい事を考えているとは考えにくい。そうなると・・僕がメイドになっていることにうすうす感づいている可能性が高い。


 とりあえず今は少しでも怪しまれないように普段どおり振舞おう。2人を空いた席まで案内し、メニュー表を渡した。

 純は来る前から決めていいたのかメニュー表も見ずに「お絵描きオムライス」を注文する。宅哉はメニュー表をじっくり眺めて結局純と同じく「お絵描きオムライス」を注文した。


『プルルルル・・プルルルル・・』

 別の2人組のお嬢様たちとチェキを撮り終わった直後に僕の携帯電話電話が鳴り出した。


ーしまった! 電源切るの忘れてたー


 着信画面を見ると宅哉からだった。一体何のようなのか。だが、もちろん電話を取る前からそんなことぐらい分かっていた。

 ちょうど休憩に入るタイミングだったので、休憩室に駆けていって電話に出た。




「あ、もしもしスバルちゃんですか? 」

 一言目から直球すぎる質問が飛んできた。だが、宅哉が僕のことに感づいていたという推測は正しかったわけだ。尤も名前も「スバル」と本当の名前と同じだし、容姿も似ているのだから気づかない純のほうが特殊というべきだろう。


「え、えーっと・・何を言ってるのかな? ちゃんとか付けちゃって・・。それともメイド喫茶で働いているスバルちゃんのことを言っているのならあの子は僕の親戚の田中 スバルだよ」

 声を男の声にチェンジしてそう言う。


 一応筋は通っていると思う。親戚なら容姿が似ていても問題ないし、名前は偶然で通せばいい。いざというときのために考えておいた誤魔化しだ。さあ、これに対して賢い宅哉は何と言い返してくるか。


「あ、ごめん。本当に似ていたものだからてっきり同一人物だと思っちゃったよ。残念だなぁ、ちょっとからかってやろうと思ってたのに」


ーあれ?-


 意外にも宅哉はあっさりと僕の誤魔化しを信じてくれた。


「そうそう、メイド喫茶って面白いところだよね。商売のためにメイド服を着て、ご主人様とか言ってるだけなのに客はそんなんで満足しちゃってさ」

 メイド喫茶で働いている身としてはメイド喫茶を批判するような発言は頭にくるものがあるが、宅哉の言うことも正しいのかもしれない。


 さて、こうやって宅哉のメイド喫茶についての考察を長々と5分近く聞かされたわけで、宅哉は僕が「スバルちゃん」でないと信じてくれているものだとすっかり安心しきってしまっていた。


「そう言えば、さっきの女の子たちチェキ撮ったらすぐどっか行っちゃたから不満そうだったけど」

「え、まじで? すぐ行かなきゃ・・・・って。」


 完全に嵌められた。

 どうでもいい話を間に挟み、僕の気を逸らすことで最後に僕にボロを出させる作戦。流石は宅哉、見事なものだ。


「で、スバルちゃん。このことをみんなに黙っておく代わりに頼みがあるんだけど」

「何ですか、宅哉頼みなんて」

 もう隠しようも無いので諦めて再度女の子の声に戻した。


「来週の日曜日、僕の彼女のフリをして欲しい」

 真面目な口調で宅哉はそう言った。


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