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12、彼女が嘘で僕を手に入れたいようです。-ほのかとの約束 中編ー

「雪前 ほのか・・ 」

「ようやく思い出してくれたみたいね 」


 間違いなかった。8年前、公園でたった1日遊んだ女の子とこの女の子は同一人物だったようだ。唯一変わっているのは僅かに成長した背とメロンのように大きく突き出た胸ぐらいで顔や声なんかはあまり変わっていない。

 僕が知り合いに出くわしたことに宅哉は口を開いて驚きの表情を隠しきれない。すぐにその顔は彼女と僕がどういう関係か知りたげな好奇心の顔へと変貌する。


 とにかく久しぶりの再開に浸っている時間はない。なんといったって今は仕事の途中だ。気持ちを切り替えお辞儀だけするとさっさと戻った。



『キーンコーンカーンコーン』


 次の日の学校。月曜日でやや憂鬱な空気の漂う教室。机に突っ伏して完全に寝ているものも見られる。

 チャイムが鳴っていつもの時間に担任の先生が入ってくる。ここまでは毎週のことでいつもなら退屈な授業が始まることにさらに憂鬱な感じが増すのだが今日は違った。


 先生の後ろには1人の女の子。1瞬目を疑って、まだ目が覚めていないから幻覚を見ているとさえ思った。しかし、いくら目をこすってもその情景は変わらない。

 その女の子は昨日メイド喫茶で8年ぶりの再会を果たした雪前ほのかだった。


「あー、みんな喜べ。貴様らの好きな転入生のお出ましだ 」

「おぉー!! 」

「女子だぜ、女子。かわいいぞ 」

「お、巨乳じゃん 」

 担任の転入生という言葉を聞いただけでクラスの暗い雰囲気は一変し、急に騒がしくなる。特に男子はその可愛らしい容姿と巨乳にテンションはマックスだ。


「はい、静かに! じゃあ自己紹介よろしく 」

「雪前 ほのかです。えーっと・・小さいときはここに住んでいて、今日またこうして戻って来ました。ちなみにすばっち・・糸谷昴くんとは付き合ってます 」


『はぁ? 』

 みんながいっせいに僕のほうを見つめる。女子は好奇心に満ち溢れた目、男は嫉妬心に満ち溢れた目でこちらを見てくる。

 そんな目で見られても僕自身何が何だか分からない。彼女と会ったのは確かに8年前のあの日と昨日だけで8年前に付き合うとかそんな話は無かったし、昨日は会話すらまともにしなかった。

 それなのに僕と付き合ってる? どこの記憶がどう改ざんされたらそんなことになるのだ? まったく理解も釈明もできないまま事は進んでいく。


「それでは糸谷くんの隣の空いている席でよろしいのでしょうか? 」

「あ、あぁ。そこに座ってくれ。・・・・それと高校生のうちはくれぐれも清い男女交際を頼むよ 」

 冗談というよりかは本気で僕たちの関係を心配した担任はそれだけ言ってホームルームは終了した。



 1時間目の休み時間。僕たちのほうに群がってくる奴らを払いのけて階段まで雪前さんを連れ出す。もちろんやましい行為をするためとかではなく単純に先ほどの僕たちが付き合っていることについて聞き出すためだ。


「早速イチャラブするために連れてきたの? でも駄目。先生も言ってたでしょ。清い男女交際をしなさいって。だからやるのなら今日私の家で・・ね? 」

「しないよ!! 」

 僕をからかっているのは手に取るようにして分かるがそれでも思わず顔を赤らめてしまう。しょうがないじゃないか。そういうことを純粋な男が憧れないはずないのだから。


「それであの付き合ってるとかってどういうこと? そんなありがたい記憶、僕には存在しないんだけどなぁ 」

 軽く、咳払いをして場を仕切りなおしてから率直に尋ねた。


「あれぇ?覚えてないの? 8年前に約束したじゃない。ほんと忘れんぼさんなんだから 」

「・・・・ 」

 すらすらと出てきたセリフに素直な笑顔。ひょっとすれば自分の記憶が間違っていたと思って付き合う約束を信じるところだった。だがあのときの記憶は鮮明に覚えていて、間違っているはずがない。つまり・・こいつの今のは演技でまた僕をからかっているのだろう。


「ホントはね・・既成事実? あれを作って置きたかったの。私さぁすばっちのことが好きなのです。これは冗談なんかじゃなく。それで、それでね私なんかがまともにいったって勝てないから。だから既成事実を作っておけば有利になれるかなって。恋愛は攻めてこそのものだよ 」


 笑って、でも今までとは違って本気の顔でそう言う。なんと返せばいいのだろう。こういうときは本気だからこそ対応に困る。

 告白されて悪い気はしない。むしろ人生初の告白で嬉しくて胸もドキドキしまくっている。でも僕には長く心に決めた人、コトがいる。

 彼女には悪いが、断るしかなかった。


「あ、あの・・ 」

「いや、いいよ 」

 言い難い返事をしようと切り出したとき。それを遮るように雪前さんはそう言う。

「いいよ、言わなくても。というより私が言って欲しくない 」

 僕が断るのを見越しての言葉。その言葉をきいて安心してしまった。駄目だなぁ。男ならそれでも断って、結局それが雪前さんのためにもなっただろう。だが僕にはできなかった。


『キーンコーンカーンコーン』

 ちょうど2時間目開始のチャイムが鳴る。授業が始まってしまうので話は一旦終えて教室へと戻った。




 2時間目の休み時間も3時間目の休み時間も彼女の席の周りには人の群れが出来ていた。まるでバーゲンセールを見ているかのようでその人の多さや我先に質問しようと他の人を押しのけて前に前に出ようとするのはまさしくそれだ。


 これは転校生が来たならどんなところでもありうる現象かもしれない。唯一例外なのは僕の周りにも人だかりができた事だ。雪前さんが僕と付き合っているなんて虚言を言ったからで、あの虚言自体は雪前さんなりに意味のあったことなので責め立てることはできない。


 ただ、みんなには「付き合っている」と虚言を真実にするのも間違っている気もするし、「付き合っていない。雪前さんの言ったことはすべて嘘だ 」なんて言うのも雪前さんに申し訳ない。

 だから質問されてもまともに答えることができず、ひたすら人だかりができて質問攻めにあうのはある種の迷惑行為だ。


 そのせいで今日の疲労度はもう限界に達しておりやっと昼休みになった。弁当はなくとも一息ついて回復しようと思っていたのだがどうやら甘かったようだ。2・3時間目の休み時間と同様休み時間が始まったと同時に人が寄ってくる。

 このままではたまらない。雪前さんとはまだ話したいことがあったので雪前さんを連れて中庭へと避難した。


「誰もついてきてないよね? 」

 パッと見渡しただけでは誰もいないが、さらに入念に木とかの物陰に隠れていないかも確認する。他には聞かれてはやばいことも話すかもしれないからだ。


「こんなこと聞くのもおかしいかもしれないけどどうして僕を好きになったのかな? 雪前さんと話したりしたのなんて8年前と昨日だけだと思う。昨日はまったく話したというのもおこがましいようなぐらいだった。8年前は正直ものすごく昔のことの1回きりでしかもそのときに特別好かれるようなことをした覚えはない。顔だって童顔でイケメンというわけでもない。となると分からないんだよ、雪前さんが既成事実を作ってまで僕を好きになった理由が 」


 雪前さんの愛を疑ったり、試しているわけではない。単純に彼女が僕を好いた理由が気になっただけだ。 既に付き合っている彼女と「どこが好き? 」「全部よ 」みたいなイチャラブ会話や、ある男が本当に自分のことを理解して付き合ってくださいと言っているのかを確認するために聞くことはドラマやアニメの中ならある。

 だが付き合ってもいないし、確認のためでもない、ましてや告白されたのに返事もしていない僕がそんなことを聞くのはマナー違反だというのは分かっている。それでも聞きたかった。


「うん・・・・そだね。なんでだろうね。自分でもよく分かんないや。でも・・もしかしたらかくれんぼのときに必死に私を探してくれたからかな? あの日からずっと、ずっと好きで会いたくて。やっと会えたんだから 」


 自分から聞いといてなんだが、照れくさい。

 今更聞かなければよかったと後悔しつつも、肝心の聞きたかったことはというと理解できたようでまったく分からない。もともと恋自体それほど曖昧なものなのかもしれない。


「そういえばだけど、昨日はよく僕だって分かったよね。メイドの格好だったし、一応は8年も経って成長もしているのに 」

「丸分かりよ。昨日も言ったけどあまり変わってないし、好きな人のことなんだから 」

しばらく忙しいので、少なくとも2週間ほど先。遅くて3週間先になると思います。

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