表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/45

11、僕が公園で彼女とかくれんぼをーほのかとの約束 前編ー

「あぁー・・駄目だ 」


 メイド喫茶「ゆーりん」の休憩室。相変わらず何もない休憩室にいるのは僕と椎名さんの2人。椎名さんは大学でもらってきたらしきプリントを眺めており、僕は特にやることもなくぼーっとしていたがついついため息交じりのそんな言葉が漏れてしまう。

 今日一日だけでなくここ数日ずっと仕事に集中できない。その原因はすべてあのコトに頬にキスをされたことであれの真意が気になって仕方がないのだ。

 彼女の言ったとおりただのお礼かもしれない。でも、好きでもないただの幼馴染にあんなキスなんてするか? いや、逆に幼馴染だからこそ僕をからかってしたことなのだろうか。


「どうしたん? スバルちゃん 」

 明らかに暗い雰囲気の僕を心配した椎名さんがプリントを眺めるのを1度中断して声をかけてくれた。椎名さんにこのことを相談するべきか迷ったがコトを好きだというのはまだ誰にも言いたくない。だから遠まわしに、コトの名前を出さないようにして質問することにした。


「もしも・・ですけど、女の子がキスをするときってどんな人にですか? 」

「そりゃ、好きな人とちゃうの? 外国やったら挨拶代わりにするところもあるって話はよく聞くけどなぁ 」

 少々聞き方が悪かったようだ。さっきの質問では口と口のキスと捉えるのが普通で、そうならば今のように好きな人と答えるだろう。


「キスといっても頬にです 」

「何なん、そんな具体的に。ひょっとしてやけど・・スバルちゃん好きな男でもできたんか? 好きな男が出来てキスをしてみたいんやけど恥ずかしい、ってう感じ? 安心しいやスバルちゃん。女の子は誰しもそんなもんやで。大事なんは勇気や、勇気。頑張りや 」

 なんか凄い勘違いをしているのではないだろうか。どんなことがあっても男にキスする勇気だけは持ちたくない。


「あの・・私、男ですよ 」

「あっごめんな。いっつも可愛い姿でおるからつい女の子やって思ってまうことがあるんや。で、それやったら好きな女の子に頬にキスでもされたんか? 」

 こういうところは女の人のほうが鋭いらしい。好きな人の名前までは分からなかったが、それ以外のことはすべて当てている。下手をすれば僕が好きな人だって感づいていて声に出さないだけかもしれない。


「それでその人がスバルちゃんのことをどう思っているかってゆう訳やね。うーん、そやね・・ 」

 キスをされたことを当てられて照れくさくなった顔、見事に当てたことへの感心の顔。それらの交じり合った顔を見て図星だと認識したのだろうか。僕が「キスでもされたんか? 」という質問に肯定せずとも、肯定したということで話が進んでいく。


「やっぱり好きな人って捉えるのが普通とちゃうんかなぁ? 少なくとも嫌いな人ってことはないと思うよ。嫌いな人やったらキスどころか話したり触れたりするんも嫌やもん 」


 やはり相談したところではっきりと好きな人かどうかは分からないか。だが、好きと捉えるのが普通、嫌いではない、これらの情報を聞けただけでも十分だ。

 できるだけポジティブに考えよう。コトは僕が好きだからあんなことをした、何も迷うところはない。こう考えるようにすると今までのモヤモヤが一気に飛んでいった気がした。

 ここで僕の休憩時間も終わりとなったので礼だけ言って仕事場へと出て行った。




「あ、ちょうどいいところに来たわね。スバルちゃん、このアジフライ定食を3番のご主人様のところに持っていってくれるかしら 」

 この人が児子さんで今宮さんと共に厨房を担当する。大学生で大学も今宮さんと同じところに行っているらしい。また容貌は誰もが認めるぐらい美しく、性格も真面目と文句のつけようがない。


「3番テーブルですね。分かりました 」

 アジフライ定食を運んでいくと3番のテーブルは・・宅哉!? もう常連となっている純ならまだしもなんで拓哉が。頼んで今手が空いているコトに変わってもらおうか。

 そう考えてコトのほうへ行こうとすると宅哉が黙ってにっこり笑いながらこちらを見ている。こうなってはもう逃げることはできない。観念して皿を3番テーブルへ持っていった。


「ご主人様、こちらがアジフライ定食でございます。召し上がられる前に私のほうからおいしくなる魔法をかけさせて頂きます。ご主人様は私に続いてください 」

 どうしてこいつにこんなことをやらねばいけないのか、心にイライラを溜めつつも口調は丁寧に可愛くそう言う。

 宅哉はというとなおもにこやかな顔で見ている。その顔は決して「ただの」メイドがやる「萌え萌えきゅん」が見られることが楽しみというわけではないに決まっている。僕がその恥ずかしい様子をやるのを見ることが楽しみなのだ。

 「覚えておけ、明日仕返しをしてやるぞ」とかも言ってやりたいが僕のメイドのことをばらすと脅迫されれば僕には何もできない。


 渋々、手でハートの形を作り、アジフライ定食の皿に向かって、、

「おいしくなーれ、おいしくなーれ、萌え萌えきゅん 」

 ちょうどその恥ずかしい姿勢をとってるときだった。


「すばっち? すばっちだよね? 」

 突然、隣の4番テーブルに座っていた女の子がそう言ってきた。


ー誰だ? ー


 背は低めで150センチもないぐらいの茶髪少女。相手のほうはすばっちと呼んでいて完全に僕のことを知っていておそらく1度はお会いしたことがあるのだろう。

 真っ先にクラスメートの線が浮かんだが、確かこんな女の子はいなかったはず。それじゃあ、中学や小学校が一緒だったということはないだろうか。昔のことになるので記憶はあやふやではあるが、記憶の範囲では思い当たる節がない。

 とりあえず、誰であってもこの場は知らないフリを通すまでだ。いや、実際に知らないのだからフリというわけでもないか。


「申し訳ございませんが人違いではないでしょうか。お嬢様 」

「そんなわけないよ。名札にちゃんとスバルって書いてあるし、顔も昔のまんまだもん。もう8年前になるのかなぁ。すばっちが覚えてないのも無理はないか。でも驚いたよ。8年でここまで顔が同じなんだから 」

 8年前というと小学2年生ぐらいのときだ。そんな時の記憶なんてほとんど残っていない。唯一例外なのはあのときのこと。


ー待てよー


 あのときの記憶が蘇り、その時登場する女の子とこの女の子の容姿が一致した。もしかして、この子は・・。




『ぎーこぎーこ』

 2つのブランコが奏でるその音色は1時間近くにわたって演奏され続けた。何故だか飽きはしないがブランコの鎖をギュッと強く握りしめていたため段々と手が痛くなってくる。


「そろそろ別のことしようか。じゃあかくれんぼね。私が隠れるから君は目を塞いでいてくれる? 」

「うん 」

 言われたとおり小さな手で目を覆い隠し、声に出して30秒を数える。30秒経ったのでもういいだろうか。


「もうーいいかい 」

「・・・・」

 返答はなかった。「もういいよ」や「まだだよ」と返してくれば分かりやすいのに、確かその時の僕はそんな呑気(のんき)なことを考えていた筈だ。一応無言が逆に隠れ終わったことを示すと思い込んで捜索を始めた。


 始めに探すのは滑り台の裏。次にベンチの下。そこにもいないので今度は茂みの中。探せど探せど見つからない。たかがこんな小さな公園。隠れる場所も少なく探すのにそんなに苦労するのはおかしかった。

「ねぇ、出てきてよ。僕の負けだからさ 」


  探し始めて30分。ついに音を上げた僕は公園全体に響き渡るぐらいの精一杯の声で呼びかけたがそれでも一向に姿を見せない。

 いつまでも見つけられないから呆れて帰ってしまったのか? 小さな僕なりに姿を見せない理由を一生懸命考えているとふとそんなあらぬ予感が頭をよぎる。


「ねぇ、お願い。出てきてよ! 」

 目には涙を浮かべながら必死に叫ぶ。一人になったと感じると急に不安になったのだ。辺りはもうすっかり暗くなっていて所々に設置されている灯りだけが頼りだった。あそこの物陰にでも悪い人が隠れて襲おうとしているかもしれない。考えれば考えるほど不安感は増していくばかりだった。


 遂に堪え切れなくて次の一瞬には完全に泣き出してしまうという時だった。


「ここだよぉー。きゃははははっ 」

 背後から突然女の子は現れ僕の気持ちなんてよそに無邪気に笑う。

「面白かったよ。君、今にも泣きそうだったじゃん。ほんとに隠れてて笑いが堪えきれなかったよ 」


 こういう時、どうすればいいのだろう。僕が不安で泣きそうだったのを知っていて黙ってみていたわけである。からかわれたわけだから怒るのが普通かもしれない。あるいはその冗談に笑って誤魔化すか。

 だが、どうしてか目から涙がゆっくりこぼれてきて、しまいにはワンワンと泣いてしまった。もう不安なんか感じていない。むしろ真逆で僕の気持ちを一言で表すなら安堵が正しいだろう。それでも涙は止まらない。


「どうしたの? そんな泣いちゃって。そういえば君、名前は? 」

「スバル。糸谷昴 」

 目を服の袖で強くこすって懸命に答える。


「へぇー、じゃあすばっちだね。私の名前は雪前(ゆきまえ)ほのか。それで・・かくれんぼはどうしようかなぁ? もう暗いし・・次にあったときでどうかな。次あったときのこの続きをやるの。だから今度はすばっちが隠れて私が探す番だね。約束だよ 」

「うん 」




 僕たちはそうして8年前に出会い楽しくちょっぴり恐い日を過ごして別れた。そしてそれ以降僕たちが出会うことは無く今日こうして再会した。


 どうでもいいキャラ含む登場人物まとめです。


岩尾さん:店の常連。スバルひいき。

糸谷 昴:店ではスバルちゃんと呼ばれ人気ランキング2位。凪沢高校の1年、幼馴染のコトが好き。

田川 純:昴の友達でクラスメート。サッカー部部長でサッカーはうまいが頭は悪い。店の常連?

佐佐倉 宅哉:昴の友達でクラスメート。生徒会役員。基本優しいが腹黒い部分も。また昴の秘密を知る。

さなえさん:店長。普段の雑でSな性格とは異なり猫メイドとして人気1位。愛称はさーにゃん。

今宮 肇:厨房。店内唯一の男でさわやか風イケメン。大学生。

児子 朱里:厨房。美しい容貌で性格も真面目。今宮と同じ大学。

菊池 叶:真面目で実質店内のまとめ役。

宅哉の両親:40代ぐらいで会社の経営者に。女装昴を宅哉の嫁に認める。

神凪 琴美:昴の幼馴染でメイド喫茶で働き始める。迷った結果店長により妹系メイドに。

椎名 美千代:大学に入るまで関西に住んでいた関西弁メイド。

丹沢 麻衣:丹沢双子の妹で山手高校に通う。やや天然ぎみなところがあるが運動神経抜群。

丹沢 芽衣:丹沢双子の姉で山手高校に通う。麻衣とは違い外交的でそれなりにしっかりしている。

金井 風香:山手高校2年。店では、眼鏡っ子メイドだが普段はつけていない。僕だけにSの本性を。

糸谷 梓:昴の姉。関西のほうで働いていてたまに帰ってくる。ビール好き。

入江 太一:山手高校サッカー部エースで中学のときは全国大会優勝経験あり。

雪前 ほのか:8年前スバルと出会ってそれ以来だったが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ