~6~
「俺は、まだまだ弱かったんだなぁ」
最後の瞬間ダグラスはポツリと言葉をこぼす。
魔力は少なくとも辛い修行に耐え、弱さを装っていたとしても自分は強いと思っていた。
それが全く意味をなさずして今、自分の死に直面しているのです。
「プッ、そんなもの当たり前だろうバカ弟子が」
空から突如、大声がしたと同時に電撃を帯びた槍がツインヘッドドラゴンの胴体を突き刺さったまま地面へと強大な敵が勢いよく落ちると土に縫われるかのように刺さったまま大量の電撃がドラゴンの肉を焼き、強烈な煙と炎、それに匂いが辺りに充満していく。
「うわっ何だい何が起こったんだい?」
「ぺっぺ、すっごい匂いだよフォルテ」
「あれだ」
スレイが指を指した方向に目をやると月明かりに大きなドラゴンが翼を雄大に羽ばたかせながら空中に浮いている姿が見えると何かが飛び降りて地面に着地すると大量の砂埃が舞い上がる。
それは地面に着地するとラヴィと、そんなに変わらない姿の青い髪をたなびかせ金色の目が光る。
「し・・・・師匠・・?」
「たわけ者が、私がやった剣は何処へやった」
「いや・・・実は・・・」
「ふんっ」
不満そうな、その背の小さな少女は空中でダグラスを助けたようだが地面へと放り投げた。
そしてツインヘッドよりも大きな紫色の竜が彼女の隣へと着地する。
「カイル、くそ生意気な双頭竜は始末した」
「がるる」
「あぁ、分かっている。どうしてバカ弟子が居るのかは知らんが相変わらずの弱さだな」
「がるるっ」
「ふんっ知るか、これでも私の弟子かと思うと言葉も出んわ」
しょんぼりしたように首を垂れ下げると困ったように翼を縮める。
「ダグ!!」
「あぁ、ラヴィごめんよ」
「死んだら死んだら許さないんだから」
わんわんと泣くラヴィはダグラスを抱きしめていると青い髪の少女にスレイは近づいていく。
「貴方は?」
「蒼龍」
「ダグラスを助けてくださり、どうもありがとうございました」
深ぶかと頭を下げるスレイを見て良い仲間を持ったのだなと少しは安心したのが乗ってきたドラゴンを撫でると気持ちよさそうにしている。
「私のバカ弟子は苦労をかけては居らんか?」
「そんなことありゃしませんよ助けられてばかりで」
フォルテは怖気づくこともなく少女に答える。
「そうか私が会った頃は、こいつは、ただの餓鬼だったのだが多少はマシになったようだな」
「し・・・師匠・・・すいません」
「おい女、そこをどけ」
青い髪の少女はラヴィに命令するとダグラスはラヴィを遠ざける。
づかづかと近づくと拳を握りしめダグラスへと突きだすと空気が張り裂けるかと思うぐらいの衝撃が周りを揺らす。
ドンッ
人間が、このように飛ぶのかと思うぐらいの勢いで地面を転がり跳ねると空高く飛びあがり地面に叩きつける。
「ふんっこの程度で死ぬようなら死んでしまえバカ弟子が」
拳を打ちこまれる瞬間に微量の電気を流すと体全てを強化し、それに耐えるとボロボロになったダグラスが、のそりのそりと近づいてくると優しく抱きしめる。
「もう一度、鍛え上げてやるついてこい強くなりたいか?」
「はい・・・みんなをラヴィを守ってやりたいです」
その言葉を聞くと紫色の竜に命じ背中に乗せる。
「ダグを何処にやるのさ!!」
「この不甲斐ない弟子をもう一度、鍛え直すのだ」
少女はラヴィに、そう告げると何か思いついたように楽しそうに笑った。
「おい小娘、こいつの女なのか?」
「だ・・・だぐ・・・だぐ・・」
急に、そんなことを言われ顔を赤らめると、やはりかと続ける。
「こいつは夜は良い男なのか?その全てを教えたのは私だぞ」
「なっ・・・」
「あはは、この男とは契りを交わしたのだ。この男は私の物だからな」
「そっそんなこと・・」
ラヴィは拳をぎゅっと握りしめると自分では目の前の少女に勝てないと悟っては居たが許せなかった。
自分の愛する人を連れて行かせたくないと。
(ふむ、こやつと交わったことでバカ弟子の魔力が増えていたのか)
男を成長させることが出来る女は良い女だなと思いながら少し悔しいような思いで、そんなことを言ったのだが全て嘘ではあったが考えあってのことである。
「ダグは・・・ダグは連れて行かせない!!」
「バカッやめな!アンタが敵う相手じゃないよラヴィ」
フォルテの静止も聞かずにキレたラヴィは今まで見せたことのない量の魔力を集め暴走させると疾風が吹き荒れる。
(ほうっ、この小娘はキレると魔力が増すのか、しかも面白いな)
それでも青い髪の少女にとっては大したことがないが、その伸びしろに心を躍らせる。
飛び込んでくる少女にデコピンを食らわせると吹き飛んで行く。
「ふみゅぅ」
壁にぶち当たるとラヴィは変な声を出しながら目を回したのだった。
「私からダグラスを連れて行きたかったら私に一撃を食らわせてみろ無理だろうがな」
失いつつある意識で、その言葉を聞くと気絶してしまうのでした。
「すまんな試させてもらった。もちろん手加減はしたがな」
「アンタ、あんまり良い性格じゃないね」
「あっはっは気に行った。あの男を取り返して欲しければ強くなってココに来い」
地図のようなものをフォルテに手渡すとナイフを取り出し額から飛び出した角を少し削ると彼女に渡す。
「これを煎じて飲めば傷などは治り生きている者が居れば意識を取り戻すだろう」
再び少女は飛びあがると竜に乗り空高く飛び立ってしまった。
「なんだい、ありゃ」
「それよりも、あの少女の話が本当なら助けるぞ」
周りには倒れた怪我人が多くおりスレイとフォルテは彼らを助けるために動き回ったのである。
□ □ □
「ばろん、まだ雪は溶けないのかしら」
日差しも暖かくダグラスが来てから3か月ほどが経っていた。
<まだ春には少しばかり時間がかかるな>
「ばろんって物知りさんなのね」
<・・・・>
一応、この世界を作った創造主の分身である彼に対して無邪気というか何もわかってないのだろうと無言で答える。
「ばろんってば、いつも急に無口になるのね!良いわよ私は早く魔法が使えるようになって街に行きたいの」
そして祝詞を唱え始めると光が両の手の平から溢れてくると、それを一つにする。
「私に精霊さん力を貸して『光の障壁』」
すると目の前に自分の背丈ほどの光の壁が創られる。
ここまでは上手く出来たのだが、いつまでもバロンに助けられてばかりはいられないからとダグラスに会いたいのも我慢して他にも色々な魔法を教えてもらっている。
ダグラスに会うのは雪が溶けて暖かくなってからでも良いかなとナターシャは思っていたのです。
<良いのか?>
「うんっ!だって出来れば誰かの役に立ちたいんだもの。それに私って魔法が使えたのね自分でも驚いちゃった」
それはバロンとて同じである。
このナターシャという少女は光の属性ならともかく火の魔法まで使えるのだ2属性もの魔法を使える人間など数えるほどしか居ない。
だからこそ、あの方は私を遣わせたのだなと納得した。
それにバロン自身もナターシャと関わるごとに心を持ち始めていたのだった。
この少女が一人で生きて行けるように。
この少女を、それまでに自分が育てなければと。
自分が、いつまでココに居られるか分からないのだから。
魔法の練習を終えると暖かいコートと手袋をつけて暖かい日の下で雪と一緒に遊んでいる少女を見ながらバロンは、そんなことを思っていました。